連載第二回、若者の次はいきなり一般書編集部、最年長者の登場です。
何なんだ、この人選……。
森潤也氏による、新種のいじめ?
いやいや、ひがみっぽいのはトシヨリの証拠。
かわいい後輩・森くんの「倉澤さんの本棚、興味あるんです~」という言葉を素直に受けとめることにいたしましょう。
まず自己紹介。
えーと、一般書の編集部にきて13年くらい(たぶん?)、大人向けの本をいろいろつくってます。いろいろって何だよって言われても、ホントにいろいろなんで説明に困る。
小説、エッセイ、ノンフィクション、新書も文庫も単行本も絵本も何でも。
ほら、いろいろでしょ。
見た目はこんな感じ。
いや、編集部では人間の格好してるけど、それは世を忍ぶ仮の姿。
実はこれが本性……というより理想なんですねー。
寝たいときに寝て、食べたいときに食べて、話しかけられても気が向かなければ無視して、遊びたいときは人の都合など気にせず遊んでと主張する。
ソウイウモノニワタシハナリタイ。
閑話休題。
次は読書遍歴、なんだけど。
実はワタクシ、数年前に大掛かりな「本の断捨離」を決行したんですね。
断捨離の基準としたのは、リタイア後もこの本を読みたいかどうか。
そもそも自分の本棚にあるのは、すごく感動したり、めちゃおもしろかったり、よかったなあ、好きだなあと思う本がほとんどのはずなんだけど、実際に読んだのは何十年も前だったりして、中身をよく覚えていない、思い出せないものも多数あり。
さらに、若い頃は「リタイアして時間がたくさんできたら、大長編とか何十巻もある全集とかゆっくり読もう!」なんて妄想を抱いていたけれど、実際にリタイア間近のトシヨリになってみると、そんなことは夢マボロシだということが、よーくわかる。
いや、時間はたくさんあると思いますよ、きっと。
でも、大長編だの全集読破だのを決行する気力・体力・集中力がない!
今だって、すでに十分失われているんだから、もっと年をとったら、さらになくなることは自明の理!
だから、そういう状態になっても「この本は、この作家は何度でも読む、読みたい!」というものだけを残すということにしたのでした。
記憶力もたいそう衰えるので、同じ本を何度読んでも楽しめるというメリットも、トシヨリにはあるしね。
そんなわけで、今の本棚にあるのはかなり厳選された本たちなので、残っているのは遍歴のかけらかもしれないけれど……ひとまず見ていきましょうか。
これは高校生の頃に愛読した本たち。
庄司薫さんは大好きでしたねー。
「赤ずきんちゃん」だけちょっと新しいのは、行方不明になってあとから買ったから。
(その後、実家で発見)
「赤ずきんちゃん気をつけて」「さよなら怪傑黒頭巾」「白鳥の歌なんか聞こえない」「僕の大好きな青髭」が四部作なんだけど、「青髭」はだいぶ時間が経って刊行されて、もう大学生になっていたから単行本で買いました。あ、ここには写ってないや。
永遠の青春文学として読み継がれるに違いない!と思っていたんだけど、意外にそうでもなくて、庄司薫さんがほとんど書かなくなっちゃったこともあって、今では忘れられた作家のような気もする。
この中では「白鳥」がいちばん好きで、でもすごく好きだった記憶が強すぎて、読み返してつまらなかったらどうしようと思うと怖くて読めないの(笑)。
まあ、ここらへんは青春のモニュメントですね。
サリンジャーも同じ。村上春樹さんとかで新訳も出ているけれど、なぜかそれを読もうとは思わないし。
フランソワーズ・サガンも、せっせと読みました。
十代の小娘に、フランスの恋愛小説の何がわかっていたのか、今思えば笑っちゃうけど、新潮文庫から出ていたものは全部読んだんじゃないかな。で、再読するかどうかは不明だけど、とくに好きな2冊だけを残しました。
大学生の頃は、いちおう日本文学科だったから、近代・現代の作家はひと通り読んできたんだけど、断捨離からこぼれ落ちたのがほとんど。
まあ、本もボロボロだし、読みたかったらまた買えばいいかなと。
