ポプラ社がお届けするストーリー&エッセイマガジン
メニュー
facebooktwitter
  1. トップ
  2. 小説連載一覧
  3. やるせない昼下がりのご褒美
  4. 春とマーマレード(著/友井羊)

春とマーマレード(著/友井羊)

 
 ひどく寒い二月の夜に事故は起きた。
 幸せな夫婦が、暖房の効いた乗用車で帰宅していた。時刻は夜の九時半、自宅には中学生の娘が待っている。運転席に座る夫は娘の顔を早く見たいと願いながら、法定速度を守って慎重にハンドルを操っていた。
 夕方から降りはじめた雨はみぞれになり、フロントガラスに当たっていた。車は片側一車線の道路を走り、妻は助手席でスマホを操作している。
 夫は対向車線のヘッドライトに違和感を覚える。近づいてくる速度が明らかに速かったのだ。危ないなと気に留めていると、前を走る車のブレーキランプが点灯するのが見えた。
 アクセルを緩めるのと同時に、妻のスマートフォンの着信音が鳴った。娘からのメッセージだろう。ワイパーがフロントガラスの湿った雪を押し退ける。助手席にほんの一瞬だけ視線を寄越すと、妻がくすくすと笑いながら返信を打っていた。
「あっ」
 夫は正面を向くのと同時に声を上げた。
 対向車がセンターラインを大きく越えて迫り、相手しゃりょうの運転手と目が合った。後の警察の捜査によって、対向車を運転していた男の血液からアルコールが検出されることになる。夫はハンドルを切ろうとしたが間に合わず、二台の車は激突した。
 事故の衝撃で妻のスマートフォンはフロントガラスを突き破り、車外に投げ出される。植え込みに偶然落ちたことで壊れずに済んだ。
『早く帰ってきてね』
 スマホの画面に愛娘からのメッセージが表示される。
 暗い植え込みを画面の明かりがぼんやりと照らす。この事故で三名の尊い命が失われた。帰宅を待つ娘のスマートフォンに、両親から返信が送られることは永遠になかった。

