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あの空に花が降るとき、僕はきっと泣いている

 プロローグ

 真っ暗な部屋の中で布団を頭から被り、恋人だったいちなつのアカウントにメッセージを送る。
『こんばんは。なんか眠れなくてさ、暇だから送ってみた。今日もなにもしないで部屋に引きこもってた。そろそろ学校行かないとなぁ』
 深夜だというのにすぐに既読がつき、直後にピコン、という通知音とともに返事が届く。
『愛は死よりも強し。いい言葉だよねぇ』
 届いたメッセージに、僕はまた返事を送り返す。
『それ、誰の言葉だっけ。聞いたことあるような、ないような』
『知ってる? 月にも地震があって、月震っていうらしいよ。数十分から数時間揺れが続くこともあるんだって。いつか月に住みたいなって思ってたけど、そんなに長時間揺れるなら嫌だなぁ』
『へえ、それは知らなかった。そんなに揺れたら酔いそうだな』
はこだてやまからの景色、綺麗だったね。また行きたいなぁ』
 み合わないやり取りがしばらく続き、虚しくなったところで話を終わらせて画面を閉じた。函館山に行ったときのことは僕もよく覚えていた。千夏と最後に出かけた場所がそこだったから。
 ゆっくりと目をつむると、千夏とふたりで行った函館山からの景色が浮かび上がる。

