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第三話 赤毛のアンのパンとバタときゅうり
樋口(ひぐち)乙(おと)葉(は)が「夜の図書館」に来てから、一ヶ月ほどが経った。 なんだか、ばたばたしてあっという間に過ぎたような気がする。だけど、仕事をしながら亜子(あこ)や正子(まさこ)と話したり、食堂で徳田(と…
樋口(ひぐち)乙(おと)葉(は)が「夜の図書館」に来てから、一ヶ月ほどが経った。 なんだか、ばたばたしてあっという間に過ぎたような気がする。だけど、仕事をしながら亜子(あこ)や正子(まさこ)と話したり、食堂で徳田(と…
引っ越しを終えたあと、一眠りして午後三時に図書館に行った。 玄関のところに大きな黒塗りの車が駐まっていた。大きいだけでなく、車体もぴっかぴかで、一目で高い車とわかる。思わず中をのぞくと、スーツに黒い手袋をした年…
Ⅰ 泰山木 土曜の夜中、ファミレスに呼びだされた。 相手は男だ。とは言ってもロマンチックな話ではない。四十代なかばの冴えないオジサンなのだ。 君名紀久子きみなきくこのスマホに電話があったのは、三十分ほど前だ。会って話が…
「朧(おぼろ)太一さんですね」 警察からの電話を受けた時、オボロは法律事務所にいた。正午過ぎ、自分のデスクで作業をしながら、ランチは何を食べようかと考えているところだった。隣の席の原田は持参した弁当を食べている。 「そ…
ソファに座る女性は、全身から焦りと不安を発散させていた。 見たところ年齢は四十代前半。瞬きが少なく、顔色は白っぽい。ジャケットは着慣れていないのか、しきりに肘のあたりを気にしていた。額には汗が滲んでいる。晩夏の蒸し暑…
少年鑑別所の面会室に、くしゃみが響いた。 朧(おぼろ)太一はとっさに二の腕で口元を押さえ、飛沫を防ぐ。どうにか間に合った。ついでにポケットティッシュで鼻をかむ。体調がすぐれないうえ、一月の面会室は底冷えする。空調の利…
セイさんは、しっかりと木佐ゲンさんのことも調べていた。 「丸子橋家と矢車家に関しては、君たちが聞いたものから特段追加するような情報はない。かつての豪農、庄屋、この辺りを治めていた長同士の確執と言った具合だ。丸子橋の言っ…
「オボロ先生って、趣味あるんですか」 問いかけたのは、隣の席で手作りの弁当を食べているパラリーガルの原田だった。 カップ麺をすすりこもうとしていた朧(おぼろ)太一は、割り箸を止めて応じる。 「どうして?」 「休みの日…
二日目の夜。 〈花咲長屋〉のお店を全部回って、そして常連さんとかの写真もほとんど撮り終わって、 〈矢車家〉に私と重さんが泊まるのは今夜で終わり。 いくら何でも写真を撮るためだけに三日も連続で泊まるのは厚かましいし、何…
四月二十日。東京都新宿区。 朝方の外歩きにも、長袖の服はいらなくなってきた季節。 二藤(にふじ)勝(まさる)はサングラスをかけ、帽子を目深にかぶり、雑踏の中を歩いていた。 新宿はきらびやかな街である。会社員や学生…
つきそい‐にん〔つきそひ‐〕【付添人】 1 人に付き添っていろいろな世話をする人。 2 家庭裁判所で審判を受ける少年の権利を擁護・代弁し、少年審判の手続きや処遇の決定が適正に行われるよう裁判所に協力する人。弁護士以外の人…
一九七六年、昭和五十一年の、私が生まれるずっと前の〈花咲小路商店街〉。こうやって歩いてみると、私がいる現代の雰囲気とそんなにも違いはないって思う。あくまでも雰囲気は、だけど。 もちろんお店の様子は全然違うんだけど、それ…
ちゅんちゅん、って。 スズメの鳴き声。 まるでマンガやドラマみたいなベタなシチュエーションみたいだけど、本当にスズメの鳴き声で目が覚めた。すごくたくさんのスズメたちが庭に来ているんじゃないだろうか。いつもこうなんだろ…
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。 (ライティング:松井ゆ…
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんの最新刊が好評発売中! ということで、全3回にわたり、ロングインタビューをお届けいたします! 創作秘話から、海外版製作についてまで、お話をたくさん伺いました。 (ライティング:松井ゆ…
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震災で歪んだ友衛(ともえ)家の母屋を土台から建て替えるのに三年を要した。設計に時間をかけたこともあるし、人手や資材の不足もあって、着工までにだいぶ間もあいた。三年のうち半分は更地の隣で、半分は次第に形を成してゆく母屋の槌…
志津さんの腹違いの姉妹? それはつまり。 「志津さんのお父様、セイさんの義理のお父様になられた方が、奥様以外の女性と浮気して作った子供ってことですか?」 ひょっとしたら人生で初めてこんな人前では言い難い言葉を喋ったか…
『火を点けて燃やしてやる』 アパートの一室にいたその女性が、重さんのお祖父様、一成さんに向かってそう言っていた。 それを、重さんのお父様、今はまだ中学生の成重さんが聞いていた。 「それは」 重さんが躊躇いながら訊い…
<久坂寫眞館>で働く樹里と、店主の重。 ひょんなことから過去の花咲小路商店街にタイムスリップした二人(とセイさん)は、セイさんの自宅に忍び込むことにするのだが―― ※※※ 午前十時。 〈花咲小路商店街〉の四丁目にある〈…