翻訳された日本の現代文学の一部が、海外で「ヒーリング・フィクション」として受容されベストセラーになっていると聞く。川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』、青山美智子の『お探し物は図書室まで』、夏川草介の『本を守ろうとする猫の話』、八木沢里志の『森崎書店の日々』などがそうだという。なるほど確かにどれも「癒し系小説」と呼ばれるに足る物語ではあるのだが、当該ワードからなんとなくイメージされる、受け身の登場人物が外部からの刺激によって癒される……という展開にはそぐわない要素も見て取れる。その要素は、英訳されたならばきっと「ヒーリング・フィクション」と呼ばれるであろう浜口倫太郎の『天空遊園地まほろば』にも存在する。しかも、続編となる本書『天空遊園地まほろば 時を結ぶ花々』では、その存在感が増している。
関西の天駒山の山頂にある「天空遊園地まほろば」を舞台にした、連作短編シリーズだ。その遊園地は、昭和一六年に開園したものの戦争の影響によりたった二年で閉園された「幻の遊園地」。昼間に来てもただの広場だ。しかし、特別な招待──スマホやタブレットから突然流れ出す「ここは死者に会える遊園地」というアナウンスから始まる案内動画──を受け取った人が予約をすると、指定した日付の深夜0時に特別なケーブルカーが出発し、山頂の遊園地に来園することができる。そこでは“あなた”にとって大切な、二度と会えないはずの死者と再会できる。遊園地のスタッフは、紳士の振る舞いが似合うバトラー然とした青年シチカ、元気で親切、気持ちのいい言動で来園者をアシストする若い女性・すみれ、そして黒猫のテンマ。
来園者には、事前に五つの注意事項が伝えられている。「1、当園は一生で一度しかご利用になれません」「2、再会できる死者は一名のみです」。だから、未来の自分の人生までを想像して、誰に会うかを吟味する必要がある。「3、当園のご利用時間は一時間のみです」「4、当園の遊具のご利用は一台のみです」。つまり、死者と長く一緒に、ずっと楽しく過ごすことはできない。他にも現場ではスタッフから細かいルールや疑問点の説明などもあるのだが(生者が死者に影響を与えることで、世界が変わってしまわないのか?etc.)、何より心に留めておくべきなのは五番目の注意事項だ。「5、当園では泣くことが禁止されています。泣くと、お客様の大切なものが失われます」。「大切なもの」とは、死者との思い出だ。この注意事項の存在が、物語にスリルをもたらしている。
全四編+αを収録した『天空遊園地まほろば 時を結ぶ花々』には、四人の来園者が登場する。例えば、第一編「記念日のスケートリンク」に登場する佐伯陸は、テレビ局のエースだったが今は閑職に就いている。私生活ではシングルファーザーとして、四歳の娘ひなたの育児と家事に励んでいる。死者に会える遊園地の案内を受け取った時、彼が会いたかったのは病で亡くなった妻の由香里だ。悲しみよりも「なんで俺ばっかりこんな不幸に」という怒りに満ちた毎日を送る佐伯は、妻と再会できるチャンスに対してそれほど積極的ではなかった。ただ、娘の大好物である、妻お手製の卵焼きのレシピが知りたいからと遊園地に赴いて……。第二編「ヒーローの急流すべり」、第三編「宇宙への観覧車」、第四編「ペンフレンドのフラワーガーデン」。もしかしたら今この世界のどこかに本当に存在するかもしれない隣人たちの人生、それぞれの悲しみや喜び、頑張りを緻密に描き出す、バリエーションに満ちた筆致は今回も健在だ。特に第四編は、その設定もアリだとなぜ気付けなかったのか、と驚かされる人物が来園者に選ばれている。
遊園地での死者との再会は、結果だけ見てみれば、来園者たちを癒している。では、冒頭で指摘した「受け身の登場人物が外部からの刺激によって癒される……という展開にはそぐわない要素」とは何か。それは、来園者たちは超自然的な現象の影響により受動的に癒されるのではなく、死者との再会をきっかけに意志や決断、行動力を発揮して、自分で自分を癒し、自分で自分を回復させているという感触だ。
そのことを象徴する一文が、第一編の主人公・佐伯陸のモノローグに刻まれている。〈まほろばに行ってから一つだけ、自分の中で変えたことがある。/今まで自分一人でやらないと納得ができなかったが、それではだめだと気づいた〉。だから、周りに頼るようにしたのだ、と。「変わった」のではなく「変えた」、そのことによって彼は人生を好転させることに成功したのだ。
誰かや何か不思議な現象にではなく、他ならぬ自分自身の中に、自分を癒す力がある。さらに付け加えるならば第三編では、自分を癒す力は、誰かを癒す力にもなり得るということが記されている。癒されるという受動性ではなく、癒すという能動性。そちらに読み手の心を傾けさせてくれることこそが、「ヒーリング・フィクション」を読む醍醐味なのではないか。少なくとも『天空遊園地まほろば』のシリーズは、絶対そうなのだ。
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■ 書誌情報
『天空遊園地まほろば 時を結ぶ花々』
ここは、やさしい奇跡の起こる場所――。死者と会える遊園地を舞台にした、切なくも心揺さぶる4つの物語。好評シリーズ第2弾。
■ 評者プロフィール
吉田大助
1977年生まれ。埼玉県出身。「ダ・ヴィンチ」「STORY BOX」「小説新潮」「小説現代」「週刊文春WOMAN」などで書評や作家インタビューを行う。著書に『別冊ダ・ヴィンチ 令和版 解体全書 小説家15名の人生と作品、好きの履歴書』(KADOKAWA)。X(@readabookreview)で書評情報を自他問わず発信中。

