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『天空遊園地まほろば』著者あとがき

7月24日に発売となった浜口倫太郎さんの小説『天空遊園地まほろば』
関西の古都と呼ばれる街の、遠い昔に廃園したはずの遊園地を舞台に、
もう二度と会えない大切な人との「再会」を通して、
残された人々が一歩を踏み出していく温かな物語です。
この物語がどのように生まれたのか、浜口さんが誕生秘話をご寄稿くださいました。

 
 遊園地は、ファンタジーの舞台にぴったりだ。ふと、そんなことを思いました。
 遊園地は一番身近にある非日常の空間です。子供の頃に感じた胸の高鳴り、恋人との初めてのデート、親になって子供の笑顔を見守る時間、歳を重ねてふたたび訪れたときの郷愁。人生のあらゆる場面で、遊園地は寄り添ってくれます。人が生きていてよかったという想いがすべて詰まった場所です。
 だからこそ遊園地という場所でファンタジーを描いたら、素晴らしい物語になるんじゃないか。そう考えて、この作品の構想を始めました。
 架空の遊園地よりも、実際に存在する遊園地をモデルにした方が、読者にもよりリアリティーをもって読んでもらえるのではないかと考えました。地に足がついたファンタジーにしたかったのです。
 最新の遊具や絶叫系のアトラクションのある遊園地よりも、懐かしくて心が落ちついて、幼少時代の原風景にそっと触れるような遊園地がいい。そんな遊園地がないかと探していました。
 僕は散歩をするのが日課なのですが、ふと顔を上げると、生駒山上遊園地が見えました。
 僕は奈良県生駒市の出身で、生駒山上遊園地には子供の頃、よく親に連れて行ってもらっていました。社会人になって一度は生駒を離れましたが、結婚して子供が生まれたタイミングで生駒に戻ってきました。静かであたたかな空気の流れる、生駒という町で子供を育てたいと思ったのです。
 自分の子供や甥っ子・姪っ子を連れて、生駒山上遊園地で何度も遊びました。まさに先ほどあげた条件にぴったり合わさっています。
 生駒山上遊園地はその名の通り、山の上にあります。古来より山は神聖な場所とされ、そこへ向かう旅には祈りや再生の意味がこめられています。その旅路は、ファンタジーには不可欠な要素です。
 さらに生駒山上遊園地は90年以上の歴史を持ち、日本最古のケーブルカーが遊園地へと運んでくれ、しかも日本最古といわれる大型遊具『飛行塔』も現役で稼働している。どれも、時を超えて存在し続ける『まほろば』の舞台にふさわしい背景でした。
 まさか、ここまで条件のそろった場所が身近にあるとは思いませんでした。灯台下暗しとはこのことです。『天空遊園地まほろば』は、生駒山上遊園地がなければ絶対に書けないものでした。
 この物語に登場する人たちは、みなそれぞれ、大切な誰かを失っています。もう二度と会えないと知りながら、それでもなお会いたいと願う。その想いを抱えながら生きていくのが、人生なのだと思います。
『天空遊園地まほろば』は、そんな心の奥にしまいこんでいた願いをそっと解き放つ場所です。
 涙をこらえてでも前に進む人々の物語が、読者の方に届きますように。
 楽しんで読んでもらえれば幸いです。

浜口倫太郎

■ 著者プロフィール
浜口倫太郎(はまぐち・りんたろう)
1979年、奈良県生まれ・在住。漫才作家、放送作家を経て、2010年『アゲイン』(のち、『もういっぺん。』に改題して文庫化)で、第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、翌年小説家デビュー。
他の著作に、ベストセラーとなった『22年目の告白-私が殺人犯です-』のほか、『宇宙(そら)にいちばん近い人』『シンマイ!』『廃校先生』『お父さんはユーチューバー』『ワラグル』『サンナムジャ 〜ヤンキー男子がK−POPに出会って人生が変わった件〜』など多数。漫画原作者としても活躍の幅を広げている。

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