  ◆

 あおは目覚まし時計の音で目を覚ました。
 カーテン越しに柔らかな陽射しが注がれる。時計は午前七時を指していた。ベッドを下りると、足の裏に木の床の感触がひんやりと伝わった。
 薄手の白いカーテンを横に動かして窓を開けると、四月半ばの朝の空気が入り込んだ。窓の外では多くの木々が家を取り囲み、枝や葉が風に揺れている。
 大きく伸びをしてから、パジャマからながそでのシャツとコットンパンツに着替える。アンティーク調の卓上鏡を見ながら寝癖を直す。この鏡は母が実家に残していたものだ。あの事故以来一度も美容院に行けていないせいで、髪が伸びて肩にかかっていた。
 木製のドアを開けると、鼻先をくんせいこうばしい香りがかすめた。お腹がぐーっと音を立てる。
 スリッパで廊下を歩くとぱたぱたと鳴った。洗面所で顔を洗ってからふわふわの綿のタオルでき、化粧水を肌に馴染ませる。リビングに入り、隅に設置された仏壇に手を合わせる。お線香を供えてからりんを鳴らすと、か細く高い音が響いた。
 ダイニングキッチンに続くドアを開ける。木の壁は色合いが落ち着いていて、テーブルや、食器棚など家具はぜんぶ年季の入った木製だった。
 とうはシンクの前でレタスを千切っていた。
「おはよう、桃李おじさん」
 桃李が振り向き、無表情のまま口を開く。
「おはよう、碧」
 お寺の鐘の音みたいに低く落ち着いた声だった。
 桃李は碧の母方のにあたる。二月の寒い夜に起きた交通事故によって、碧はひとりきりになった。残された女子中学生をどう扱うかが問題になり、最終的に桃李が引き取ってくれた。だから碧にとって大の恩人なのだ。
 この家に来たのは二週間前、三月末のことだ。新幹線と在来線で西に移動し、港でフェリーに乗り込んだ。桃李の住まいはないかいの島にあった。
 生まれて初めて船に揺られ、遠ざかる陸地と海を眺めた。そのとき碧はまるで、世界の果てに来たみたいな気持ちになった。
「ジャムは昨日開けたブルーベリーでいいんだよね」
「ああ、頼む」
 返事を聞いてから、冷蔵庫から手作りジャムの瓶を取り出してテーブルに載せる。それから牛乳をふたつのコップに注いだ。
 桃李がサラダを運んでくれる。背が高くて手足が長いから、ただ動いているだけで様になる。トースターが鳴り、扉が開いた瞬間に芳ばしさがキッチンに広がった。
 向かい合って座り、料理に手を合わせる。
「いただきます」
 桃李はれいでシャープな顔立ちをしていて、ひとまぶたが鋭い印象を与える。耳を覆うくらいの髪の毛は柔らかそうで、髪質は真っ直ぐだ。年齢は三十五歳のはずだけど、肌がつるんとしていて二十代にしか見えない。
「食べないのか?」
 桃李が首を傾げる。
「ううん、いただきます」
 じっと見ていたせいで変に思われたかもしれない。だけど本当のところはわからない。いつも真顔だから表情や口調から感情を読み取るのが難しいのだ。
 碧はトーストにジャムを載せてほおる。ブルーベリーは果肉の食感が残っていて、トーストの表面はサクサクだけどなかはふかふかだ。みしめると果実の甘みと独特の香り、心地好い酸味が口いっぱいに広がった。
 この家のジャムは、とびっきりおいしい。
 ジャムは桃李が最初から手作りしている。
 しょうしんしょうめい、果物を育てるところからぜんぶだ。
 ダイニングキッチンの窓から外に目を向けると、庭にはたくさんの木々が生えていた。そのほとんどが果物の採れる果樹らしく、桃李が世話をしているという。そして庭で収穫した果物がジャムに生まれ変わるのだ。
 無言のダイニングキッチンに、食事の音だけが満ちる。
 レタスだけのサラダは新鮮でパリッとしていて、塩とオリーブオイルだけで満足できた。ベーコンはカリカリに焼かれ、脂がしっかり抜けていて軽い食感だ。小麦の味が感じられるトーストとの相性もばっちりだ。
 どの料理もおいしいけど、何よりも感動するのは、やっぱり果物の加工品の数々だ。今まで何種類か食べてみたところ、どれも採れたてを食べているかのようにみずみずしくて、果実のおいしさがぎゅっと凝縮されていた。
 リビングにある木製の棚には、中身の色のちがうガラス瓶がたくさん並んでいる。多種多様な果物で作られたジャムやコンポートは、どれも宝石みたいに輝いて見えた。
 あの事故以降、碧は食欲がほとんどなくなった。ポテトチップスだけで一日過ごしたこともある。この家に来てすぐも同じだったけど、ジャムのおいしさに感動してから、少しずつ食べる意欲が戻ってきた。そして現在は以前と同じくらい食べられるまでになった。
 食事を終えてから、シンクに食器を運ぶ。桃李が洗い物をする横で、きんで水滴を拭き取ってから棚に戻す。碧は最後の一枚をしまい終えた。
「それじゃ課題をしてくるね」
「ああ、わからないところがあったら聞くように」
「うん、そのときはお願いするね」
 ダイニングキッチンを出るとき小さくお辞儀をする。洗面所で軽く歯をみがき、碧に与えられた部屋に戻って勉強机に向かう。
 碧はあの日から、学校に行けなくなった。
 島に来たあとは桃李が転校の手続きをしてくれたみたいだけど、ひとつだけあるらしい中学には一度も登校していない。不登校の生徒のためのカリキュラムがあるようで、碧は定期的に届けられるプリントを毎日こなしていた。
 学校に行かないことについて、桃李は何も言わない。受け入れた上で見守っているのか。興味がなくて見捨てているのか。あきれているのか、それ以外なのか。何を考えているのか、二週間経っても全然わからないでいる。
「ふう」
 最初のプリントを仕上げる。幸いなことに勉強は得意なので、教科書を読むだけで疑問点は解消できた。
 身体からだを伸ばしてから窓の外に目を向ける。生い茂る木々が敷地を取り囲んでいて、外の景色をさえぎっている。来たときの記憶によれば、この家は人里からそう離れていないはずだ。それなのにまるで深い森の奥にいるような気持ちになる。
 ずっと疑問に思っていることがあった。
 どうして桃李は碧を引き取ってくれたんだろう。
 碧は桃李とほとんど会ったことがなかった。ここはお母さんや桃李が子供の頃に住んでいた家らしいけど、母方の祖父母は碧が物心つく前に亡くなっている。そのためお盆やお正月などに帰省することはなかった。そして母の弟である桃李とは七歳のときに一度会ったきりだ。馴染みのないめいに思い入れなんてないはずだ。
 叔父と姪の間柄とはいえ、引き受ける義務なんてないのだ。母方の親戚は全然いないらしくて、父方の親戚は碧の住んでいた東京近郊にいっぱい住んでいる。だけどその全員が、碧なんてほとんどいないものとして扱った。
 このまま、ひとりで生きるのだと思った。
 両親の帰ってこない家は静かだった。ぜんぶの照明を点けてもなぜか全体が暗い気がした。みしりと家鳴りの音がするだけで碧は悲鳴を上げた。怖くて膝を抱えながら震え、朝がやってくるのを待ち続けた。
「あ……」
 生まれ育った家のことを思い出すだけで息が苦しくなり、手足が急に痺れて冷えていく。まるで絶壁のふちに立っているような気持ちだった。
 あの事故の日、何もかもがおしまいになった。だけど今いるこの家は、暖かくて居心地が好い。こんな生活が送れるようになるなんて考えていなかった。
 深呼吸を繰り返すと、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
 桃李には心から感謝をしている。だから恩返しがしたいとずっと思っていた。
 だけど自分にできることなんてあるのだろうか。
 桃李の仕事はイラストレーターで、広告やポスター、雑誌の挿絵などを描いたりしている。桃李が描いた絵を書店で何度も見かけたことがある。お母さんは絵を見つけるといつもうれしそうにはしゃいでいた。
「みんな自然と、桃李の絵に注目するの」
 お母さんは桃李の絵がカバーを飾った本を手に取って、誇らしげにそう言っていた。緑色を多用した淡い色合いの絵柄は透明感があって、果物が描かれていることが多かった。優しいタッチなのにどこか寂しげで、碧も好ましく思っていた。
 桃李は仕事場に籠もることも多いけど、庭で描くこともあった。スケッチブックを使うこともあるし、タブレットにペンを走らせているのを窓越しに何度か見かけている。仕事場が見えたときもあって、大きなディスプレイに向かって絵を描いていた。キャンバスに絵の具で描くのでなく、パソコンを使うことを意外に思った。
 仕事に関して役に立てることはないだろう。碧に絵心はないし、パソコンにも詳しくなかった。モデルになれるような可愛かわいらしい見た目でもない。
 家事はなるべく手伝っているけどそうろうなのだから当たり前だ。ここでの生活にもようやく慣れてきたから、今後は今よりも家事の担当割合を増やすつもりでいる。桃李が不快に思わないように、この家に来てから明るく振る舞うよう努めてもいた。
 それ以外に、できることを探さなくちゃいけない。
 ふいに甲高い鳥の声が聞こえて、碧は窓辺に目を向ける。窓枠の下辺には花を置けるスペースがあって、オレンジ色の顔をした小さな鳥がいた。たしかコマドリだったはずだ。ピピピピと可愛らしく歌い、羽ばたいて去っていく。
 窓辺に寄って小鳥を探すと、庭にある木の枝に留まっていた。
「そっか」
 碧は普段より早く課題を進めた。お昼ごはんを済ませてからも熱心に取り組み、今日の分を終わらせた直後に庭から物音が聞こえた。
 窓から庭を見ると、作業着姿の桃李がいた。桃李はほぼ毎日、お昼過ぎに庭の手入れをする。この二週間観察し、ルーティーンを把握していた。だから今日も外に出てくると予想していた。
 邪魔になりそうなので、髪の毛をまとめようと思った。だけど碧はヘアゴムを持っていない。そのため手近にあったハンカチで結ぶことにした。
 次に整理を終えていない荷物から前の中学のジャージを引っ張り出し、手早く着替える。するとサイズが微妙に合わなくなっていた。あの事故のあとに体型が変わったのは自覚している。だから構わずに部屋を出て、玄関でスリッパからスニーカーに履き替えた。
 玄関のドアは木製で白いペンキで塗られていた。ノブをひねったところで足を止める。この家に来て以来、一度も屋外に出たことがないことを思い出す。生活に慣れることに精一杯で、外に意識を向ける余裕がなかったのだ。
 ドアの外から甲高い鳥の声が聞こえた気がした。先ほどのコマドリだろうか。まるでいざなわれている気がして、思い切ってドアを全開にする。
 ポーチを踏みしめるのと同時に風が吹き、木々の葉をさわさわと揺らした。顔を上げると、木々と青い空が視界に入る。全身に日の光を浴びるのはひさしぶりだ。
 大地の上に立つと、靴底を通して小石や枝などたくさんの感触が伝わってきた。探したところ桃李は庭にある物置を開けるところだった。
「あの」
 碧に気づいた桃李は目を広げた。
「何かあったのか?」
 背が高いので威圧感があって、口調は問い詰めるときみたいだ。怖じ気づきそうになるけれど勇気を振り絞る。
「課題はもう終わったから、庭の仕事を手伝ってもいいかな」
 イラストの手伝いは無理だけど、果物の世話ならできることがあるはずだ。桃李は黙ったまま碧を見下ろし、小さくうなずいた。
「これから夏みかんを収穫する。一緒に来なさい」
「わかった。がんばるね」
 仕事があることが嬉しかった。この家にいることを、許された気がする。
 桃李が足が三本の脚立や道具を取り出し、抱えながら庭の奥に進む。碧は背中を追いかけ、一緒に背の高い木の前にやってきた。
 大きなかんきつるいの果物が鈴生りに実っている。夏みかんなら食べたことが何回かあるけれど、枝にくっついている光景は初めて見る。桃李が新品の軍手を包装ビニールから取り出し、大きなハサミと一緒に手渡してくれる。
「碧は低い位置の果実を採って、このカゴに入れてくれ」
「わかった」
 桃李も同じハサミを持ち、碧には届かない高さの夏みかんを枝から切り離していった。見様でハサミを手に取り、まずは果実をつかんだ。夏みかんは丸まると大きく、引っ張ると枝が曲がった。刃をへいに当ててハサミの柄をぎゅっと握る。すると枝が反動でしなり、果実の重さが手にかかった。
「わっ」
 夏みかんは想像よりも重く、果実が木から切り離されたことが伝わってくる。明るいオレンジ色の表面にぶつぶつがある。地面に置いたカゴに果実を入れた。次の果実を収穫し、同じ作業を繰り返す。そこで碧は疑問を口にした。
「夏みかんなのに、春に採れるんだね」
 声に出してから、失敗だったかと不安になる。口を動かしていないで手を動かせと叱られるかもしれない。だけど桃李は気にした素振りもなく返事をくれた。
「夏みかんは秋に実るが、その時期は酸味が強くて食べられない。だが翌年の夏まで樹上で放置すると酸味が抜けておいしくなる。それで明治時代くらいに夏みかんと呼ばれるようになった。今は品種改良が進み、春に収穫できるようになったんだ」
 育てているだけあって詳しいのだろう。ペースはゆっくりで、一言ずつ確かめるようなしゃべり方だ。普段無口だから、もっと話を聞いてみたい気持ちになった。
「そんなに前からある果物なんだね」
「発祥はもう少し古い。江戸時代に山口県の海岸に、どこかから種が漂着したらしい。その種を育てた木が夏みかんの起源と言われているんだ」
「この果物も、海を越えてきたんだ」
 枝になる夏みかんの果実を見つめる。碧も流れ着くようにして、海を渡ってこの島にやってきた。そう思うと不思議と親しみが湧いてくる。
 低層と中層の果実を採り終えると、桃李が三脚に上りはじめた。そして頭上から指示を出した。
「果実を地面に落とすから、当たらないようにして拾ってくれ」
「気をつけるね」
 桃李が収穫した夏みかんを放ると、草が生い茂る柔らかな地面にぼとんと落ちた。碧が拾ってカゴに入れると、また夏みかんを投げてくる。カゴがいっぱいになったら新しいカゴと交換した。
 三十分くらいでぜんぶ採り終えた。
 大きなカゴみっつが満杯になっている。碧は達成感と疲労を同時に覚えていた。身体がひさしぶりに熱を帯び、肌が汗で濡れている。ずっと引き籠もっていたせいで自覚以上に体力が落ちていたようだ。
 碧はひと息ついてから広々とした庭を見渡した。ほかに果実が実っている木はどこにもない。夏みかんを収穫したことで、この庭に果実がなっている木はなくなってしまった。
「今、実っているのは夏みかんだけなの?」
 桃李が三脚から下りてから答えてくれる。
「春は花が咲く季節だから果実はあまりならない。初夏から果実を収穫するために、今は庭の手入れをして準備をする時期なんだ。春といえばいちごだが、難しいからうちでは作っていない」
 やっぱり果物のことになると饒舌だ。桃李が作業着についた枝葉を払い、三脚をたたんだ。機具を物置に収め、二人で協力してカゴをキッチンに持っていく。
「もう少し協力してもらう」
「わかった」
 桃李が夏みかんの表面を水洗いして汚れを落とし、碧が清潔なガーゼタオルで水滴を拭き取る。ぜんぶを洗い終えるだけでも一仕事だった。
 キッチンに大量の夏みかんが山盛りになっている。その光景に満足感を覚えていると、桃李が果物ナイフを手に取った。それから皮を器用にきはじめる。固い皮が取れた中身は白いふわふわに包まれていた。
 どこまで食べていいのだろう。疑問に思っていると、桃李は同じように別の実の皮をあっという間に剝いた。そして白い球体を割って、大きな粒を取り外す。
 夏みかんの粒はみかんとちがって薄皮が厚かった。桃李が薄皮をくと、瑞々しい果肉が顔を出した。碧も真似をしてから、果肉にかぶりつく。その瞬間に果汁が弾け、鮮烈な酸味と柑橘の香り、優しい甘みが口いっぱいに広がった。
「おいしい」
 夏みかんをひとつ食べるのは多い気がしたけど、すぐに平らげてしまう。採れたての果実は不思議と、普段買ってきたものよりもエネルギーに満ちているように思えた。
 碧はうずたかく積まれた夏みかんに目を向ける。
「すごく瑞々しかった。でもこんなにたくさん食べきれるかな」
「常温なら一週間、冷蔵庫の野菜室なら四週間は日持ちする。食べきれない分はマーマレードにする」
「マーマレード?」
 自然と声が弾む。
「好きなのか」
「うん。お母さんが毎年作ってくれたんだ」
 桃李が目を見開いた。珍しく驚いた様子だった。
「姉さんが作るなんて意外だな」
「そうなの? お母さんは毎日ごはんを作ってくれていたよ」
「姉さんは料理が苦手だったから」
 意外だった。お母さんは碧が物心ついたときから毎日台所に立っていて、スーパーマーケットやお弁当屋さんでお総菜を買うことさえまれだった。
 お母さんはおっとりした性格だった。のんびりしすぎてお父さんに文句を言われることもあったけど、どんなことにもに取り組む人だった。碧の話にも真剣に耳を傾けて、いつだって味方になってくれた。
 急に息が苦しくなる。胸を押さえて背中を丸める碧を見て、桃李が素早く近寄ってきた。桃李が用意した椅子に座り、深呼吸を繰り返した。
「すまない。姉さんの話題を出すべきじゃなかった」
「話を振ったのは、私だから」
 荒い呼吸で応える碧を、桃李がかたわらで見守ってくれる。
 呼吸が落ち着き、深く細く息を吐く。すると桃李がすっと離れた。
「これからマーマレードを作る。体調が悪いなら部屋で休んでいなさい」
「ううん、手伝いたい」
 桃李はテーブルの上にボウルやまな板を用意しはじめた。そして無言のまま、夏みかんの皮を先ほどのように剝きはじめる。ここにいてもいいのだろうか。不安を感じていると、普段通りの抑揚のない喋り方で教えてくれた。
「夏みかんの粒から薄皮をいで、種を取り除いてほしい。果肉はこのボウルに入れて。薄皮と種も使うから、こっちの小さなボウルに分けるように」
「わかった」
 手伝ってもいいらしい。碧は手を洗ってから指示に従い、果物ナイフを使って果肉と薄皮を切り分けていった。種も取って小さなボウルに入れる。桃李は別の果物ナイフで夏みかんの皮を器用に剝き続けている。
「薄皮と種なんて使うの?」
 薄皮には白色のワタがたっぷりついていた。
「ペクチンが大量に含まれている。ジャムのとろみのもとになるから、煮込むときに加えるんだ」
「理由があるんだね」
 ペクチンという成分は、フルーチェのパッケージの裏で見た覚えがある。ジャムを作るときにも使われるなんて知らなかった。桃李はあっという間にぜんぶの皮を剝いた。それから皮についた白色のワタをスプーンでこそぎ落とした。
 次に皮を細切りにし、鍋に水と一緒に入れて火にかける。沸騰したらザルでお湯を切って、また同じように皮をでていった。
 碧は薄皮と種を取り除きながらたずねた。
「どうして皮を茹でているの?」
「アクを取っているんだ」
 桃李が皮を茹でこぼしている間に作業を終えた。それから二つのボウルをのぞき込んだ。失敗していないか不安を抱いていると、桃李が無表情のままぼそっと言った。
「初めてにしては上出来だ」
「よかった」
 この家で暮らすようになってから、褒められたのは初めてかもしれない。胸の奥から嬉しさが込み上げてくる。
 桃李は皮を鍋に入れたまま水につけてふたをした。そして果実や薄皮、種などの入ったボウルにラップをかけて冷蔵庫に並べた。
「皮を一晩水にさらして苦みを取る。続きはまた明日だ」
「わかった」
 時刻は夕方近くになっていた。碧は軽くシャワーを浴びることにした。浴室に入ってすいせんをひねると、シャワーノズルからお湯が降ってくる。汗を洗い流しながら、母が手作りしたマーマレードの味を思い返した。

