
あのCMは忘れられません。
じゃがりこじゃがりこじゃがりこじゃがりこ
じゃがりこじゃがりこじゃがりこじゃがりこ
じゃーがーりーこじゃーがーりーこじゃーがーりーこじゃーがーりーこ
そうです、カルビーポテトスティック、じゃ・が・り・こ! です。女の人が一人でじゃがりこを食ってるCMを覚えていらっしゃるでしょうか。じゃがりこを食うリズムに合わせて「じゃーがーりーこじゃーがーりーこ」って声が流れるあれです。
私が小学校2年か3年、いや4年の頃だったかな。あのCMを見てすぐ、小遣いもってコンビニに走りました。食ってみて驚きましたよ。そのうまさに。噛んだ瞬間、うめーーー‼ って。大好きになりました。
小遣いがすくない当時の私にはかんたんに買えるシロモノじゃありませんでしたが、その頃からのヘビーユーザーです。
いちばん食ってるのはやっぱりサラダ味。触感、味、香り、サイズ……お菓子として完璧なんじゃないでしょうか。チーズ味もジャガバター味もうまい。期間限定の味も発売されたら絶対に食ってます。
でもファーストチョイスはサラダ味。私の軸足はつねにサラダ味に置かれている状態です。そこから気分でチーズ味にいったり、じゃがバター味にいったり。サラダ味を中心に、そのまわりをいろんな味がまわってる感じ。サラダ味がいわば太陽なんですね。
じゃがりこはどんな飲み物にも合います。無敵です。
私が日常的によく飲むのは、ブラックコーヒー、コーラ、ライフガード、マッチ。だいたいこの4種類です。これぜんぶに合います。間違いないです。
それだけじゃない。酒にも合います。ビールにも、焼酎にも、ハイボールにも。じゃがりこはすべての飲み物に合うように設計されてるんです。
私、先ほど言いましたよね。じゃがりこは太陽なんです。飲み物はじゃがりこのまわりをまわってる惑星です。飲み物はそのときの気分で選べばいい。だってじゃがりこはなんにでも合うんですから。太陽は惑星を選んだりしません。じゃがりこはすべてを照らしています。
じゃがりこは「移動」とも相性がいい。新幹線の中で食うじゃがりこがまたうまいんです。景色を見ながら、東海道新幹線に乗ってるなら富士山を見ながら、じゃがりこを食うと、もっとうまくなる。もちろん脳内で「じゃーがーりーこじゃーがーりーこ」のBGMを流しながら。
じゃがりこに合わないものってこの世の中にあるんでしょうか。
そんな私を新幹線の中で目撃したリスナーがいます。
「もぐらさんはじゃがりこを食べながら、ただ茫然と前の座席の一点を見つめていました」というメールが私たちのラジオ「空気階段の踊り場」に届きました。
その日は大阪でライブがあった日。11時45分に劇場入りしてリハーサルをするはずが、私が東京の自宅で起きたのは11時20分。なにをどうしたって間に合わない。でもさいわい本番にはギリギリ間に合いそうです。相方の水川に連絡を入れて、急いで新幹線に乗りました。そこでリスナーに目撃されたというわけですね。
そのメールを読んで、水川が怒りはじめました。
「お前、遅刻したくせにじゃがりこ食うな!」
その怒りは発言とともにどんどんエスカレートしていきます。
「遅刻してんのに味のするもん食うな。反省してる人間はじゃがりこ買わないんだよ!」
なんで遅刻した人間が新幹線でじゃがりこ食ってんだと。遅刻した人間らしく静かに反省してろと。そういう主張なんですけど、これは本当に子どもの主張というか、論理もなにもない動物的な怒りです。
反省することと、じゃがりこを食うことは、結びつけて考えることじゃない。まったく関係ないことですから。
遅刻するなっていうキレ方だったらわかります。ちゃんと起きろとかね。でも遅刻したやつが新幹線でじゃがりこ食うなって、これはもう暴論です。どういう意味? 本当に首をかしげますよ。
だってねえ、じゃがりこ食わなかったら私、劇場に間に合うんですか?
じゃがりこ食わずに反省した雰囲気をだしていたら、新幹線のスピードが速くなるんですか?
そんなシステムありませんよ。ちゃんと決められたスピードで走って、時間通りに到着するわけです。じゃがりこ食ってようが食っていまいが、正座してようが寝てようが、私が乗ってるのぞみの速さは変わらないんですよ。ただのやつあたりです、水川がしてるのは。
そもそも、私は反省していますからね。大阪の劇場のスタッフのみなさん、一緒に出演する芸人さん、マネージャー、もちろん相方の水川にも、全方位に対して申し訳ないと思っています。それなのになんでじゃがりこ食っただけで、こんな怒られなきゃならないんでしょう。
この日から、空気階段の踊り場に「なんか怒られました」のコーナーができました。私が新幹線でじゃがりこ食ってたらなんか知らないけど水川に怒られた、というような話をリスナーに投稿してもらうものです。このときから今までずっと続いているコーナーです。
あれから4年たちましたけど、水川はまだ納得してない。やっぱり暴論を振りかざす人って他の人の意見をきけないんですね。あいつはいまだにたぶん自分が正しいと思ってます。あいつが自分の間違いに気づくまで「なんか怒られました」は続くんだと思います。

写真:辻敦(ポプラ社)
鈴木もぐら(すずき・もぐら):1987年5月13日生まれ。千葉県出身。NSC東京校17期で、同期の水川かたまりと2012年にコンビ「空気階段」結成。2019年に『キングオブコント』ではじめて決勝に進出し、2021年に優勝。2017年から放送中のラジオ『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)では、それぞれの結婚や離婚などをリアルタイムで伝え、反響を呼んでいる。特技は将棋(アマチュア二段)、麻雀(アマチュア四段)、卓球(中学時代千葉県ベスト16)。