雨に濡れた木々の匂いと、白檀の香りに包まれたその店には『古どうぐや ゆらら』の看板が掛かっていた。
ぼうっと灯る行灯やランプに照らされ、古今東西あらゆる日用品が並べられている。看板の通り全てが古道具──長年大切に使われ、次の持ち主を待つ品々だ。
客は様々。必要だから買う者も、蒐集癖ゆえに買う者もいる。
稀に、必然的に迷い込む人もいる。
どうしてか、気づいたら店の前にいる。誘われるように、店へと足を踏み入れる。
そしてその客は、ひとときの夢を見るのだ。
時を経た古道具たちに囲まれて。彼らの思い出と共に。
ただしそのことは、誰も知らない。知られていない。
店を出れば、その記憶は消えてしまうから。
それでも、きっと──。
洋傘と遣らずの雨
迎えに来てくれた。
その人を見たとき、なぜか私はそう感じていた。
祖父の墓に花を供えると、風に乗って白檀の香りがやってきた。どこかのお線香か、背後の智積院からだろうか。
膝を折り、線香に火を灯した。私が用意したのは、祖父が生前に好きだったすずらんの香りのお線香だ。
手を合わせる。祖父からもらったお守りと一緒に。赤い縮緬で縫われたそれは、祖母のお手製だ。祖父のくれた櫛と祖母の手縫いのお守り袋。私の、大切なもの。
目を瞑ると、優しい風が頰を撫でた。
今日思い出したのは、小学校の授業参観のときのことだった。
母の代わりに私を育ててくれた祖父と祖母は、営んでいた道具屋を休みにして全てのイベントにふたりで出席してくれていた。それでもその日は祖父に外せない用事があり、祖母だけが来ていた。私はべつにすねてはいなかった。むしろ当日の朝まで残念がり謝り倒す祖父の優しさに十分幸せをかみしめていたほどだ。
なのに、祖父は登場した。授業もあと五分で終わる、というときに。
めずらしくスーツを着て、走ってきたのか汗を浮かべて。
そんな時間に現れた大人に、教室のみんなはざわめいた。私の祖父だとわかると、笑ったりからかったりするやつも出てきた。
それでも、私は嬉しかったのだ。とても。とっても。
私と目が合ったときに、笑顔でピースサインを見せてくれた祖父が、大好きだった。
「ええか、紅緒。思い出はものすご大事なんや」
祖父はお酒を飲むといつもその話をした。ほどよく酔って、上機嫌に。
「けどな、忘れたってかまへん。いや、忘れるゆうのはちゃう、思い出さなくなるだけや。思い出さなくなってもな、思い出は消えへん。なくならへんのや」
だからだろうか。祖父は私との思い出をたくさん作ってくれた。あの日の参観日だって、そうなんだろう。
父と母のいない私が淋しくないように、そういう優しさはいつも感じていた。でも繰り返しそう言ってくれたのは、そのためだけではないこともわかっている。
目を開ける。見えるのは墓石だ。人見家と書いてある先祖代々のお墓だけれど、私が知っているのは祖父ひとり。
線香の火を消し、お守りが入った小袋を鞄にしまう。立ち上がり目線を上げると、さっきまで見えていた青空が小さくなっていた。
「また来るからね」
私は墓地を後にした。
祖父が眠るこの場所は、京都は洛東にある智積院の奥にある。真言宗智山派の総本山である大きなこのお寺はとても古く、広く、とにかく立派だ。国宝も所蔵しているし、近くには三十三間堂もあるし、観光客も多い。
正直、私は古いお寺はあまり好きではない。京都には多いけれど、なるべく近づかない場所でもある。
ただここだけは、ときどき来る。祖父がいるし、思い出があるから。
智積院に裏から入ると、紫陽花が色づいていた。ここは紫陽花も有名で、祖父母と何度も来た。溢れんばかりに咲く紫陽花に囲まれた私の写真が残っている。
六月に入った今、京都はもう真夏だ。今年は梅雨入りも早かったが、今日はありがたいことに晴れていた。しかし祇園祭まではじめじめとした日々が続く。大学に行くのも億劫になる。
鮮やかな紫陽花の間を歩いていると、ふとその隙間に傘を見つけた。
古そうな、それでいて大切に使われてきた雰囲気を携えた傘だった。紳士用と思われる大きさで生地は黒、持ち手は艶々と光沢さえある。
忘れものだろうか。見回しても、周囲に人影はなかった。
古い。その印象が私の手を止める。
古いものは苦手……というかなるべくなら触りたくない。
この傘は大丈夫だろうか。いや、傘が何十年も長持ちするとも思えない。それに落としものならせめてお寺の人に届けたい。大事にされていそうなものならなおさらだ。
私は息を吸って、その洋傘に手を伸ばした。そっと、指先で持ち手に触れてみる。
──大丈夫、そう。
ひとつ、息をつく。
その持ち手をしっかり握り紫陽花のなかから救い出すと、ぽつ、と雨が降り出した。
