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数々の企みを秘めたラブコメ本格ミステリ、登場【評者:千街晶之】

 基本的に、本格ミステリに登場する名探偵というのは、推理を積み重ねることによって謎を解き明かす存在である。ただし、中には神がかりと言っていいスピードで真相に到達する名探偵もいる。麻耶雄嵩の『神様ゲーム』などに登場する神様探偵・鈴木太郎は、自らを全知全能の神だと称し、従って犯人は最初からわかっているとのたまう。紙城境介『僕が答える君の謎解き』の明神凛音は、無意識のうちに真相に到達するタイプだが、推理の筋道を自分では説明できないため、クラスメートの伊呂波透矢がそれを推測し、他の人間にも理解できるよう説明する役目を担う。
 阿津川辰海の連作短篇集『犯人はキミが好きなひと』に登場する中学生(第二話からは高校生)の瀧花林は、名探偵になろうと志している少女だが、身近で殺人事件が起こった時に、その犯人が誰かが最初からわかっている。といっても、彼女が神様だったり天才だったりするわけではない。実は彼女の幼馴染み・幣原隆一郎は、ある特異体質の持ち主なのだ。それは、彼が好きになった女性は、必ず何らかの悪事に関与しているというものである。
 花林曰く、「あんたは要するに悪女好きなんだ。もう既に悪いことに手を染めているにせよ、計画的に悪巧みしているにせよ、そういう女性のオーラを感じ取って、好きになっているわけ。つまりあんたは悪女レーダー、もっと悪く言えば、女を見る目がないってこと」。
 悪女レーダーとはひどい言い草だが、このレーダーが常に正確である以上、殺人事件が起こった時、隆一郎が事件関係者のうちどの女性に惚れているかを観察すれば、その相手が自動的に犯人と決定するわけである。
 実に便利な特異体質である(隆一郎本人にしてみれば便利どころの話ではないのだが)。ならば、あっという間に謎が解けてしまい、話がすぐに終わってしまうではないか――と思うかも知れないが、事はそう単純ではない。
 例えば第一話「死者からの伝言」では、旧校舎で他殺死体が発見される。花林は早々に、隆一郎が惚れた相手が犯人だと当たりをつける。ところが、現場に残されていたダイイングメッセージをどう解釈しても、その相手を指し示しているようには思えない。花林は警察庁勤務のキャリア組である兄・瀧裕也のブレーンも務めているのだが、隆一郎の特異体質のことなど兄に信じてもらえるわけがない。従って花林は、自分が犯人だと当たりをつけた人物の犯行を証明するため、そこから推理を組み立てなければならなくなるわけである。
 犯人が誰かという結論が先にあって、その犯行の実証は後からついてくる……という点では、麻耶雄嵩の神様シリーズ第二作『さよなら神様』の、毎回一行目で犯人の名前が明かされるという趣向を想起させる。しかし本書の面白さは、このパターンに綺麗に収まるのが実は第一話だけであり、第二話以降は毎回異なるパターン破りを仕掛けてくる点にある。なるほどそう来たか、次はこう来たか……と、一話ごとに唸らされるのだ。ライトな読み心地のようでいて、論理構築のハードさとどんでん返しの鮮やかさはなかなか侮れない。
 著者の小説は比較的シリアスなタッチの作品が多いが(短篇ではたまにコミカルな作風を見せることがある)、本書はその中では異色のラブコメ・ミステリだ。そのうちミステリとしての狙いについては既に触れた。では、ラブコメの部分はどうなのか。
 考えてみると、名探偵という存在、モテモテなタイプは意外と少なく、失恋エピソードが印象に残ることが多いのではないだろうか(横溝正史作品の金田一耕助などがそれに該当する)。名探偵ではないが、TVドラマ『相棒』の準レギュラーである陣川公平警部補(原田龍二)は、登場するたびに女性に惚れるけれども、大抵は失恋か悲恋で終わることになる。同じくTVドラマの『キミ犯人じゃないよね?』の宇田川教生警部補(要潤)、『うぬぼれ刑事』の「うぬぼれ」こと小暮己刑事(長瀬智也)なども犯人に惚れやすい失恋体質だ。
 幣原隆一郎もその系譜に連なるキャラクターだが、それにしても、まだ十代の身空で、惚れた相手が毎回犯人というのは気の毒にも程がある。実際、先に引用した花林の台詞に対し、隆一郎は「お前が謎を解くと、決まって俺は相手と引き裂かれる。お前は俺にとって、失恋の悪魔――いや、失恋名探偵だ!」と悲痛な叫びを返す。実はそんな彼に恋している坂巻千棘というクラスメートもいるのだが、これが絵に描いたような悪役令嬢タイプ。隆一郎も彼女のことは眼中にないようだが、果たして、連作が完結するまでに彼の恋が成就することはあるのか。第六話(最終話)「あなたの愛を……」で、本書はラブコメとしても幾重にもひねった決着を迎えることになる。ラブコメと謎解きを見事に融合させた本書は、このところ従来と異なるタイプのミステリを立て続けに発表している著者の多才さを改めて認識させる作品である。

■ 書籍情報 『犯人はキミが好きなひと
名探偵にあこがれる女子高校生・瀧花林。
彼女の幼馴染である幣原隆一郎には、ある「特異体質」がある。
それは、隆一郎が好きになった女性は、必ず何らかの犯罪に関与していることである。
悪女にどうしようなく惹かれる隆一郎(花林いわく、「女の趣味が悪い」)の特殊体質をヒントに、
花林は数々の事件の謎を解き明かす。そして、隆一郎の恋は衝撃の結末を迎える――!? 

評者プロフィール
千街晶之(せんがい・あきゆき)
ミステリ評論家。1970年生まれ。著書に『怪奇幻想ミステリ150選』『水面の星座 水底の宝石』『幻視者のリアル 幻想ミステリの世界観』『読み出したら止まらない! 国内ミステリー マストリード100』『原作と映像の交叉光線 ミステリ映像の現在形』など。

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