 翌朝、甘い柑橘の香りで目が覚めた。
 懐かしい感覚に慌てて身体を起こし、すぐに生まれ育った家ではないことを理解する。お母さんがマーマレードを作るときも、家中が柑橘の香りに包まれていた。だから勘違いしてしまったけれど、お母さんはもういないのだ。
 気持ちが落ち着いてから着替えを済ませる。時計は午前六時半を指している。碧はリビングの仏壇に手を合わせてから、ダイニングキッチンに足を踏み入れる。
 キッチンは濃密な柑橘の香りで満ちていた。桃李はコンロの前に立って、火にかけた鍋の中身をヘラでかき混ぜていた。
「おはよう、もう作っているんだね」
「おはよう。朝食に間に合わせようと思ったんだ。もうすぐ完成する」
 鍋からは湯気が上がり、コポコポと音がしている。コンロに近づいて鍋を覗き込むと、オレンジ色のマーマレードが煮込まれていた。
 桃李が鍋からティーバッグを取り出し、シンクのゴミ入れに捨てた。中身は昨日選り分けた薄皮と種のようだ。ペクチンをちゅうしゅつするために入れていたのだろう。
 桃李がコンロの火を止め、ガラス瓶をダイニングテーブルに並べた。重そうな鍋を鍋敷きの上に置き、それからガラス瓶に熱々のマーマレードを詰めて金属の蓋を軽く閉めた。
 次に瓶をお湯でしばらく加熱する。桃李はミトンを手にはめて瓶を取り出し、金属の蓋を緩めたかと思うと今度はすぐにきつく閉めた。
「これは何をしているの?」
「瓶の中の空気をしっかり抜いている。こうすれば常温で一年は保存可能だ」
 マーマレードの瓶は十数個もできあがった。窓の外から朝の陽射しが入り込み、夏みかんのマーマレードをキラキラと照らす。濃いオレンジ色ははくみたいに美しかった。
「たくさん作るんだね」
「半分は俺と碧が食べて、あとは近所の人にあげたり、遠くに住む友人に送る。少し遅くなったが朝ごはんにしようか」
「うん。お腹が空いちゃった」
 時計を見ると、普段の朝ごはんより三十分遅かった。桃李はスクランブルエッグを手早く作り、スライスしたハムを添えた。にんじんとセロリのスティック、ミニトマトを用意し、碧が配膳を担当する。ヨーグルトをガラスの容器に盛りつけ、シリアルを添える。瓶詰めしなかったマーマレードをお皿にたっぷりと盛りつける。
「いただきます」
 手を合わせてからマーマレードをヨーグルトにかけ、スプーンで口に運ぶ。柑橘類の香りが鼻を抜け、しっかりと甘みが感じられた。舌がきゅっとなるような苦みがあったけれど、ヨーグルトと混ざると気にならなくなった。
 マーマレードはほのかに温かくて、ヨーグルトの冷たさとの対比が面白い。細切りの皮部分は歯応えが残り、とろりとした食感とのコントラストも楽しかった。
 桃李のマーマレードもやっぱり抜群においしい。今まで食べたなかで群を抜いているけれど、碧は無意識につぶやいていた。
「ちがう」
 桃李が即座に顔を上げた。それから見開いた目でじっと見つめられる。瞳は黒目がちで、虹彩の色が夜のやみのように深かった。
「えっと、ごめん。すごくおいしいよ」
「何がちがうんだ」
 口調が厳しいような気がした。機嫌を損ねるのが恐ろしくて、碧は膝の上でぎゅっと両手を握りしめる。
「あの、お母さんが作ってくれたマーマレードと味がよく似ていたんだけど、ほんのちょっとだけちがうように感じたんだ。でも材料もレシピも別物なんだから、味が一緒のわけがないよね。ごめんなさい。本当に気にしないで」
 そう告げてからヨーグルトを口に運ぶ。やっぱり桃李のマーマレードは素晴らしくおいしい。それなのに碧の心は、お母さんの作ってくれた味を求めていた。
 お母さんの作ったマーマレードをもう一度味わいたい。
 だけどそれはもう二度と叶わないのだ。
 その後は二人とも何も喋らないまま朝ごはんは終わった。碧は課題に取り組むため部屋に戻る。数学の問題を解いている間も気を抜くたびに、お母さんのマーマレードの味が頭をよぎった。

