10月9日に発売となる、小川糸さんの待望の新刊『小鳥とリムジン』。
「人を愛すること」をテーマに描かれた本作は、どのような経緯で生み出されたのか。
創作の裏側について、小川さんに伺いました。

※※※
――『ライオンのおやつ』はドイツにお住まいだった頃にベルリンで、この『小鳥とリムジン』は日本の森で書かれた作品ということになりますが、何か執筆の段階での違いはありましたか?
書いていた時の記憶があまりなくて、いつどんな風に書いたか覚えていないんですよね。
もちろん、スケジュールをさかのぼればいつ頃書いていたとかはわかるんですけど、感覚としては、いつの間にか生まれて、出来てたって感じなんです。
――物語のイタコみたいになって下ろしてるみたいな感じなんですか?
いや、そんな特殊な感じではなくて。無意識に書いてた、みたいな感じです。
――ええっ? じゃあ、改稿したりゲラを見たりする時はどんな感覚なんですか?
これ誰が書いたんだろう、みたいな。
でも自分でも無意識を大事に書くというのは意識してるんです。頭で書かないで体で書くというか。すべてを理詰めで突き詰めない。
時間が経ってから、ああ、ここはこういうことだったんだな、って気づくことはあるんですけど。
もちろん最終的に言葉で表現するものなので、頭をまったく使わないというのは無理なんですけど、伝えたいのは言葉じゃないというか、まわりに漂っているものなんです。

――記憶がないというのはびっくりなんですけど、でも腑に落ちる気もしました。最初の原稿をいただいた後、よりよい作品になるようにさらに手を入れていただいて完成するわけですけど、その時に、既にまったくその必要を感じないところというのもあって、そこはもしかしたら小川さんが特に無意識で書かれたところなんじゃないかという気がしました。
もちろん間違いなく小川さんの作品なんですけど、小川さんから出てきたんじゃないみたいというか、小川さんという著者が小鳥を作って小鳥の視点で書いているとかじゃなくて、小鳥が書いた感じがするところがあって。
だとしたら嬉しいですね。
それが理想で、自分でもそう思えるように書きたいと思っています。
――最後に、読んでくださる方にメッセージをお願いできますか。
この物語が、自分の感覚を信じて、自分を大切にして、人生を味わい尽くす手がかりになるといいなと思っています。
※※※
* インタビュー全編はこちら「『小鳥とリムジン』担当編集者が訊く 小川糸さんインタビュー」
小川糸『小鳥とリムジン』
10/9頃発売予定

<あらすじ>
主人公の小鳥のささやかな楽しみは、仕事の帰り道に灯りのともったお弁当屋さんから漂うおいしそうなにおいをかぐこと。
人と接することが得意ではない小鳥は、心惹かれつつも長らくお店のドアを開けられずにいた。
十年ほど前、家族に恵まれず、生きる術も住む場所もなかった18歳の小鳥に、病を得た自身の介護を仕事として依頼してきたのは、小鳥の父親だというコジマさんだった。
病によって衰え、コミュニケーションが難しくなっていくのと反比例するように、少しずつ心が通いあうようにもなっていたが、ある日出勤すると、コジマさんは眠るように亡くなっていた。
その帰り、小鳥は初めてお弁当屋さんのドアを開ける――