その中で、倉橋由美子さんはボロボロのものも取っておきたかった人。
『暗い旅』『婚約』ですっかりハマって、その後の「桂子さんシリーズ」とか、作風がかなり変わってからも好きでずっと読み続けてましたねー。
須賀敦子さんと並んで「何度でも読みたい」作家さんですね。
この二人は、ご存命中に会ってみたかった……。
時代はだいぶあとだけど、この方々(or作品)もずっと読みたいカテゴリー。
並べてみると女性の作家が多いんだなあ。
あと、新刊が出たらほぼ必ず買う宮部みゆきさん、伊坂幸太郎さんも「何度でも、ずっと」の人なんですけど、現在は実家の本棚に移動しているので、お見せできず。
で、こちらは全然違うタイプ。
この人にハマったのは、たぶん三十代になってから。
最近また読み返してるんだけど、何度読んでもおもしろい。
さらに買い足そうと思っている作家さん。
編集者になる以前は、本と言えば小説、物語だったんだけど、仕事に必要ということもあり、いろんなジャンルの本を読むようになりましたね。
その中で、いっときブックデザイナーの本をせっせと読んでた時期も。
画集とかそんなに持っているわけじゃないけど、ビジュアル系の本も結構好きです。
本棚の一角にささやかなコーナーがあるので、一部をご紹介。
遍歴、長いなあ。
自分でも飽きてきたので、そろそろ真打登場!
村上春樹さん棚ですね。この人はもう運命というしかない(笑)。
小説に限れば、たぶん全作読んでいるんじゃないかな。
私が大学を卒業した頃のデビューなので、ほぼリアルタイムで読んできてます。
「『風の歌を聴け』いいよー」と、友達に勧められて、最初はあまりピンとこなかったんだけど『羊をめぐる冒険』でドハマリ!
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を読んだときは、「同じ時代に生まれてきてくれて、小説を書いてくれてありがとう!」という気持ちになりました。
どういう立ち位置だ、私。
私の中では『世界の終わり…』が村上春樹最高傑作で、それを超える作品をいつか読みたいと思って新刊を買い続けているのだけど、いまだに出会えません。
生きてるうちに書いてね、村上さん!
ということで、いちおうこれをお宝本にしておこうかな。
お宝というより偏愛本ですかね。
遍歴のおまけに、衝撃を受けた本を2冊挙げてみます。
エーリッヒ・フロムのロングセラー。
今は新訳で装丁も違うものが出ているみたいだから、私が持っているのはかなり古い。
二十代の終わり頃に読んだと思うんだけど、愛と言えば恋愛のことで、好きな人に「愛されること」ばかり考えていた若い女子にとって、「愛は技術であり、学ぶことができる」という言葉は、すごく衝撃的でした。
愛が恋愛のことだけじゃないとわかる年齢になっても、「愛する技術」をしっかり身につけられたとは思えないので、何度でも読んでみなくちゃと思う一冊です。
こちらはちがう意味の衝撃。
赤瀬川源平大先生の傑作です。
ちくま文庫にも入ってるらしいから、こちらもロングセラーの名著かも(笑)。
その後の、路上観察学やナニコレ珍百景などの流れの、これが嚆矢だと思うんだけど、サブカルチャーがまだ消費されていない時代だったから、ピカピカに新鮮でした。
あ、遍歴といえば、マンガも欠かせなかったのに……すっかり忘れてた。
まあ、また次の機会ということで!(そんなものがあれば)
余談ですが、第一回の水野くんとのつながりをひとつ発見!
よしもとばななさんのデビュー作『キッチン』に収録されている「ムーンライトシャドウ」、私もひそかに「キッチン」よりこっちの方が好きだなあと思っているのです。
気が合うね!
彼女のデビューもなかなかの衝撃でした。すごい人が出てきたなあって、素直に思った。
その後、しばらくは新刊出るたびに買っていたけど、断捨離で残したのはこの一冊だけ。
そして、水野くんをうらやましがらせることがひとつ。
この本は初版本、第一刷なんだよん。
年とってるといいこともあるなあ。
おしまい。