今日の降水確率はゼロだったはず。思わず傘を見る。もちろん人の傘を使うわけにはいかない。
いつの間にか空はすっかり暗く、厚い雨雲に覆われていた。さーっと音を立て始めた雨に追いやられるように、本堂の軒下へと逃れる。
夕立だろうか。通り雨だといい。新緑を濡らす青時雨は美しいけれど、ここから京阪電車の駅まではすこし歩く。せめて弱まってからと、スマホで天気予報を確認しようとしたときだった。
雨に濡れる紫陽花の庭から、ひとりの男性が姿を現した。
その瞬間、息が止まった。胸がぎゅうっと締めつけられる。
いきなり出現した驚きより、真っ白な長い髪をなびかせた美しさへの圧倒より。
胸いっぱいに、喜びに近い感情が込み上げてくる。
──意味がわからない。
頭は冷静で、自分につっこんでいる自分がいる。なのに耳がじんじんして、頭のなかに心臓があるのかと思うほど、異様で温かな感覚が私に押し寄せる。
男性がこちらに気づき、目が合った。
冬に咲く花のような、清らかで悠然とした佇まいの人だ。年は三十手前ぐらいだろうか。背は高く、和服姿が似合っている。
知らない人。そう、全く知らない。こんな人、一度でも見たら覚えているだろう。
「こちらでしたか」
低く、落ち着いた声だった。男性は私のほうへとやってくる。
──そうか、迎えに来てくれたんだ。
どうしてか、そんな答えが頭に浮かんだ。
一歩、一歩と距離が縮まるごとに、鼓動が鳴る。なんでこんな少女漫画の主人公みたいなことが私に。
男性が私の目の前で止まり、視線を落とした。
「探しましたよ」
「……え?」
つられて私も彼の視線の先を見る。
「か、傘? え、あっ、ああ、この傘、あなたのですか」
途端、冷静な思考がなににも勝まさった。いや、そのうえにすこしだけ羞恥がなくもない。うん、ほんのすこしだけ。
「いえ、私のではないのですが」
あたふたする私に対し、男性は至極落ち着いた様子で言った。
私のではない、のなら誰かの代わりに探していたのかもしれない。とりあえず持ち主に返せそうでよかったと胸を撫で下ろす。
「見つかってよかったです」
はい、と傘を差し出すと、男性ははたと右を見た。雨はまだ強く降っている。それから私をもう一度見て「ああ」と頷いた。
「その傘は、人が持つと雨を降らすのです」
なにかの楽器のような美しい声。
そんな声が、不思議な日本語を奏で出す。
「え、っと、すみません、意味がわかりません」
「せっかくですし、お使いください」
「は? いや、え、ちょっと待って、ますますわからないんですけど」
今度は冷静さも羞恥も飛んでいってしまった。
穏やかに語るその姿が逆にどこか恐ろしい。美しいだけに、奇妙さが際立つ。
「えっと、この傘の持ち主ないしはその知り合いなんですよね?」
私の質問に、男性はほんのすこし首を傾げ、思案げな表情を浮かべる。
「そうですね……今は持ち主は不在ですが、店のものといえばそうですし……となると店主の知人、ということであればそうなので」
顎に手まで当てて小声でぶつぶつと言う。
「まあ、概ね間違いないかと思います」
そのうえで、私をしっかり見つめ、答える。
ああ、うん。変な人に当たったかもしれない。
「ではお返しします」
ならばさっと離れてしまおうと、私は再び洋傘を差し出した。
しかし男性は受け取らない。
「雨も降っておりますし、傘も使っていただけたほうが喜ぶでしょうし、お持ちください」
「いやだから意味がわからないんですって」
人が使うと雨が降る、とか。傘も喜ぶ、とか。
この人はいったい、どういう世界に生きているのだろうか。そして私は、どう対応するのが正解なのだろうか。
雨がいっそう強く降る。まるで足止めするかのように。
「見たところ、ご自身の傘はお持ちではないようですが」
頼むから今すぐやんでほしいと願っていると、男性が言い出す。
「持っていませんが」
「ならば必要ですよね」
玲瓏とした笑みを浮かべられ、目を逸らしてしまう。
「いや、それはあなたも同じですよね? っていうか、持ち主のようなものなら、ちゃんと引き取ってくださいよ」
「私は雨など……ああ、ならばお貸しします。それならどうでしょうか」
「……は?」
さも名案、のように言うけれども。
どうしてそんなにこの傘を私に使わせたいのかが全くわからない。親切心や優しさではない、かといって下心でもない得も言われぬ奇妙さが感じられて、薄気味悪さが私の背筋を走っていく。
「えっと、この傘、とっても大切に使われているようにお見受けしたんですが」
握ったままの傘を見下ろす。持ち手の素材まではわからないけれど、使い込まれたであろう艶が美しい。