 正午になる少し前、碧は課題をする手を止めた。ダイニングキッチンにはすでに桃李がいた。桃李は放っておくと一人で食事の準備を進めてしまうけれど、手伝おうとするのを止めることはしない。
 トースターの近くに、スライスされた食パンが用意してあった。
「どれにしようかな」
 ジャムが置いてある棚に向かおうとする。ブルーベリージャムは昨日使い切っている。桃李はジャムをひと瓶使い終えてから次を開ける習慣があった。すると背後から呼び止められた。
「今日は俺が選ぶ」
「……うん」
 きびすを返すと、桃李が入れ替わりでリビングに向かった。
 この家に来てすぐ、きらびやかなジャムの瓶に目を奪われた。すると桃李は好きな味を選んでいいと任せてくれた。それ以来どの瓶を開けるかは碧が決めていたので、少しだけ残念な気持ちでサラダをテーブルに運んだ。
 トースターが音を鳴らし、食パンが香ばしく焼き上がる。桃李は戻ってくると、中身がオレンジ色の瓶をテーブルに置いた。はっさくと書かれたテープが瓶に貼ってある。またマーマレードだと思っていると、桃李が口を開いた。
「庭では四種類の柑橘を育てていて、その全てでマーマレードを作ってある。一通り食べてみよう。姉さんの味に近いものがあるかもしれない」
 碧はぽかんと桃李を見つめる。
「ジャムは開封したら二週間程度で食べ切らなければならない。今日からマーマレードが続くことになるが、嫌だったら教えてくれ」
 碧は首を横に振る。
「私は構わないけど、いいの?」
「俺も姉さんが作ったマーマレードの味が気になるからな」
 桃李が目を伏せる。大切な家族を亡くしたのは自分だけではないのだ。そんな当たり前のことを、碧はいつも意識の外に追いやってしまう。
「ありがとう」
 テーブルに置かれた瓶に目を向ける。今朝作った夏みかんよりもジャムの色合いが明るい気がした。
 お昼ごはんの準備を進め、テーブルについて食前の挨拶をする。
 今日の献立は食パンとはっさくのマーマレード、さわらのソテー、クレソンのサラダ、オーツミルクだった。鰆は島内の漁港で今朝けさ水揚げされたものらしい。かれるけれど、まずはマーマレードをトーストにたっぷり載せて頰張った。
 甘さも苦みも穏やかで、皮の食感がはっきりしていて食べ応えがある。飲み込むと爽やかで独特な香りが鼻を抜け、思わずつぶやいていた。
「これもおいしい」
 夢中になって食べていると、じっと見つめられていることに気づく。
「どうだ?」
 夏みかんのマーマレードと明らかに味わいが異なっていて、どちらも魅力的だった。だけど心のなかにあるパズルの空きスペースにぴったりはまらないような感覚があった。
「お母さんのとはちがうかな。こんな感じの香りじゃなかったし、もうちょっと甘かったように思う」
「そうか」
 返事はそっけなかった。だけどひどく落胆しているようにも見えた。
「材料に使われた柑橘類の特徴は覚えていないか?」
「目にしたように思うけど、ごめんなさい。よく覚えてないんだ。でも取り寄せたりしてたわけじゃなくて、近所のスーパーで買っていたはずだよ」
「一般に流通している品種だな」
 桃李がクレソンのサラダを頰張る。
「柑橘類ってたくさん種類があるの?」
「日本で栽培されているだけでも七十種類以上、海外も含めれば膨大になる」
「そんなにあるんだ」
 碧は鰆のソテーを口に入れる。身が締まっていて、うまみが強く臭みが一切ない。この島で味わえる魚介類はどれも、東京のスーパーで売っているものとは別物だ。
「覚えていることはあるか?」
 碧は食事の手を止めた。
「あのね、マーマレードはお父さんが好きだったんだ」
 桃李の前でお父さんの話題を出すのは抵抗があった。だけど数少ない手がかりなのだ。
「お父さんはみかんが好きで、冬になると箱で買ってた。マーマレードも同じくらいの時期に、お母さんに作るようリクエストしていたな。できあがると、お父さんは子供みたいに喜んでいたんだ」
うんしゅうみかんの味ならわかるだろうから、除外しても大丈夫だろう。みかんのほかに好きな柑橘類はあったのか?」
 記憶を掘り返したけれど、何も思い当たらない。
「ごめん。わからない」
「そうか。参考になった」
 普段通りそっけない返事だ。桃李がどう感じているのか、反応からはわからない。クレソンをフォークで食べようとしたけど、うまくすくい取ることができない。本当ははしで食べたいけれど、言い出すことができないでいる。
「お父さんと、仲が悪かったんだよね」
 代わりに質問が口を衝いて出てきた。
「桃李おじさんは、私の家族と交流がなかった。それってお父さんとの関係が良くなかったからだって聞いたことがある」
 お父さんは前に何度か、桃李の悪口を言っていた。お父さんはまだ四十代だけど、関東全域に展開する学習塾の経営責任者だった。教育関係の第一人者としてテレビにも出演したことがあるし、著作も何冊か出版していた。
 だから碧もずっと成績を下げないようにがんばってきた。さらに念入りに予習をして、一年以上先の範囲までできるようにしていた。
 お父さんは小さな頃から熱心に勉強を続けて優秀な大学に入り、若い頃に起業して上場までしたと誇らしげに話していた。そのせいなのかイラストの仕事にい印象を持っていなかったようなのだ。
 お父さんが「絵描きなんてまともな仕事じゃない」と吐き捨てるように言ったとき、お母さんは同意も反論もせずに困った表情を浮かべていた。
 桃李はオーツミルクを飲んでから苦々しそうに笑った。
「確かに碧のお父さんは、俺をこころよく思っていなかったみたいだ。姉さんの結婚後に何度か会ったが、そのたびにちゃんと働くように説得された。俺もわずらわしく思って、近づかないようにしていた」
 お父さんは教育熱心で、勉強することの大切さをいつも語っていた。だから助言についても、将来性や収入面を考えた上での善意からだったのだろう。でも桃李にとっては迷惑だったのだと思う。
「それならどうして、私を引き取ってくれたの?」
 嫌だと思う相手の子供なんて一緒にいたくないはずだ。
「君がまだ子供だからだ」
 桃李は真剣な顔で即答した。碧はあまりの返事の早さに固まってしまう。
「君のお父さんが俺をどう思っているかや、俺が君のお父さんをどう思っているかは関係ない。碧は未成年だ。周りの大人は保護する義務がある。碧が疑問に思う必要はない。大人と一緒に暮らした上で衣食住を保障され、勉強に励む生活を送るのは当たり前なんだ」
 言葉は力強くて、疑問を挟む余地がなかった。
 だけど桃李はすぐに苦しそうな表情で目を伏せた。
「それなのに、俺を含む周りの大人は、君に許されないことをした。あやまっても取り返しのつくことじゃない。本当に申し訳なく思っている」
 背筋を伸ばした桃李が深く頭を下げた。
「桃李おじさんがあやまることじゃないよ」
 碧は焦って両手を横に振る。
 事故のあと、碧に起きたあのことを、桃李はずっと気にしている。たしかに恐ろしかったけど、仕方のないことだとも理解している。
 父方の親戚はそれぞれ事情を抱えていた。のうこうそくで身体が不自由になった親の介護や、生まれたばかりの子供の世話、大学受験や就職活動、仕事の多忙さなど、親戚の子を預かる余裕なんてなかったはずだ。
「今日も庭の仕事をするの?」
 碧が訊ねると、桃李が頭を上げてから窓越しに庭を見つめた。
「昼過ぎから草むしりをする」
「それまでに課題を終わらせるから、私も手伝わせて」
「わかった」
 碧を引き取った理由の説明は納得できるものだった。大人としてあるべき振る舞いなのだろう。だけど世の中は正しくできているわけではない。親類に桃李がいて、孤独を避けられたのは単なる幸運に過ぎないのだ。
 桃李がいなければ今でもひとりきりだった。だからこそ気にする必要はないと言われても、恩に報いたかった。

 午後三時過ぎに課題を終え、ジャージに着替える。庭に出るとお日さまの勢いが強くて、昨日より庭に満ちる湿気が生々しい気がした。
 桃李はすでに庭にいて、中腰で草を引き抜いていた。碧に気づくと尻ポケットに入れた軍手を放り投げてきた。
「あっちの雑草を頼む」
 軍手を空中でキャッチする。桃李は庭の東側を指差していた。
「抜いちゃ駄目な草はある?」
「特にない。ただ、根っこから抜いてくれ」
 指示された場所に向かい、しゃがんで名前の知らない草をつかんだ。根が地面に強く張っているみたいで、全身の力を使ってようやく引き抜くことができた。たった一回だけで軍手越しに手のひらの表面がじんじんした。
 碧はほかの草も抜き続ける。土から湿っぽい匂いがした。中腰の体勢は疲れるし、手のひらはだんだん痛くなる。
 何よりも問題なのが小さな生き物たちだ。
「ひゃっ」
 緑色の小型のバッタみたいな虫が目の前を横切り、草むらのかげからアマガエルが跳びはねた。そのたびに碧は悲鳴を上げた。
 東京で生まれ育ったため野生生物に慣れていない。この家に来てすぐのときも網戸に巨大ながいて、絶叫したせいで桃李が駆け込んできたことがあった。
 大きめの石をどかすとミミズがうごめいていた。叫び出しそうになるけれど、何とか我慢する。この島で生きる以上、慣れる必要があるのだ。にらめっこしていると、もぞもぞと動いて土のなかに潜っていった。
「邪魔してごめんね」
 ミミズにあやまってから、草むしりを続けた。
「もういいだろう」
 一心不乱に草を抜いていたら、桃李が斜め後ろに立っていた。碧は立ち上がって息を吐いた。軍手や膝、ズボンのすそが土と草の汁で汚れている。
 達成感を覚えながら、桃李が先ほどまでいた辺りに目を向ける。すると碧がむしった範囲の十倍は雑草が抜き終わっていた。急に情けない気持ちになる。
「ごめん、全然できなかった」
「初めてにしては上出来だ」
 手のひらは痛み、全身の筋肉が疲労していた。息も上がっている。桃李は澄ました顔をしているのに、碧は全身がボロボロだ。それなのに草むしりは全然進んでいない。初心者とはいえ、役に立てないことがなかった。
「こっちに来て」
 先に行く背中を追いかける。屋外に水道が設置されていて、バケツやホースが近くに置いてある。
「手を洗ったら、そこに座っていて」
 桃李が玄関に歩いていく。軒先に横に長い木製のベンチがあった。雨ざらしのせいかちたような見た目だけど、腰かけると木が堅くて造りがしっかりしていた。
 庭を眺めながら深く息を吐く。お日さまは果樹の葉の先にあって、木漏れ日が碧に降り注いだ。戻ってきた桃李はコップを手にしていた。氷と黄色いジャムが入っていて、炭酸の泡が浮かんで弾ける。ガラス製のマドラーが差してあり、受け取ると草むしりで赤くなった手のひらが冷やされて心地好かった。
「これは?」
のマーマレードと炭酸水、シロップで作った」
「ありがとう」
 また新しい瓶を開けてくれたらしい。マドラーでかき混ぜると氷が鳴り、マーマレードの果肉と皮がコップのなかで躍った。口をつけるとシロップの甘さと柚子特有の香り、そして炭酸のシュワシュワが爽快だ。のどを通ると、った身体をしんから冷ましてくれる。
「柚子ならさすがにわかるだろう。姉さんのマーマレードとは別物だろうな」
「そうだね。でもすごくおいしい」
 果肉と皮の食感が口に残り、嚙む楽しさもあった。柚子のせいりょうかんある香りが、碧の沈んだ気持ちをさわやかに吹き飛ばしてくれる。
「柚子も育てていたんだね」
「あれだ」
 指差した先に枝ぶりや葉が夏みかんそっくりな木が生えていた。同じ柑橘類だから似ているのだろう。
 桃李が木々に向ける視線は優しくて、碧は以前から考えていたことを口に出した。
「あのさ、桃李って呼んでもいい?」
「呼び捨てに?」
 桃李の声がわずかに大きくなる。
「ごめん、嫌だったよね。お母さんがいつもそう呼んでいたから」
 お母さんが桃李のことを話していたときの、弾むような言い方が好きだったのだ。それに見た目が若いので、おじさんという言葉が似合わないと前から違和感があった。だけど馴れ馴れしかったと反省する。
 桃李はすぐに庭へと目線を戻した。
「嫌ではない。好きに呼べばいい」
 いつもと同じ無表情だけど、不快に思っていないことは伝わってきた。
「ありがとう、桃李」
 庭は静寂に包まれ、コップのなかで氷が溶けてカランと音を鳴らした。庭全体を見渡した碧は、生い茂る緑から昨日と異なる気配を感じた。
「勘違いだと思うけど、昨日より庭が元気な気がする」
「わかるのか」
 桃李が目をわずかに見開いている。どうやら驚いているらしい。
「本当に元気なの?」
「春は植物が休眠を終え、地面から水や養分を吸いはじめる。今年は寒いせいで出足が鈍かったが、今朝から気温が上がったために活発になったようだ」
 庭について語るとき、声色が穏やかになる。風が吹いて木々を揺らす。空気が緑の匂いを帯びている。れのざわめきが草木の声に感じられた。
「どうしてこの庭には、果物のなる木がたくさんあるの?」
「ひとりでここに住むようになったときに俺が植えたんだ」
 桃李は八年くらい前まで東京で暮らしていたらしい。それから生まれ故郷に戻り、以来ずっと、空き家だった実家でひとり暮らしをしていると聞いている。
「どうして果物を育てようと思ったの?」
「なぜだったかな」
 桃李が目を細めて庭を眺める。風が収まり、庭に沈黙が訪れる。詳しく話すつもりはないようで、距離が近づいたと思ったばかりなのに、急に桃李を遠くに感じた。
 柚子サイダーを飲み干すと、弱まった炭酸がこうこう内をくすぐった。いつかこの庭を作った理由を教えてもらえる日は来るだろうか。草むしりに没頭したおかげなのか、碧はあの事故以来もっとも深く眠ることができた。

