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さいわい住むと人のいう
全身が心臓になったかのようだ。胸から腕、手首、腹部、そして足の付け根からつま先まで、身体のすべてが脈打っている。 ベッドに横たわる私にはもう、縦横無尽に移動して不規則に脈打つ自分の心臓を、どうすることもできなかった。 …
全身が心臓になったかのようだ。胸から腕、手首、腹部、そして足の付け根からつま先まで、身体のすべてが脈打っている。 ベッドに横たわる私にはもう、縦横無尽に移動して不規則に脈打つ自分の心臓を、どうすることもできなかった。 …
【201908262310.m4a】 はじめまして。村むら井い翔しょう太たといいます。よろしくお願いします。 とりあえずあの日のこと、全部話しますね。正直、気は進まないですけど。肝試しになんて行かなければ、杏あんは死な…
第一章 リムジン弁当 お弁当屋さんができていた。 気がついたら、いつの間にかそこにお弁当屋さんの看板が出ていた。いつからそこにあるのかは、思い出せない。 年季の入ったママチャリに乗ってその場所が見えてくると、私は極力…
10月9日に発売となる、小川糸さんの待望の新刊『小鳥とリムジン』。「人を愛すること」をテーマに描かれた本作は、どのような経緯で生み出されたのか。創作の裏側について、小川さんに伺いました。 ※※※ ――『食堂かたつむり』で…
はじめて書いた小説『つぎはぐ、さんかく』(応募時のタイトルは「つぎはぐ△」)で第十一回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビューを果たした菰こも野江名のえな。待望の第二作『さいわい住むと人のいう』は読者をどこに連れていくのか…
ちまたで流行りのほっこり系ごはん小説かと思いきや、スリリング。第一一回ポプラ社小説新人賞を受賞した菰こも野江名のえなのデビュー作『つぎはぐ、さんかく』は、惣菜とコーヒーのお店「△」を営む三きょうだいの物語なのだが、仲の…
あらまぁ、あらまぁ、あの遊馬あすまが! まるで甥っ子にでも抱くような感慨で、胸がいっぱいになってしまった。なんたって、遊馬を初めて見た(読んだ)のは、『雨にもまけず粗茶一服』(2004年)。その後、『風にもまけず粗茶一…
世の中には、それまで何度も目にしてきたはず、経験してきたはずなのに、本質を理解せぬうちに、ずいぶん長い時間が過ぎてしまう――、といったことがままある。 たとえば、私は天気図というものを、テレビ画面越しに何千回と眺めてい…
第一話 どうせあいつがやった 男のスーツは、見るからにくたびれていた。 背広は襟えりのあたりがほつれ、黒地のスラックスは表面がつるつるに擦すり減っている。実際、彼が着ているものは高級品とは言えない。量販店のセールで購…
なにか新しいことをはじめたいなと思うことがあっても、つい後回しに。気負わず、ちょっとしたことからやってみようか?
序幕 蒼雪城の花嫁 東方の真珠、と、人々は、その七歳の公女を呼んだ。 リーサ・ダヴィアは、人の称賛を誘う美しい少女だった。真珠とは、東方の海沿いの商都出身であることと、月の光の色をした巻き髪の輝きに由来している。端整…
「とにかく眠れないんです」 お客さまは、ベッドの上で膝を抱えて座り、眠れない理由を語りつづける。 黒くて長い髪で隠れ、表情が見えない。ニットもロングスカートも黒い。店頭に並べている毛布のタグを見比べていたので声をかけたと…
開園前の遊園地が、こんなにキラキラして見えるなんて初めて知った。 まだ客のいないそこは、想像していたよりずっと広大に感じる。朝日を浴びたアトラクションが、むずむずと喜びをこらえながら始まりの時を待っているみたい…
なつかしいわねぇ、遊園地なんて何年ぶりかしら。 私たちみたいな70半ばの老夫婦がふたりで来たって浮いちゃうかしらと思ったけど、どうやらそんなこともないみたいで安心したわ。 私たちの目の前を、5歳ぐらいの男の子がぱたぱたと…
「見た?」 前を向いたまま訊ねた私の隣で、葵はこっくりとうなずいた。 「……見た!」 すっきりと晴れた日曜日、友達の葵(あおい)に誘われてやってきた遊園地。 私たちは優雅に回っているメリーゴーランドの柵の前で列に並…
引退試合が終わった。 私は同じバスケ部の仲間4人でぐるぐるめに来ていた。 「山中青田遊園地」っていうのが正式名称だけど、なぜなのか、そっちよりも「ぐるぐるめ」の名前のほうがみんなに知られてそう呼ばれている。 …
まったく、ばかみたいに晴れていやがる。 こんな天気のいい日曜日に、なんでオレはひとりで遊園地なんか来なくちゃいけないんだ。 あたりを見渡せば、何やら初々しい若いカップル、仲の良さそうな友達連れ、寄り添い合って…
2021年本屋大賞2位となった、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』の文庫が、3月2日に発売されます。 初回配本限定で、著者の青山さんのメッセージが印刷された特別カード(名刺サイズ)が封入されます! 絵柄は上記の3種…
ドーン、ドーン、ドーンと、3回、太鼓を叩く音がした。 ヒーローショーを見たいというのは、息子の大(だい)吾(ご)のリクエストだった。 家族4人でイベントステージに来てみたのだが、客席はまばらであまり人がいない。 派手なシ…
氷で手を冷やしてから肉を殴る男は初めてだった。 手が傷むからと、肉叩きを使うよう云ったんだけれど〈だいっじょぶ!〉とまるで気にする様子がない。本人はこうすると肉に手の温度が伝わらず〈良いパティ〉が準備できると信じている…
君の涙 やけに蒸し暑い日曜日の深夜。僕は部屋の片隅にある扇風機のスイッチを入れ、勉強机に向かった。 椅子に腰掛けてノートパソコンを起動し、映画やアニメなどを視聴できる動画配信サイトに飛び、僕に刺さりそうな物語を物色す…
序 其れは、図られし縁 大陸に、最大の面積を占める大国、陵りょう。 この地ではかつて、無数の悪鬼が跋扈ばっこし、人々は悉ことごとく疫病や災いに苦しめられていた。草木は生えず、水は涸れ果て、空にはいつも暗雲が垂れ込め…
荻原浩 人魚の見える岬
平戸萌 ドライブイン・眺め
前川ほまれ 12歳の君へ
深沢仁 もう一度行きたい場所
大島真寿美 本の森には……
阿津川辰海 失恋名探偵 / 瀧羽麻子 我らが音楽に祝福あれ/村山早紀 つくろうひと