 高校二年の秋、夜の函館山を訪れたのはその日が初めてだった。千夏は入院先の病院から一泊二日の外出許可を得て、久しぶりに函館市内を見て回りたいと言った。
 一日中市内の観光名所を回り、最後にやってきたのが標高三百三十四メートルにある函館山展望台。山麓にあるロープウェイに乗って約三分。外の景色を眺めているとあっという間に山頂に到着する。
 彼女と交際を始めてから最初のデートの場所がこの展望台だった。そのときは昼間に訪れ、薄らと雲がかかって景色はあまりよくなかった。そのせいか観光客も少なく、展望台は閑散としていたのを今でも覚えている。
 この日は平日にもかかわらず観光客で混雑していて、外国人の姿も多い。この場にいる誰もが、眼下に広がる極彩色の夜景に携帯やカメラのレンズを向けている。屋上展望台の転落防止のフェンス際はとくに人が密集していて、写真を撮るための順番待ちの列ができて警備員が忙しなく誘導している。
 車椅子の千夏はうんと背筋を伸ばして身を乗り出しているが、きっと観光客の背中しか見えていないだろう。
「やっぱ夜は混むね。寒いし、もっと厚着してくればよかった」
 千夏は車椅子の背もたれに背中を預け、肩をすぼめて身震いした。九月の中旬とはいえ、山頂は風が冷たい。
「一階のロビーに行ってみる? ここよりは空いてると思うから」
 上着を一枚脱いで千夏に羽織らせてから車椅子を押し、混み合っている山頂広場を通って屋内へ移動する。
 山頂展望台は四層構造になっていて、一階はロープウェイの山頂駅や待合ロビー。二階には夜景が一望できるレストランやイベントホールがあり、三階にはティーラウンジがあって、最上階は屋上展望台となっている。展望台の周囲には山頂広場や駐車場、それから小さな公園も整備されており、この時間帯はピーク時であるためどこへ行っても混雑していた。
 エレベーターに乗って一階で降り、ロープウェイのチケット売り場の前を通って待合ロビーへ。展望台に比べると人は疎らで、いい場所を確保できた。
 ロビーはガラス張りで写真を撮ると自分の姿が薄らと写りこんでしまうのが難点だが、人混みや風を気にすることなく景色を楽しめる。
 夜の深い闇にぼんやり浮かぶ漆黒の海と、煌びやかな街明かりのコントラスト。千夏は子どものように口を開けて眼下に広がる景色を眺めている。
 その眩い輝きは、僕たちがこの街で生まれ育ったとは思えないほど遠くに感じてしまう。どんなに手を伸ばしても決して届かない、どこか別の世界の街のようでもある。
 しばらく無言で見入っていると、千夏がふと思い出したように口を開いた。
「ねえつばさ、知ってる? 函館山のハート伝説」
「ハート伝説?」
「そう。函館山から見える夜景の中にね、『ハート』の文字がどこかに隠れてるんだって。それを見つけたら、一緒にいる人と幸せになれるっていう言い伝えもあるらしいよ」
 前に向き直り、千夏が話したハートの文字とやらを目を彷徨さまよわせて探してみる。なんとなく『ハ』の文字は見つけられたが、それに続く文字は確認できなかった。
「それともうひとつ、函館山の夜景には『スキ』の文字も隠されてるんだって。頑張って探してみて。わたしはもう見つけたから」
「えっ、まじ? ヒントちょうだい。どの辺?」
 ガラスに鼻先が触れそうなほど身を乗り出して探してみるが、何度目をこらしてもやっぱり見当たらない。
「自力で見つけないと効果がないらしいから、教えられないなぁ。ネットで調べて答えを見るのもだめだよ」
 千夏に行動を先回りされていて、ポケットから取り出した携帯をそっと元に戻す。
 仕方なく自力で探してみたが、結局最後まで隠された文字は見つけられなかった。あ~あ、と気落ちした千夏の車椅子を押しながらロープウェイに乗りこみ、山麓へ下りる。
「次来たときは絶対見つけるから。リベンジさせて」
「次があればの話だけどね」
「あるって、絶対。また外出できると思うから。それより明日はどうする? 病院戻る前に行きたいところとかない?」
 不貞腐れた千夏を宥めるように優しい口調で問いかけると、「わたしの歌」と、千夏は言った。
「わたしのためにつくってくれるって約束したよね。それが聴きたい」
「ああ。それはもうちょっと待って。歌詞は半分くらいできてるんだけど、曲の方がまだ時間かかりそうで、完成したらまた病院の屋上で聴かせるから」
 そっかぁ、と千夏は不満そうに唇を尖らせる。
 僕は昔から楽曲制作が趣味で、つくった曲を千夏に歌ってもらったり、自分の代わりに機械が歌ってくれるソフトを活用して動画投稿サイトに載せたりしていた。
 先月千夏に「わたしのために曲をつくってよ」と頼まれたのだが、まだまだ完成とはほど遠い出来栄えだった。
「わたしは全然待つけど、病気は待ってくれないかもよ?」
 儚げにそう呟いた千夏に、「待ってくれるって」と根拠もなく半笑いで告げる。
 だといいけどねぇ、と彼女はため息交じりに零す。
 これから先も、僕たちはずっとふたりで歩んでいけると疑いもなく信じていた。
 そのはずなのに、彼女の言葉に胸がずんと重くなる。
「今日はいろんなところに行けて楽しかったなぁ」
 ロープウェイの中で、千夏が朗らかな口調で僕に笑いかけた。きっと僕が落ちこんでしまったと悟って、沈んだ空気を払拭させようと無理に明るく振る舞っているにちがいない。
「そうだねぇ」と、僕も無理やり笑顔をつくって声を弾ませる。その声は自分の声じゃないみたいで、虚しく響いた。
 ロープウェイが下っていき、やがて遠くに見えていた景色も消えていった。
「あ、見て。今日は満月だよ。夜景に目を奪われてたからかな、さっきは全然気づかなかった」
 山麓駅を出たあと、車椅子を押して函館駅へ向かっている道中、千夏が腕を伸ばして夜空を指さした。緩やかな下り坂が続いているため、正直そんな余裕はなかったけれど、空を仰いでみるとたしかに満月が輝いていた。
 静かな夜に、眩い月の光がしんしんと降り注いでいる。星々の光をかき消し、まるで僕たちふたりを照らすように、漆黒の夜空にでかでかと浮かび上がっていた。
「月が綺麗ですね」
 仰々しく咳払いをしてから、静寂を切り裂くように千夏がぽつりと呟いた。
「うん。綺麗だけど、なんでいきなり敬語になってんの?」
 問いかけると、千夏は車椅子に座ったまま僕を振り返った。
「え? いやだから、月が綺麗ですねって」
「ん? うん。綺麗だと思う」
 僕がそう返すと、千夏は大きなため息をついて前に向き直った。なぜため息をつかれたのか皆目見当がつかず、「どうかした?」と聞き返した。
「なんでもない」
 千夏は不貞腐れたように零し、その後は僕がなにを話しかけても機嫌が直ることはなかった。
 ──千夏が亡くなったのは、その日から一ヶ月が過ぎた頃だった。
 休日に根を詰めてようやく曲が完成し、ギターを背負って千夏の病室に出向き、数日前から意識のない彼女の目覚めを待った。しかし彼女は僕が帰宅したあと容態が急変したらしく、そのまま目を覚ますことなく息を引き取った。
 僕はその日から無気力になり、廃人のように日々を空費していった。


