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杏のとことこパリ子連れ旅

 1 行きの飛行機、いきなり大ピンチ!

 まず諸準備から想定外だった。インターネットで飛行機のチケットを取ろうと思ったら「大人一人につき、未就学児の子供の同行は二人まで」とあり、いきなりつまずいた。ウェブ上でのフォームにも二人以上の入力スペースがない! 航空会社のカウンターデスクに行き、子供が3人いる事情を話し、無事航空券を取得。
 子供を3人連れて海外に行く荷造りは、いくら考えても「あれが必要なんじゃないか、これが足りないんじゃないか」とエンドレスに心配なことが湧いてくる。しかし、パリも都会! 足りなければ何かしら手に入れられるだろう! と思うことにした。

 フライトは午前中だから、家を出るのはまあまあ早い時間だった。そんな出発当日の朝、「エルサがないの。ちゃぶもないの」と言いだす3歳の双子の娘の一人、スモモ。エルサは言わずもがな有名なキャラクターで、彼女が言うのはその小さなぬいぐるみ。そして「ちゃぶ」は、双子が赤ちゃんの頃から使っているガーゼケット、おくるみのこと。この頃の双子はこの「ちゃぶ」がいわゆる「ライナスの毛布」的な存在で、悲しいとき、眠いときの精神安定に欠かしてはならない最重要アイテムの一つだった。その布を口に当てている姿がおしゃぶりをしているように見えたため、「ちゃぶちゃぶしている」と言っていたらいつの間にか固有名詞になっていた(家庭内で謎の用語が定着する、育児あるある)。
 もうちょっと飛躍した話をすると、実は「ちゃぶ」たちと全く同じものを新品で大事に保管している。『ジェインのもうふ』という絵本では、赤ちゃんの頃から使いこまれ、年月とともに形を変えていくという毛布が登場していた。私は彼女たちが成人したときに、箱に入った新品の「ちゃぶ」を贈ろうと思っている。自己満足かもしれないけれど……。

 話をこのときに戻そう。そのくらい双子にとって大事な存在である「ちゃぶ」。柄もサクラ、スモモそれぞれにこだわりがあり、他のものでは代用が利かないため、もちろん洗い替えも用意してある。しかし洗い替えはもうスーツケースの中だし、昨日寝るときにも一緒に布団に持って入ったはずの「ちゃぶ」がどこかに消えたというのは考えがたい。空港へ向かうタクシーの時間も近づいてきている。早朝から大捜索が始まった。なんで、こんなアクシデントが、今日この日に限って起きるんだろう!?
 大捜索の結果、洗面所の、つけおき洗い用の蓋つきのホーローのバケツにエルサと「ちゃぶ」がセットで突っ込んであった。確信があったわけではなく「まさかね」という気持ちで蓋を開けた。寝る前にでも入れたのか、よりにもよってなんでこんなタイミングでこんなトリッキーな場所に入れたのか! 見つけたときの脱力感たるや。朝からどっと疲れた。

 自宅から空港までの移動は、ベビーシッターに同行をお願いした。ベビーカーはなんと2台。末っ子の長男・梅太郎用の一人用ベビーカー、そして今回の旅のために、二人乗りの縦型ベビーカーも導入。縦型にしたのはパリの路地の狭さを鑑みてだが、実際に街中ではたくさんの二人用横型ベビーカーも見かけたのでどちらでも良いのかもしれない。3歳と1歳後半。まだ3人全員がお昼寝が必要な時期なので、これだけのベビーカーが必要なのだ。
 当然、このスタイルでは大人一人での移動は無理。今回のパリ旅行では友人のムサボンが同行してくれることになっている。ムサボンは幼稚園からの同級生で、割と時間の都合がつきやすい仕事なのと、ブログのネタになるかも! ということで面白がってついてきてくれた。
 空港に先に着いていたムサボンは、体調の悪い私のために空港の薬局でポカリスエットと正露丸を買っておいてくれていた。ありがたい!

