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「みつばの郵便屋さん」シリーズ完結記念、小野寺史宜氏インタビュー【第3回】 ~「みつば」の町で育ったあの人の新作を予告?!

みつば郵便局の配達員・平本秋宏と町の人々の交流を描いた「みつばの郵便屋さん」シリーズがこの12月、ついに完結となります。多くの方にご愛読いただいた人気作全8巻の完成を祝い、著者の小野寺史宜さんにお話をうかがいました。

 

■ 白小野寺と黒小野寺

――ところで、『ひと』(2019年本屋大賞2位)の大ヒット以来、「小野寺さんの作品にはいやな人が出てこない」とおっしゃる方が結構いらっしゃいますね。

小野寺史宜さん(以下、小野寺:よくそう言われます。長く読まれている方は、「白小野寺」や「黒小野寺」と作品のタイプを分けてくださったりもします。

――「黒小野寺」にはどんな作品がありますか。

小野寺:直近で言えば、『レジデンス』でしょうか。

――KADOKAWAさんから今年の8月に出た小説ですね。カバーもアンダーな調子の画が使われていて、見た目のテイストも違いますね。

小野寺:これはもう、いやな人しか出てこないというか、いい人が一人も出てきません。『ひと』や「みつば」の感じを期待して手にされると裏切ることになってしまうので、これはちがいますよ、とわかる装丁にしていただきました。でも「みつば」に関しては、いやな人が出てこない「白小野寺」でいいと思っています。

――今回、最終巻のゲラを読んでいるとき、このシリーズに出てくる人たちの歳月が思われて、何だかとても愛しくてたまらなくなりました。読者によって好みの登場人物がいらっしゃると思うのですが、前に出てきた人がまた出てくるとうれしいものですね。ある種のパターンもあって、「そろそろ来るぞ」と思うと、ちゃんと出てきてくれたりして。

 

■ 3巻から、登場のパターンができる

小野寺:脇を固める人たちの登場パターンができたのも、やっぱり3巻ですね。毎年、夏に片岡泉さんが登場。どの巻でも第2話で出てくるんですね。そこが夏なので。そして秋の第3話で春行と百波が出て、冬の第4話で今井貴哉くんが出る。小学生のバレンタインチョコ事情を郵便屋さんが知っている、という感じが僕はとても好きです(笑)。

――秋宏は、この少年の淡い恋の行方をずっと気にしていますものね。

小野寺:何なら秋宏自身が貴哉くんに聞いちゃう。今年はチョコもらった? って(笑)。

――みつばのファンの方って、すごく読みの丁寧な読者が多いなという印象です。ちょっとしたところを覚えていて、隠し技みたいに出してくる後日談とかにも、ちゃんと反応してくださる。くすっと笑ってくださったり、懐かしがってくださったり。

小野寺:そう思います。

――お茶を飲むシーンとか。ちょっとしたところで。

小野寺:はい。緑茶、玄米茶、梅こぶ茶。いろいろ飲ませてもらう四葉小学校の職員室とか。バー「ソーアン」とか。元カノジョの井上聖奈からたまにメールが来る、というのもありますね。

――あれ、いいですよね。何故か近況を知らせてくる。それだけなのに、結構印象に残ります。ダメっぷりも含めて、何だかかわいい。

小野寺:あと、巻ごとに、何となくキーになる人だったり舞台だったり、もありますね。

――例えば、どんな?

