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交錯する街—渋谷
私は、歩き方が変らしい。私単体でもそうかもしれないし、特に人と歩いたりするとよく言われる。「ちょっと!私の右側か左側かどっちにいるか決めて。落ち着かないから」「今、かかと踏んだでしょ。距離感ちゃんとしてね」「大人なんだか…
私は、歩き方が変らしい。私単体でもそうかもしれないし、特に人と歩いたりするとよく言われる。「ちょっと!私の右側か左側かどっちにいるか決めて。落ち着かないから」「今、かかと踏んだでしょ。距離感ちゃんとしてね」「大人なんだか…
2 結婚のお祝いに、幸せになるために。 〈おもちゃのチヤチエチャ〉の営業時間は、午前十時十五分から午後八時三十分までに決まっていた。 基本はカプセルトイとクレーンゲームだけだから、あまり早く開けてもたぶんほとんどお客さん…
序章 『薄うす墨ずみ』と呼ばれる色がある。 例えば、最近海の外からやってきた水彩画。この絵具を好き勝手に混ぜてみる。すると色は鮮やかさを失い濁り、やがてどんよりとした灰色になる。彩りも光も失ったこの色を薄墨と呼び、人々…
昨年11月、15周年を記念して刊行された『恋文の技術 新版』。同月9日、物語の舞台である石川県の石川県立図書館さんにて森見登美彦さんのトークイベントが行われました。その一部をお届けします! トークイベント聞き手:上田敬太…
プロローグ 三月も後半に突入した某日。洋菓子店『月と私』に、飛行機で海を越え子羊たちがやってきた。「あっ、アニョー・パスカルの型、アルザスから届いたんだね。見せて見せて。うーん、型だけだとちょっとシュール? でも可愛…
春は明け方にやってくる。 まさに「春はあけぼの」、今年も三月下旬にその第一声が響いた。 声のあるじはウグイス。 空はようよう白み始めるも、それでもまだほんのり夜の気配が残っている、そんな時間に「ほー、ほけ、ほけッ」と来…
お皿やお茶碗やマグカップ、食器はほとんどのものがふたり分ずつ揃っている。直樹なおきの使っていたものは全て捨てようと決めてゴミ袋を用意したものの、わたしのものだけになると、足りないのではないかという気がしてくる。お茶碗や…
能力者の存在する街・咲良田を舞台にした「サクラダリセット」シリーズや『いなくなれ、群青』から始まる「階段島」シリーズ、全寮制の中高一貫校を舞台にした山田風太郎賞候補作『昨日星を探した言い訳』……。河野裕は作品ごとにオーダ…
序章 ここは、愛憎渦巻く女の園、煌コウ華カ宮キュウ──別名、華カ園エン。 目に飛び込んできた絢爛豪華な光景に皆が目を輝かせる中、朱色の裙くんをまとった宮女が疑惑の眼差しを瓦屋根へ向けた。 そこに佇たたず…
京都から能登の実験所に飛ばされた大学院生・守田一郎が京都の仲間に書き綴る手紙のみで構成される森見登美彦さんの傑作書簡体小説『恋文の技術』。長きにわたって愛される本作が刊行15周年を記念して、新版として登場します。新たに書…