 薄曇りの天気のせいで、窓から入る日の光が弱々しかった。活気があった庭の草木も、冬に戻ったような気温のせいで大人しいように感じる。
 カーディガンを羽織って勉強していると、玄関のチャイムが聞こえた。
 今日はお客さんが来ることになっていた。お父さんの従兄いとこにあたるとうてつという人で、弁護士をしている。事故の前に何度も会ったことがあったし、お葬式にも来ていた。
 事故のあとに必要になった色々な手続きを、哲也がまとめて担ってくれている。今日は碧に関する法律的な相談を大人たちでするのが目的らしい。この島にやってくるのは初めてなのだそうだ。
 碧についてのことだから、同席するか桃李から確認されたけど拒否した。碧の扱いはぜんぶ大人たちが勝手に決めてきた。だから参加しても意味なんてない。
 きっと今頃リビングで話し合っている。一度は断ったけれど、自分のこととなると気になって勉強に手がつかなくなる。
 深呼吸やストレッチをして気持ちを切り替えようとするものの、すぐに我慢の限界に達する。これ以上は集中できそうになかった。物音を立てないように部屋を出て、スリッパを履かずに廊下を移動する。リビングのドアの脇で耳を澄ませると会話が漏れ聞こえてきた。
「いやあ、このジャムが全部手作りとは素晴らしい」
 哲也の喋り方は相変わらず甲高くて早口だった。覗き込むと、哲也は立ち上がり、ジャムの並んだ棚を眺めていた。長身で筋肉質な体型で、スーツがきゅうくつそうだった。年齢はお父さんの二つ上の四十四歳だったはずだ。
「お好きなものをお持ち帰りください」
「よろしいのですか?」
「たくさんありますので」
 雰囲気から察するに、難しそうな話し合いは終わっているみたいだった。
「ではありがたく頂戴します。実は家族そろってジャムが大好物なんですよ。息子たちもきっと喜びます」
 哲也には三人の息子がいる。上から六歳、三歳、一歳だったはずだ。東京の隣の県に一軒家を構えていて、お父さんとは昔から親しかったようだ。棚を眺める哲也の目は輝いていた。リビングに並ぶジャムの瓶には、胸を躍らせる魔力があるのだ。
「迷っちゃいますねえ」
「最上段右端にあるのは夏みかんのマーマレードで、先日作ったばかりです」
「夏みかんですか!」
 哲也の声がさらに高くなる。好物なのか物欲しそうな視線をマーマレードに向ける。顔立ちや体型はお父さんに似ているけれど、仕草が全く違っている。お父さんは厳しくて落ち着いていたのに、哲也はまるで子供みたいに無邪気な雰囲気だ。
 哲也が夏みかんのマーマレードに手を伸ばしたけれど、途中で引っ込めた。
「残念ですが、念のためやめておきます」
 哲也が肩を落とし、近くにあった濃いオレンジ色のジャムに手を伸ばした。確か柿のジャムだったはずだ。それから哲也弁護士はリビングの席に座り、テーブルに置かれていたコーヒーカップに手を伸ばした。
「この島はとても素晴らしい環境ですね。ここで暮らすことはきっと碧ちゃんのためになるでしょう」
「庭仕事やジャム作りなどの家事も率先して手伝ってくれていますよ。本当に良い子だと思います」
 桃李が褒めてくれたことに心からホッとする。
「会えないのは残念ですが、あの子が健やかに暮らせているなら何よりです。私も含めて親戚一同があの子の心配をしていましたから。平穏に過ごしていると知って、みんなも安心するでしょう」
「よくそんなことが言えますね」
 桃李の声は怒りをはらんでいた。空気が突然張り詰め、碧も廊下の陰で息をむ。哲也が焦った様子で口を開いた。
「不快にさせたなら申し訳ありません。軽率な発言でした」
「同罪である俺が言うのは筋違いかもしれません。ですが俺は、あなたがたが碧にした仕打ちを今でも許していません」
「お怒りはごもっともです」
 物音を立てないようにして部屋に戻る。勉強机には座らずにベッドで横になって毛布をかぶる。
 あの事故から桃李に引き取られるまでの間、碧の記憶はぼんやりとしている。
 たった数日にも思えるし、何年も前のことのようにも感じられた。事故が起きた二月の寒さが永遠に続いていたような気がする。
 碧の家の廊下で、蛍光灯が切れかけていた。高い位置にあって届かないし、替えもなくなっていた。いつもの習慣で、ついスイッチを点けてしまう。放置しているのに消えなくて、ずっと点滅を繰り返していた。
 ひとりきりはもう、絶対に耐えられない。
 頭を振って、嫌な思い出を振り払う。
 ベッドから起き上がって机について課題に集中する。ふと気配がして窓の外に目を遣ると、お父さんに似た背中が果樹の先に消えていった。
 中学に通わなくなってから、曜日の感覚が薄れてきた。
 テレビは元々あまり興味がないし、あの事故からインターネットも見ることができなくなった。桃李は土日も関係なく仕事をしている。課題も定期的にまとめて送られてくるので、いつやっても問題ない。だから今日は自主的に休日ということにした。
 桃李は朝ごはんを食べ終えると仕事場に直行した。締め切りが近いのか、庭を世話する時間が短くなっている。
 ジャージに着替え、庭に出てから物置を開けて軍手をはめる。物置には鍵がかかっていない。不用心に思えるけど、この島はきっと安全なのだろう。
 先日草むしりをした辺りには、まだたくさんの雑草が生えていた。しかも抜いたはずの土に、ほんの数日でにょきにょきと芽が伸びている。
 一方で桃李がむしった場所は新たに生えている草が明らかに少ない。きっと碧は根っこを取り切っていなかったのだ。
 しゃがみこみ、草むしりをはじめる。前回は中途半端にしかできなかったため心残りだったのだ。今日も雲が空を覆い、肌寒いくらいだった。だけど身体を動かしているとすぐに温まってきた。
 一時間ほど没頭し、碧は立ち上がった。雑草の山と剝き出しの地面を前に達成感を覚える。これで少しは役に立っただろうか。
 屋外の水道で喉を潤してから、庭を散策することにした。この家に来て三週間だけど、一度もちゃんと見て回ったことがないのだ。
 桃李の言っていた通り、果樹の庭にはたくさんの花が咲いていた。白と淡い桃色の小振りの花が多いけれど、あれは何の木なのだろう。ほかにも白くて小さなつぼみが今にも弾けそうで、咲く寸前の気配が感じられた。
 果物はほとんど実っていない。古そうな木に、小さくて緑色の丸い果実がなっているだけだ。
 碧は一本の木の前に立った。先日、柚子の木だと教わったばかりだ。同じ柑橘類だから夏みかんに似ていて、緑の葉が厚くてしっかりしていた。果実は影も形も見えない。鍋物に添えられる印象が強いから冬に採れるのかもしれない。
 柚子の木に腕を伸ばした直後、指先に痛みが走った。
「いたっ」
 慌てて手を引くと、左手の人差し指の先から血が出ていた。柚子の木をよく観察すると、たくさんのとげが生えていた。枝や葉に紛れて気がつかなかったけれど、ミシン針よりも大きいように見える。
「どうした」
 振り返ると作業着姿の桃李が険しい表情で立っていた。庭の世話に来たのだろう。碧の手を見るなり、眉間に深いしわを作った。
「あの、ごめんなさい。勝手なことをして」
 指先をとっさに背中に隠す。だけど桃李が手を伸ばし、碧の左手首をつかんだ。力が強くて、腕が少しだけ痛かった。桃李が傷口を凝視する。
「傷口に棘は残っていないようだな。どの枝でをしたんだ」
「えっと、そこだよ」
 碧が指差すと、桃李が慎重な手つきで枝を手に取って顔を近づける。
「棘の先端は折れていないみたいだ。体内に棘が残っていたら化膿する可能性もあった。手当てをするから来なさい」
「うん」
 腕を引かれると、歩幅が広いから碧は小走りになる。洗面所の蛇口をひねり、指先を流水で洗うよう指示される。そこでようやく桃李が手を離し、姿を消して薬箱を手に戻ってくる。傷口をガーゼで拭き、ばんそうこうをくるりと巻かれる。
「ありがとう」
 絆創膏のパッドに、じんわりと血がにじむ。
「すまない」
 桃李はずっと険しい顔のままだった。
「どうしてあやまるの?」
「柚子の木の場所を伝えるときに、棘について注意するべきだった」
「全然知らなかった。あんなに鋭い棘が生えているんだね」
 棘は怖いくらいにとがっていた。首元に深く刺さったら、命の危険さえあるだろう。想像するだけで寒気がしてくる。
「柑橘類の多くは棘があって、柚子は特に太いんだ」
「この前の夏みかんはなかったよね」
「棘がないように品種改良されている。この庭にある柑橘類だと、温州みかんにも棘は生えていない」
「どうしてあんなに鋭い棘があるの?」
「身を守るためだ。だが鋭利すぎるせいで幹や枝に刺さり、その傷が原因で病気になることもある。果実に刺さって腐る場合さえある。だから定期的に切り落とすんだが、時間がなくてあの柚子を放置してしまった。明日にでも取り除こうと思う」
 身を守るために作り出した棘で、自分を傷つけてしまう。それはとても空しいことのように感じた。
 碧は指先に巻かれた絆創膏を見つめる。傷は深かったのか鋭い痛みが残っている。
 優しくされるのは嬉しい。だけど同時に不甲斐なさで泣きたくなる。役に立ちたかったのに、結局は面倒をかけてしまっている。
「部屋で休んでいなさい」
 立ち上がって玄関に向かう桃李の背中に呼びかけた。
「あの、庭の世話をするのを見ていてもいいかな」
 桃李が振り返って答える。
「好きにすればいい」
 このまま部屋にいても気持ちが沈むだけだ。手伝いができるように、庭の世話を身近で学びたかった。桃李は玄関を出ると、物置からノコギリとハサミ、三脚を取り出した。そして荷物を抱え、柚子とは別の木の前で立ち止まった。
 同じ木がふたつ並んでいて、どちらも夏みかんや柚子に似ていた。枝や葉が勢いよく茂り、棘は生えていない。どちらの木もこんもりとしたシルエットだった。
「これは何の木なの?」
「温州みかんだ」
 桃李はノコギリを手に取ると、幹から伸びた太い枝に刃を当てた。そして前後に動かすと、ノコギリは枝に食い込んでいった。
「切っちゃうの?」
 くずがポロポロとこぼれていく。
「不要な枝をせんていしている。適切な枝だけを残すことで、全体に栄養が行き渡るようになる。その結果、大きくておいしい果実が実るんだ。本来ならもう少し早く剪定をする予定だったが、今年は遅れてしまったんだ」
 枝が切り離され、地面に落ちる。剪定の時期がずれたのも、柚子の棘を処理できなかったのも碧が来たせいだろうか。桃李はノコギリを使って次々に枝を切っていく。さらに剪定バサミで細い枝もようしゃなく落としていった。
 みかんの木は最初、枝や葉が伸びやかだった。だけど剪定した結果、不安になるくらいスカスカになってしまう。剪定バサミからノコギリに持ち替え、二本目の木に取りかかりはじめる。
 太い枝に刃を当てたところで電子音が鳴った。桃李がお尻のポケットからスマートフォンを取り出した。
「はい、やけです」
 桃李の苗字はお母さんの旧姓だ。きの喋り方から仕事相手なのだとわかった。碧は邪魔にならないように息を殺した。
「わかりました。すぐに対応します」
 桃李がスマートフォンを耳から離した。
「急ぎの仕事だ。三十分もあれば終わる」
「わかった。お仕事がんばってね」
 ノコギリをみかんの木の根元に立てかけ、慌ただしく玄関に向かう。
 碧はみかんの木を見較べる。剪定されたほうは物寂しくて、地面にたくさんの枝が落ちている。果実を大きくするために、いらないものはぜんぶ切り捨てられたのだ。
 桃李の美しいイラストを思い出す。繊細なタッチで描かれた自然の描写には多くの人を惹き寄せる魅力があった。仕事の依頼もひっきりなしに来ているようだ。
 桃李は誰もが認める成果を生み出している。仕事のために碧は邪魔にならないだろうか。指先に痛みが走る。関係性の薄かった姪なんて、切り捨てたほうが集中できるはずだ。
 桃李がノコギリを当てた枝に切れ込みが入っている。碧はノコギリを手に取って、枝の傷に押し当てた。役立たずだと判断され、見捨てられるのは嫌だった。柄を握りしめ、刃を前後に動かす。左人差し指が痛んだけれど、無視をして両腕に力を込めた。
 無我夢中で切っていると、ふいに抵抗がなくなった。
 下側の表皮だけつながって、だらんと垂れ下がっていた。左人差し指の絆創膏に血の染みが広がっている。皮を切断すると、太い枝は幹から切り離されて地面に落下した。
「何をしている」
 振り向くと桃李が立っていた。三十分も経っていないはずだ。早く終わったのだろうか。いかめしい表情で、碧の手元とみかんの木を交互に見る。
「あ、あの、手伝おうと思って」
「ノコギリを地面に置いて」
「わかった」
 厳しい口調を受け、慌ててノコギリを置く。桃李がすぐに拾い上げた。
「碧は中学生だ。刃物を使うなとは言わない。だが今後は、俺の目の届く範囲で扱うように」
「……はい」
 碧は身を小さくした。桃李がみかんの木に近づき、切り落とされた枝の断面を見つめた。すると表情がさらに険しくなった。
「深く切りすぎている」
「えっ」
 見様見真似で同じように切ったつもりだった。だけど桃李のほかの剪定に比べると、切り口がえぐれたようになっていた。必死に腕を動かした結果、角度がずれたのかもしれない。
「失敗だった?」
「放置すればここから枯れる可能性もある」
「そんな」
 みかんの木は大きく育っている。それが碧の失態のせいで枯れてしまうのだろうか。庭の一部を台無しにしてしまったのだ。
「ごめんなさい」
 血の気が引く。無能だと判断され、追い出されてしまうかもしれない。震えていると、桃李が戸惑いの表情になった。
「対処法はある。だからそんなにおびえなくていい」
 碧はぽかんと口を開けた。困惑していると、桃李が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「えっと、怒鳴られると思って」
 桃李が眉をひそめる。
「そんなことはしない。声を荒らげるのは嫌いなんだ。碧はこれまで失敗したら、親や教師から強くしっせきされてきたのか?」
「先生はしないよ。でも、お父さんがよく大きな声を出していたから」
「そうか」
 桃李が唇をゆがめる。
 悪さをしたり、言いつけを守らなかったりすると、お父さんは碧を厳しく叱った。機嫌が悪いときは三十分くらい続いたこともある。だけど怒られるほうが悪いのだから、それが当たり前だと思っていた。
「碧が怒られていたとき、姉さんはどうしていたんだ」
「長くなっていたら止めてくれたよ。それからお父さんに対しても、あまり頭に血を上らせないでって心配そうにしていた」
「姉さんらしいな。いつだって誰かを気遣っていた」
 桃李が懐かしそうに微笑ほほえみ、ノコギリをみかんの木の根本に置いた。それから物置のほうに向かい、すぐにアルミチューブを手に戻ってくる。大きな虫刺されのなんこうのような見た目だ。キャップを開けると、切りすぎた枝の断面に塗りはじめた。
「何をしているの?」
ごうざいで保護している。塗ることでカルスの形成が促進される。樹木の傷を守り、回復を助けるんだ」
「カルス?」
 桃李が隣のみかんを指差す。幹の途中にクレーターみたいな盛り上がりがあった。
「人間でいうかさぶたみたいなものだ。カルスができることで傷口は無事にふさがる。適切な処理を施せば、人間も植物も傷はちゃんと治るんだ」
「このみかんの木は枯れないってこと?」
「ああ、そうだ。驚かせてしまったようだな」
「よかった」
 胸をなで下ろす。癒合剤を塗り終えると、桃李はノコギリを手に取った。そしてほかの枝の付け根付近に刃を当てた。
「大抵のことには対応策が確立されている。どうか失敗を恐れないでほしい。ただし怪我にだけは注意してくれ。それと、いつか碧を叱ることがあるかもしれない。だが必要なく大声を出さないことを約束する」
 桃李がノコギリを動かしはじめる。
「ありがとう」
 桃李にお辞儀をしてから、自分の部屋に戻ることにした。靴を脱ぐときに無意識に左手を使い、指先にかゆみに近い痛みを感じる。血は止まっているようだ。絆創膏の表面を撫でる。まだ違和感はあるけれど、なぜか不快ではなかった。