「ええ、とても大切にされていますよ」
男性は物柔らかに頷いた。
「ならどうして、そんな簡単に人に渡すんですか」
『道具は粗末にしたらあかん』
祖父の教えだ。道具屋を営んでいた祖父は、店のものも家のものも同じように丁寧に扱い、手入れも怠らなかった。
おかげで家には大切に使い続けている道具が山ほどある。さすがに百年以上の逸品、みたいなものはないけれど。祖母も私も、新しいものをほしがる性分でもなく、手に馴染んだ道具を壊れないように活躍させている。
だからだろうか、どうしても納得がいかない。
「それは」
しかし男性は、私の問いに戸惑いを見せなかった。
「道具は、人が使ってこそだからです」
すっ、とした言葉だった。
『道具は飾るもんやない。使うもんや』
祖父の声が蘇る。誕生日にもらったガラスのコップがあまりにかわいくて、使えずにいたときのことだった。
『大切に使うてもろたら、コップも喜ぶさかい』
さっき、この人も同じことを言っていた。傘も喜ぶでしょうと。
とはいえ、使うと雨を降らすという言い分はわからない。それに人が使ってこそと言うけれど、それはこの人が使ったとしても同じだと思うのだが。
もう一度傘を見る。
「お貸ししますよ」
私が答えないことを了承とみなしたのか、男性はそう言って一歩動いた。雨はまだ降っているのに、躊躇せず軒下から出ていってしまう。
「え、あの、ちょっ……ど、どこに」
待ってくれ、という言葉は出てこなかった。
男性が振り返る。
「どちらに、返しにいけば」
今すぐ返せばいいじゃないか。冷静な私が頭のなかに戻ってきて言う。
遠くから、人を呼ぶような声がした。その声に男性の意識がすこし向いたところをみると、呼ばれているのはこの人なのかもしれない。
「傘に、聞いてみてください」
雨の音が、周囲の音が、全て消えた。
なのに「ましろさまー」と呼ぶ声だけが微かに聞こえる。
それに応えるように男性は顔を向けてから「では」と私に目礼し、雨のなかへと進んでいく。
やがて紫陽花の庭の向こうから、少年と和装の男性が現れ合流した。少年になにやら言われ、和装の男性には被っていた菅笠を譲られようとしている。そしてあの人は薄闇のなかに見える遠くの光のように影を残し、紫陽花の木々のなかに消えていった。
途端、音が戻る。
雨がざあざあと降り注ぎ、本堂の屋根を、木々の青葉を叩く。
手元を見る。そこにちゃんと洋傘はある。
当たり前だけれど、それがどこか不思議だった。狐につままれるとはこういうことをいうのだろうか。
しかし足下に雨が染みてくるように、だんだんと現実感が戻ってくる。
意味がわからない。
今日何度目かの釈然としない思いにため息が出た。
最初のあの感覚はなんだったのだろう。どうして迎えが来たのだと思ったのか。全く知らない人に、なんの感情を抱いたのだ私は。
あまりの美しさに一目惚れ……のわけない。絶対ない。
でも一番わからないのは最後だ。
どうしてあの人は、傘に聞けなどと言ったのだろう。私のことなんて、なにも知らないはずなのに。
空に向かって傘を広げる。ずっしりとした紳士用の洋傘には錆ひとつなく、私を雨から守ってくれた。
京阪から叡山電鉄に乗り換え、最寄りの修学院駅に着いても降り続けていた雨は、家の軒先で傘をたたんだ途端に止んだ。もしや呪いとかいわく付きの傘なのでは、とまじまじ見ても普通の傘にしか見えない。いや、呪物の見分け方なんて知らないけれども。
とはいえ、外に置いておくのはさすがにと、玄関の隅に傘を置いた。
きちんと、返せるのだろうか。返すときは、またあの人と会えるのだろうか。
「ほんなら私はお豆さんの卵とじとお味噌汁作るし、紅緒は適当におかず作ってな」
エプロン姿の祖母が手を洗いながら言う。
「え、ああ、うん」
「さっきからえらいボーッとしてはるけど、どしたん? 休んでもええよ」
「ううん。ごめん、大丈夫」
ちゃんと作るよ、と冷蔵庫を開けると、背後から祖母の「うふふ」というかわいらしい声が聞こえてきた。
「好きな人でも出来たん?」
「は? なんで?」
唐突な言葉にまごついて、冷蔵庫のドアに肩をぶつける。振り返ると祖母がいたずらっぽく目を光らせた。
「だって紅緒ちゃん、ずっと上の空やし。気ぃついたら、白いもんじいっと見つめてるし」
祖母が私をちゃん付けで呼ぶときは、心から愉しんでいるときだ。とくに祖母はいつまでも乙女なところがあって、恋バナや恋愛ドラマが大好きだったりもする。
「いや違うし」
そうは言いながらも、白いものをじっと見つめていると言われたのが気恥ずかしかった。いや、断じて、あの白い髪を思い出していたわけではない。