 第一章 届かないメッセージ

 千夏が死んだ十月から不登校気味になりながらも、僕はぎりぎり三年に進級することができた。しかし新学期が始まって数日間は通っていたが、それ以降は一ヶ月以上学校を休んでいる。
 何度か登校しようと試みたが、高校を通り過ぎてそのまま自転車でがる海峡に面したおおもりはままで向かい、ひたすら海を眺めて黄昏たそがれることもあった。イヤホンを挿して好きな音楽を聴きながら、なにも考えずにそこで何時間も過ごすのが好きなのだ。
 千夏が死んでからというもの、なにをするにもやる気が起きなくてそんな怠惰な日々を僕は過ごしていた。
 新しいクラスは一番後ろの席で、担任も無難で悪くないのだが、どうしても学校へ行く気にはなれない。
 その日も昼頃にベッドから体を起こし、部屋の片隅に鎮座しているアコースティックギターを手に取って適当に音を鳴らす。小学生の頃から愛用しているせいか、焦げ茶色のツヤのあるボディはところどころぶつけて塗装がげてしまっている。
「音が伸びないな……」
 ギターをつまきながら、ぽつりとひとりごちる。しばらく弦を張り替えていなかったし、フレットも汚れてきている。
 ギターをケースに入れ、服を着替えてから携帯を手に取り、千夏にメッセージを送った。
『ギターの弦を張り替えに行ってくる』
 メッセージを送ると瞬時に既読がつき、すぐに返信が来る。
『今日はなにするの?』
 届いた文面を見て、さらに返事を送る。
『だから、ギターの弦を張り替えにサウンドはやに行ってくるんだってば』
『ゲームばっかりしてないで、勉強もちゃんとしなよー』
 まるで会話が嚙み合っていないが、いつものことなので気にせずに携帯をポケットに入れて部屋を出る。
 外に出たのは一週間ぶりだろうか。一日中カーテンを閉め切った部屋で過ごしているせいか、強い日差しに目が慣れるまで時間がかかった。
 目を半開きにしたまま自転車に乗り、函館市の数少ない楽器店である『サウンド速水』へ向かった。
 自宅から自転車で約十五分。創業五十年を超える函館のバンドマン御用達の小さな楽器店。函館市出身のあの伝説的なロックバンドのメンバーたちも高校生の頃に通い詰めていたという噂もある。派手な赤い扉が目印で、僕は小学生の頃からお世話になっていた。
 店の前に自転車を停めて入店すると、お馴染みのロック色の濃いギターのBGMが耳に届く。
「おお、そめくん久しぶり。いらっしゃい」
「どうも」
 店主の速水しゅうさんが満面の笑みで出迎えてくれる。以前は修司さんの父親が店を切り盛りしていたが、五年ほど前に体調を崩してからはアルバイトとして働いていた息子の修司さんが店を任されることになった。
 三十代半ばの、長髪の気さくな店主。楽器のことは、彼に聞けばなんでも答えてくれる。
 ギターをケースから取り出し、弦の張り替えを依頼するとすぐにやってくれるとのことで、終わるまで店内に展示されている楽器を物色する。
 壁一面に並べられた様々なギターやベース、キーボードにドラムセット。アンプの品揃えも豊富で見ていて飽きない。
 店内の奥には小さな貸しスタジオもあって、何度か利用したことがあった。
 目の前にあるギブソンのアコギを手に取り、試奏してみる。太くて温かみのあるギブソンの音が鳴り響き、僕の安いギターとの差に思わず感嘆のため息が零れる。
 ギター愛好家にとってすいぜんの的とも言える名器のひとつで、値段は僕のような一介の高校生にはとても手が出せるものではなく、いつも試奏しては名残惜しく思いながら元の位置に戻すだけだった。
「そういえばこの前、ながくんから聞いたよ。また学校休んでるんだって?」
 レジカウンターの奥で、弦を張り替えながら修司さんが聞いてくる。センター分けの長い髪が垂れてしきりに髪をかき上げている。
 永戸は小学校からの幼馴染みで、千夏が死んだことも知っている旧知の仲だ。
「……まあ、そうっすね。なんか怠くて」
「心配してたよ、永戸くん。このままじゃ留年だって」
「べつにそれでもいいっていうか、むしろやめてもいいし……」
「千夏ちゃんも心配してると思うよ」
 修司さんはギターと向き合いながら優しい口調で諭すように言った。千夏も生前はよくここへ一緒に来ており、修司さんとも顔見知りだった。修司さんもまた千夏の死を知っていて、ここへ来るたびに僕を励ましてくれていた。
「……気が向いたら行きます」
 無難にそう答えて今度はエレキギターを手に取り、激しく音を鳴らして強引に話を終わらせた。先日父親からもそろそろ登校したらどうかと説得されたが、まさかここでも同じことを言われるとは思わなかった。
 エレキギターを置き、出入口に視線を向けると派手な貼り紙に目が留まる。それはバンドメンバー募集の案内だった。どうやら、近隣の高校生のバンドがギタリストを募集しているらしい。
『高校生限定。最低限ギターが弾ければOKです。興味のある方は、こちらのメールアドレスに……』
 ギターやドラムセットの絵が描かれ、カラフルに装飾された貼り紙。応募条件は満たしているけれど、知らないやつらとバンドを組む気にはなれない。そもそも僕はロックよりもポップスやフォークが好きだし、バンドは一度も組んだことがない。ひとりでのんびりとギターをかき鳴らし、自分の好きな曲をつくる方が性分に合っている。
 貼り紙の応募要項を最後まで読まずにドラムセットの前に足を運ぶと、先日千夏から届いたメッセージをふと思い出す。
『なにか新しいことを始めるとか、夢中になれるものを見つけたら、わたしが死んだ悲しみも紛れると思うよ』
 僕の現状を的確に予測し、千夏はそんなメッセージを送ってきた。夢中になれるもの、と言われてもそう簡単に見つかるものでもない。知らないやつらとバンドを組んだ程度で、千夏を失った悲しみが紛れるとは到底思えなかった。
「はいよ。弦交換完了~。フレットも磨いといたから」
 修司さんは僕のギターを抱えて、じゃららん、と音を鳴らしてみせた。交換前に比べると音の伸びもよく、フレットもピカピカで僕の安いギターは息を吹き返したように生き生きとしている。
「ありがとうございます」
 代金を支払い、再度お礼を述べてからサウンド速水をあとにする。以前は用がなくても店内の中央にある椅子に腰掛けて楽器を弾いたり修司さんと音楽の話をしたりしていたが、最近はそれもしなくなった。
 千夏が亡くなってからの僕は、人と関わることさえもしなくなった。
「あら、翼くん?」
 帰りに寄ったコンビニを出ると、買い物袋を手に提げた千夏の母親と鉢合わせした。彼女は時々この辺りで犬の散歩をしていて、千夏が死んでからもこうやって顔を合わせることは何度かあった。
「こんにちは」
「翼くん、学校行ってないの? 余計なお世話かもしれないけど、高校はちゃんと卒業しといた方がいいよ。千夏も心配してると思うし」
 先ほど修司さんに言われたばかりなのに、また同じことを言われてしまった。僕はうんざりしながらも、彼女に会釈だけ返して自転車を走らせる。
 最愛の娘が死んだというのに、どうしてそんなにけろっとしているのだろう。千夏の葬儀が終わった翌日から、何事もなかったように彼女が犬の散歩をしていたのを覚えている。
 背後から千夏の母親の声がまだ聞こえていたが、僕は振り返らずにペダルを漕いだ。

