ポプラ社がお届けするストーリー&エッセイマガジン
メニュー
facebooktwitter
  1. トップ
  2. エッセイ一覧
  3. 街角ホットショコラ
  4. 第9回 帰国編 また会うときまで
第9回

第9回 帰国編 また会うときまで



4月16日(水)。


帰国便は朝9時半のフライト。

あらかじめ6時30分ホテル着でタクシーの手配もしていただき、その10分前に三枝さんとの待ち合わせ。


前日の夜、ストラスブールからホテルに戻ったのは23時頃でした。あらかたのパッキングを済ませ、「あとは5時に起きて、顔洗って着替えて……」と、段取りを考えつつ、荷物は中途半端な状態で就寝。

スーツケースに荷物入れるのって、こう、パズルみたいなワザが必要ですよね。

重いのは下とか、隙間を上手に使うとか、壊れやすそうなものはセーターでくるむとか、液体(化粧水とか)は揺れないようにボトルの固定を工夫するとか。

だから、最終的な作業は朝起きてから身支度をすべて終えて、ホテルを出る前にしようと思っていました。


ベッドの中で目をつむった私は、安心のあまり泣きそうでした。


「ああ、よかった。いろいろあったけど、予定されていたスケジュールは全部こなせた。たぶんご迷惑はおかけせずに済んだ。ああ、よかった。本当によかった………」


とろりとろりと、パリの夜は更けて……。


が、翌朝、私を呼び覚ましたのは


ドンドンドンドン!!!!!


という、猛烈な勢いでドアを叩く音でした。


ハッと時計を見ると、


6時30分。


えええええええ、ええええええええ!!!!


飛び起きてドアを開けると、顔面蒼白の三枝さんがそこに立っていらっしゃいました……。


うわああああああ、やってしまったーーー!!!!

最後の最後で!!!


パニックになりながら「え、えっと、タクシーって何時に来るんだっけ?」という我ながら意味不明な質問を投げかける私に「もう来てます!」と叫ぶ三枝さん。

いや、もう、本当に、すみませんすみませんすみません!!!!


「スーツケースの中のパズル」なんて悠長なことはやっていられなくなり、着替えながら「あのポーチにこれを入れて、あれとあれをまとめて、これをこうしてああしてくださいっ」と三枝さんにお手伝いのお願いを。とにかくいっさいがっさい、スーツケースやトートバッグに詰め込んで、ロビーにダッシュ。


三枝さんは私に何度もLINEや電話をしていたそうなのですが、私のスマホには着信がありませんでした。

それはなぜかというと、私が「ポケットWi-Fi」の電源を切っていたからなのでした……。

ポケットWi-Fiは充電する際に電源を切るのが望ましいと聞いていたので、就寝時にそうしていたのです。


東京にいる編集者さんとやりとりができている状態だったのに、同じホテルにいる三枝さんと連絡が取れなかったのか……。文明の利器は、気を緩めず正しく上手に使わなくては。


私がドアを開いて現れるまで、三枝さんは、あらゆるコワイ想像をしてしまっただろうなぁ……と、今思い出しても胸が痛みます。想定できる最悪な状況の中でいちばんマシな(そうか?)「寝坊」という事態に、彼女の心中はどれだけ千々にみだれていたことでしょうか……。


私は起床するためのアラームも5時にセットしていたのですが、確認したらオフになっていました。

これはWi-Fiのせいではなく、たぶん私が無意識のまま止めてしまっていたと思われ。

今度から、旅にはスマホだけを当てにせず、絶対に目覚まし時計を持っていこう!と心に誓いました。


ばたばたとロビーに向かうと、そこには服部氏と李さんがいらっしゃいました。

こんな早朝に、私たちを見送るためだけに来てくださっていたのです。

感動のフィナーレになるはずが、こんなことに。
三枝さんから事の次第を聞いていたおふたりは、タクシーの運転手さんにも事情やフライト時刻を伝えてくださっていて、本当に助かりました。

ああ、おふたりがここにいなかったらどうなっていたか!

余韻もなく手を振り合い、冷や汗をかきながらタクシーに乗り込みました。


そしてなんとかギリギリ、フライト時刻に間に合い……。


窓から見た空はこの上なく美しかったね……。


……と、そんなこんなで、

最初から最後まで全方位に感謝ばかりのフランス出張でした。

関わってくださった方々おひとりおひとりに、心からお礼をお伝えしたいです。

そして、私がこんな素晴らしい経験をさせていただけたのは、何よりもまず読者さんがいてくださったからに他なりません。

外に出ることに臆病になっていた私をこんな遠くまで連れ出してくださり、本当にありがとうございます。これからも、一歩ずつ精進していきます。

機内で一番美味しかったお茶。

ミント入りグリーンティー。

おやつに出たけどお持ち帰り。

極薄のサクサク生地にくるまれたチーズのスナック。

家で食べたら、すごーく私好みでした。

旅を振り返りながら味わいました。

エッフェル塔の近くにあったお土産ショップで購入した小物入れ。

星の王子さまの住む小惑星B612にエッフェル塔が。

キツネもいるから、毎日楽しいね。


「かんじんなことは、目に見えないんだよ」とキツネに言われたようで、

「そうだよね……Wi-Fiとか」と帰国の朝の大失態を再び思い出す私……。

そんな反省も込みで、私の人生の扉を大きく開いてくれたフランス出張でした。

これにて、連載エッセイ『街角ホットショコラ』を締めくくりたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。Au revoir(また会うときまで)!

このページをシェアするfacebooktwitter

関連記事

関連書籍

themeテーマから探す