
今回のヨーロッパ周遊はユーロサッカーと共にあったと言っても過言ではない。
四年に一度、オリンピックのようにヨーロッパの国々が競い合うこの祭典。
ワールドカップの時だけ日本を応援するレベルのにわかな私は知るよしもなかったのだが、ヨーロッパの人々はどこもかしこも大盛り上がりなのである。
まずはスイス。
たまたまホテル近くでイタリアvsスイス戦のパブリックビューイングが行われており、サッカー大好きなカヨちゃんと一緒に観戦しに行くことに。
サッカーに明るくない私でも流石にわかる。
イタリアが強いんじゃないの?と。
高みの見物で、ビール片手に大型モニターを眺めていると、あれよあれよと何かが起きて、その日スイスは見事勝利を収めた。
奇跡的勝利に私たちも現地の人々も大興奮。
ただスイス人達、試合が終わるとものすごい勢いで去って行き、一瞬で広場がすっからかんになった。
余韻無し!!!国民性を感じる。

そしてお次の国はフランス。
フランスの友達が「フランスvsスペイン戦は絶対に観に行きたい。」と言うので、当時訪れていた田舎町でスポーツバーを探し、どうにか観に行くも惨敗。
点が決められる度に皆が「オーララ……」と絶望して、お通夜のようなムードでゾロゾロと店から出ていく様子にいたたまれない気持ちになる。
帰りの車に乗り込むと、追い打ちをかけるように雨も降ってきたので
「空も泣いてるね。でも車のガラス汚かったからちょうどよかったね」
と励ましたら「SHUT UP」と言われた。
しかし。
実はわたしはこの時、ちょっとだけスペインのことを応援していた。
なぜならフランスの次に訪れるスペインではこれまでで一番大きな規模でオーバーツーリズム(観光客増による)のデモが行われており、観光客に水鉄砲をかましてくるというニュースを目にしたからである。
なので今回もしスペインが優勝してくれたら街全体がpeaceな雰囲気になってくれるのでは…と淡い期待を抱いていたのだ。
というわけで、フランスはNantes から到着した国はスペイン、バルセロナ。
ホテルに向かうべく一人空港からバスに乗り込むと、さっそく知らないおじさんがスペイン語で怒鳴ってきた。
最初は、乗る場所が間違ってるのかもと思い「スペイン語わからないよ!」など返事していたのだが、感覚的にどこの国にも時々存在するヤバおじさんだということがわかって気にせず一旦乗車する。
しかし人に怒鳴られるのは怖い。
言語がわからないと尚更怖い。
遠くの席に座ったがドキドキする。
スペインに着いたその日は、スペインvsイングランドの決勝戦。
スペインはフラメンコのダンスを習っていたわたしが今まで一番来たかった国で、一番楽しみにしていた国と言っても過言ではない。
ただ、到着した日はおじさんとデモのこともあって本当に怯えてしまい、ホテルから出ることなくテレビで試合を見た。
お願い。スペイン勝ってくれ…。マジで…。
深夜未明、わたしの懸命な祈りが届いたのか0-0が続いた後、スポーンとスペインがゴールを決めて2-1でスペインは優勝した。
夜遅くにも関わらず窓の外からは爆竹のような音が聞こえる。
私にとってはファンファーレ。
どうぞどうぞ。好きにやっちゃってください。
安堵感からかその日は爆竹を子守唄に爆睡した。