 千夏とは小学五年のときに初めて同じクラスになって、本格的に仲良くなったのはその年の秋頃。千夏がなにげなく口ずさんでいた歌が、そのとき僕がハマっていたバンドの曲だったのだ。今でこそ知らない人はいないが当時はマイナーなバンドで、まさか身近に知っている人がいるとは思わず、つい声をかけてしまった。
「その曲、レッドストーンズでしょ。僕も知ってる。ちょうど昨日ギターで練習してたんだ」
「え、本当? じゃあさ、この曲は知ってる?」
 それがきっかけで千夏とはよく話す仲になった。中学に進学してからは一緒にライブに出かけたり、カラオケに行ったりと音楽を通じて僕たちは仲を深めていった。
「音楽ってさ、人と人を繫いでくれるんだよね」
 千夏はそんなことをよく話していた。たしかに僕と千夏も音楽を通して出会ったし、永戸と仲良くなったのも音楽が機縁だった。
「その曲好きかも。歌詞はもうできてるの?」
 ギターの練習をしにサウンド速水の貸しスタジオに赴き、僕についてきた千夏が身を乗り出して聞いてきた。つくった曲を最初に披露する相手は、いつも千夏だった。
「できてるけど、恥ずかしいから見せないよ」
「いいじゃん、見せてよ」
「あ、ちょっと」
 歌詞を書き留めたノートを千夏に奪われ、顔が熱くなる。千夏は僕が書いた歌詞を無言で眺め、やがてぱたりとノートを閉じた。
「……なにこれ、めちゃくちゃいい! 切ないけど前向きな歌詞になってるし、曲にも合ってると思う! ちょっと歌ってみてもいい?」
 まさかそこまで絶賛されるとは思わず、さらに赤面してしまう。それをごまかすように顔を伏せてギターを弾きはじめる。千夏は探るように声をメロディにのせていく。
 彼女の綺麗な歌声がスタジオに響き渡る。自分のつくった曲を目の前で歌ってくれることに気恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げ、鳥肌が立った。
「やっぱいい曲だね。これ、動画投稿サイトにアップしてみたら? 絶対人気が出ると思うよ」
「いや、無理だって。どうせ誰も聴いてくれないと思うし……」
「そんなことないって。わたしがひとりで一万回再生するし、宣伝も頑張るから!」
 千夏に背中を押され、後日動画投稿サイトに曲をアップロードしてみたが、案の定再生回数は伸びなかった。言い出しっぺの千夏に歌ってほしかったが、恥ずかしいからと断られ、仕方なく音声ソフトを使用した。
 それでもめげずに曲をつくっては投稿し続けていると、少しずつ再生回数は伸びていった。
 僕は千夏と過ごすうちに気づけば恋に落ち、もっと彼女のことを知りたいと思うようになった。なんとなく千夏も僕のことが好きなんだろうなと気づいていたが、夏休み前には永戸のバンドのボーカルで学校でも人気のある藤ふじ代しろからの告白を断ったと彼女に聞いた。
 うかうかしていられないな、とそれを聞いてすぐに自分から交際を申しこんだ。
 だから千夏と付き合い始めたのは、僕たちが中学二年の十四歳の頃。夏休みに花火大会があって、それが終わったあとに千夏の自宅へ送る途中で僕から告白したのだ。
「あの……よかったら付き合う?」
 あまりにも照れくさくて、とても告白と呼べるようなものではなかったけれど、ようやく切り出せた自分を褒めてやりたい。
 千夏は「なにその告白」と不満そうではあったが、「いいよ」と僕の手を取ってくれたのだった。
 付き合いはじめてからはとくに大きな喧嘩もなく、交際は順調に進んでいた。
 ──千夏の病気が見つかるまでは。

