
「フランスより、ご招待がきております」
ポプラ社の担当編集者三枝さんからそんなメールをいただいたのは2024年10⽉31⽇のことでした。
パリでは毎年、Festival du Livreという国内最⼤級の⽂学祭典が開催されています。
来場者は10万を超えるほどの大きなイベントで、2025年は4⽉中旬にグラン・パレが会場になることが決まっていました。
そのフェスティバルに、フランス語版『お探し物は図書室まで』を刊⾏しているフランスの版元Editions Leducが私をお招きくださるとのお知らせ。時期を合わせて5⽇間の滞在を希望、サイン会やインフルエンサーとのイベントなども検討中とのプランでした。
なんと光栄な! ⾃分の人生に、こんな嬉しいことが起きるなんて!
私にとって初のフランスで、現地の出版社、ポプラ社、三枝さんのバックアップがあるのは、本当に⼼強いことでした。
海外に行ったのっていつ以来だったかなとたどってみれば、2015年の春に家族旅行でアジアを訪れた遠い記憶が。あれから10年……10年か…。
その数年後にコロナ禍があって、海外どころか地方へ訪れるのも難しくなって……。
そう考えると、ああ、時代が移り変わってきたんだな、私たちは本当に、また海外を自由に行き来できるようになったんだなと、あらためて思いました。嬉しい。いろんな意味ですごく嬉しい。
「お受けします」とお返事した瞬間から始まったフランス出張。
この場をいただけたので、記録として残しておきたいと思います。
ただ今回、フランス滞在レポートのようなものを執筆するにあたって構想を練る中で、すごく顕著だなと感じたのは、私が極度の寒がりということです。
だからその点では、これからフランスに⾏かれる⽅には⼀般的な「旅情報」としてはあまり参考にはならないかもしれません。私の異常なまでの寒がり体質をちょっとだけ頭の⽚隅に置いていただいて、そのあたりを差し引いて解釈していただけたら嬉しいです。
では、さっそくいってみましょう。
フランス出張記「街⾓ホットショコラ」、準備編からスタート!
まずは、とっくに切れていたパスポートを再発⾏。
20代のころから使い続けていたスーツケースのキャスターがさすがに壊れてしまったので新調し、仕事の合間に旅支度を進めていきました。
しかしびっくり。
この10年で、「海外旅⾏の常識」はおそろしく変わっているではありませんか!
航空券の「デジタルチケット」なるものに怯え、⾃宅最寄の銀⾏にあちこち⾜を運んでも海外通貨は換⾦できないと⾔われておののき(カード決済がほとんどで、出発前に空港で換⾦するのが⼀般的)、そして何より今までと⼀番違ったのは、「現地でスマホを⽇本にいるときと変わらず使えるようにする」という作業が必要なことでした。
<準備その1.Wi-Fi>
たった10年前、私や家族はどうしていたのでしょうか。よく覚えていないのですが、もうガラケーからスマホに替えていたし、SNS(ツイッター)もやっていました。しかし旅行中にスマホをいじっていた記憶がない。「Wi-Fi設定」などした覚えがないのです。
当時、すでにWi-Fiを駆使してスマホやパソコンを使っていた方々もいらっしゃるだろうけれど、少なくともその頃の私はまだ、海外に行ったら「通信の休み時間」のように捉えていたような気がします。電話もメールもこない。ネットもやらない。日本での現実世界をオフして、ちょっと時空を超えた異世界に行くみたいな気持ちだったと思うのです。
だけど時代は令和も7年。私たちはもう、通信の休み時間などあったらむしろ困る世界線を生きています。海外に行っても誰もが万事にオンでいられるのは、先達の人々のたゆまぬ努力と研究の成果に他ならず、その恩恵はありがたくいただかなくては。
……というところにきているのだな、と実感しました。
10年後はどうなってるんでしょうね、通信って。
出発前、フランスに行くことになったのだと話すと、海外出張や旅行によく行かれる何人もの方々から「eSIMがいいですよ!」と教えていただきました。
ほんの数カ所、スマホの画面上でぱぱっと設定するだけで、滞在先でWi-Fiが使えるようになるというeSIM。ポケットWi-Fiは持ち運びがかさばるし、スマホと機器の両方充電しなくてはいけないし、このほうが楽ですよ、と皆さん口をそろえておっしゃるのです。しかし機械にまるで疎い私はどう操作すればいいのかよくわからず、ネットであれこれ調べていたら、自分のスマホ機種がeSIM非対応と判明。そ、そうか。スマホならどれでもできるというわけではないのね。
早くもこんなところでくじけそうになりながら三枝さんに相談すると、彼女は2台持ちのうち1台はポケットWi-Fiを使う予定とのこと。メーカー比較をしてくださり、「イモトのWiFi」のレンタル申し込みに便乗させていただくことに。右往左往している中、本当に助かりました。

