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Ⅷ メイフラワー
「キキョウ」「はい」「リンドウ」「はい」「コスモス」「はい」 紀久子きくこが注文票を読みあげ、ミドリが花材を確認し返事をしていく。デンマーク産三輪自転車のマルグレーテを車庫からだして店先に停め、ふたつの前輪のあいだのカ…
「キキョウ」「はい」「リンドウ」「はい」「コスモス」「はい」 紀久子きくこが注文票を読みあげ、ミドリが花材を確認し返事をしていく。デンマーク産三輪自転車のマルグレーテを車庫からだして店先に停め、ふたつの前輪のあいだのカ…
「なにやってんですか、ミドリさんっ」 いきなり背後から呼ばれ、ミドリは驚きのあまり、危うくスケッチブックを落としかけた。 「ごめんなさい」蘭らんくんだ。前にまわってミドリの顔を覗きこみ、詫びてきた。「おどかすつもりはな…
『花屋さんが言うことには』(山本幸久:著)の大ヒットが止まりません! 3月の刊行から売れに売れ、現在9刷が決定。累計で7万部近くまで重版を重ねております。 この『花屋さんが言うことには』を読んでくださっているみなさまに感…
「ミドリちゃん」 午前八時前に出社してすぐだ。水揚げをするために、店内の花桶をバックヤードに運びこむと、店長の李多りたに呼ばれた。 今日は金曜日、彼女は日の出とほぼ同時に、世田谷の花卉かき市場へいき、切り花を仕入れて…
「ミドリさんって、雷いかづち先輩がベースを弾いてて、ライブにもでてるのって知ってます?」 千尋ちひろの唐突な質問にミドリはいささか面食らいながらも、「知ってるよ」と答えた。 雷くん本人にも先輩って呼んでいるのかな。 …
駅前の小さな花屋さんを舞台にした、幸せとお花いっぱいの物語。発売から大好評いただいており、ついに累計5万部を突破いたしました! ヒットを記念して、サイン本があたるフォロー&リポストキャンペーンを行います。 <あらすじ> …
フゥフフフフフフゥウン、フゥフフフフゥン、フゥフフフンフンフゥン。 なんの歌だ、これ。 自分でも知らないうちに鼻歌を唄っていた。だがなんの歌だったか、まるで思いだせない。首を傾げながらアトリエをでる。そして玄関脇に…
駅前のお花屋さんを舞台にしたハートフルストーリー『花屋さんが言うことには』(山本幸久さん)が大好評発売中。 あっという間に大きな重版となりました! 大ヒットを記念して、本をお店にできちゃうPOPプレゼントキャンペーンを開…
赤、ピンク、白、紫、オレンジ、黄色、青。 さまざまな色が並び、目にも鮮やかだった。これならば鯨沼くじらぬま駅からでてきたひと達の目を引くだろう。 いずれもスイートピーだ。花の中でもとりわけカラーバリエーションが豊富…
駅前のお花屋さんを舞台にしたハートフルストーリー『花屋さんが言うことには』(山本幸久さん)が3/5に文庫化! 「王様のブランチ」でも紹介された話題作で、文庫化を楽しみにしていた人も多いのではないでしょうか。 文庫化を記念…
真っ白だ。 壁も床も天井も、あらゆるところが隅々まで真っ白な部屋に深作ミドリはいた。身にまとった服も真っ白だった。右手に握る絵筆の毛と柄も白く、左手のパレットもその上にある絵の具も白い。そして目の前にあるキャンバスも…
ラジオに救われた経験から、新人ADとして働く植村杏奈。自身が担当をするオールナイトニッポンでは、俳優・藤尾涼太がパーソナリティを務めて100回目という大きな節目を迎えていた。しかし植村は仕事に身が入らない。なぜなら、藤尾…
月曜日 萩原紗英 朝は白い。いつもそうだ。空だけでなく、目にうつるすべてのものが淡い。すれ違う人の顔も、遠くに見える建物も、すべての輪郭がぼやける。でもそれは、ただ目が完全に覚めきっていないせいかもしれない。電車の吊…
検定調査審議会による審査が終わり、白表紙本にたくさんの付箋をつけて、雪ゆ吹ぶきは会社に戻ってきた。 隼はや人とにとって検定は謎めいており、ベールの向こう側で行われているようなものだった。そこでなにが行われているのかは…
大阪に住んでいた頃ですので、すでに七、八年近く前になるでしょうか。今の担当さんがはるばる大阪まで来てくださって、小説の依頼を受けたのが始まりです。 それから数年後、久しぶりに東京でお会いした時、「前に原田さんから『夜…