 その日の夜。自室のベッドに横になっていると携帯が鳴った。ごろりと反転してうつ伏せのまま携帯の画面を覗くと、届いたのは永戸からのメッセージだった。
『さすがにそろそろ学校来ないとやばいぞ~。染野の気持ちもわかるけどさ、もう半年以上経ってるんだし、いつまでもそのままでいたら一ノ瀬も悲しむと思うよ』
 また千夏か、とため息をつく。三年に進級して不登校になってから、永戸からそんなメッセージが頻繁に送られてくるようになった。毎週末、家にやってきて、僕の部屋でギターをかき鳴らしつつ学校へ来いと催促するのだ。頑なに断り続けているけれど、たしかに彼の言うようにそろそろ出席日数が足りなくなる。
 もうすぐ六月になるし、このままいけば夏休みを迎える前に学校からなんらかの通達が来るだろう。
 たとえそうなったとしても、僕はそれでもかまわなかった。
 永戸への返信は後回しにして、千夏にメッセージを送る。
『こんばんは。今日は満月です』
 瞬時に既読がつき、千夏のアカウントから返信が来る。
『頑張って。応援してる』
 会話が成立していなくても、気にせずに文字を打ちこむ。
『出席日数が足りなくて留年するかもしれない』
『嬉しいなあ。ありがとう』
『嬉しいってなんだよ。喜ぶなって』
『函館山のスキの文字は見つかった? ロマンチックだよね、スキが隠れているなんて』
 そんな嚙み合わないやり取りを毎日続けていた。
 千夏が僕に残してくれたメッセージアプリの無料公式アカウント。主に企業や店舗が顧客にサービス情報などを提供し、宣伝目的で使用されているが、実は誰でも簡単につくれるらしい。
 そこにメッセージを送ると、千夏が事前に設定した文章が自動で送られてくるのだ。
 最愛の恋人を亡くしたあと、僕が悲しみに暮れないためにつくったのだと千夏は生前話していた。いたずら好きの彼女らしい忘れ形見のようなものなのかもしれない。
 アイコンには一番盛れた写真を使用したようで、制服を着て満面の笑みでピースサインをする千夏がカメラ目線でこちらを見ている。
 いったいいくつの言葉を設定したのか、未だに初めて送られてくる文章もあって千夏からの返事が毎回楽しみだった。返信内容はランダムなので、昨日と同じ言葉が返ってくることもあるし、奇跡的に会話が嚙み合うことも何度かあった。
 それともうひとつ、指定した日にメッセージを送ることもできるらしい。先月の僕の誕生日には、僕宛てにメッセージが届くように千夏があらかじめ設定していた。
『翼、誕生日おめでとう! ついに成人だね! いやぁ、翼が大人になっちゃったのかぁ。なんか感慨深いね。直接祝えなかったのが心残りだけど、素敵な大人になってください。ちなみに来年の誕生日は自動メッセ設定してないから、期待しても無駄だからね』
 僕の十八歳の誕生日、日付が変わった瞬間にそれは送られてきた。ほかにもエイプリルフールに受信したのは、『翼には黙ってたんだけど、実はわたしバツイチなんだよね。サウンド速水の修司さんと結婚してたの。隠しててごめんね』という内容。
 そんなわかりやすい噓を送ってきたときは思わず笑ってしまった。僕も適当に思いついた噓を送り返したけれど、千夏からの返事とは当然嚙み合わず、虚しくなった。千夏の言葉は僕に届くのに、僕の言葉は千夏には届かない。
 それでも僕は心に空いた穴を塞ぐように、千夏にメッセージを送り続けた。
 このアカウントにはさらにもうひとつ、すばらしい機能がある。キーワード返信という画期的なシステムだ。それは特定のキーワードに反応して、千夏が事前に設定したメッセージが送られてくるというものだ。
 僕が千夏に『誕生日おめでとう』と送ると、その言葉に反応して『ありがとう』と返事が来る。『辛い』と送ると、『辛くても頑張らないとだめだよ』と来るなど、千夏が設定したキーワードを打ちこめばそれ専用のメッセージが送られてくるのだ。
りょうかくタワー』と送ったときには、いつか千夏が撮ったであろう自撮り越しの五稜郭タワーの写真が送られてきた。
 千夏の設定したキーワードがいくつあるのかわからないけれど、僕は毎晩千夏が隠した言葉を探し続けていた。
「ひとつだけ動画付きのメッセージを残したから、頑張ってキーワードを見つけてね」
 病室のベッドで携帯を握りしめながら、得意げに笑った千夏の顔を思い出す。
 千夏が亡くなってから半年と少し。僕は未だに彼女が残した動画付きのメッセージを見つけられずにいた。千夏が設定しそうな言葉をいくつも送ってみたが、動画が送られてくることは今のところなかった。
 僕がその日見つけたキーワードは、『死にたい』という言葉だった。
『死にたい』と千夏にメッセージを送ると、僕を説教するような文章が返ってきた。
『冗談でもそんなことは言わないで。翼には、わたしの分まで長生きしてほしいから。そりゃあ誰だって生きていれば死にたいって思うこともあるかもしれないけどさ、なにも死ぬことはないよ。死ぬくらいだったら逃げ出しなよ。わたしならそうする』
 自分が死んだあと、千夏は僕が死にたいと嘆くだろうと予想して、そんなメッセージを残してくれた。僕の考えていることは千夏にはお見通しのようだ。
『ごめん、死なないよ』
 そう返事を送ると、千夏は入院中に観たであろう映画の感想を送ってきた。

