この「本棚の二列目」は、ポプラ社員が自宅本棚を紹介しつつ、本棚の二列目(大好きな本や、前面に置くのがちょっと恥ずかしかったりする本など、色んな本が混在するとこ)まで公開しちゃおうというコーナーです。
出版社の社員が普段どんな本を読んでいるのか、よかったらご覧くださいませ。
第一回目は、宣伝プロモーション部所属の水野さんです。
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「ねえ、水野くんっていつもどんなパンツ履いてるの?」
要するに、そういう企画である。
題して「本棚の二列目」。
社員のプライベートな本棚の、”奥”の方に並んでいる本について探っていくという趣旨だそう。
表の姿に興味などない。本当のおまえを見せろ、と。
ハラスメント抵触ギリギリを攻めた、なんとも緻密な悪巧み。
誰や、考えたの…。他人のカメラロールをどんどんスクロールしていくタイプに違いない。
その最初の犠牲者に選ばれた私は、宣伝プロモーション部所属の水野と言う。
2018年度新卒入社の2年目。宣伝部に配属されて半年少々のぺーぺーである。
文芸編集部で普段不当な下っ端扱いを受けているコーナー担当森氏からすると、すやすやと眠っているウサギも同然。格好の餌食。
森氏「今度こんな企画やるんだけど、水野くん一発目どう?(威圧)」
水野「え?あ、え、あのっ、やります(怯え)」
※フィクションです
まずは読書遍歴を。ということで、ひとまず表の姿をご覧ください。
「いや、まず本棚ちゃうやん?」
「企画、『テレビ台の二列目』やったっけ?笑」
「パンツ見せるもなにもズボンすら履いてないやんけ!」
罵声&嘲笑が聞こえる…。
たしかにテレビ台に似てはいる。現に今もうちのテレビをしっかりと支えてくれているし、あの日ニトリで出会った際もたしかテレビ台コーナーに置かれていた。
しかしこれは、「かつてテレビ台だったもの」だ。本がこれだけ収められていればすでに本棚と化したと言っていい。きっと本人もその気になっている。役割が人を作るのだ。
というか、ひとり暮らしをはじめて間もない練馬区1K6.2畳(収納控えめ)だとこういったコンバートはやむを得ない。
会社のロッカーにも本を詰め込んではいるものの、今回の趣旨は「社会の窓の向こう側」を見せること。うちの本棚じゃなければ意味はないのだ。
事前に「森さん、うち本棚ないです。企画倒れになりますよ」って言ったもん。
「いいよいいよ。最初から本気のやつ見せられてもなんか違うし」と森氏。
これは…試し読み版…?
ということで、開き直ってウォーミングアップ開始。
まず、向かって左側は大好きなあだち充先生コーナー。
社会人になって以来コミックは基本電子版を買うことにしているが、あだち作品だけは例外。
第1面には『タッチ』と『MIX』の新旧明青学園モノが仲良く肩を並べている。
2列目以降には『みゆき』『ラフ』『H2』『クロスゲーム』『虹色とうがらし』各種短編などが勢ぞろい。
一人暮らし先に練馬区を選ぶ理由にもするくらい先生の大ファンの水野。
きっかけは小学生当時父親に借りた『タッチ』で、双子の兄であり野球に打ち込んでいた自分のアイデンティティみたいなものにビビビッと反応した。
言わずと知れた名作。名作過ぎて、キラキラした青春ストーリーとしての上っ面な印象(目指せ甲子園♡)だけが先行しているフシがあるのが非常に不満。
「上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の誰よりも。」――誰もが知っているこの名台詞にしても、実は単なるロマンチックな言葉選びでは全くない。
“そういえばちゃんと読んだことない”層はぜひ一読し、このセリフの真意に拍手喝采すべし。
あだち作品は野球漫画で名作が多いのは確かだが、もちろんそれ以外も一級品ばかりで、特に私は『ラフ』ではじめてあだち充という作家をきちんと意識した。
細かいズキューンは星の数ほどあるが、やっぱりラストシーンは何度も読んでも鳥肌が。
“野球漫画はちょっと…”層はこちらをぜひ。
ラストシーンひとつ取ってみても、『おあとがよろしいようで』なる各作品の最終回だけを集めた一冊が刊行されるほど、いずれの作品も有終の美を飾っている。
間があって、反復とズレがあって、最高のオチがある。あだち作品は「粋」を極めた文学ってこったい。
さて、向かって右側は小説コーナー。
書店よろしく「面陳」されているのは、季節のお気に入り本。シーズンごとに変わる水野のこだわりポイント。
いよいよ夏が来る今の季節はこの4作品。
中でも『夏の庭』は小学5年生から毎夏読むほど大事にしている作品。ひときわボロボロなのはそのせい。管理体制に問題はございません。
この本の「ぶどう」の描写の美しさだけでご飯10杯いけちゃう……って「面陳」本を語ることなどもってのほかのクレイジーコーナーであることを忘れていた。
この4冊の向こう、「棚挿し」1列目はこちら。
好きな作家さんの特別好きな作品だけが控えめに整列している、非常に安心感のある光景。
『新世界より』(著/貴志祐介)は高校生の頃熱中しすぎて、好きな子からの「宿題教えて」という奇跡のメールに深夜まで気が付かなかった苦い思い出すらある。(「ちょっとメールだと説明しづらいから電話していい?」のチャンスだったというのに…!)