原田ひ香さんの最新作『図書館のお夜食』の第一章をマンガで公開中! 作品の雰囲気を、お気軽にお楽しみください! 気になる続きは、書籍にてお楽しみください! ★書誌情報はこちら
その週末、隼はや人とは東京の実家に戻ることにした。 飲み会のあと、陽はる花かには連絡を取らなかった。メッセージに書かれていた「横よこ塚づか」という人物について、問い質したい気持ちはあったが、なんと言えばいいかわからず…
休日になり、隼(はや)人(と)はようやく、陽(はる)花(か)と電話で話すことができた。 「それで、結局、べつのイラストレーターさんに頼んで、なんとかなったんだけど、ほんと、信じられないよな。仕事を頼んだのに、それを…
目次に並ぶ文字の意味が、ほぼわからなかった。 「ヴィルトゥオーゾのカプリス」、「シュヴァリエのクラージュ」、「トルバドゥールのパシオン」、「ピオニエのメルヴェイユ」――。理解度としては、ええーっと……フランス語……です…
尊敬するティーブレンダーの方が、ブレンドを生み出すときには舌や鼻だけでなく、茶葉が育った景色や風の音、その土地の香りを思いながら思考と試行を重ねていく、と仰っていた。 わたし自身、台湾のお茶を飲むときに味や香りととも…
懐かしい匂いがした。 汗のしみついた防具の匂いだ。頭は手拭いで絞めつけられ、顔は面に覆われ、全身にずっしりと重さを感じる。 ここは道場で、対戦相手が見える。 腰につけた藍染めの垂たれには「瀬口」の文字。その横に小…
春一番に飛ばされたものは 本田さん。斎藤さん。水谷さん。小川さん。千葉さん。佐々木さん。中野さん。東さん。 左に曲がって。 若林さん。多田さん。児玉さん。長谷川さん。武藤さん。島さん。河合さん。大塚さん。 配りつつ、…
一、玉鋼 リビングでテレビを見ていたはずが、いつのまにか寝落ちしたらしい。 顔を上げると、部屋がうっすらと黒煙に包まれていた。なんだか焦げ臭い。夕飯作るときなんか焦がしたっけ……ぼんやりしながら窓を開けようと立ち上がった…
部屋に入ると、流果(るか)はあきれた口調で言った。 「うわっ、また、めっちゃ、散らかってるやん!」 先週末に片づけをしたはずなのに、隼人(はやと)の部屋はまた服が脱ぎ散らかされ、本や書類があちこちに広がり、シンク…
物語の真ん中あたりに、刀鍛冶の剱田つるぎだかがりが三人の客と対峙する場面がある。客はどんな用事で来たんだろうと自室の襖を少しだけ開けて、コテツが盗み聞きするシーンだ。客は夫婦とその娘で、娘さんが近々結婚するようで、その…
1 どんぐり生ハム ──ポインセチア仕立て 十二月の寒い夜、ポストを開けると封印したはずの過去が待ちぶせていた。 写真つきのポストカードは、遠くイギリスからだった。 結婚しました。 イベリコ豚、もう食べま…
岩井圭也 くたびれたスーツの男が一人、タクシーから降りてきた。 四十歳前後と思(おぼ)しき彼に、身なりを気にしている様子はない。皺(しわ)だらけのシャツにくすんだ革靴。後頭部には寝癖が残っていた。ただし胸元につけた弁…
第一話 どうせあいつがやった 男のスーツは、見るからにくたびれていた。 背広は襟のあたりがほつれ、黒地のスラックスは表面がつるつるに擦り減っている。実際、彼が着ているものは高級品とは言えない。量販店のセールで購入した…
出社時刻には、なんとか間に合った。 子猫の入った段ボール箱を抱えて、隼(はや)人(と)が出社すると、雪吹(ゆぶき)はわなわなと肩をふるわせて、とがめるような声を出した。 「なんですか、それは……」 隼人は視線を下に…
プロローグ 運命の出会いは、時に驚くようなあじわいがあるものだ。 たとえるなら……唐突に渡されたホカホカの肉まんのように。 * 雨の夕暮れ。 倉庫整理のアルバイトを終えた俺は、トボトボと中華街を歩いていた。 その日…
一筆啓上仕候 和久様 古今東西、ひとかどの人物ってのは、てえしたことを言いなさるもんだ。 あんまり感心しちまったから、お前さんにも教えてやろうと思ったが、同じ家に住んでいるってのになかなか話す時間もない。俺もいい年…