 幼馴染みの永戸しんいちが僕の家にやってきたのは、翌日の夕方頃だった。このあとバンド活動があるのか、ギターケースを背負っている。
「どうすんの、まじで。やめるんだったらすぱっとやめちゃって、来るなら来る。どっちかにしろよ」
 永戸は言いながらギターケースを床に下ろし、勉強机の椅子に腰掛けて険しい表情を僕に向けた。
「行く気はあるんだけど体が動いてくれないというか、なんか怠くてさ……」
「ふうん。じゃあもうだめじゃん」
「だめかもな」
「……最近、曲はつくってないの?」
「つくろうとしても暗い曲ばっかできあがるから、最近は全然つくってない」
「重症だな。せっかくバズってたのにもったいない」
「あれはもういいよ。ほかの曲は全然伸びないし」
 中学生の頃から動画投稿サイトに投稿し続けてきた甲斐あって、三年前に注目を浴びたことが一度だけあった。再生回数は現在五十万回を超えている。音声ソフトを使って投稿したその曲を、人気のある歌い手がカバーしてくれたおかげで再生回数が飛躍的に伸びたのだ。
 しかし注目を浴びたのはその一曲だけで、ほかの曲の再生回数はほとんど伸びていない。
「染野がつくってくれた曲さ、悔しいけどライブでやるとけっこう人気なんだよね。いつものCLAYクレイの楽曲と雰囲気がちがっていい、みたいな。またつくってよ」
 以前、永戸に頼まれて彼が率いているバンド、CLAYに楽曲を提供したことがあった。ロックは苦手だから、と一度は断ったけれど、ロックを意識しなくていいからと説得されて渋々引き受けたのだ。それが意外と好評らしくて驚いた。
「気が向いたらつくるけど期待はしないで。最近ほんとになんもやる気しなくてさ、そもそもメロディがまったく浮かばないし」
「それ最近じゃなくて、一ノ瀬が死んでからだろ」
 彼の物言いにはむっとしたが、今の僕は怒る気力すら持ち合わせていなかった。それに図星でもあったから、なにも言い返せない。
 永戸は部屋の片隅に立てかけてある僕のギターを手に取り、ジャカジャカ音を奏ではじめる。永戸は六歳の頃からギターをやっており、僕が音楽に傾倒したのは彼の影響を受けたからでもあった。ギターの演奏も彼に教わった。
 彼の家は音楽一家で、母親のお腹にいるときから胎教にいいからと音楽を聴かせられていたらしい。永戸が率いているバンドではギターを担当しているが、楽器は全般得意で歌も歌える。
 函館市を代表するあのロックバンドを昔からしゅくしているそうで、バンド名のCLAYもそこから取ったと話していた。
 永戸は僕のギターを爪弾きながら、ハミングしはじめた。思いついたメロディを口ずさみつつ、適当なコード進行を弾く。やがて鞄の中から五線譜ノートと鉛筆を取り出し、ぶつぶつ呟きながら採譜していく。
 僕が曲をつくるときはギターを弾きながら携帯のボイスメモで録音して、ある程度形になったらパソコンの楽曲制作ソフトを用いてほかの楽器を足すなどして肉づけしていく。ギター一本で作曲して、ノートに書き留めるアナログスタイルの永戸とはやり方がちがった。
 永戸がひとたび曲をつくりはじめると、話しかけても生返事ばかりでやがて僕の声は届かなくなる。こうなると彼は時間を忘れて作曲に没頭するので、僕はいつも漫画を読んだりゲームをしたりして過ごしていた。
 永戸はああでもないこうでもないとぼやきながら、鉛筆を片手に作業を進めていく。僕は漫画を手に取って自分の時間を満喫する。そのとりとめのない時間が昔から好きだった。
 結局永戸は一時間もするとそれまで書き留めた譜面を破り捨て、「こんなんじゃだめだ」と頭を搔きむしって嘆いた。
「とにかくさ、もう一回学校来たら? それでも怠かったら、やめるとか留年するとか決めたらいいじゃん。染野がこんなんなってるって一ノ瀬が知ったらさ、きっと悲しむと思うよ」
 帰り際にそう言い残して、永戸は僕の部屋を出ていった。彼の気遣いには感謝しつつも、それに応えられない自分に嫌気がさす。
 千夏も僕が不登校になるかもしれないと懸念していたのか、新学期が始まった直後に『ちゃんと学校行ってる?』というメッセージが来たこともあった。
 携帯を手に取り、また懲りずに千夏にメッセージを送る。
『やっぱ学校行った方がいいかな。千夏はどう思う?』
 息をつく間もなく返事が届く。
『ラッピのチャイニーズチキンバーガーが食べたい』
 その文面を見て思わず口元が緩む。函館市発祥のハンバーガーショップである『ラッキーピエロ』が千夏は好きで、入院中もラッピに行きたいと常々話していた。
『僕も食べたい』と送ると、またしても脈絡のない言葉が返ってきて、ひとりで笑ってしまう。
 解決しないとわかっているけれど、こうやって千夏にメッセージを送るだけで不思議と心が安らぐのだ。まるで本当に千夏と会話をしているかのようで。
 奇跡的に会話が嚙み合うときや偶然キーワードを見つけたときは、なんとも言えない幸福感に包まれる。その瞬間だけ天国にいる千夏と繫がれたような気がして。
 このアカウントの存在を知っている永戸には、「まだ送ってるんだ」と呆れられているが、やめるつもりは毛頭なかった。
 その後も千夏とやり取りを続け、気がつくとまたなにもせずに一日が過ぎていった。