森見さんの『熱帯』は宣伝部の部長に貸したまま戻って来ていない。「まさか大の大人が借りパクしてるんか…?」と頭に浮かんでは打ち消す毎日だ。
そしていよいよ本題の2列目=私のパンツはこちら。
※ポプラ社の本はほとんど会社に置いてあるんです。もちろんいっぱい読んでいます。非常に大事かつ危険なことなので一応書いておかないと。……読んでるってば!
こうして1列目もあわせてみてみると「青春」、「冒険」あたりが水野アンテナに触れるキーワードであることがよくわかる。
この中から偏愛本を紹介せよということなので、『キッチン』(著/吉本ばなな)をセレクト。
といっても私が愛してやまないのは表題作「キッチン」ではなく、同時収録の短編「ムーンライト・シャドウ」の方だ。
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大切な恋人・等を交通事故で亡くしたさつき。その悲しみから立ち直れず、ほとんど眠れないさつきは夜明けのジョギングを始める。
そんなある日、彼との想い出の場所である大きな川に架かった橋の上でさつきは不思議な女性・うららと出会う。
彼女は「あさっての朝五時三分前までにあの場所にいくと、条件さえそろえば、百年に一度の”ある種のかげろう”が見えるかもしれない」とさつきに告げ――
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そんな、不在と再生を瑞々しく描いたおはなし。
この短編を、私は高校時代の恩師から教わった。それだけでもあの高校に通った価値があると思うほど。
私は当時も今も身近な誰かを亡くす経験がなく、間もなく24歳になるが葬式に出席したこともない。これは幸運なことだと感じる一方で、死というものの寂しさを知らないことにどこか劣等感もあったりする。そのくせ、というかだからこそ、そういうものを過度にエンタメとして受け止めてしまっている自覚もある。
具体的なことで言えば、映画やドラマや小説の死別する場面で泣いてしまう自分をどこか薄っぺらく感じる。理不尽な死にまつわるニュースに憤る自分を頼りなく感じる。
別にさして深刻ではないが、事実こういういたたまれなさが隠し味程度にはある。
一方、この作品は死ぬことがドラマとして扱われないからちゃんと100%で響いてくれる。
死ぬことの痛みからではなく、さつきたちの逞しさに反応した涙だから。生きてくことの難しさとか喜びなら十分知っている。
死生に折り合いをつけようとする姿に美しさを感じた時、ぐっとくる。(『タッチ』も『夏の庭』のぶどうも要するにおんなじことなのだ)
なんとこれがよしもとさんの大学の卒業制作だというからびっくり!
描写といいモチーフといいすべてがきらきらと疾走しているのはそういう背景も大きい、はず。
そんな、七夕がくると読みたくなる一編を私の「本棚の二列目」から。
以上、いまも浅倉南を探し続けている宣伝部の水野による「本棚の二列目」でした。試し読み版はいかがでしたか?
次回以降、誰が紹介してくれるのか楽しみですね!おもろいの頼むで!
【あとがき】
「出版社勤務なのに本少ない」と思った方、鋭い。
実はこれは真実の姿ではありません。
三列目も、四列目も、五列目だってあるのです…。(小声)
しかしこれはあくまでクローゼットの中。「本棚」ではないのでね。
「本棚の二列目」ですもんね、森先輩。
この先、”パンツの向こう側”は、また機会があればということで。フフフフフ…。
水野廉