小野寺:3巻の「二代目も配達中」なら女性社員、4巻の「幸せな公園」では各話に出てくる公園。5巻の「奇蹟をめぐる町」は初恋の人、出口愛加ちゃん。6巻の「階下の君は」は作家の横尾成吾、7巻の「あなたを祝う人」はカフェ「ノヴェレッテ」です。そんな感じで巻ごとに通したイメージがあります。さらに、8巻全体のリズムみたいなことも考えましたね。1、3、5、7という奇数巻には山が来る。書くのに力を入れている抜いているではなくて、ただ単に山。自分なりに起伏をつくっている感じはありました。

 

■ ホームとしての安定と小さな楽しみ

――そんなふうにして「みつば」の町は育っていったんですね。書けば書くほど、町に知人も増え、思い出もできていくわけですから、愛着も深くなりますよね。

小野寺:現時点で、僕は39作の小説を出させてもらっていますが、そのうち22作に蜜葉かみつばか四葉が登場します。

――いわば、小野寺作品のホームグラウンドですね。

小野寺:そうですね。東京から30分ちょいで来られて、人も動かしやすい。『ひと』や『まち』みたいに、実際にある町も舞台にはします。『東京放浪』であちこち取材して歩いてから、実際にある町もおもしろいと感じるようになりました。だから今は、住宅地なら「みつば」、田舎からなら「片見里」、プラス実在の町、というのが僕の作品の舞台です。

――全作がつながりながら、そういうハイブリットの舞台をめぐっていくのが小野寺さんの世界ですね。小野寺ファンはそういうことはもうご存じかと思うのですが、読者のあいだで小ネタ的に話題になるのが、チャイムの音ですよね。

小野寺:「ウィンウォーン」ですね(笑)。小説に出てくるチャイム音。これも『ナオタの星』から始まりました。実は、みつば南団地では「リロリロリロリロ」と鳴ってます。すべて同じというわけではありません。

――擬音で言うと、「クシッ」というのもありましたね。

小野寺:缶のタブを開けるときの音ですね。これは『ROCKER』から。でも微糖の缶コーヒーを開けるときは「コキッ」です。炭酸飲料やビール系飲料なら「クシッ」。

――ああ、なるほど。炭酸のときは、そうでしたね。うーん。また全体を読み返したくなりました。まだ発見できていない「隠し技」や「みつばルール」がたくさんありそうです。

 

■ 最終巻のタイトルは

――いよいよ最終巻についてお話しいただきたいのですが、「みつばの郵便屋さん そして明日も地球はまわる」。これ、今までで一番長いタイトルですよね。これは1巻とのつながりで?

小野寺:はい。1巻の最終話のタイトルは、「そして今日も地球はまわる」でした。だから、最終巻は「そして明日も地球はまわる」にしよう、と。

――確かに、「今日」から「明日」へ、みんなが一歩、踏み出していきますね。

小野寺:6巻を出したときに、8巻まで出すと決まりました。ラストに向かう感じをうまく整えられるから、ちょうどよかった。7巻からは死についてのエピソードも出てきます。7巻なら第3話「エレジー」、最終巻なら第2話「雨と帽子」がそうです。時が経てば、住人のなかには亡くなる人もいます。それが自然ですよね。

――どちらもとても印象に残りました。余韻のある好きな作品です。

小野寺:今までも、飼い犬が死んじゃうとか、そういう悲しみはありました。でも秋宏も年をとってきて、段々、自身のこととして死を意識するようになる。それは決して悪いことじゃないですよね。そうなって、最終話につながるわけですから。

――そうですね。ネタバレになるから言いませんけど、最後は本当に温かいというか、ああ、よかったなあと感無量のシーンでした。

小野寺:第2話(「雨と帽子」)で、秋宏が帽子を拾いに行きますよね。これは僕の実体験です。歩いて買物に行った帰りに雨が降ってきて。風も強くなって。どこからかふわふわと帽子が飛んできた。で、路上をコロコロと転がって止まりました。そのときに思ったんですね。この帽子が車に轢かれてぺしゃんこになったらいやだなと。だから、一度通りすぎて、引き返しました。でも歩道に置いたくらいではまた風で飛ぶだろうし。そこで、車止めのポールにかぶせたんですよ。その感じはかわいかったですね。あ、これはいいな、と思って、あのシーンを書きました。死とは直接関係ないですが、どこかで通じてはいますね。

 

■ 「みつば」から新作が生まれる!