 そう、パリに行くまさに前日、私は猛烈な腹痛に襲われていた。原因はなんだったのかわからないが、体調が悪くなり始めたのがその日の夕方だったから、病院にも、薬局にも行けず。そもそも家に子供たちを置いて外に出られない。そして翌日の朝には飛行機に乗っていなくてはならない。常備薬もない。このまま子連れの長距離便だなんて、無謀にも程がある……!
 しかし探せばこうみょうも見つかるもので、子供たちの寝かしつけ後、布団の隙間から手を伸ばし、スマホでいろいろ調べて出張訪問型のドクターを呼ぶことに成功した! ドクターは夜遅くにもかかわらず来てくれて、診察し、さらにその場で薬の処方までしてくれた。便利なシステムがあるものだ。薬よ、なんとか効いてくれ。最終的な荷造りの点検も残っているなか、脂汗をかきながら祈るような気持ちで朝を迎えた。

 ベビーカーは飛行機に乗る前に荷物として預けたため、チェックインの後、搭乗口までの移動は、航空会社のスタッフの方がついてくださった。子供たちは制服を着た恰好いいお姉さんたちと手をつなぐことができて上機嫌、よく歩いてくれた。
 飛行機の中では、親子で4人並びの席を取った。子供たちは座席に座っても足がつかないのが少し心配だ。持参した空気で膨らませるタイプの足置きで足と床の隙間を埋める(こちらは離着陸時は使えなかったり、そもそも使用が禁止されていたり、航空会社によってルールが異なるため、要確認!)。押し入れから引っ張り出してきた新旧歴代のiPadには子供が遊べそうなアプリをあらかじめダウンロードし、さらに空港の売店で幼児向け雑誌なども購入。幼児連れ旅行の定番であるシールブックも。機内エンタメを見られるように、子供用のヘアバンド型のヘッドホンも持ってきた。
 こういう便利グッズみたいなものを日頃から検索しまくっているので、私は周りから「またなんか探してきてる!」と笑いながら呆れられること、しばしば。とにかく持ってきた様々なアイテムを小出しに提供しながら、機内での時間を過ごしていく。 
 機内食はチャイルドミールを事前に予約していた。シュウマイ、ハンバーグ、海苔でパンダの模様になっているご飯などなど、子供が喜びそうなものばかり! 包装されたお菓子も添えてあったが、フライトアテンダントさんからトレーを受け取った際に、子供たちにはバレないようにスッと抜いて、まずは食事に集中してもらう。
 子供たちは朝、家を出る前にバナナを食べただけだったからか、機内食をもりもりと……食べすぎて心配なくらい食べた。子供たちは私を挟んで両脇に座っていて、片側には子供二人。一番端の子には手が届きづらい状況だったが、自分できちんと食べていた。驚いたのが、私は教えていないような気がするのに、ナプキンを自分で膝の上に広げていたこと。日常ではまず使わないものなのに、どこで覚えたのだろう。成長を感じる!
 子供たちの食事(の監督)も終わり、体調も少し戻ってきたところで、無事飛行機に乗れたという安心感からか、私は気がつかないうちに、20分ほど寝てしまっていた。気絶と言ってもいいかもしれない。子供たちはすかさず脱走し、少し後ろに座っていたムサボンが対応してくれたらしい。ムサボンがそのときの私の写真を撮ってくれていたが、口をポカンと開けていて本当に気を失っているようだった……。

 *

続きは『杏のとことこパリ子連れ旅』(3月18日発売)で、ぜひお楽しみください!

■ 著者プロフィール
杏(あん)
1986 年4 月14 日生まれ、東京都出身。俳優・モデル。2001 年にデビューし、その後、雑誌、映画、ドラマなどで幅広く活躍。主な出演作品にNHK 連続テレビ小説「ごちそうさん」(ヒロイン)、NTV「花咲舞が黙ってない」シリーズ、CX「競争の番人」、映画「キングダム 運命の炎」、「私たちの声」、「翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜」、「窓ぎわのトットちゃん」(声の出演)、「かくしごと」、「劇映画 孤独のグルメ」などがある。2022 年にWFP 親善大使に就任し、同年日本とフランスで二拠点生活をスタート。2026 年放送・配信のWOWOW 日本×フィンランド共同製作ドラマ「連続ドラマW BLOOD & SWEAT」にて主演を務める。著書に『杏のパリ細うで繁盛記』『杏の気分ほろほろ』『杏のふむふむ』などがある。

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