 翌日のお昼も、新しいマーマレードの瓶が開いていた。シールにはぶんたんと書かれ、中身はレモンみたいに明るい黄色だった。
 今日はクロワッサンで、瑞々しいトマトのスライスがガラスの皿に盛りつけてある。それに生クリームを使ったスクランブルエッグと、碧にはカフェオレが用意してあった。コーヒーは桃李が豆をいてから淹れたもので、芳ばしい香りが漂っていた。
「いただきます」
 食卓についた碧は、クロワッサンに文旦のマーマレードをたっぷり載せた。頰張ると香りがさわやかで、苦みが穏やかに感じられた。酸味も控えめで、全体的に上品な味わいだった。クロワッサンはバターが効いていて、薄い層がほろほろとほぐれた。
 文旦のマーマレードも格別に上質だ。だけどお母さんの作った味とは違うように思えた。
「これも不正解か」
 碧が答える前に、表情で察したようだ。
「でも、このマーマレードもおいしいよ」
「ほかの柑橘類を取り寄せてみるか?」
「それは……」
 碧は返事に迷った。提案は嬉しい。お母さんのマーマレードの正体を突き止めて、もう一度味わってみたかった。だけど桃李の話では一般に流通しているだけでもたくさんあるそうなのだ。
 特別な品種ではないと思うけど、碧が何も覚えていない以上は運任せになる。庭では多くの果物を育てているのだ。ほかで買う必要なんて本来はないはずなのだ。毎回マーマレードを作ってもらうのも申し訳ない。
 マグカップを手に取ってカフェオレを口に含む。想像していたよりもずっと苦くて、碧は顔をしかめるのを我慢する。
「ううん、そこまではしなくていいよ」
 柚子の棘で怪我をして、みかんの木を危うく枯らすところだったのだ。桃李をこれ以上煩わせたくなかった。言葉にした瞬間、胸に穴が空いた気がした。だけど存在しないふりをすることに決めた。
「わかった」
 桃李は淡々と答え、食事をはじめた。
 碧はトマトをフォークで口に運ぶ。味つけは塩とオリーブオイルだけだ。つややかで張りがあって、噛みしめると鮮烈な酸味と豊かな甘みが広がる。新鮮なトマトだと思う。だけど飲み込むとなぜか、青臭さばかりが喉の奥に残った。