――さて、そろそろまとめということで、最後にお聞きしたいことがあります。これは質問というか、もう宣伝していただきたいということで(笑)、次の単行本のお話を少しだけしてもらえますか?

小野寺:はい。えーと、どこまで言っちゃいますかね? とにかく「みつば」にはいろんな登場人物が出てきましたが、そのなかにとりわけ人気が高い登場人物がいます。

――この人が出てきて、いつものパターンをやるのを、読者のみなさん、待ってますよね。出てきたら、「あ、出てきた」とにんまりする。

小野寺:書いてる僕もそうです。夏が来るとうれしくなる。

――もちろん、片岡泉さんですよね。

小野寺:はい。彼女を主人公にした小説を書きました。片岡泉は何者なのか。どこからきて、どう育ち、今はどうしてるのか。今度は郵便屋さんの受取人としてではなく、この人の人生そのものと向き合いました。

――そして完成しました。原稿を読ませていただきました。興奮しました。めちゃくちゃよかった! これは『みつばの郵便屋さん』のスピンオフというのでなく、一人の女性が自分の道を踏みしめて進んでいく物語です。笑いも涙もたくさんあって、がんばれ、がんばれと応援したくなります。何より彼女の正直さと朗らかさに体いっぱい元気をもらったような気がしました。それでは最後にタイトルと刊行予定を。

小野寺:タイトルは『みつばの泉ちゃん』。来年5月の刊行を予定しています。「みつば」をすでに知っていらっしゃる方もそうではない方も読んでくださるとうれしいです。そして最後に。『みつばの郵便屋さん』シリーズをこんなにも長い間応援してくださり、本当にありがとうございました。これからも、よろしくお願いします。


  *

★小野寺さんの「みつばの郵便屋さん そして明日も地球はまわる」刊行記念インタビューはこれで終わりです。なお、このインタビューに出てくる「みつばの郵便屋さん」シリーズ第1話「春一番に飛ばされたものは」は、ウェブアスタにて公開中!

https://www.webasta.jp/mitsubaspostman/

ぜひ、あわせてお楽しみください。

 

── 「みつばの郵便屋さん」シリーズ 全巻もくじ ──

全巻イラスト:pon-marsh

みつばの郵便屋さん』(単行本2012年5月刊/文庫2014年8月刊)

・春一番に飛ばされたものは
・悪意も届けてこそ
・愛すべきアイスを
・待てば海道の日和ある?
・起こせる奇蹟も奇蹟
・能ある鷹は爪を研げ
・たとえ許せはしなくとも
・そして今日も地球はまわる

 

みつばの郵便屋さん 先生が待つ手紙』(2015年2月刊)

・シバザキミゾレ
・そのあとが大事
・サイン
・先生が待つ手紙

 

みつばの郵便屋さん 二代目も配達中』(2015年11月刊)

・二代目も配達中
・濡れない雨はない
・塔の上のおばあちゃん
・あけまして愛してます

 

みつばの郵便屋さん 幸せの公園』(2017年10月刊)

・かもめが呼んだもの
・テスト
・お金は大切に
・幸せの公園

 

みつばの郵便屋さん 奇蹟がめぐる町』(2018年11月刊)

・トレーラーのトレーダー
・巨大も小を兼ねる
・おしまいのハガキ
・奇蹟がめぐる町

 

みつばの郵便屋さん 階下の君は』(2020年11月刊)

・階下の君は
・今日もゼロベース
・あきらめぬがカギ
・秘密の竹屋敷

 

みつばの郵便屋さん あなたを祝う人』(2022年6月刊)

・あなたを祝う人
・拾いものにも福はある
・エレジー
・心の小売店

 

みつばの郵便屋さん そして明日も地球はまわる』(2022年12月刊)

・昨日の友は友
・雨と帽子
・秋の逆指名
・そして明日も地球はまわる

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