平静を装って、冷蔵庫から牛肉と豆腐を取り出して閉めた。広くはない台所、祖母とうまいことスペースを譲り合って料理しなければならない。
それでも、ふたりで料理をするのは中学生のときからの日課だ。祖母は私がひとりでも生きていけるようにと、料理も洗濯も掃除も、お金の管理も、全てを教えてくれた。
祖母は高校生のときから『母』で、祖父は『父』だ。
産みの母にはもう十五年会っていない。遺伝子上の父はもともと知らない。
「ええやないの、好きな人のひとりやふたりや三人ぐらい」
「三人て。なに、おばあちゃんはおじいちゃん以外に好きな人いたん?」
私が聞くとそら豆をさやから出して包丁で切り込みを入れながら、祖母がまた「うふふ」と笑う。
「私は留吉さん一筋や」
当たり前やろ、と胸を張る祖母は、かわいらしかった。
「はいはい、ごちそうさまです」
肉豆腐を作るべく、台所の戸棚を開けるとキイィと音が鳴った。
中古で買ったこの家は、築年数はともかくデザインが古かった。キッチンというよりも台所だし、部屋は全て畳。友人が来たときには「昭和って感じ」と称された。さすがに水回りはリフォームされていたものの、昔ながらの急な階段はそのままで、祖母はもう二階に上がらないようにしている。
それでも三人で探した、住み心地のいい家だ。
私が高二のとき、祖父は人見道具店をたたんだ。駅前の小さなアーケードに構えていた店舗は住居も兼ねていたけれど、手放した今はおしゃれなパン屋になっている。
名残惜しむ高校生の私に『思い出はここにあるんやない。紅緒の心にあるんやさかい、なくならへんやろ』と笑顔で言ってくれたのを覚えている。
そんなに広い家はいらんと三人で不動産屋を回って、この家を見つけた。最初こそ見た目の古さに私は躊躇った。祖父母も気にかけてくれたけど、築年数は三十年ほどだったし、実際に内見してみて平気そうだとわかった。
二階建ての青い屋根の家。奥には坪庭もあって、侘助椿が咲く。二階の窓からは比叡山がすぐそこに見えた。
三人でここに決めて、引っ越して、自分たちの新しい家を作った。
祖父が亡くなったのはそれからすぐ。まるでわかっていたみたいねと、葬式を終えた後に祖母が呟いた。
今は祖母とふたり、前の家から持ってきた家財道具と共に生活している。どれも祖父母が手入れをしながら丁寧に使い続けてきたものだ。とはいえ、そこまで古いものはなかった。私に配慮してなのか、我が家で一番古い簞笥は特定の季節や行事で使う道具と共に奥の部屋へと置かれている。
あの簞笥だけは──そこまで考えて、あの人の言葉を思い出した。
傘に、聞いてみてください。
「またお豆腐じいっと見つめて。そんなんしてたら、湯豆腐になってまうで」
「いやならへんし」
「そんなんわからんえ。見つめられてお豆腐さんも恥ずかしなってまうかも。そしたら肉豆腐よりあったかいやっこさんにしよか」
「もうごめんて。ちゃんと作るから」
調子よく喋りながらも、祖母は手を休めない。いつの間にか茹でたそら豆の薄皮を剝き始めている。
あれこれ考える前に手を動かそう。そう思って私も豆腐の水切りをし、玉葱とえのきを用意する。
しかしその手元を見て、白っぽいものばかりなことに気がつき微妙な気持ちになってしまう。
気にならない、といったら噓になる。でも恋とか運命とかそういうのじゃない。
あの傘を手に帰るあいだ、もやもやとしたものが胸に広がっていくばかりだった。
最初こそ全く知らないと思っていたけれど、時間が経つにつれ、どこかで見たことがあるような気がしてきてしまう。
でもあんなに目立つ人──白い髪に整った顔立ちに優雅な立ち姿──は、記憶にある限り私の十九年の人生のなかに存在しない。
じゃあなぜ、と考えたときに頭をよぎるのは、記憶のないあの日のこと。
四歳のとある一日。祖父に『神隠しちゅうて、道に迷った紅緒を神さんが見つけてくれたんや』と言われた日。
私はその日のことを、一切覚えていない。まあ四歳のときのことなんて、そもそもほとんど覚えていないのだけど。でも──その日だけは、なくしてしまった、という感覚があった。あの日以来、私は──。
「紅緒」
玉葱が目に染みた。隣に立つ祖母が卵を割りながら柔らかい声で私の名を呼ぶ。
「難し考えんと、気楽にしとったらよろし」
「……どしたん、急に」
左に立つ祖母を見る。
「あんたはすーぐ考え込むさかい。黙った思たら頭左に傾いてバレバレやで」
「バレバレて」
「ええやないの、気になる人が出来たんやったらそれで。その気持ちだけはほんまもんや」
誰にも迷惑かけへんしな。
そう祖母は続けてにやりと笑った。
「え、まだその話やったん。しつこい」
