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ロジックと青春がたっぷり詰まった一泊二日のミステリー【評者:大矢博子】

「メイ解き」の夏休みだ!
 と、のっけから興奮してしまったのは、本書が二〇二二年に刊行された『ルームメイトと謎解きを』略して「メイ解き」の続編だったからだ。わー、彼らの続編が読めるとは。しかも夏休みですよキャンプですよ猫ですよ。これが興奮せずにいられようか。
 舞台は埼玉県にある全寮制の霧森きりもり学院高等部。夏休み中のある日、空手部の二年生・兎川雛太とがわひなたと、彼のルームメイトにして容姿端麗頭脳明晰ツン属性高め(ただし動物にはデレる)の鷹宮絵愛たかみやえちかは、同学年の渡亜蓮わたりあれんに誘われて一泊二日のボランティアに参加することになった。保護猫団体のNPO法人が運営に関わっているキャンプ場で、施設内の掃除や草刈りをやるのだという。
 そのボランティアには三校から十人の高校生が集まった。キャンプ場スタッフの指示を受けて作業を始めたものの、なんだか雰囲気があまり良くない。英央えいおう附属ボランティア部から参加した鵜森うもりあずさと梨元純樹なしもとじゅんきが恋人同士なところに、鵜森の元カレと梨元に横恋慕中の女子生徒が参加しているらしいのだ。波乱含みのキャンプで、予想通り小さな小競り合いが頻発する。そして二日目、参加者のひとりが死体で発見された。疑われたのはなんと雛太で……。
 シリーズ前作は学校内の事件ということもあり、学園が主な舞台だった。事件やその謎解きはもちろんだが、男子高校生たちのわちゃわちゃ感が物語の大きな魅力だったことは論をたない。ところが今回はわちゃわちゃどころかギスギスである。
 だがこのギスギスの中に縦横無尽に伏線がちりばめられているから油断してはいけない。いっそあからさまなほどの撒き餌もあれば、巧妙に隠された仕掛けもある。事件発生以降のやり取りの中に重要なヒントがあるのはもちろん、序盤からすでに種は蒔かれているのだ。「そんなところが!」と思うような手がかりを挙げて絵愛が理詰めで容疑者を絞っていく終盤が本書の最大の読みどころ。これこれ、こういうのが好きなのよ、と本格ミステリファン垂涎の謎解き場面が味わえるぞ。
 そんな本格ミステリとしての魅力と併せて、本書で注目いただきたいのが人間関係だ。これは物語の半分くらいの箇所なので本来はバラさない方がいいのかもしれないが、このふたりは自動的に容疑者圏外なので、良しとしよう。雛太の嫌疑を絵愛が晴らすのである。「もしかして、オレのこと信じてくれてんの?」「合理的な理由がないのに、おまえは春の事件のときおれを信じただろう。おれにだけ理由を求めるな」……何これ尊い。ありがとうございます。書籍代の元がとれてお釣りが来ます。
 だが本書に描かれる友情の形はこれだけではない。いい人ばかりではなさそうなこの集まりにおいて、それでも自分の友だちを大事に思い、庇おうとする人がいる。誰が誰を大切に思っているのか。その構図こそが本書のテーマだ。嫌なやつだと思っていた人物が、ただ明るいやつだと思っていた人物が、実は懸命に足掻いていたのだとわかるくだりは特に胸に迫る。雛太の性格と猫の可愛らしさに救われてはいるが、本書はシビアな現実に立脚した相当にビターな物語なのだ。
 これが成立するのは、よく知らない他校生同士だからである。知らないからこそ、各々が持つ事情がわかったときに絵は一気に反転する。だから今回は校内ではなく外での事件だったのか、これがやりたかったのかと腑に落ちた。
 本格ミステリとしての論理、青春ミステリとしての甘さと苦さ。そこに隠し味(隠してないけど)で猫を少々。どんなに苦くても雛太と絵愛が一緒にいれば大丈夫、と思わせてくれる。ふたりの出会いが描かれる第一弾と併せてどうぞ。

■ 書籍情報
『猫鳴く森で謎解きを』(著 楠谷佑)
夏休みに猫と会えるキャンプ場で起きた殺人事件。男子校の凸凹コンビ・雛太と絵愛が新たな謎に挑む、青春本格ミステリ!

■ 評者プロフィール
大矢博子(おおや・ひろこ)
大分県生まれ、名古屋市在住の書評家。著書に、『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』などがある。

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