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君が残した365日

 世界は無彩色でできている。
 花も空も季節でさえ、
 この目には灰色に映る。
 けれども君がそばにいて、
 当たり前に笑っていたから、
 僕はずっと、大切なことに気づけなかった。
 三百六十五日。
 君が残した言葉のすべてが
 僕に恋の色を教えたのだ。


 きんもくせいは散った

 幼馴染の和泉いずみかえでが死んだのは、ある秋雨の夜のことだった。
 前日の天気が噓のように、輝く陽の光が眼鏡のレンズに反射する。ブレザーのポケットに手を入れ、着込んだカーディガンの袖を伸ばす。視線を地面に向けた先、散った小さな花から石鹼のような甘い匂いがした。金木犀だ。秋に香る特有の匂いに出たくしゃみを手の甲で塞ぎ、顔を上げる。
 空に消えていく煙に、その場にいたほとんどの人間が涙を流している。鼻を啜る音だけが耳に届いた。
 酷く、現実味がなかった。
 最後に会ったのは二週間ほど前、病院の個室だった。

 染みひとつないベッドに座り、窓の外を眺めていた彼女はこちらを見てヘラッと笑った。
「なんだ、元気そうじゃないか」
 僕がそう言うと、でしょ? と明るい声が返ってくる。しかし、一年前とちがう痩せこけた姿は、残りの時間を示していた。
「見て」
 ベッド脇に置かれた椅子を叩き、座るよう促される。細腕のどこにそんな力があるのかと呆れながらも座り、窓の外に目を向けた。病院の入り口に沿った道に、街路樹が植えられている。
「だからなに?」
 伝えたいことがわからず、窓の外を一瞥した後、再び彼女に視線を戻す。楓は、ほらと街路樹を指差した。
「綺麗だよ」
「そう?」
「うん、燃えてるみたいで。心臓にグッとくる色」

