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「みつばの郵便屋さん」シリーズ完結記念、小野寺史宜氏インタビュー【第2回】~全8巻、10年の舞台裏の秘密をあれこれ公開!

みつば郵便局の配達員・平本秋宏と町の人々の交流を描いた「みつばの郵便屋さん」シリーズがこの12月、ついに完結となります。多くの方にご愛読いただいた人気作全8巻の完成を祝い、著者の小野寺史宜さんにお話をうかがいました。

 

■ そもそも、どこから始まったか

――最初に小野寺さんに新作のお願いにあがったときって、千葉の居酒屋でしたよね。そこであれこれお話ししているうちに、小野寺さんから「郵便屋さん」というアイデアが出てきて、ぜひそれでとなった記憶があります。でも、確かその時は、お互いにシリーズ化するというイメージはありませんでしたよね。

小野寺史宜さん(以下、小野寺:僕も単発と考えていました。最初に単行本として書いた「みつばの郵便屋さん」の1巻は8話を収録しているのですが、1巻が文庫になってしばらくしてから、続刊のお話をいただいた気がします。でもそのときに、次も8話はきついと感じました。だから、「4話でいいですか?」と僕から言ったのを覚えています。この時点でも、まだシリーズ化するイメージはありませんでした。

――1巻が好評だったので自然な流れで、「ぜひ続巻を」とお願いしたわけですが、ここまで長いシリーズになるとは私も思っていませんでした。

小野寺:1巻の秋宏は、25歳。このときは、表記が「ぼく」になっているんですね。でも、3巻から「僕」にしました。

――え、そうでしたか。気づいていませんでした。

小野寺:このあたりで、あれ、どうもシリーズっぽくなってきたぞ、という感じがあって。1巻ごとに1歳ずつ年をとっていくことにしたので、ずっとひらがなの「ぼく」ではつらいなと。その3巻からシリーズを意識したんだと思います。

――シリーズ化を視野に入れたときに、考え方としては、サザエさんみたいに年をとらせないパターンもありますよね。でも、そうしなかった。

小野寺:毎回4話だから、春夏秋冬にしたかったんですね。ならば、ちゃんと1年経たせて年をとらせたい。町も動いていく。時の流れや変化もうまい具合に書けたと思っています。一番わかりやすいのは、今井貴哉くん。最初に登場したときは幼稚園の年長さんですが、最終巻では中学生一年生。何と、サックスまで吹きます。子どもにとっての8年は大きいですよね。5歳が13歳になりますから。

 

■ 「みつば」の町の設定

――タイトルに「郵便屋さん」とあるので、「お仕事小説」と思われる方もいらっしゃいますが、お仕事小説というのともちょっと違いますよね。

小野寺:いわゆるお仕事小説にはしたくないと思っていました。仕事だけじゃなく、郵便屋さん本人の話です。僕はいつか刑事の話を書きたいとも思っているのですが。事件の話じゃなくて人としての刑事、刑事の生活のほうを書きたい。でもこの案はどの編集者さんにもいいと言ってもらえないので、いまだに書けません(笑)。それに近いイメージです。

――ええ、面白そう。小野寺さんがお書きになるなら、ぜったい面白いです。ぜひ、書いてくださいよ。

小野寺:なら書きます。まあ、それはそれとして。仕事より人そのものを書きたかったから、当然、秋宏の家族も出てきます。ただ、お父さんとお母さんは、ちょっとうまくいかなくなってる。うまくいかなくなってるんだけど、大喧嘩をしてるとかでもない。1巻のうちに別れちゃう。

――そのあたりも、小野寺さんらしい設定ですよね。

小野寺:設定に関して言うと。架空の町をつくりたかったというのもあります。みつばを書くことで、作品の舞台が住宅地なら「みつば」、田舎なら「片見里」というパターンが、自分のなかで確立しましたね。

――小野寺作品に登場するのは実在する地名と架空の町があって、地続きなのが面白いですよね。「みつば」や「片見里」は架空の場所ですけれども、東京とか銀座とかにも住人は行ける。設定された距離感もある。

小野寺:「みつば」では、町の縁を国道が走ってます。東京に向かって右側が高台の四葉。ここは昔からある町です。左側がみつばですけど、かつては海だったところ。何十年か前に埋め立てられて町が造成されたという設定です。初めは高台の蜜葉市四葉に市役所がありましたが、これからはこっちだろうということで、新しくできたみつばの町に市役所も移した。みつばはベッドタウンのような感じになりました。漢字のままの蜜葉市蜜葉でもよかったんだけど読みにくいのでひらがらの「みつば」にしようという意見が出た、という流れです。

――新しい町名をつけるとき、今どきの行政とか、やりそうですよね。

小野寺:やりそうですね(笑)。

――郵便屋さんが主人公ですから、町の設定はとても重要ですね。そこがはっきりしないと、何が起こりうることで、何が起こりえないか、イメージできませんもんね。で、そうやってみつばの町の誕生とともに、郵便屋さんも誕生した。

小野寺:それはそうなんですけど。実は、郵便屋さんは前にも出してるんですよ。

――え! そうなんですか? どこに出ていました? もしかして、デビュー作の『ROCKER』とか?