今朝も大阪城は太陽の光を受けて、しゃちほこが金色に輝いている。 まず、ベランダに出て、朝日を浴びたあと、隼(はや)人(と)は部屋に戻り、冷蔵庫を開けて、牛乳パックを取り出した。 牛乳を飲もうと思ったが、グラスがない…
二(にの)宮(みや)公(きみ)子(こ)の事件のあと、夜の図書館は長いお休みに入った。 篠(ささ)井(い)の提案を元に何度か館員たちで話し合い、まず、最初の三週間を使って蔵書整理とチェックを行い、あとの一週間を図書館員…
覆面作家、高城(たかしろ)柚(ゆず)希(き)の部屋はまず長い廊下があって、そこを抜けると広いリビングとなっていた。そして、部屋の一面がガラス張りで明るい日の光がさんさんと入ってきていた。 高城の妹は大きなアルコール飲…
電車のなかで、瀬口せぐち隼人はやとは原稿用紙を広げ、文章を読んでいく。 親譲りの無鉄砲で……という書き出しではじまるのは夏目漱石の『坊っちゃん』だが、この作品を中学生のときに教科書で読んで、妙に心惹かれた。読…
樋口(ひぐち)乙(おと)葉(は)が「夜の図書館」に来てから、一ヶ月ほどが経った。 なんだか、ばたばたしてあっという間に過ぎたような気がする。だけど、仕事をしながら亜子(あこ)や正子(まさこ)と話したり、食堂で徳田(と…
引っ越しを終えたあと、一眠りして午後三時に図書館に行った。 玄関のところに大きな黒塗りの車が駐まっていた。大きいだけでなく、車体もぴっかぴかで、一目で高い車とわかる。思わず中をのぞくと、スーツに黒い手袋をした年…
Ⅰ 泰山木 土曜の夜中、ファミレスに呼びだされた。 相手は男だ。とは言ってもロマンチックな話ではない。四十代なかばの冴えないオジサンなのだ。 君名紀久子きみなきくこのスマホに電話があったのは、三十分ほど前だ。会って話が…
セイさんは、しっかりと木佐ゲンさんのことも調べていた。 「丸子橋家と矢車家に関しては、君たちが聞いたものから特段追加するような情報はない。かつての豪農、庄屋、この辺りを治めていた長同士の確執と言った具合だ。丸子橋の言っ…
二日目の夜。 〈花咲長屋〉のお店を全部回って、そして常連さんとかの写真もほとんど撮り終わって、 〈矢車家〉に私と重さんが泊まるのは今夜で終わり。 いくら何でも写真を撮るためだけに三日も連続で泊まるのは厚かましいし、何…
四月二十日。東京都新宿区。 朝方の外歩きにも、長袖の服はいらなくなってきた季節。 二藤(にふじ)勝(まさる)はサングラスをかけ、帽子を目深にかぶり、雑踏の中を歩いていた。 新宿はきらびやかな街である。会社員や学生…
一九七六年、昭和五十一年の、私が生まれるずっと前の〈花咲小路商店街〉。こうやって歩いてみると、私がいる現代の雰囲気とそんなにも違いはないって思う。あくまでも雰囲気は、だけど。 もちろんお店の様子は全然違うんだけど、それ…
ちゅんちゅん、って。 スズメの鳴き声。 まるでマンガやドラマみたいなベタなシチュエーションみたいだけど、本当にスズメの鳴き声で目が覚めた。すごくたくさんのスズメたちが庭に来ているんじゃないだろうか。いつもこうなんだろ…
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。 (ライティング:松井ゆ…
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。 (ライティング:松井ゆ…
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。 (ライティング:松井ゆ…
志津さんの腹違いの姉妹? それはつまり。 「志津さんのお父様、セイさんの義理のお父様になられた方が、奥様以外の女性と浮気して作った子供ってことですか?」 ひょっとしたら人生で初めてこんな人前では言い難い言葉を喋ったか…
『火を点けて燃やしてやる』 アパートの一室にいたその女性が、重さんのお祖父様、一成さんに向かってそう言っていた。 それを、重さんのお父様、今はまだ中学生の成重さんが聞いていた。 「それは」 重さんが躊躇いながら訊い…
<久坂寫眞館>で働く樹里と、店主の重。 ひょんなことから過去の花咲小路商店街にタイムスリップした二人(とセイさん)は、セイさんの自宅に忍び込むことにするのだが―― ※※※ 午前十時。 〈花咲小路商店街〉の四丁目にある〈…