 彼女が指した木々の色彩が僕にはわからない。生まれながら、色を認識できないのだ。祖父も同じように色彩を認識できない人間だった。視力も悪く、僕の目に映るすべてはモノクロ──色素が薄い灰色で形作られている。
 それに対して劣等感を抱くことはなかった。最初から色彩を知らなければ、それが当たり前の世界になる。だからこそ、自分とほかの人間の世界がちがうと知っても、羨望の眼差しを向けることはなかった。
 色彩のない世界が当たり前の僕にとって、色はただの概念にすぎず、たとえ視界のすべてが灰色であっても、見ているものは変わらないと思っていた。
 ふたつ年上の彼女はそれを昔から知っているはずなのに、いつだって僕を連れ回してはあれが綺麗、これはどんな色など説明してきた。言葉で伝えられても、見たことのないものは想像できない。けれど彼女はやめなかった。
 それは、最期まで変わらずに。
 彼女の病が発覚したのは約一年半前、僕が高校一年生になる年のことだった。その日、突如として告げられた入院するという事実に驚きながらも、すぐに帰ってくるものだと思った。が、最初は二週間、次に一ヶ月、半年。回を重ねるごとに期間はどんどん延びた。
 本人が状態を言わない以上踏み込む気はなかったので、そのうち、本当にやばかったら言ってくるだろう。だって馬鹿じゃないだろうし、なんて都合よく解釈していた。
 しかし僕の考えとは裏腹に、五月頃、再入院した彼女は病院のベッドから動けなくなった。外を歩く姿を最後に見たのはいつだっただろうか。けれど彼女は、見て、ダイエット成功だ、なんて言って、顔を歪ませた僕におどけてみせた。
 だから僕も、いつもどおりに接した。お節介な幼馴染に対し、少しも変わらぬ自分を見せた。痩せ細っていく姿に心が苦しくならなかったわけではない。楓のことだから、どんな状況でも反転させて、笑いながら元気になりましたなんて言うのだろうと、ただ信じていたのだ。
 思えば彼女は昔からそうだった。十歳の頃、ふたりで遊んでいる最中に階段から転げ落ちて骨折したときも、次の日にはギプスをはめ、包帯でぐるぐる巻きになった足を引きずりながら平然とした顔で遊びに誘ってきた。
 中学生の頃、当時付き合っていた彼氏に振られた瞬間を僕に目撃されたときは、ショックだなんて笑いながらうちに転がり込み、相手の愚痴を漏らし、次の日には新しい恋を始めると息まいていた。
 なにがあっても立ち直り、どんな苦しい状況も乗り越えて笑っている。お節介で前向き、和泉楓はそんな印象の人だった。この先、彼女が誰かと結ばれて幸せになっても、会う度に母親のようにお節介を焼いてくるものだと思っていた。僕にとって彼女は、姉のようで友人のようで、恋人でも家族でもない、言葉にできない存在だ。
 だから今日、悲しくて涙を流すだろうと思っていたが、僕は口を開け呆けた顔で煙を眺めていた。悲しみも苦しさすら感じられない。
 ああ、死んだのか。それだけ。
 明日から彼女がいない日常が当たり前になる。時折呼び出されて病室に行くことも、部屋に転がり込まれることもない。それがストンと、胸に落ちた。
 楓はこの世界にいない。その事実だけが脳を埋め尽くしていく。
 けれど、涙も喪失感さえやってこない。
「来てくれてありがとうね」
 ハンカチを握り締め、憔悴しきった顔で微笑む喪服の女性は楓の母親だ。背後で楓の父親が僕の両親と会話をしている様子が目に入る。みんな目もとを真っ赤にしているのに、僕だけが平然としていた。
「いえ」
「容態が急変して……本当なら今日から一時退院だったのに」
 無理に笑顔を作る彼女の母親を見ていられず、目線が地面へ落ちる。
 知っている。帰ったらどこかへ連れていけと言われていたから。自宅で安静にできるなら、という条件での退院なのに、どこかへ連れていったら駄目だろう。
 金木犀が見たいと駄々をこねていた彼女に、仕方ないから近所を散歩するくらいならいいよと返したのだ。彼女は薄っぺらな端末の画面越しに喜び、約束ねと言った。
 冬の訪れを思わせた十月の終わりの秋雨に散った金木犀は今、地面で踏み潰されている。僕らの約束は破られた。
「楓がたくさん迷惑をかけてごめんね」
「いや、そんなこと……」
 ないです、と続けられなかったのは、これまでの人生で迷惑をかけられた憶えがありすぎたからだ。こんな場なので気のきいた言葉でも返せたらよかったけれど、残念ながら出ず、それどころか脳内は彼女にかけられた迷惑の記憶で埋め尽くされそうになっている。
「あの子、ずっとゆうくんのこと心配してたから」
「お節介……」
 思わず漏れた言葉は耳に届いたらしい。彼女の母はくしゃりと笑う。
「本当にね。いくら幼馴染だからって交友関係まで心配するのはどうなの? ってよく言ってたのよ」
 僕は子供の頃から友人がいなかった。今でこそ会話をする程度のクラスメイトはいるが、それでも放課後に出かけたり、連絡を取り合ったりする間柄の人間はいない。それもすべて、僕の視界が常人とちがうことに由来する。
 この世界の住民は残酷なことに、自分たちとちがう人間を拒絶する。僕が気にしていなくても、他人は好奇の目を向けてきた。色のない世界なんて気持ち悪い、あいつはおかしい。悪いことなんてひとつもしていないのに、たくさんの拒絶を受けた僕に友人などできるわけもなく、いつしか捻ひねくれて、いなくてもいいと思いはじめた。
 実際、友人がいなくたって生きていける。けれど楓はそれを許さなかった。会う度に友人はできたか聞かれ、人付き合いはちゃんとしろと言った。幼少期に関しては、僕を引き連れ、自分の友人たちと遊ばせたりもした。
 いまだに、彼女がどうしてそこまで友人を作れと口を酸っぱくして言っていたのかわからない。聞く前に死んでしまったので、答えはずっと出ないままだ。
 ──友達を作れ、ほどほどに恋愛をしろ、愛想よく、卑屈にならず、前を見とけ。
 これが、楓が死ぬ直前まで僕に言い続けていた言葉だ。
 あまりに言われ続けていたので、さすがの僕も中学二年の頃、一度すべての条件をクリアした。一応の友達、とりあえずの彼女、愛想笑いに前向きな言動と姿勢。ほら、やってやったぞと胸を張ったが、楓は少し眉尻を下げて笑うだけだった。
 自分がやれと言い続けていたのに、叶えたら喜ばないのかと文句を言ったのも束の間、疲れた僕はそのすべてを捨てた。
 気の合わない人間と一緒にいる時間ほど辛いものはない。恋人だってそうだ。愛想笑いは頰が攣つ りそうになったし、前向きな言動も楓みたいに心からは言えない。ついでに姿勢は猫背の方が楽である。
 一瞬で元に戻ってしまった僕を指差してケラケラ笑い、ちゃんと継続しろとベッドに座りながら言ったあのときの彼女の気持ちも、ついぞ聞けなかったなと思う。
「あの子と仲良くしてくれてありがとうね」
「まぁ、はい」
 歯切れの悪い返事にも柔らかく微笑む姿は娘に似ていた。楓が母親に似ているのだけれど。背後で話していた楓の父親に呼ばれ、母親はそちらに戻り、僕はまたひとりになった。
 端末の画面をつけると残されたメッセージが浮かび上がる。既読をつけたまま返事をしなかった、いつもどおりの僕がそこにいた。風が髪を攫さらい、実感のない喪失が少しだけ、心になにかを残した気がした。