 食べ終えたころ、桃李が首の付け根を押さえながら腕をぐるぐる回した。ここ数日、表情が暗いような気がする。そういえば目の下にはくまがあるし、髪の毛も普段よりボサッとしている。
「体調が悪そうだけど、大丈夫?」
「身体は健康だ。だが締め切りが近いせいであまり寝ていない」
 力になるべきときだと考え、前のめりになった。
「お昼のお皿洗いは私がやるね。それと夜ごはんを私に作らせて」
「碧には課題があるだろう」
「実は配られた分はぜんぶ終わったんだ」
 課題は二週間単位でまとめて届けられる。手伝いをするために前倒しで進めた結果、数日を残して全てこなしてしまったのだ。
「空いた時間に予習復習もやる。だから仕事に専念していて」
 桃李は碧の勢いに困惑顔になる。それからすぐに考え込むような表情になり、小さなため息をついた。
「そうしてもらえると助かる。キッチンにある食材は好きに使ってくれ」
「ありがとう!」
 お礼の声が大きくなる。お昼ごはんを食べ終え、テーブルの食器を全てシンクに運び、洗剤をスポンジで泡立てた。
「無理はしないように」
 そう告げて、桃李は重い足取りで仕事場に入っていった。雰囲気が残業続きのときのお父さんに似ていた。もっともっと桃李の役に立つのだ。皿洗いを済ませると、碧はどんな食材があるのかたしかめるため大捜索をはじめることにした。

 炊き立てのお米の香りがキッチンに漂っていた。桃李が食卓を前に立ち尽くしている。わかめと高野豆腐のしる、にんじんのきんぴら、豚のしょうき、ごはんがテーブルに用意してあった。
「えっと、和食でも大丈夫だったかな」
 桃李の料理は洋食ばかりで、お米は一度も出ていない。作ったあとで和食でも大丈夫かと不安になってしまう。
「いや、和食も食べる。それよりも上手で驚いている」
 キッチンを探したところ、味噌やしょう、お米、炊飯器などがそろっていた。生姜やにんじんは冷蔵庫にあったし、豚肉は冷凍庫で眠っていた。高野豆腐や乾燥ワカメも戸棚の奥で保存されていた。箸や和食器も食器棚に置かれていた。
「家庭科の教科書を参考に作っただけだよ」
 前に授業で同じような献立を作ったことがあったのだ。けんそんはしたけれど、自分でも上出来だと満足している。向かい合って席につき、両手を合わせる。
「いただきます」
 桃李が味噌汁をすすり、目を見開いた。
「ちゃんとを取っているんだな」
「口に合って良かった」
 お母さんもかつおぶしこんを使って出汁を取っていた。
 桃李はごはんを頰張り、「き具合もちょうどいい」と褒めてくれた。自分で食べてみると少し柔らかいように思えたけど、桃李の好みだったのかもしれない。にんじんのきんぴらもおいしそうに食べてくれた。
 豚の生姜焼きを食べているときが最も緊張した。桃李は飲み込んだあとに、不思議そうに首を傾げた。
「隠し味にマーマレードを入れたのか?」
「すごい、わかるんだ」
 生姜焼きだけは調理実習からアレンジを加え、前にお母さんが作っていたレシピの真似をした。生姜焼きのタレを作るときにマーマレードを少量加えたのだ。
 碧も生姜焼きを口に入れる。すると果実の風味は生姜や調味料で覆われ、爽やかな甘みと香りがアクセントになっていた。
「味つけは問題ない?」
 不安を抱きながら聞くと、桃李が味噌汁をすすった。
「薄味で俺好みだ」
 桃李の料理は全体的に塩味が控えめだった。だから今回のもそれに合わせたのだけど、作っている最中に不安がつきまとっていた。
「よかった。男の人ってしっかりした味つけが好きなんだと思ってた」
「どうだろうな」
 和食がテーブルに並んでいると自然と、両親と囲んだ食卓の記憶がよみがえる。
「お父さんは、濃い味が好きだったんだ。でも血圧によくないからって、お母さんはいつも塩分を控えめにしていた。そのせいでお父さんは何にでもお醤油をかけようとして、そのたびにお母さんが注意していたな」
 両親の意見がぶつかると、基本的にお父さんの主張が通ることが多い。だけど味つけに関しては、お母さんは絶対に譲らなかった。
「血圧?」
 桃李がなぜか目を丸くしている。
「どうしたの?」
「碧のお父さんは、みかんを箱買いしていたんだよな」
「うん、そうだけど」
 なぜ急にみかんについて聞かれたのだろう。
「それ以外の柑橘類は食べていたか?」
「えっと、どうだろう。あんまり食卓には並ばなかったように思う」
 不思議に思いながら答えると、桃李が信じられないことを言い出した。
「姉さんのマーマレードの素材が、わかったかもしれない」
「ええっ」
 唐突すぎて、声が裏返ってしまう。返事をするのも忘れ、きんぴらを口に入れた。細切りにしたにんじんは甘辛く味つけされ、シャキシャキした歯応えが小気味好い。
「どういうこと?」
 碧が訊ねると、桃李が小さく咳ばらいをした。そして「確証があるわけじゃないんだが」と前置きした上で、推測したことを丁寧に話しはじめた。