「しつこいて失礼な。かわいい孫のことを案じてるんよ私は」
すっ、と身体が軽くなった。
そうだ、私は祖母にも祖父にもずっと大切にされている。目が覚めたら祖父母の家にいたあの日以来、母とは別に暮らすようになった。幼心に私もそれをなぜか理解したし、祖父母は親代わりになってくれた。あれから母と会うことはなく、十五になったときに、母とは縁を切り、祖父母と養子縁組をした。
母になにがあったのか、祖父母は詳しく話しはしなかったけれど、もしかしたら神隠しが原因なのかもしれない。私がなくした記憶に、理由があるのかもしれない。
でも、もうとうの昔に吹っ切っている。
「感謝してます、ふたりには」
私が言うと、軽快に卵を溶く祖母が笑った。
「ええの。なんでも持ちつ持たれつや」
久しぶりに聞いた、祖父の口癖のひとつ。
そやね、と私も頷き、えのきの石突きを切り落とす。
今さらなくした記憶について考えてもどうにもならない。それに、祖父は繰り返し言ってくれた。思い出は消えへん、なくならへんと。忘れたなら忘れたままでいいのだと自分でもわかっていた。
なのに今、胸がざわついている。
もしかしてそのとき、私はあの男性と会ったりしたのだろうか。
「さ、お腹空いたしはよ作って食べよ」
祖母の明るい声に引っ張られるように、私も手を動かした。おだしとお米の炊けるいい香りが漂い始める。その香りを胸いっぱい吸い込んで、私は琺瑯の鍋に酒とだし汁を注いだ。
本当は神隠しに遭った四歳のあの日になにがあったのかすこしでも知りたがっている自分を、隠すように。
明日から旅行に出かける祖母は早めに床についた。私も邪魔しないようにさっさとシャワーを浴び、自室にこもる。授業の課題もあったけれど、どうしても手につかなかった。
ベッドに転がり、意味もなくスマホを眺める。ひらひらのワンピース、海色のネイル、主張激しめのメイク。明るくて、きらきらした写真がスクロールするたびに出ていっては消える。
わかっていた。さっさとやってしまったほうがいいことぐらい。いつまでも頭の片隅にあって、そわそわして、でも先延ばしにしてしまうダメな感覚。それならさくっと取りかかって、出来ても出来なくてもとりあえず終わりにしてしまえばいい。
なのにまだうだうだしている。もしあの傘に、返す場所を聞けてしまったらどうしようって。
だってもし出来てしまったら──傘に声があったら。
なんであの人はあんなことを言ったのだろう、どうして私が傘に聞くことが出来るって知ってるんだろう、そんな疑問がわいてしまう。
私のこと、知っているのか、と。
傘に聞いてみてくれなんて、普通は言わない。聞けるはずがないんだから。
傘は喋らない。
当たり前だ。傘は道具。動物なら鳴き声があるし、人とも多少のコミュニケーションは取れるだろう。でも道具にはそれすらない。道具は喋らない。
そう、それが当然のこと。百人に聞いたら百人がそう答えるだろう。
でも、私は違う。その百人には入れない。
アプリを閉じる。午後十時。あまり遅くなるのもいやだと気合いを入れる。枕元に置いていたお守りを握る。
音をなるべく立てないように、そっと階段を下りた。
初めてそれに気づいたのは、四歳の頃。そう、神隠しに遭ったあと。それ以前にはなかった。幼い日の記憶なんて曖昧だけど、そこは自信がある。
私は、道具の声が聞こえる。
最初はどれだったのだろう。覚えていない。でもはっきりしているのは、あの奥の部屋にある古簞笥。今家にあるもので唯一、彼は喋った。手で触れれば、彼の声が聞こえる。
でも、もう何年も話していない。
古いものは──とくに道具は、苦手だ。
玄関の灯りを点ける。祖母の部屋は奥だし大丈夫だろう。
洋傘は立てかけたときのまま、そこにあった。
そんなに古そうには見えない。最初に触ったときも声は聞こえなかったし。
正確な基準はわからないけれど、相当古いものでなければ声は聞こえてこなかった。私の感覚だと五十年か六十年以上……祖父母が子どものときからありそうなものは喋る可能性が高い。といっても見た目で判断出来るわけでもないから、古そうなものは避けてきた。
彼らはまるで生きている人間のように喋る。しかも声も喋り方もみんな違う。あの古簞笥なんて、ノリの軽い関西弁で、さも私の兄みたいなていで話す。
道具が喋るわけがない。わかっている。幼稚園の友だちには馬鹿にされたし、先生には妄想だと思われた。
唯一、聞いてくれたのが祖父だった。『ものには魂が宿ることがあるっていうぐらいや、紅緒はそれがわかるんかもしれんな』と疑いもせず、かといってすごい能力やともてはやすわけでもなく、ただそうかそうかと聞いてくれた。