『楽しみにしてる』
 絵文字のついたメッセージを眺めながら、自宅まで徒歩で帰る。行きは両親と車で来たのだが悲哀に満ちた車内の空気に耐えられず、帰りはひとりで帰ると言ったからだ。傷心故の行動だと勘ちがいしたふたりは、快く受け入れてくれた。
 本音は、言えるわけもなかった。
 電柱の影が伸び、時間の移り変わりを知らせる。色彩が見えないのを不便に感じたことはないが、人々が言う空の色の移り変わりはこの目には映らないのでわからない。代わりに影の伸び具合や周囲の明るさが僕の判断基準だ。もっとも、現代社会ではこの薄っぺらな端末の画面を見れば一瞬でわかるため、そんなものは必要ないのかもしれないが。
 だから空を眺めるという行為がよくわからず、視線はいつも下を向いていた。
『金木犀、散ったけど』
 文字を打ち、スライドさせた親指が、送信ボタンを押す前に止まった。送ってなにになるのかと思ったからだ。ここでなにを言ったところで彼女には届かない。死は死だ。送信先などどこにもない。
 僕は悲しみすら感じていない。ただ彼女がいなくなったんだと思っているだけで。
 キーボードの削除キーを押し、文字を消していく。画面を暗くしてからポケットに仕舞った。珍しくアスファルトから顔を上げる。空はグレースケールで、いつもと変わらない日常が続いていた。彼女が死んだからって世界が変わるわけもない。
 早起きしたからなのか睡魔が襲ってくる。欠伸を嚙み殺し、今夜は早く寝ようと考えながら足を速めた。
 世界が、変わるのを知らずに。

「私、楓! 和泉楓! 君よりふたつ上のお姉さんだよ!」
 初めて見た彼女はボブヘアでショートパンツを穿いていた。楓が六歳になる年だったと思う。泣いている僕を見つめ何度か瞬きを繰り返したのち、僕の眼鏡を奪ってレンズについていた涙を袖で拭い、なぜか顔を綻ばせた。
「隣に越してきたの!」
 僕の両手を取り握手をした楓は快活で、男子顔負けのやんちゃさに彼女の母は頭を抱えていた。四歳になったばかりの僕は、彼女にとっていいおもちゃだったのかもしれない。あのくらいの歳の女子は、下の子の面倒を見るのが好きだから。例に漏れず僕は、楓が面倒を見る〝下の子〟となった。
 母親のうしろに隠れた僕の腕を摑み、行こうと言って走りはじめた楓は、母親に怒られても僕を連れ回すのをやめなかった。僕の視界が常人とはちがうことを知ると、自分が色を教えると言った。そんなことできるはずもないのに、子供の楓は会う度にさまざまな表現で色を伝えようとした。
「見て! この色はね──」
 当然だが僕にはわからない。でも彼女はそれをやめない。
「しつこいんだけど」
 出会ってからいくつかの季節が過ぎ、真っ黒のランドセルを背負った僕は前を歩くご機嫌な彼女に言い放った。
「いくら言われてもわかんないって知ってるだろ」
 楓は驚いた顔をしたがすぐさま笑顔になる。なんでだよ、と返したが彼女には意味のないことで、嫌じゃないんだねと言われた。
「夕吾は一回も嫌って言ったことないよ。今もね」
 得意げに指差してくる彼女に自分の顔にしわが寄るのを感じた。
「嫌ならやめるけど、たぶんずーっと続けるよ。だって一緒にいるんだから」
「しつこい」
「わかんないのはわかってるんだけど。そうだなあ、なんて言えばいいかな……」
 楓は腕を組み、悩みはじめる。そしてひらめいたように顔を上げた。
「私が伝えたいの」
 自分が見た感動を、喜びを、一番に伝えたいのかも、と言って嬉しそうに笑みを浮かべた彼女は、ひとりできっとそうだと続けながら納得し、再び歩きはじめた。
「花の色が鮮やかでいい匂いがするとか、水がきらめいている様子、肌の色は温かさがあるとか、きっとずっと言い続ける」
「……いつか嫌われるよ」
「しつこくて?」
「そう」
「夕吾以外にはこんなことしてないけどね」
「じゃあいつか俺が嫌いになる。絶対に」
 ランドセルの肩ベルトを握り締め平然と言い放つことができたのは、この頃すでに周囲から距離を置かれていたから。人との距離感やコミュニケーションの取り方がわかっていなかったのだ。これを言えば相手が不快になるなどという考えもなかった。なぜなら自分にかけられた不快な言葉の数々は、相手に投げかけてもいいと思っていたからである。
 今でもこの節はあるけれど、当時よりは幾分かましになった。関わる前に距離を取ることを憶えただけかもしれないが。
「じゃあいつか、嫌いになる前に言ってよ」
 楓は鼻歌を口ずさみ始めた。音楽の授業で課題に出された曲らしい。ため息をついた僕はずり落ちてきた眼鏡を上げる。視界に入ってきた楓の表情は、色などわからないのに輝いて見える気がした。