 数日後、段ボール箱が届いた。開けると大ぶりな柑橘が並んでいて、特徴的な形を見た瞬間に正解だとわかった。すっかり忘れていたけれど、碧は母が購入したマーマレードの材料を目にしていたのだ。
 キッチンでマーマレード作りに取りかかる。桃李が皮を剝いて刻み、何度も茹でこぼす。その間に碧が果肉と薄皮、種をより分ける。そして皮を一晩冷蔵庫で水にさらす。
 翌日、桃李の仕事の都合で午後二時からマーマレード作りを再開する。締め切りには間に合ったようで、今は細かな修正に対応するだけでよいのだそうだ。
 細切りの皮と果肉と、大量の砂糖を鍋に加えて煮込む。薄皮と種も前回同様、ティーバッグに入れてから火にかけてペクチンを抽出する。煮込むうちにとろみが生まれ、柑橘の香りがダイニングキッチンに満ちた。
「完成だ」
 鍋から湯気が立ち上り、窓からの光を受けて揺れている。桃李がティースプーンですくい、手渡してきた。受け取ってからマーマレードに息を吹きかけて口に運ぶ。
「あふい」
 予想以上に熱々で、最初は味がわからなかった。だけど徐々に温度が落ち着くと味が舌に伝わってくる。甘みが強くて瑞々しく、酸味が控えめで柑橘の香りが濃厚だ。口のなかに風味が広がるにつれて、胸の奥から喜びがにじみ出てきた。
 今食べたマーマレードは、お母さんが作ってくれた味に間違いなかった。
「正解だったか」
 碧の表情から察したのか、桃李が小さく息を吐いた。本当に合っていたのか自信がなかったようだ。だけど無数に存在する柑橘類から特定できたのは、桃李の果物の知識と推理のおかげなのだ。
 数日前、桃李が話してくれたことを思い出す。
 お母さんが使っていた柑橘の正体は、デコポンだった。
 デコポンは熊本生まれの柑橘で、ヘタの周囲の出っ張りが名前の由来だった。品種名は不知火しらぬいといい、ブランド名であるデコポンと名乗るためには糖度や酸度など厳格な基準が設けられているらしかった。
 なぜデコポンだと特定できたのか。その根拠は柑橘類の多くに含まれるフラノクマリンという成分にあった。この成分は特定の薬と飲み合わせが良くないとされている。特に一部の降圧薬と合わせると、血圧が下がりすぎてしまうのだそうだ。
 お母さんはお父さんの血圧を気にしていた。碧はうろ覚えだが、お父さんは毎日何かの薬を服用していた。おそらくあれが高血圧の薬だったのだろう。
 高血圧症は心臓や脳の病気のリスクを高める。だからお母さんは日々の食事の塩分量に配慮し、お父さんが怒ったときに頭に血が上らないよう気遣っていたのだ。
 高血圧症は遺伝も関係するらしい。お父さんの従弟である哲也弁護士はジャムが好物だと話していた。そしてマーマレードを前に悩んだ上で、「残念ですが、念のためやめておきます」と言って持ち帰らなかった。
 グレープフルーツやスウィーティーがフラノクマリンの含有量が特に多く、他にも文旦やはっさく、夏みかんにも含まれているらしい。そして果汁より皮に多いとされている。
 哲也も血圧の薬を服用していると考えれば、皮をたっぷり使った夏みかんのマーマレードを断念したことの説明にもなる。父方の親戚のひとりが脳梗塞で倒れ、介護が必要になったという話も耳にしたことがあった。
 レモンやオレンジの果汁やかん、柚子などもフラノクマリンを含んでいるが少量で、たくさんでなければ特定の薬を服用している人が摂取しても問題ないとされているみたいだ。
 そんななかで、フラノクマリンを含まないとされる柑橘類があった。それが温州みかんとデコポンだったのだ。
 お母さんはお父さんの身体を心から心配していた。だから万が一にも薬との相互作用で体調を崩さないように万全を期した。そのためお父さんからのマーマレードのリクエストに応えるときに、デコポンを選んだのだ。
「あ……」
 飲み込んだ瞬間、両親との思い出が一気にあふれた。
 お父さんは厳しくて、激しく叱られたことがあるのは事実だ。だけどちゃんと碧の将来を想うからこそ言葉が強くなっただけなのだ。
 普段は頼りがいがあって決断力に優れ、碧とお母さんを引っ張ってくれた。お父さんが決めることには意味があって、いつだって正しかった。だから安心してついていくことができた。
 お母さんは穏やかで温かかった。自己主張が少なくて、優柔不断さをもどかしく思うこともあった。だけど家族のためになることには頑固な面を見せることもあった。碧が失敗して落ち込んだときは、かならず優しく慰めてくれた。
「どうして、こんなことになっちゃったんだろう」
 お父さんもお母さんも欠点はあった。そんなのは人間なのだから当たり前のことだ。不満に思うこと以上に、好きなところがたくさんあった。ずっと一緒にいたいと願っていた。本当に幸せで、かけがえのない存在だった。
 だけど碧だけが、残されてしまった。
「もう、ひとりは嫌だよ」
 喉から本音がこぼれた。すると桃李が悲しそうな表情になった。
「本当にすまなかった」
 桃李が眉間に皺を寄せ、絞り出すように言った。
「これは言い訳に過ぎない。だが碧があの事故から一年もあの家でひとりきりだった、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、なんて、想像さえしていなかったんだ」
 唯一の母方の親類である桃李は瀬戸内に住んでいた。だから東京で頼りにできるのは父方だけだった。
 父方の親戚は哲也を含め、東京近郊にたくさん住んでいる。国家公務員や大学教授、大きな企業の重役など社会的地位の高い人ばかりで、お正月の集まりや結婚式などで挨拶をしたこともあった。
 だけど誰も碧を引き取ろうとしなかった。
 碧は事故以降、自宅から出ることができなくなった。そのため中学にも通えず、両親と暮らしていた家に引き籠もることになった。
 公共料金は口座から引き落とされていたらしく、何もしなくても止まることはなかった。そして親戚たちが見守りと称して顔を出すようになり、定期的に食べ物も届けてくれていた。だから飢えずに済んだのだ。
 哲也によるとお父さんの遠縁にあたる比較的近所に住む五十代の男性が、未成年後見人に選定されたらしい。だけどその人は選ばれてから一度も碧の家に来ることはなかった。様子を見に来たのはその男性の奥さんだった。脳梗塞で半身ずいになった夫の父親を介護する合間に、定期的に食料を届けてくれたのだ。
 他にも何人かの親戚が見守りに協力してくれた。誰もが介護や育児など事情を抱えていて、なぜか女性ばかりで男性は一人もいなかった。
 三十代くらいの女性は一歳の赤ん坊を抱えていた。育児で大変なのに義理の親にその子を預け、買い物のついでに何度も様子を見に来てくれた。共働きの夫婦の奥さんは娘さん二人がバレエとピアノを習っていて、教室への送り迎えやえんせいでの運転手役が大変だとため息を漏らしていた。
 この一年のことはぼんやりとしている。中学の先生は何度か来たように思うけれど、何を話したのかはよく覚えていない。お葬式のときのこともあいまいで、桃李に数年ぶりに再会したことはうっすらと記憶に残っている。
 碧は自覚のない間に身長が伸びたらしく、それまで着ていたジャージは明らかにサイズが小さくなっていた。ショートだった髪の毛も肩にかかるくらいまで長くなった。ヘアゴムを使う習慣がなかったため荷物になく、今ではミディアムヘアを持て余している。そして一年先まで予習をしていたおかげで、長い間引き籠もっていたのに学校から出される課題を解くことができている。
「本当にすまなかった。父方の親戚が碧の生活を守っていると信じていた。人任せにせずに、俺がちゃんと保護するべきだった」
「もうあやまらないで。桃李が私を、あの場所から救い出してくれたんだよ」
 桃李が状況に気づいたのは、いっしゅうのために上京したときだった。碧の自宅を訪れた桃李は激しく怒り、様々な手続きを経て瀬戸内まで連れ出してくれた。事故が起きた昨年二月の寒い日から一年と一ヶ月経った先月、今年三月の出来事になる。
 碧の目から涙がこぼれる。
 ひとりきりで生きることの絶望を、この一年で思い知ることになった。今は桃李がいるけれど、いつ追い出されるかわからない。だから少しでも役に立つことで、自分がここにいる意味を作ろうと必死だったのだ。
 ふいに桃李が食器棚からボウルを取り出した。小麦粉と砂糖とベーキングパウダーをふるいにかけながらボウルに入れ、牛乳と卵を加えて混ぜ合わせる。
「何をしているの?」
 質問してみたけれど、無言で料理を続ける。
 冷蔵庫からバターを取り出し、フライパンに載せて火にかける。溶けてくるとバターの香りが漂ってきた。弱火にして生地を流し入れるとジュウと音がして、今度は生地の焼ける香りが鼻をくすぐった。
 数分後にフライ返しでひっくり返すと、綺麗な焼け目がついていた。さらに同じ時間火を通すと、白い皿にホットケーキを盛りつけた。バターを載せてから、ガラスの小鉢に出来たてのデコポンのマーマレードをよそった。さらにメープルシロップとはちみつまで用意してくれた。
「食べなさい」
「いいの?」
 桃李はうなずくと、フォークとナイフを碧の前に置いた。
「碧はいつまでも、ここにいていいんだ」
 時計に目を遣ると午後三時ちょうどだった。おやつにはぴったりの時刻だ。ホットケーキの表面でバターが溶け、こんがりと焼けた表面を滑りながら染み込んでいく。
「いただきます」
 ナイフの先でマーマレードをすくい、ホットケーキの上にたっぷり載せる。切り分けた生地にマーマレードを塗り、フォークで口に運ぶ。
 デコポンの香りが感じられ、ふわふわの生地の食感で口の中が満たされる。ホットケーキは熱々で、嚙むたびに家族の思い出が頭を巡る。果実の甘みとバターのコクがこんがりと焼けた小麦の味わいと混ざり合い、おいしさを何倍にも引き上げてくれる。
 温かな味が心に染みわたり、身体の強張りがほぐれていく。
「ありがとう。桃李のおかげで、またこの味を食べることができたよ」
 流れた涙が頰を伝う。ホットケーキを味わいながら、自分が守られていることを実感する。桃李は黙ったまま、食事を進める碧を見守ってくれている。
 キッチンの窓から庭に目を向けると、たくさんの果樹が日の光を受けていた。昨日よりも間違いなく緑の色合いが濃くなっている。これからこの庭では、どんな果物が実るのだろう。碧は一年ぶりに明日を待ち遠しく思った。

  *

本作は、3月4日発売の『やるせない昼下がりのご褒美』(ポプラ文庫)に収録されます。

■ 書籍情報
『やるせない昼下がりのご褒美』
大好評アンソロジー第3弾!心とおなかの空腹をあたたかく満たす短編集。
あの人と過ごす「おやつ」の時間が、今日を乗り切る力をくれる。妻子ある相手と夜をともにした伊豆の山奥のホテルで。忘れられない同級生と屋上につづく階段で。さまざまな果樹が茂る瀬戸内海の島の庭で。もうすぐ卒業するメンバーと取り組む最後の仕事で。幼い息子との思い出のドーナツショップで。憧れの女性たちと出かけたいちご尽くしのピクニックで。心とおなかの空腹をあたたかく満たしてくれる珠玉の6篇!

■ 著者プロフィール
友井羊(ともい・ひつじ)
1981年群馬県生まれ。第10回『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を受賞した『僕はお父さんを訴えます』で、2012年デビュー。著書に、「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」「さえこ照ラス」の各シリーズのほか、『ボランティアバスで行こう!』『スイーツレシピで謎解きを』『魔法使いの願いごと』『映画化決定』『無実の君が裁かれる理由』『100年のレシピ』『巌窟の王』など多数。

このページをシェアするfacebooktwitter

関連書籍

themeテーマから探す