それでもやはり、道具が喋るのは、その声が聞こえるのは普通じゃないとわかっている。
それになかには、触れてしまった途端に悪態をつくものだってあった。延々と恨み辛みを語るものも、はっきり言ってすくなくない。うっかり触れて、自分とは関係ないのに勝手にダメージを受けて、疲弊することも多かった。
やがて、私は古いものには触れないようにした。意識的に。十歳の頃には、苦手意識と恐怖心を持つようになった。
もうずっと、どの古道具の声も聞いていない。あの古簞笥も。
上がり框に腰を下ろし、そっと洋傘へと手を伸ばす。
訊ねたところで返ってこないかもしれない。それでも、気になるのならやってみるしかない。
お守りを左手に握る。なかに入っている櫛の堅さが確かな感触としてそこにある。
まだ乾ききっていない傘の持ち手に手を置いてみた。
──やはり喋らない。
深呼吸をひとつする。
あの人は、傘に聞いてみろと言った。
「……どこに、返したらいいでしょうか」
しかしどう訊ねるべきか考えておらず、一瞬言葉が出てこなかった。傘にとっては返却場所なのか、帰宅場所なのかもわからない。
『上賀茂でございます』
「っ、は、はいっ」
これでいいのかと迷う間もなく丁寧な返事が聞こえてきて、思わず声が裏返ってしまった。
とても綺麗な発音だった。声的には落ち着いた紳士を思わせる。きっと髪はグレーのオールバックだ。
『驚かせてしまい申し訳ございません』
「い、いえ、こちらこそ驚いてしまい申し訳ありません」
洋傘に向かって頭を下げると『滅相もありません』と聞こえてきた。物腰が柔らかい。
息をつく。ひとまず悪い道具ではなさそうだ。
もう一度傘を眺める。そんなに古いのだろうか。さっきスマホで調べてみたら、傘の寿命は五、六年と書かれていた。
「あの、質問してもいいでしょうか」
傘を寄せて私の右隣に立てかけた。持ち手に手を乗せたまま、小さな声で聞いてみる。
『ええ、どうぞ』
「ええと、作られ……お生まれになったのはいつ頃でしょうか」
道具には間違いないのだけれど、やはり話が出来るとなるともの扱いはしにくい。
『大正でございます』
「えっ、大正って、あの大正?」
『わたくしの存じ上げる大正以外に大正がなければ、その通りかと』
大正時代が正確に何年かは覚えていないけれど、なんとなく百年ぐらい前だった気がする。
「傘ってそんなにもつの……」
思わず口をついて出た言葉に、洋傘の紳士は静かに笑った気がした。
『さてどうなのでしょう。わたくしが特別とも思えませんが、同世代に会えた試しはありませんね』
「ですよね……って、いや、あ、いやもう単純にすごいです。大切にされてきたんですね」
『幸せに存じます』
あの男性の姿を思い浮かべる。ぶつくさ言っていたことから察するにあの人がずっと使っているわけではないのだろう。百年ともなれば、持ち主だって代わる。
「明日、傘を返しにいこうかと思うんですが、案内していただけますか」
その歴史を知るとますます粗雑に扱うわけにはいかなかった。きちんと返さねばだし、私もそうしたい。
『勿論でございます』
洋傘は柔らかな物腰で答えてくれた。丁寧だし、きちんと会話が出来るし、これなら平気そうだと胸を撫で下ろす。
「もし……その、帰れなかったらどうするつもりだったんでしょうか」
無事に話をすることが出来た。
けれど、それはものすごく稀なことなのだ。だって普通、道具と話なんて出来ない。それともあの男性があんなことを言ったということはこの傘が特別なのだろうか。
『と申しますと』
「あ、えっと、もしかして傘……あなたは誰とでも話が出来るんでしょうか」
『いいえ、残念ながら出来かねます』
「ですよね。私と話が出来なかったら帰れなかったんじゃないかと思って」
ああ、と洋傘が頷いた気がした。実際は動いていないけれど。感覚的に。
『きっと大丈夫だと思っておりました』
「え?」
大丈夫、という言葉がすんなり理解出来なかった。傘はもちろん微動だにしないのだけど、ゆったりと佇んでいる雰囲気がある。
「あの男性もそうだったんでしょうか」
なにが大丈夫なのかはわからないけれど、百年生きた傘にはなにかしらの力があるのかもしれないと、一応飲み込んでおく。
『ああ、眞白様ですか。いえ、あの方はきっと返ってくるとは思っておられないかもしれません』
「やっぱり」
最初は譲ると言っていたぐらいだから、傘に聞けというのは口実に過ぎなかったのだろう。
「じゃあ返しに来たら驚くかも」
私の一言に、傘が「ええ」と喜んだ気がした。
『ぜひ、驚かせてあげてくださいませ』