 アラームの音で目が覚めた。手を伸ばし音を鳴らす端末を何度も指で押し止める。
 ベッドから出ようと思ったが憂鬱で動きたくなかった。昨日は彼女の葬儀で学校を休んだから余計に。
 階下から聞こえてきた母の声に寝ぼけ眼を擦こする。眼鏡を捜そうと上体を起こして、ふと違和感に気づいた。
 部屋の中が、明るい。カーテンを開けたまま寝たからなのか、それにしても、なにかがちがう。ただ明るいと表現するには異なるこれは、いったいなんだ。眼鏡を手に取り、何度か瞬きをして立ち上がる。
 そして窓に近づき、眼鏡をかけた瞬間だった。
「……は?」
 無彩の視界に、なにかが混じっている。否、混じっているというより新しく存在している。ベランダの手て摺すりの先、上空。建物の隙間に白と黒以外の、なにかがいる。再び目を擦り、瞬きしてもそれは変わらない。
 これはなんだ。朝の空は淡い灰色だ。なのに今、視界に見えているものはまったくちがう。雲ひとつなく、透明で澄み渡っていて、手を伸ばせば溶けてしまいそうなほどのこれが。
 ──空の色だとでもいうのか。
「夕吾!」
 母の大きな声はいつもと様子がちがっていた。普段なら起きてこない僕を怒鳴りつけるように呼ぶのだが、今日は少し悲しみがこもっているように感じた。
 けれど僕は呆けたまま空を眺めていた。瞬きすら忘れ、奇跡が起きたのかと錯覚する。もしかすると、まだ夢の続きなのかもしれない。だってあり得ないことが起きているのだから。
 空が、美しい。この非現実にもうしばらく浸っていたい。叶うことなら夢から覚めないでほしい。けれど再び母の声が響き渡り、仕方なくドアノブに手をかけた。
 もし夢であるなら。空色を知ったことを言ったら両親はどんな反応をするだろう。喜んでくれるだろうか。少しばかり興奮した心が足音ににじむ。
 軽快な足取りで階段を下り、リビングに入ると、両親が言葉を失ったかのような表情で立ち尽くしていた。食卓に置かれた朝食は手がつけられておらず、父が毎朝飲むコーヒーの入ったカップが倒れ、机の上に中身が零れている。端から落ちる雫が床を濡らしているというのに、ふたりは呆然としていた。
「母さん、空が──」
 そう言いかけて、母の手に握られた黒い封筒の、僅かに見えた宛名に自分の名前が書かれているのに気づく。瞬間、これが夢でないことを知り、乾いた笑いが零れた。
「俺、さいびょう?」
 両親の目がより一層、大きく見開かれた。
 この世には無彩病という病が存在する。治療法は確立されておらず原因も不明。ただ、発症してから三百六十五日前後で患者は必ず死に至る。死が近づくにつれ視界から色彩が失われていき、最終的に世界が無彩色になるという理由で病名がつけられた。
 僕の目は生まれつき、色彩を映さない。けれど無彩病にはそんなもの関係ないと、以前病院で言われたことがあった。僕が罹患したときに視界がどうなるかはわからないが、無彩病はすべての人間が罹患する可能性のある病だと。
 聞いたときは他人事だと思っていた。そもそも無彩病の患者は極端に少ない。致死率が百パーセントだというのに治療法が確立されていないのもそこに原因がある。
 世界中で一年に片手で数えられるくらいの人間しか死なないから脅威が小さいのだ。それでも致死率の問題上、学校や職場などの健康診断で一年に一回、色彩のテストが行われる。だが僕の目はそもそも色を認知しない。なので毎年、視力検査のついでに調べてもらっていた。今まではどういう判断で病にかかったのかを検知するのかわからなかったが。
 致死率百パーセント、人間の視界から色彩を奪い、死に至らしめる病。
 それが、空の色を得るという形で自分のもとにやってきた。
「夕吾……」
 母が言葉を失ったままこちらを見ていた。昨日楓の葬儀に行ったばかりだから余計
に、両親の絶望した顔があまりにも酷くて、僕は妙に冷静になれた。
「空が、灰色じゃない」
 言葉がふたりに届いたとき、先に泣いたのは父の方だった。片手で顔を覆い、肩を震わせ、くしゃくしゃになるほど封筒を握り締めている母の手に触れた。
「夕吾に、こんな風に色彩を見せたかったわけじゃない」
 その言葉がすべてだった。母は泣き崩れ、床に座り込む。嗚咽が部屋を包み込み、絶望がこの空間を支配する中、僕は他人事のようにふたりを眺めていた。

