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『冷たい恋と雪の密室』刊行直前、綾崎隼さんインタビュー第1回

『死にたがりの君に贈る物語』で若者たちから圧倒的な支持を集めた綾崎隼さん。待望の新刊『冷たい恋と雪の密室』が10月に刊行となります。

2018年に新潟県三条市で起きた大雪による電車の立ち往生事件を舞台に、高校生三人の恋と友情が描かれる青春ミステリです。武者小路実篤の名作『友情』をオマージュしたという企みも潜んでいる新作。

どのように作品を作り上げていったのか、創作の裏側を綾崎さんに伺いました。

<あらすじ>

センター試験2日前、歴史に残る最強寒波が新潟県全域を襲った。
放課後、受験勉強を終えた三条市の高校三年生、石神博人は大雪の中、最寄りの三条駅に着いたが大混雑で電車は全然来ない。自宅のある帯織駅までは2駅とはいえ約7キロあり、この天候で歩いて帰るのは難しい。
18時過ぎ、やっと来た電車に乗り込むと、大混雑の車内で偶然地元の友人、櫻井静時と遭遇する。久々の再会を喜んでいるとき、そのスマホに博人が想いを寄せる幼馴染み、三宅千春からメッセージが届いたのを見てしまう。しかも静時は気づいたはずなのにメッセージを開かず、通知は300を超えていた。密かに動揺する博人だったが、同じ電車に千春も乗っていて……?
はからずも雪の密室に囚われた夜、高校生たちは誰かを強く想った。逃げ出すことさえ許されない電車内で、祈るように未来を思った。
これはそんな夜に起きた、たった一晩の、まだ愛には至らない恋の物語。

※※※

――『冷たい恋と雪の密室』は、武者小路実篤友情に挑んだ作品だと伺いました。そのきっかけを教えてください。

中高生のときに、小説を読みたいけど何を読めばいいのか分からず、有名な古典文学を国内国外を問わず読みあさっていた時期があるんです。
面白いミステリ小説を読みたいときに、今なら「名作 ミステリ」でネット検索すればすぐに情報が出てきますよね。でも昔はインターネットに当たり前に触れられる時代ではなかったので、とにかく有名な作品なら間違いないだろうと。

そのときに出会ったのが武者小路実篤の『友情』で、男性二人と女性一人の三角関係を描いた作品なんですが、文学としても恋愛小説としてもすごく面白かったんです。読書で衝撃を受けると「こういう作品を書いてみたい」と思うもので、あれから20年くらい経ちますが、ずっと『友情』みたいな作品を書きたいと考え続けていました。

★武者小路実篤『友情』
脚本家野島と、新進作家の大宮は、厚い友情で結ばれている。野島は大宮のいとこの友人の杉子を熱愛し、大宮に助力を願うが、大宮に心惹かれる杉子は野島の愛を拒否し、パリに去った大宮に愛の手紙を送る。野島は失恋の苦しみに耐え、仕事の上で大宮と決闘しようと誓う――青春時代における友情と恋愛との相克をきめこまかく描き、時代を超えて読みつがれる武者小路文学の代表作。
(新潮社HPより)

――それでは満を持して挑む綾崎版『友情』だったんですね。今作は2018年に新潟で実際に起きた大雪事件が舞台になっています。このリアルな事件を組み合わせようと思われたのは、どういう経緯なんでしょうか。

※2018年1月11日の夜に、新潟県三条市でJR信越線の普通電車が積雪の影響で動けなくなったトラブルが発生。乗客430人を乗せたまま雪の中で15時間立ち往生した事件がありました。体調を崩した方はいたものの死者は出ず、12日の朝に全員無事に救出されました。


ミステリが大好きですが、殺人事件を書くのは苦手です。だから今回も人が死なないミステリを考えていた時に、新潟で起きた大雪害のことを思い出したんです。死者も出ておらず、全員無事に苦難を乗り越えられている。しかもセンター試験直前の一夜という、物語になりそうなシチュエーションが揃っていて、調べているうちにドラマが広がりそうな気がしてきました。

物語の中で乗り越えるべきものや到達すべきものを練っていた時に、昔からやりたかった『友情』のテーマを組み合わせるのはここじゃないかとひらめいて、プロットを組んで担当編集さんに見せたらOKが出たので、本格的に書き始めました。


――今回の作品のみならず、綾崎さんの著作では新潟という場所が物語に絡んでくることが多い印象です。ご出身地である新潟を書くことに強い想いなどあるのでしょうか?

二十冊以上、新潟を舞台に書いていると思うのですが、これまでの作品でその必然性があったかと言われると、実は薄いんですよね。だから強い意志を持って新潟を作品にからめていたわけではないかもしれません。

でも東京に住むようになって、離れたからこそ「地元の良さ」がよく分かるようになった気がします。新潟って雪が多いのは大変だけどいい街なんです。信濃川と阿賀野川があって、水の都でもあるから、論拠があって食べ物やお酒がおいしい。県民の多くがサッカーを愛していて、地元クラブも気高い。

そういう地元愛が膨らむ中で、しっかり新潟という街と人を書きたいなあという想いはどこかにあったんですよね。

今回の作品は新潟で起きた事件がテーマなので、新潟を舞台にする意味が一番ある作品です。だから地元への気持ちが結実した一作と言えますね。

(つづく)

★第2回は9月30日に公開予定!

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