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第2回

【さくらのひとやすみ #2】そなえよ、つねに

さて、前回なぜ行くのかという動機を書いたのだからさっさと海外の話をしたまえよと思うかもしれないが、今回は「準備」について書いていこうと思う。なぜなら、ここでない何処かへ思いを馳せたその瞬間から、もう旅は始まっていると言っても過言ではないからだ。(かっこいい)

ちなみにわたしは、幼少期にガールスカウトをしていたという意外な経歴を持っているのだが、今までガールスカウトの教え「そなえよ、つねに」に完全に背いた生き方をしてきた。
「全く備えないから困る、常に」である。

今回も例に漏れずホテルを当日探すなんてことはザラだった。Booking.comとTrip.comよ、本当にありがとう。このように備えなくてもギリギリでどうにかなってきた経験こそが、より私を備えなくさせている気がする。
ただ、ヨーロッパは日本と比べると治安の面で何かと気をつけなければいけないことも多い。街中を歩いていて、「あ、ここはヤバいぞ」という雰囲気を肌で感じたことが何度もあった。

加えて私は帰国後、色々見えてしまう人に「貴方めちゃくちゃヨーロッパの霊が憑いてます」と言われている。一緒に飛行機に乗って来日したヨーロッパの霊達のことを思うとだいぶ愛おしい。
色んな意味で私はラッキーで帰って来れたが、油断していると霊にも取り憑かれるらしい。みんなは必ず備えるようにしよう。


まず、旅をしようと思い立って一番最初に私がしたことは、YouTubeで「一生に一度は行きたい国」とか「行ってはいけない危険な国5選」みたいな陰陽の動画を見て妄想を膨らませることだ。現地に住んでいるYouTuberが、気をつけるべきことや持っていくべきものを紹介した動画も昨今たくさんアップされているので前もって何本か見ておくと良いだろう。
あと、行く国が舞台の映画などを見るとその場所に行った時の興奮がより高まるので、好きな作品を見返したり、これを機に名作に触れるのもお勧めする。

また、同時進行で海外にいる友達や日本の仲良したちに「海外で遊ぼうや」と連絡をしていった。
急に決まった話だったので、もちろん仕事で難しい子も多かったが「よっしゃ、行こ」「泊まっていいよ」「一緒エアビー泊まって自炊しよー」とどんどん予定が決まっていく。
パズルのピースがはまっていくように、「この子とここで会うなら列車で移動するのが良いかな」とか「この子と会うまで一人でここを観光しよう」など前後のスケジュールも決まりだして気持ちがいい。

ただ列車や飛行機、ホテルなどは行く前からガチガチに決め過ぎないようにした。流動的に「やっぱりこっちにいきたくなるかも」という余白を残しながらの旅だ。

結局2ヶ月間の周遊となったが、旅をした順番としてはイギリス→スイス→フランス→スペイン→イギリス→ベルギー→オランダ→ドイツ→イギリスの7カ国。

ヨーロッパの電車をほぼ網羅している“ユーレイルパス“を使う電車周遊の旅も魅力的だったが、わたしの場合は行程的にも飛行機で移動したほうが楽なことが多かったので今回はパスした。


そうして旅の中身がどんどんと決まっていく中、わたしがいつまで経っても決めきれなかったことが「キャリーバッグで行くのか、バックパックで行くのか」問題だ。どこのホームページを見ても、ヨーロッパは石畳の地面が多いと書いてあるし、ただでさえ今回のわたしは様々な国を渡り歩くつもり。

日本だったら信じられない話だが、海外では急に電車の着くプラットフォームが変わるなんてこともある。わたしもイギリスでその洗礼を受けたのだが、早めに駅に到着してホームで列車を待っている時、隣に犬がいたので「可愛いね〜〜何歳ですか〜」なんて飼い主さんと談笑していたら、電車が違うホームに既に着いており「ギャーー!!!!」と慌てて猛ダッシュする羽目になった。

そんな時、重たいキャリーバッグを持っていたとしたら機動力が落ちて階段も上がれず列車に間に合わない、なんてこともあるらしい。(しかもヨーロッパのエレベーターとエスカレーターが壊れてる率は信じられないほど高い)

今回はやっぱりバックパックかな……とも思ったのだが、「楽な時もあるけど、長時間持つと肩がちぎれるほど重いよ」と、バックパック経験者のお友達から助言を頂く。何より各地で思いっきりショッピングができないなんて信じられない。

結局、自分で階段を持って登り降りできる大きさのキャリー(75リットル)とリュック、小さな肩掛けのカバンで挑むことにしたが、大正解だった。ホテルにさえ着いてしまえばキャリーは置き去りにできるし、できるだけ同じホテルやエアビーに連泊するのが良いと思う。


そして旅行中、役に立った持ち物は何だったかしらと思い返してすぐに脳裏に現れたのは「洗濯バサミ付きの折りたたみハンガー」だ。
わたしが旅行したのは真夏で毎日汗だくの旅だったのだが、移動も多く洗濯できない日も多かった。そこで、下着や靴下などはお風呂に入りながら洗って部屋に干していたのだが、乾燥しがちなホテルステイでとってもとっても助かった。
そしてスペインのホテルに忘れてきた。
どうしても取り返したくて連絡までしたが「nothing」と言われた。絶対にあるから今からでも探してほしい。


最後になるが、結局一番役に立つのは色々と笑い飛ばせるマインドだと思う。

台湾に旅行した時、初日にマッサージに行き小籠包を食べまくり現金を使い果たした後に、クレジットカードが使えないことに気付き、後半帰りの電車賃だけを残し友達と一つの食べ物を分け合うひもじい貧乏旅をしたことがあるし、ニュージーランドで行きも帰りもキャリーバッグが消えた信じられない経験もしたが、全部結果おもろいしめちゃくちゃいい思い出だ。
 

旅にハプニングはつきものである。
思い通りに行かないことを面白がることができたら、どんなことが起きてもその旅は大成功だろう。
そして、それはきっと人生も同じである。
ハ?!?!?!?!?と思った時も、深呼吸して、「まぁ、ウケるな。」と呟くだけでどうでも良くなったりするのだ。

そんなこと言いつつ、わたしはスペインでホテルの鍵が開かなかった時に暑すぎて一人で急に号泣したので、いつもうまくいくというわけではないのだが……。

それでは、ようやく飛び立ちましょう。
まずはイギリスへ〜!

(イラスト/藤原さくら)


藤原さくら(ふじわら さくら):1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。interfmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。

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