「無彩病です」
 深刻な顔で病名を告げた老齢の男性は、子供の頃から視覚障害を持つ僕を診てくれている医師だった。声を震わせた両親の隣で椅子に座り、医師の背後にある縦長の窓の外に広がる空をただ眺める。
「人間の目の網膜には錐すい体たい細胞というものがあって、この細胞が特定の波長を感じることで脳に情報を伝え、世界の色を認識している」
 これが青空というものか。摑つかめそうで摑めない、どこまでも遠く広がっていて目が痛くなる感じの色彩だ。見るだけでハッとさせられるような清涼感のある色。人々が足を止め、空を眺める理由がようやくわかった気がした。
「けれど、夕吾くんの目は生まれつき錐体細胞が正しく機能していない。だから色彩を認知することができなかった。錐体細胞は明るいところでは色を認識できるが、暗いところでは判別できない」
 ──だってこんなにも美しいのだから。
「人は赤、緑、青の三色の錐体細胞を混色して世界の色を認知していく。本来の無彩病はこの錐体細胞が徐々に死滅していき、視界が完全に灰色になったとき、死を迎える。最初に消える色は例外として、基本的には濃い色から徐々に抜けていくように認識できなくなる」
 淡々と説明していく医師のグレーヘアが、空との境界線を曖昧にしていた。
「夕吾くんの場合、前例がなく、これからどんな症状が起きるのかこちらも予測がつかない。色彩が見えるようになるのか、はたまた今見えている色は消え、また元の視界に戻るのか」
 白衣の裾を払った医師の視線がこちらを向く。両親がなんとかならないのかと縋るも、医師の首は横に振られた。まさに絶望といった様子だが、僕はやっぱり他人事のようにその様子を眺めるだけだ。
 治療法なんてない。発症したら一年の猶予を与えられるだけ。静かなる死は、自分にしかわからない音を立て、こちらに迫ってくる。この病が致死率百パーセントという事実は子供でも知っているくらいなのだから、今さらここで医師に縋っても変わらないだろう。
 自分と家族の温度差が不思議に感じられたものの、もし逆の立場であれば必死になっていた可能性も否定できない。もっとも、自分が誰かと結ばれたり結婚したりする未来は考えられなかったが、これで叶うこともなくなった。
「憶測だが、通常の無彩病が濃い色から色彩が薄れていくのなら、夕吾くんの無彩病は淡い色から濃い色を得て、世界が色づいていくのかもしれない」
「と言うと?」
「空の色は淡い水色。つまり青の錐体細胞が関係している。だからこのまま病状が進行すれば、次は青が見えるようになる可能性が高いね」
「そうなると最後に見える色はなんですか? 赤? 緑?」
「それは、そのときにならないと……」
 言葉を失った医師の姿になんとなくいたたまれなくなり、帰ろうと口にした。なにを聞いてもなにを言っても、現実が変わるわけではない。彼も救えるなら救いたいと思っているだろう。けれど救えないから唇を嚙み締めているのだ。
 会釈をして、両親より先に診察室を後にする。小さく嘆息して眼鏡を外し、まぶたを閉じて眉間を指でほぐす。再び目を開いた先、霞む視界の中でやっぱり空だけが美しく映えていた。
 このまま登校するため病院を出たところで両親と別れ、上だけ見て歩いていたら空き缶に足を取られ転びかけた。
 これまでは絶対に起きなかった現象。視線の先で、サイダーの空き缶がコロコロと道の脇に転がっていく。唯一見える色彩の中に気泡が描かれたデザインへ、僕の視線は釘付けになる。それを追いかけてしまったのは仕方のないことだと思う。空き缶には『青春の味!』と書かれていた。
 青春という言葉に多くの人が思い浮かべる色彩はこれなのか。まじまじと見つめ、空き缶を拾う。普段なら拾って捨てたりしないのだけれど、今日に限っては別だ。ゴミ箱に捨て、自動販売機の上段のスポーツ飲料にも色彩が宿っていることに気づき、また立ち止まる。
 足を止めてばかりだ。本来の目的を忘れかけていた僕は、次こそ立ち止まることなく歩こうとした。けれど灰色だった世界に、色彩は際立っていた。水色が遠くに見えると、どんなにその面積が小さくても足がそちらに向かってしまう。カフェの窓越しに女性の爪が色づいていたのも、散歩中の犬の首輪、バッグの中に入れっぱなしだった参考書、アプリのアイコン、ひとつひとつが視線を捉えて離さない。
 なんだかおもしろくなってその場でしゃがみ、顔を上げる。空の青さはどの角度から見ても鮮明だった。
 綺麗とはこういうことを言うのだろうか。今まで見たことのない色が顔を覗かせる度、目が輝く気がした。一年後に死ぬのに、心はなぜか躍っている。僕はその後もまるで子供みたいに世界を見て歩いた。
 午後から授業に出なければならないのに、足は学校でなく別の場所へ向く。ありとあらゆる角度から空を見て、画面越しでも色彩は変わらないのかと疑問を持ち、写真を撮った。
「真っ青な空って言うけどさ、空色って青じゃないと思うんだよね」
 ふいに聞こえた声に振り返ったが誰もいない。ただ風が吹いているだけだ。
 聞こえたのは過去の彼女の声だった。