次の日からはパリでも遊んだCAの友達くーちゃんと2日遊んだ後、入れ替わりですーちゃんと合流。
くーちゃんやらすーちゃんやら。
名前も似ていれば、どちらも中学の陸上部のメイトなので余計にややこしい。
すーちゃんは建築関係の仕事をしていることもあり、スペインの建築に以前から興味があった為、今回の旅への勧誘はスムーズに行われた。
ガウディの建築を始め、カタルーニャ音楽堂など、スペインは本当に美しい建築ばかりなのだ。
あちこち観光していると、街の人も店の人も全員めちゃくちゃ優しくてなんだか拍子抜け。
結局街はデモなど見る影もない様子で安心して観光することができた。
昨今、日本でも観光客の急激な増加に対するニュースを目にする機会は多い。
今回の自分はそのデモの対象者でもあるため、正直結構気まずい気持ちだった。
ただオーバーツーリズムによる物価の上昇や、家賃の高騰などの問題は日本も同様。このデモって人ごとではないよなぁ…と今回は終始考えさせられた。
(最近も羽田空港の寿司が一貫700円だったという話を聞いて引いた)

ちなみにすーちゃんと旅行の計画を立てていた時は、ちょうど新曲のレコーディングが佳境だった。
スタジオに居たベースのマーティーと、サックスのメルローさんにスペインに行く旨を話すと、マーティーはモンセラット、メルローさんはトレドのパラドールをお勧めしてくれたので、どちらとも行くことに。
カタルーニャの聖地と呼ばれるモンセラット(ノコギリの山の意)には、バルセロナから電車を乗り継いで1時間で行くことができる。
ガウディをはじめ数々のアーティストがこの不思議な大自然に影響を受けており、バルセロナ女子の人気ナンバーワンの名前は「モンセラット」なのだとか。
駅へ降り立った私たちは、モンセラットの丸くデカく聳え立つ岩々に衝撃が止まらず、一旦写真を撮り続けた。
なんとも形容し難い、不思議な形である。
モンセラットの教会には木彫りの黒マリア像があり、触るとご利益もあるらしい。
浜崎あゆみ「M」のサビに「黒」を足して「黒マ〜リア〜〜」と熱唱しながら予約の列を並ぶ。
辿り着いたマリアは本当にガングロだった。
地蔵の頭を撫でた経験はあっても、マリアに触ったことはなかったので、控えめにサワサワする。
そしてサンミゲル展望台から見るモンセラットの絶景たるや!スペインを訪れる方はぜひ訪れてみてほしいスポットである。マーティーありがとう〜

そしてバルセロナを一週間たっぷり満喫した後は、マドリードを経由しメルローさんおすすめのトレド、パラドールへ。
パラドールとはスペインの古城などを改装したホテルのことで、1928年に改装が始まり今では100件近くのパラドールがスペインに存在しているらしい。
昔からの建造物に泊まれるなんて…ロマン!
トレドのパラドールは丘の上に位置するため、まず道中から美しい。
タクシーのおじさんも「この街は本当に綺麗でしょう!」と誇らしげだ。
途中で「一回降りて!写真撮ってあげる!」と提案してくれて、見晴らしのいいスポットで写真まで撮ってくれた。
街全体が世界遺産の場所で暮らしていると、こんな素敵なおじさんになれるのかなぁ…。
そう思わざるを得ないくらい、美しい心のおじさんと、美しい景色だった。うっとりだ。
部屋からは統一感のあるオレンジ色の古都が一望できた。湿気がないからか、スペインではやけに視界がカラッとクリアである。
結局パラドールからの景色があまりにも良すぎたため、わたしたちは街へ出ることなく、中庭のプールで遊んだり「街のものたちはこの猛暑の中、どう過ごしているのじゃろうか…」とワインを飲みながら姫ごっこをしたりして過ごした。
今まで泊まったホテルでナンバーワンの景色…
メルローさんありがとうございました…
当初はだいぶ怯えていたスペインだったが結局、ユーロサッカーでのスペインの勝利、建築や自然の壮大さ、人の温かさや人懐っこさに助けられ、マドリードの市場で私のカバンの中を漁る女に「NO!!!!!!!!!」と叫ぶくらいで済んだのでした。
大好きだよスペイン。
優勝おめでとう
チャンチャン。
(イラスト/藤原さくら)

藤原さくら(ふじわら さくら):1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。interfmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。