 数日後、再び永戸が放課後に僕の部屋にやってきた。今日も学校へ来いと催促されるのかと思いきや、「面白い動画を見つけた」と彼は部屋に入るなり、携帯の画面を僕に見せてきた。
 どうやら動画投稿サイトに投稿された動画らしい。既存の曲をカバーする、いわゆる歌い手のアカウントだった。『レモンティ』という名前で活動しているらしく、チャンネル登録者数は一万四千人程度。アマチュアが歌だけでそこまで登録者を獲得するのは難しいことだが、なにが面白いのか彼の意図がわからなかった。
 永戸が数ある動画の中からひとつを選んで画面をタップすると、聴き覚えのあるイントロが流れはじめた。
「これって……」
「そう。この人、染野がつくった曲をカバーしてんの。でも俺が言いたいのはそこじゃなくて、ほかに気がつくことない?」
 携帯を受け取り、画面を凝視する。流れているのは僕が三年前につくった『止まらないラブソング』という最も再生回数が伸びた曲だ。恋に盲目なクラスメイトを題材にした疾走感のあるラブソング。
 適当につけたタイトルは今でも後悔しているが、カバーしてくれた人はそれなりに多い。だから他人が僕の曲をカバーした動画を見せられても、そこまで驚きはしなかった。
「なんだろ。べつにおかしなところはないと思うけど」
「いや、よく見ろって」
 もう一度画面に目を向けて注意深く観察してみる。首から上は隠れているが、制服を着用した女子高生であることだけはわかる。彼女が弾いているアコースティックギターのメーカーはわからないが、特段高価なものには見えない。むしろ相当傷んでいて使い古されているように見えた。
 ギターを弾きながら、やがて彼女は囁くように歌いはじめた。
 その歌声を聴いて、はっと息を呑んだ。
 耳に届いたのは柔らかで透き通った歌声。高音も細くならずによく伸びていて、なめらかで耳ざわりもいい。しかしなによりも僕が驚いたのは、レモンティの歌声が千夏にそっくりなことだった。
 この曲も千夏に歌ってもらったことはあるが、レモンティは千夏よりも上手で安定感がある。けれど声質はほぼ一緒と言ってもいい。目を瞑ると千夏が目の前で歌っているのかと思うくらい声が似ていた。
「千夏に声がそっくりってことか」
 答えを提示すると、永戸はうんざりしたようにため息をつく。
「ちがうって。この制服、見覚えない?」
「制服? あ、これうちの高校の制服に似てるかも」
「似てるんじゃなくて、たぶんうちの高校の女子の制服だよ。それと背景の壁、よく見てみて」
 レモンティが体を揺らしながら歌っている背後に、グレーの壁が映っているのが見て取れる。目を凝らすと薄らと壁の傷が確認できた。その傷を見て、ようやく彼の言わんとしていることが理解できた。
「これってサウンド速水の貸しスタジオじゃない?」
「そう。この制服でこの場所ってことはうちの生徒でまちがいないだろ。しかもリボンの色からして同じ学年だと思う。三組のわたなべが動画を見つけたらしくてさ、今レモンティは誰なのか学校で話題になってるよ」
 動画はサビに突入する。レモンティは激しくギターをかき鳴らし、澄んだ歌声で僕のつくった曲を完璧に歌い上げる。むしろその曲は、元から彼女のものだったと思えるほどに馴染んでいた。
「俺のバンドに入ってくれないかな、このレモンティって人。うちのボーカルより絶対人気出るよ。てかさ……」
 永戸はまだなにか話していたが、もう僕の耳には入らなかった。レモンティの歌声は、僕にとってはどんな歌手よりも魅力的で胸の奥にまで届いた。
 その後も永戸は、僕のギターを手すさび程度に弾きながら学校での出来事などを話してくれたが、僕は話半分に聞いて携帯でレモンティのことを調べた。
 彼女はSNSは一切やっていないようで、プロフィールなどのめぼしい情報は見つけられなかった。
 イヤホンを携帯に繫げ、投稿されているほかの曲も聴いてみる。やはり彼女の歌声は、千夏にそっくりだった。僕が千夏のためにつくった曲を代わりに歌ってほしいとさえ思うほどに。
 そうすることで僕は、塞ぎこんでいた毎日から脱却し、もう一度音楽と向き合えるかもしれない。僕と千夏を繫いでいた音楽をレモンティに歌ってもらうことで、もう一度千夏と繫がれるかもしれない。そんなことはないと頭ではわかってはいるけれど、彼女の歌声は、曲づくりに没頭していたあの日々を思い出させてくれた。
「そろそろ帰ろうかな。またなんか面白い話あったら教えるわ。したっけね」
「あ、ちょっと待って!」
 ドアノブに手をかけた永戸を、とっさに呼び止める。
「ん?」
「さっきの話だけど……レモンティって人、捜してみてくれない?」
「え、どうしたの急に」
「いや、その……。すごく好きな声だったから」
 永戸はドアノブから手を離して振り返り、不敵な笑みを見せて答える。
「いいよ。でもその代わり、条件がある」
「条件?」
「明日から学校に来い。そしたら俺もレモンティを捜すの手伝ってやるから」
 永戸が提示した条件に対し、すぐには答えを出すことはできなかった。永戸は僕の目をじっと見つめて返答を待っている。
 そのとき脳裏を掠めたのは、先日千夏から届いたメッセージだった。