「見ている場所、角度で変わると思って。言葉で表現するには難しいんだけど、なんか一色じゃないって思える」
「俺に言ってもわかんないけど」
 部屋の中、折り畳み机の向かい側に座る楓は、頰杖をつきながら僕の背後にある窓の外を眺めていた。見慣れた彼女の部屋に僕が居座るとき、彼女は必ず折り畳み机を挟んで座る。自分のセンスでは決して選ばないであろう、キャラクターの描かれたかわいらしいマグカップが目の前に置かれていた。
 あの日はなにをしていたのだろう。憶えていないほど当たり前の日常だった。
「時間経過で色が変わるのはわかるけど、一秒ごとに変わってる気がする」
「だからわかんないって」
「不思議だよね」
「不思議なのは、わかんないって言ってる人間に対して話し続けるお前だよ」
 持っていたペンで額を小突く。おおに痛いと言うが、強くした憶えはない。
「どうやったら教えられるかなー」
「無理だ、諦めろ」
「奇跡が起きるかもしれない」
「願って何年目?」
「十年は経ってますね」
「じゃあ無理です」
「えぇ〜、希望を持とうぜ少年ー」
 両腕を伸ばし、指の先で僕の腕をつつく彼女にため息をついた。僕は色なんて見えなくてもいいと言い続けている。だってこれが、僕にとっての当たり前だから。けれど彼女は奇跡よ起きろと言ってやまない。相変わらずしつこい。
「いつかさぁ」
 机に頰をつけ、言葉を零す彼女は健康体そのもので、病の影なんてひとつも見えなかった。
「色が見えたら、夕吾は子供みたいにはしゃぐかな」
「はしゃがない」
「口ではなにも言わなそうだなぁ。でも行動が子供みたいになると見た」
「ならないって」
「なるよ。だって─」
 机に顎をのせてニヤッと笑った楓は、そういう人だもんと言葉を続けた。そんないつかは来ないと言った僕は、やっぱりまた、ペンで彼女の額を小突いた。

 けれど、その〝いつか〟が来た。
 動き続けた足は止まる。彼女の言葉を思い出した瞬間、あの言葉は当たってたと思ってしまったのだ。なんでわかるんだよと文句を言いそうになったが、伝える先はもうない。
 あれほど躍っていた心が静まってしまったため、学校へ向かうべくきびすを返す。胸が酷く、空っぽに思えた。