小野寺:いえ、その次の『ナオタの星』(単行本タイトルは『カニザノビー』、文庫化で改題)です。この作品の作中作に『カリソメのものたち』という小説が出てきます。

――『ナオタの星』は、会社を辞めてシナリオ作家を目指すナオタ(小倉直丈)が主人公。新人賞に応募し続けていますが、落選ばかり。夢にむかって悪戦苦闘する直丈が、自分よりも先に人気作家になっている妹の琴恵から、映画化の決まった小説の脚本化を依頼される、それが『カリソメのものたち』でした。思わぬところから、シナリオ作家としての道が開けるかもしれない、チャンス到来というシーンですね。

小野寺:そうです。で、直丈は本気になります。

――ちょっとそこ、引用しますね。

 琴恵にもらった『カリソメのものたち』を四時間かけて、再読した。
 そしてその後も、夜を徹して、作品のシナリオ化を模索した。
 『カリソメのものたち』は、近い将来の取り壊しが決まっているコーポカリソメというアパートに住む五人の若者たち(男三人、女二人)の姿を描いた連作短編集だ。
 仮初の住まいであるワンルーム。そこから、それぞれの一歩を踏みだしていく五人。一人一人に直接的なつながりはないものの、各短編の最後で、その各主人公たちは、様々な理由から隣室を訪問する。
 ひいき目でなく、おもしろい小説だと僕は思った。初めて読んだときも、二度めに読んだ今も。
だが、これをそのまま映像化するわけにはいかない。それをやると、単なるオムニバス映画になってしまうから。
 そこで僕は考えた。ここしばらくはずっと休ませっぱなしだった脳をフル稼働させて、考えた。
 午前五時すぎ。通算で七杯めだか八杯めだかのインスタントコーヒーを飲んでいたときに、一つのアイデアが浮かんだ。唐突に、ポッと。
 同じアパートに住んではいるが、知人同士ではない五人。
 その五人に共通するものはないか。
 彼らを結びつけるものが、何かないか。
 あった。
 郵便だ。
 郵便配達だ。

『ナオタの星』より引用

――ああ、本当ですね。このあとには、「つまり郵便配達員なら、アパートの住人すべてと接触する可能性があるわけだ」とも書かれています。

小野寺:はい。僕のなかには郵便屋さんはもうこのころにいたんだと思います。

――しかも、人と人をつなぐもの、結びつけるという存在として。そうすると、『みつばの郵便屋さん』は『ナオタの星』で種がまかれていたものが花開いて誕生した作品と言ってもいいかもしれませんね。

小野寺:だから、読者のなかには広い意味での続編だと思ってくださってる方もいらっしゃいます。

――それから何年かあとに、「郵便屋さん」が改めて浮上した。『ナオタの星』では名前もなかった郵便屋さんに「平本秋宏」という名が与えられ、舞台は「みつば」の町と決まった。作中作の人物で、名前すらない一番端っこにいた人が、やがてシリーズの主役を張るまでになるなんて、まさに小野寺ワールドですね。


  *

★小野寺さんのインタビューの続きは、こちらです。

なお、このインタビューに出てくる「みつばの郵便屋さん」シリーズ第1話「春一番に飛ばされたものは」は、ウェブアスタにて公開中です。

https://www.webasta.jp/mitsubaspostman/

ぜひ、あわせてお楽しみください。

 

── 「みつばの郵便屋さん」シリーズ 全巻もくじ ──

全巻イラスト:pon-marsh

みつばの郵便屋さん』(単行本2012年5月刊/文庫2014年8月刊)

・春一番に飛ばされたものは
・悪意も届けてこそ
・愛すべきアイスを
・待てば海道の日和ある?
・起こせる奇蹟も奇蹟
・能ある鷹は爪を研げ
・たとえ許せはしなくとも
・そして今日も地球はまわる

 

みつばの郵便屋さん 先生が待つ手紙』(2015年2月刊)

・シバザキミゾレ
・そのあとが大事
・サイン
・先生が待つ手紙

 

みつばの郵便屋さん 二代目も配達中』(2015年11月刊)

・二代目も配達中
・濡れない雨はない
・塔の上のおばあちゃん
・あけまして愛してます

 

みつばの郵便屋さん 幸せの公園』(2017年10月刊)

・かもめが呼んだもの
・テスト
・お金は大切に
・幸せの公園

 

みつばの郵便屋さん 奇蹟がめぐる町』(2018年11月刊)

・トレーラーのトレーダー
・巨大も小を兼ねる
・おしまいのハガキ
・奇蹟がめぐる町

 

みつばの郵便屋さん 階下の君は』(2020年11月刊)

・階下の君は
・今日もゼロベース
・あきらめぬがカギ
・秘密の竹屋敷

 

みつばの郵便屋さん あなたを祝う人』(2022年6月刊)

・あなたを祝う人
・拾いものにも福はある
・エレジー
・心の小売店

 

みつばの郵便屋さん そして明日も地球はまわる』(2022年12月刊)

・昨日の友は友
・雨と帽子
・秋の逆指名
・そして明日も地球はまわる

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