落ち着いた紳士かと思いきや、すこし茶目っ気もあるのだろうか。目の前にあるのは洋傘なのに、口ひげのおしゃれな紳士がウィンクしている姿が見えるようだ。
「では、明日よろしくお願いします」
そう言ってふと、もうひとつ疑問がわく。
「あの、もしかして明日も雨降ります?」
私の質問に、洋傘が一瞬沈黙した。
『不本意ですが、左様かと』
申し訳なさそうな声に笑ってしまう。
傘なのに雨が降るのは不本意なのか。
「雨の対策していきますね」
『ご不便をおかけしてしまい、申し訳ございません』
いつの間にか不安や緊張は消え去っていた。むしろこの傘と話せた安心感さえ今はある。それはこの傘の人柄──道具柄とでもいうべきか、人となりのおかげかもしれない。
とはいえ、あの男性の奇妙さはまだ払拭出来ていない。
なんにせよ、とりあえずなんとかなりそうだとほっとしながら、私は洋傘におやすみなさいを告げた。
*
雪の積もる庭だった。
まだ降り始めなのか足が埋もれるほどではない。
下駄を履いた私はその庭の隅へと向かう。着物のせいか歩みは遅い。
息は白い。指先はかじかむ。
それでも、心はうきうきとしていた。
早く会いたくて。
話したくて。
うっすらと雪に覆われ始めた木々の端に見えたのは。
雪と見紛うような、白椿の花だった。
*
『どうかなさいましたか』
危うくバスを降り損ねそうになって慌てた私に、洋傘が優しく声をかけてくれた。
「いや、すみません。うっかりしただけです」
小声で答えて傘をさす。
今朝、めずらしく夢の途中で目が覚めた。普段、滅多に夢は見ない。それなのに、今朝は違った。なんだか懐かしいような、温かいような、悪くない夢を見た。雪が降っていたことは覚えている。
いつも枕元に置いているお守りを、起きたときには握っていたのも引っかかっていた。
それらが気になってしまい、となると他にも気になっていることが芋蔓式に出てきてしまい、うっかり乗り過ごすところだったのだ。
そろそろではありませんか、と洋傘が声をかけてくれなかったら賀茂川を越えて、西の方へと行ってしまうところだった。
「とりあえず上賀茂神社に行けばいいんですね?」
『左様でございます』
彼の宣言通り雨が降るなか、北山通りから賀茂川の側道を上り始めた。
上賀茂神社への最短ルートは他にあるだろうけれど、これが一番わかりやすい。雨が降っていなければ河川敷を歩いただろう。
葉桜の下をゆっくりと進む。降水確率は二十パーセントだと朝のニュースで言っていたのに、傘を持って家を出たときから雨が降り始めた。幸い昨日ほどの強い雨ではなく、絹糸のような細く静かな雨だった。
「あなたを使うと雨が降るって言ってましたけれど、その……なんかこう、変わった謂れとかあるんですか」
さすがに呪いや妖怪の類でしょうかとは言えない。
『さて、どうなのでしょう。ただご主人様にはお前を持つと不思議と雨が降る気がするよとは言われておりました』
「大正時代の?」
『はい。しかしわたくしに斯様な力があるとも思えませんので、きっと雨男と同じようなものではないかと』
なるほど、と頷く。数秒後、いや百年近く使えているというだけでなにか不思議な力が働いているとしか思えませんと内心つっこんだ。
雨のおかげか道を歩いている人は少なく、傘と会話していても気にする必要はなかった。大正時代の話を聞いたりしているうちに御薗橋が見えてくる。そこを東に曲がれば上賀茂神社だ。
「あれ、なんか記憶にある景色と違う」
『最近、道路も整備し直され、歩きやすくなったようですね』
「やっぱり。なんかすごい、鳥居が大きい」
単純な私の感想に、洋傘が控えめに笑った。
ここまで来るのは久しぶりだった。それこそ神社は初詣と夏越の祓えのときしか行かない。
大学で出来た友人らには「せっかく京都にいるのに」と言われるけれど、古いものが苦手だということを抜きにしても、住んでいたら観光地にはあまり行かないものだ。
洋傘の案内で、神社を左手に東へと向かう。雨でも上賀茂神社には参拝客がちらほらと歩いていた。
「こっちのほう、初めて来ました。雰囲気があって綺麗ですね」
洋傘と話せるとわかっていると、どうしても無言で歩くことが出来ない。いちいち感想を口にしてしまう。
道に沿って小川が流れ、古い和風邸宅がその向こうに並ぶ景色は印象的だった。
各住宅の門へと小さな橋がかかっており、小川を越えて家へ入る形だ。土塀の向こうには緑が見え、雨に濡れた木々と小川の波紋がまた美しさを増していた。
『左様でございましたか。こちらは上賀茂神社の社家町と呼ばれております』
「社家町?」
『はい。神主や神職の方の住宅が集まる場所です。この川は明神川といいまして上賀茂神社の境内から流れており、屋敷のなかに引き入れている庭園もあるそうです。神職の方が身をお清めになる際にご使用されたとか』