サイズとしてはこんな感じ。
思ったよりコンパクトだし、個人的にはアナログ(というのかしら?)のほうが安心感があったので結果としてよかったです。出発時に羽田空港の専用カウンターで受け取り、帰国したらそちらに返却すればOK。滞在中の通信はまったく問題なし(…だったと思います)。すごいな。
<準備その2.言葉>
今回、私はフランス語の勉強をほぼしていきませんでした。まったくわからないので、むしろやらなくていいと判断していたのでした。
最低限の「Bonjour (ボンジュール)こんにちは」「Merci (メルシー)ありがとう」ぐらいは押さえていたけれど、たとえば「Qu’est-ce que c’est(ケスクセ)これはなんですか?」が通じたところで、相手がフランス語で説明し出したらもうお手上げであろうと思いました。
滞在中はずっと通訳さんがついてくださるという話だし、どうしても困ったらスマホでグーグル翻訳を使えばなんとかなる。まあ、ひとりきりで行動することもたぶんないだろうし。
……という、他人任せ全開のダメっぷり。のちにこの己の甘さがいかに愚かだったかを思い知ることになるのですが、それはまた次回にて。
<準備その3.ご挨拶>
「パリに行くならこのドラマを見ておいて!」と友人に勧められて、フランスを舞台にしたドラマや映画をいくつかチェックしていました。建物は1階が0階という数え方(つまり実質2階に行きたかったら3階へ)など学んだりしながら、ちょっと戸惑っていたのは、時折出てくる、フランス特有のBise(ビズ)というご挨拶。
頬と頬を寄せて、直接キスはせずに「チュッ」と音だけ鳴らす、あれです。
これ、なかなかに高度ではないですか? お互い同じ方向に顔を向けてしまったら本当にチューしてしまいそうだし、背の高さとか、タイミングとか角度とか、音の立て方とか、瞬時に考慮してスマートにこなすのは相当むずかしそう。でも私の周囲にはこれをマスターしている人も練習相手になってくれるような人もいないし、どうしたらいいのでしょう。とりあえず「親しい間柄や、別れや感謝の際に行われるもので、初対面でやることはほとんどない」という情報を得て、現地で本場のそれを見てから実践することに決定。
<持っていってよかったもの>
海外旅行の必需品、変換プラグや湯沸かしポット、スリッパなどはもちろんのこと、私が個人的に持っていってよかったものをいくつか。

スマホ用のストラップ。ケースに差し入れて使うもの。
「スリに気を付けて!」は、出発前も滞在中も幾度となく聞いた言葉。
日本でも普通に使っている方をよく見かけるので、特に旅だからということではないのですが、私は首から下げるというよりバッグの紐に通してスマホは(バッグの)中に入れ、使うときだけ出していました。写真を撮るとき以外は外でスマホをいじったりもせず、とにかく「絶対スラれない」ことを留意。落下防止にもなってよかったです。

セキュリティポーチ。
スリ対策として最強でした。パスポート、自宅のカードキー、予備のクレジットカード、保険証を入れて、インナーの上から提げ、その上に洋服を着用。ぺたんこのポシェットで、使用感があまりにも軽くて自然なため、時々、「あれっ、私、ポーチしてるかな……?」と不安になり何度かトイレで確かめたくらいでした。

0.2リットルサイズのミニ水筒。象印。色も形もお気に入り。温かいほうじ茶を入れて、持ち歩きにとても役立ちました。日本のように、コンビニや自動販売機で温かいお茶のペットボトルがさっと買えるなんてことはおそらく皆無です。飲まなくても、これを持っているという事実だけで心が落ち着きました。

anelloのポシェット。コンパクトなのに収納力が抜群で、ポケットもたくさんあってすごく使い勝手がよかったです。なんと、前述の水筒もすっぽり入るのでした! 共に素晴らしいよ、君たち。毎日ずっと一緒に過ごした相棒。

ふわふわのストール。4月のフランスでは、これを持っている私は他人から見たら暑苦しかったかもしれません。さすがに体には巻かなかったけど(首に巻くための薄いストールは別で持参していた)、ひざ掛けにしたり、眠るときに抱いたり、緊張しているときに握ったりして、この手触りにすごく助けられました。飛行機内では優しい毛布になって、私を本当に安心させてくれた名サポーター。

おにぎりせんべい。私は普段、スナック菓子やおせんべいをほとんど食べないのですが、ヨーロッパへよく訪れている妹から「甘いものはすぐ手に入るけど、しょっぱいものはなかなかないからおせんべいなどあると良い」というアドバイスを受け、小分けのパックが4つ連なっているおにぎりせんべいをセレクト。
妹の言うことは本当でした。熟練者の教えは聞いてみるものです。
フランスはチョコレートや甘いお菓子がほんとに美味しくて、口にする機会が多いぶん、反動でしょっぱいものが欲しくなります。ホテルに戻ると「ああ、私にはおにぎりせんべいがある……!」と感動しながら、毎日1パックずつ大事に食べていました。

おしゃぶり昆布。実はフランスに行く前日、私は本屋大賞のパーティーに出席しておりました。緊張でガチガチになっていたとき、PHP研究所のYさんが持っていた「おしゃぶり昆布」を少しもらったら不思議なことにすっと楽になった、という出来事がありました。これもおせんべい以上に普段は食べないものだけど、フライト前にそのことを思い出して羽田空港内のローソンで入手。
それがですね、ま、まさか、これのおかげで後に命拾いすることになるとは……!
この件については次の次の次の回で!! 続く!