「サボり?」
 教室に入った瞬間、自分の席に座っていた男子生徒が楽しげにこちらへ手を振ってきた。カーディガンの袖が汚れていて、ポケットの中にネクタイがぐしゃりと乱雑に仕舞われている。上履きの踵は踏み潰されており、だらしなさが前面に出ている彼──うちあらたにどけと言い、席を立たせた。
「で、サボり?」
「ちがう。なんでそうなった」
「夕吾が休むイメージなかったから」
 彼は人の髪をぐしゃぐしゃにしてくる。手を払っても気にする様子のない新は、どこか楓に似ていた。しかし、彼の手にかかるとすべてのものがぐしゃぐしゃになる。
 僕の数少ない友人のひとりである新は人懐っこい笑みが特徴の生徒で、とにかくだらしがない。忘れ物はする、掃除ができない、面倒くさがり、しかしなぜか成績がいいという変わった友人だ。
「ちがうって。用事があっただけ」
「俺、ノート取ってないから諦めてね」
「……終わってるよ、それは」
 楓の葬儀で休んでいた間の授業のノートを、彼に求めるのがまちがっていた。本当に取っていないと真っ白なノートを見せられ、いったいいつから取っていないのかと問おうとしたが、聞くだけ無駄だ。
「誰かに見せてもらえば? 委員長ー」
「おい、いいって」
 振り返った女子生徒が不思議そうな顔でこちらに向かってくる。ロングヘアに制服を一切着崩していない清楚な出で立ちが特徴的なかみだ。
「夕吾にノート見せてあげて」
おおくんに? 自分が見せてあげればいいんじゃないの?」
「俺のノート」
 真っ白なノートを再び開いて委員長に見せた瞬間、彼女の眉間にしわが寄った。そりゃあそんな顔になるはずだ。自分の席に戻り、数冊のノートを抱え戻ってきた彼女はまた僕を呼んだ。
「白紙じゃなんの学びもないと思うから」
「本当にそう、ありがと」
「俺からも言うね、ありがと三上」
 新に名前を呼ばれた委員長、三上は髪を押さえ、照れくさそうに笑う。そして、あ、と声を上げた。
「水色が数学でピンクが英語……あっ、ごめん! 今持ってるのが数学で……」
「中見て確認するよ」
 名前しか書かれていなかったノートをご丁寧に教えてくれた三上に、再度ありがとうと口にする。
 僕が色を認識できないという事実は、一応認知されている。というより、一年のときから知られている。入学当初、当時の担任がホームルームで話題にあげたからだ。向こうとしては親切心でそうしたのだろうが、おおごとにしたくなかった僕は頭を抱えた。
 入学してからしばらくの間、僕は好奇の目にさらされたのである。しかし僕の態度が悪かったことから、寄ってきた人たちは次第に去っていった。残ったのはそれを知っても気にせず笑いかけてきた新くらいである。彼とは今年から同じクラスになり、今ではこうして気安く話す仲だが、放課後などに遊んだことは一度もない。
 席に戻っていく三上のうしろ姿を眺めながら新が呟く。
「三上は優しいね、しっかりしてるし」
「たしかに三上はいい人だけど、お前がだらしないだけでは……?」
 笑ってごまかす新をよそに三上のノートを開いた。丁寧で綺麗な文字だ。人はこんなにも綺麗に字が書けるのかと感心してしまう。僕の知っている女子の字──楓の字は汚かったからなおさらそう思った。
「風邪でも引いてた? 連絡返ってこなかったから」
「ああごめん、普通に返し忘れてた」
 噓だ。彼からの連絡には気づいていた。ただ、返す気が起きなかった。メッセージアプリを開くと彼女のメッセージが目に入るから。
「酷いな、友達の心配を……」
「ごめんごめん」
 ノートを書き写しながら適当に返事をする。新はそれでも話し続けているが、僕の応対はより適当さを増していった。
「……で、本当はなんだったの?」
 彼が聞いたのは単なる興味だったのだと思う。ここで親戚の用事などと言えばよかったのだろうが、隠す気もなかったので幼馴染が死んだと言った。
 すると先ほどまで聞こえていた彼の声がやみ、僕は視線を上げる。新は気まずそうな顔をしていて、やっぱり親戚の用事と言うべきだったと少し後悔した。
「なんかごめん」
「いいよ、べつに。隠してたわけじゃない」
「幼馴染って、あれ? 二個上の……」
「そういえば会ったことあったか」
 ふたつ上の楓は同じ学校に通っていた。といっても彼女が三年生のときにはすでに病に侵されていたので、登校できていたのは五月辺りまで。そこからいろんな人の手を借りて卒業した彼女だったけれど、今はもういない。
「え、なんで死んだの」
「病気。言ってなかったっけ?」
「知らない知らない。夕吾が教えてくれない限り、わかるわけない」
 たしかにそうかとうなずく。知らなくてもいいことだから言わなかった。僕としても本当に彼女が死ぬとは思っていなかったので、より言う必要がないと判断していた。
「あの、美人が……」
「美人か……?」
「あんなに美人の、しかも年上の幼馴染がいるなんて羨ましいって、ずっと思ってたのに……」
 ショックを受けている新は僕よりもずっと悲しんでいる気がした。なんでお前そんなにケロッとしてるんだと言われ、なんでだろうと返す。自分でもよくわかっていないのだ。
「聞いてごめん」
 彼の言葉に、べつにと返し、再びノートを写す作業に戻る。
「じゃあ、今日遅れてきたのも……」
「いや、それは別」
「そっか」
 前の席に座る彼に無彩病だと伝えるために開きかけた口が固まった。
 真実を伝えるか迷ったからだ。伝えてなんになる。一年後に死ぬ実感も、悲しみすらないのに、ここで伝えたら彼はあまりいい気分にならないのではないだろうか。
 とはいえ、つい数日前ならためらわず言っていたであろうことを言葉にしなかった理由が自分でもわからず、小さくため息をついたが彼の耳には届かなかったようだ。
 窓の外に広がる空を一瞥し、再びノートに視線を戻した。