「詳しいですね」
『長年生きておりますから』
「説得力がすごい」
思わず笑ってしまう。傘に案内してもらいながら歩くのは楽しかった。雨は憂鬱だけど、こんな傘と出かけるのならいい。
『国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されており、とても貴重な町並みなのですよ』
「貴重なのは伝わりました」
たぶん国の重要なんとかを繰り返すことは出来ないだろう。洋傘ににっこりと微笑まれた気がする。
淀みのない清らかな小川の横を進み、やがて北へと曲がった。案内されるがままに歩いていると、古民家が見えてくる。
明神川沿いの土塀に囲まれた雰囲気とは違うけれど、大きな平屋のお屋敷だった。立派な門があり、玄関までは飛び石が並ぶ。
ただ、とても古い……というか、寂れていた。
玄関戸の横に『古どうぐや ゆらら』と書かれた看板が置かれてはいるものの、どう見ても店はやっていない。看板は埃を被っている。門から横に見える庭は手入れされているように見えるものの、つくばいに柄杓はなく杓架だろう竹もぼろぼろになっていた。
「えっと……ここ、ですか?」
人の住んでいる気配がなかった。建物自体はまだ傷んでいなさそうだが、昼前なのにその姿は夕影草のように、ひっそりとしていた。
『左様にございます』
洋傘は淀みなく答えてくれる。もしかして化かされたりするのだろうか、とここに来て疑ってしまう。この傘の正体が狸とか。
そこまで想像して、いやこの洋傘がそんなことをするようには思えないなと考え直した。出会って二日目だけど。
「ごめんください」
目的はきちんと達成しよう。そう思って外から声をかけてみる。インターフォンのようなものは見当たらなかった。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか」
予想通り反応はない。
『どうぞ戸をお開けください』
どうしようかなと思ったところで洋傘にそう言われた。
「いいんですか」
『ええ、構いません』
洋傘が言うのならいいのだろうか。不法侵入にならないだろうか。
まあ、傘に聞けと言った人がいるのだから、もし咎められても傘に許可をもらいましたと答えよう。
そう思って引き戸に手をかける。木の格子になっているそれは、京町屋でよく見るものに似ていた。
「ごめんください」
傘を閉じ、手に力をかける。
すんなりと、戸は動いた。
瞬間、なかからさあっと風が吹く。
それは白檀の香りを乗せていた。清らかにも思える空気が私を包む。
闇闇としたそこへ、ひとつ、またひとつと明かりが灯る。目が慣れていくと、それらが行灯やランタンだとわかった。上下左右不規則に、星のように光が並んでいる。
どこからか、耳に音が届く。さゆらぐそれは、遠くで騒めくような、かすかに弾かれた楽器のような、不思議な旋律を奏でていた。ささやいているのか、笑っているのか。高く、低く、ゆったりと、スピードに乗って。
仄めく世界に照らされるのは、簞笥や薬箱の木製品や、食器、竹籠などの道具だった。火影を生むそれらは、どれも新しそうには見えない。看板にあった通り、古道具だろうか。でも、嫌な感じはしなかった。
そのどれもが、丁寧に、大事にされてきたというのがどうしてかわかる。
懐かしい。
なぜかそう感じた。私はこれを知っている。この場所ではなく、これを知っている。
幻想的。そんな言葉がぴったりだ。
さっきまで上賀茂の社家町を雨のなか歩いていたはずなのに、それがまるで遠い過去のような気さえしてしまう。
ゆっくりと古道具たちの間を歩く。香りも、音もついてくる。明かりが優しく足下を照らしてくれる。
やがて暗闇のなかに、ぼんやりと白く浮かぶものを見つけた。
ああ、そうだ。これは。
まるでずっと探していたものを見つけたときのように心が逸る。だけど駆けたりはしない。ゆっくりと、それに近づいていく。
白い椿だった。
そう、これが。
手を伸ばす。私の背丈よりすこし大きなその木に咲く大輪の白椿に触れようと近づく。
これが、私の──。
あとほんの数センチ。
そのとき、急にあたりが明るくなってしまった。
そして目の前、手を伸ばした先に。
「ぎゃああっ」
あの白い髪の男性が立っていた。
*
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■著者プロフィール
八谷紬(はちや・つむぎ)
2016年2月、絆と再生を描いた小説『15歳、終わらない3分間』で作家デビュー。京都在住。