 ──なにか新しいことを始めるとか、夢中になれるものを見つけたら、わたしが死んだ悲しみも紛れると思うよ。

 新学期の開始に合わせて千夏が日付指定で送ってきた、僕の背中をそっと押してくれるようなメッセージ。始業式から三日ずれて届いたし、結局僕は不登校になってしまったけれど、僕がこうなることを案じて言葉を残してくれたことが嬉しかった。
 きっと彼女は道しるべのように僕を励ます言葉をいくつも設置し、この先も僕を正しい方向へと導いてくれるのだろう。
「……わかった。明日、行けたら行くよ」
「うん。待ってるからな」
 永戸はそう言って今度こそ部屋を出ていった。
 はたして本当に行けるのだろうかと思いながら、さっそく千夏に報告する。
『明日からまた学校に行ってみようと思う。朝起きれたらの話だけど』
 既読がつき、すぐに返事が来る。
『あなたの明日の運勢は……なんと中吉です! ラッキーカラーは黄色で、ラッキーアイテムはフルーツ! 明日の朝食はバナナで決まりだね』
 タイミングよく明日の運勢が送られてきて面食らった。どうせならバナナではなく、レモンであれば幸先がいいのだけれど、なんて思いながら返事を考える。
 千夏はこういったおみくじのようなメッセージもいくつか設定してくれたらしく、先月送ったときには大凶と書かれた文面が返ってきたこともあった。『今日はなにをやってもうまくいきません。家にこもって勉強をしましょう』と。
 わざわざ大凶なんて設定することないじゃないかと苦笑したけれど、それも千夏らしくて微笑ましかった。
『明日は中吉かぁ。まあ大凶よりは全然マシか。ちょっとだけやる気出たわ。ありがとう』
 千夏の次の返事は『眠い』のひと言だけで、眠たそうな千夏の顔が容易に想像できておかしかった。

  *

続きは3月5日発売の『あの空に花が降るとき、僕はきっと泣いている』で、ぜひお楽しみください!

■著者プロフィール
森田碧(もりた・あお)
北海道出身。2020年、LINEノベル「第2回ショートストーリーコンテスト」にて「死神の制度」が大賞を受賞。2021年に『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(ポプラ社)でデビューし、2022年には「第17回 うさぎや大賞」入賞。「よめぼく」シリーズは累計55万部を突破し、2024年にNetflixにて映画化され、大人気配信中。

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