「見えない」
 午後四時半の空は灰色だった。眼鏡をかけ直し、歩き慣れた階段を下り最寄り駅の改札を出る。時間経過により移り変わった秋の空はいつもどおりの灰色で、色味なんてなにもない。それを少しばかり残念に感じた。下を向き、足を速める。死の足音など聞こえもしなかった。
 一年後の世界はどうなっているのだろう。この視界が色彩であふれ返るのか。知らない色を見て、その度に子供のように目を輝かせるのだろうか。死と引き換えに色彩を手に入れるなんて皮肉にもほどがある。
 けれど死に対してそこまでの恐怖もないのが今の僕だ。死にたいわけじゃないけれど、生きたいと願ったわけでもない。ただ身体は酸素を求め二酸化炭素を吐く。それを繰り返しているだけ。明日突然死にますって言われても、きっと最後の最期まで実感がないのだろう。
 やりたいことはない。なりたいものもない。進路も未来も適当に。なんとなく、それっぽく。ただそれだけで生きてきた。
 目的を探せと言われても、夢を持てと説かれても、簡単に見つけられないような人間だ。そもそもこの歳で将来のことを明確に決めている人間がどれくらいいるのだろう。意識が高くてすばらしい限りである。僕には到底できそうもない。
 たぶん新は決まっていないだろうけど、三上はしっかりしているから決まっていそうだ。そんなことを考えながら自宅に向かっていたとき、見慣れたうしろ姿が目に入った。
「おばさん」
 振り返った女性は昨日会ったばかりの楓の母親だった。相変わらず顔はげっそりしており、悲しみは癒えることを知らない。僕に気づいたおばさんは弾かれたように目を見開き、僕の名前を呼んで近づいてきた。
「え、なに……」
 鬼気迫る様子に思わず後退りしてしまう。両肩を摑まれたとき、彼女はよかった会えたと安堵の表情を浮かべた。
「会いにいこうと思ってたんだけど、昨日の今日で迷惑じゃないかしらと思って」
「いや、全然。なにか用でも?」
「ええ、渡したいものがあって」
 肩にかけられたトートバッグから一冊のノートが出てくる。両手で持ち、差し出してきたおばさんの顔が曇った。
「私たちが持っていてもいいんだけど、たぶんあの子なら夕吾くんに持っていてほしいと思うだろうから」
 真っ黒なノートだった。サイズはB5くらいだろうか。表紙にテープが貼られ、その上に文字が書かれている──楓の字だ。
「嫌だったらいいの。でも、もしよければもらってくれる?」
 伸ばした手が止まったのは、楓の字が汚かったからとかではなく、書かれた文字に息が止まるような感覚を憶えたからだ。
『元気になったらやりたいことリスト』
 言葉をなくした僕におばさんは苦笑する。こんなの困るよねと言い、ノートをバッグの中に戻そうとしたが、僕は反射的にその手を摑んだ。
「もらい、ます」
「本当に?」
「はい。おばさんが俺に持っててほしいって思うなら、それが正解なんじゃないかなって」
 なにが正解だ。口から出た言葉に自嘲する。けれどおばさんの唇は柔らかく弧を描き、僕の手にノートを握らせた。
「ありがとう」
 両手に収められたノートを見て満足そうな顔をして、おばさんはまたねと言って去っていく。
 道の真ん中に取り残された僕は背後から聞こえた自転車のベルの音で我に返り、端に寄る。視界の隅を自転車が通り過ぎたとき、ようやく指が動いた。
 ノートをめくり、中を見ていく。
 罫線のないページ一枚に三個ほど、シャープペンシルで楓の大きな字が書かれている。肝心の内容はというと、どうしようもないほどくだらないものだった。
「カップラーメンを食べる、生クリームを吸う?」
 呆れた声が口から出た。くだらないリストが続き、次のページも、そのまた次のページもそれが続いていく。いったいこれがなんだというのだ。というか、やりたいことがしょうもなさすぎる。けれど、テーマパークに行く、旅行へ行く、など彼女が叶えられなかった願望が目に入り、ページをめくる手が止まった。
 これ以上見ると文句を言いそうになったからだ。
「……俺にやれって?」
 乾いた笑いが込み上げる。おばさんも人が悪い。たぶん、楓なら自分のできなかったことを僕にやらせるとわかった上で渡してきたのだ。
 たしかにまちがいではない。彼女はそういう人間だった。
「なんだそれ」
 ふと目に入ったページに書かれていた言葉がなぜか『青空を見ること』で、病室で何度も眺めていただろうとツッコミを入れてしまう。時折おかしなことが書かれたノートを閉じ、瞼の裏にいる彼女に問いかけた。
「やれってことかよ……」
 返事なんてない。ただ彼女は、いたずらが成功した子供のような顔でうなずいた。
 ああ、もういないけれど。きっとそうやってうなずくのだろうな。
 なんならこうも言うはずだ。
「たくさん面倒見てきたんだから、これくらい叶えてよ」って。
 目を開いた先、踏み潰された金木犀の花が視界に入り、いいよと口にした。
「やるよ」
 やりたいことなんてなにもない。未来も夢も希望も、持ち合わせたことはない。残り一年、やることなんてなく、ただ過ぎる時間に身を任せるだけだと思っていた。
 けれど今。どうせ人生が終わるならひとつくらい、なにかを成し遂げてもいいのではないかと思ったのだ。
 僕ではなく、先に死んだ彼女のやりたいことを。
 ──残り三百六十五日。
 僕の最期の一年は、彼女の願いを叶えるための時間だ。


  *

続きは3月5日ごろ発売の『君が残した365日』で、ぜひお楽しみください!

■著者プロフィール
優衣羽(ゆいは)
神奈川県出身。白いパーカーを汚すのが得意。2018年ピュアフル小説大賞にて最終候補となり、「僕と君の365日」(ポプラ社)でデビュー。近著に「僕は、さよならの先で君を待つ」などがある。

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