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『ミント邸で夜の茶会を』誕生秘話

4月20日に発売となる斎藤千輪さんの小説『ミント邸で夜の茶会を』
海街の高台に佇む瀟洒な洋館、通称ミント邸で、
週末の夜だけ開かれるイブニングティーのサロン。
看板メニューはおいしい紅茶と瀬戸内の食材をふんだんに用いたスイーツ。
マダムの琴葉は趣味の紅茶占いでお客様の悩みにヒントをくれる――
と思いきや、実際に謎を解くのは、
義理の息子で極上のスイーツをつくるパティシエの壮馬で……。
こんなサロンが実際にあったらいいのに、とうっとりしてしまうほど、
素敵なモチーフがたくさん詰まった物語は、どのように生まれたのでしょうか。
斎藤さんが誕生秘話をご寄稿くださいました。


「広島の鞆がすごくよかった。景色も食事も温泉も最高なの」
 旅好きの友人からそう言われたのは、10年ほど前のことでした。それ以来、いつか訪れてみたいと思い続けて、昨年の春にようやく実現しました。
 “鞆の浦”の名称で知られるそこは、万葉の昔から寄港地として栄え、今も江戸情緒が漂う長閑な海街です。目の前に広がるのは瀬戸内海の澄んだ蒼。背後に佇むのは高見山の深い緑。空には龍のように細長い龍神雲がいくつも浮かび、鷹や海燕が優雅に飛び交っていたのを覚えています。
 歴史に培われた伝統と人々が暮らす日常が、ごく自然に重なり合っている鞆には、過去と現在の境が曖昧になっていくような、神秘的な静寂が流れていました。
 その静けさの中、ふと山の麓に連なる家々を眺めていると、ひと際目立つ建物を見つけました。鮮やかなペパーミント色の建物です。
 ――もし、あの建物が瀟洒な古い洋館で、週末の夜にだけ開くティーサロンだったら。香り高い紅茶と美味しいスイーツを楽しむ傍らで、誰にも言えなかった悩み事が、密やかに語られる場所だったら――。
 そんな空想が膨らんだ瞬間、すでに書き進めていた『ミント邸で夜の茶会を』の世界が、くっきりと形を成していきました。
 人生のある場面で迷い、惑い、誰かに話を聞いてほしくなる黄昏時。胸の奥に芽生えたささやかな謎や違和感を、解きほぐしてもらいたくなる夜。そのような時間を穏やかに受け止めてくれそうな鞆は、物語が生まれるのに相応しい地だったのでしょう。
 しかも不思議なことに、広島の方言がキーとなるエピソードも、最初から知っていたかのごとく浮かび上がってきたのです。鞆の空気に触れなければ本作を最後まで紡げなかったと、はっきり確信しました。
 どうか、鞆の浦にあるミント邸の夜の茶会に参加して、紅茶占いが趣味のマダムと謎解きが得意なパティシエによるハートウォームなミステリーを、存分に味わってください。
 皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。

  *

■ 書籍情報
『ミント邸で夜の茶会を』
舞台は海街の瀟洒な洋館のティーサロン。おなかと心がやさしく満たされるおいしい連作ミステリー!

■ 著者プロフィール
斎藤千輪(さいとう・ちわ)
東京都町田市出身。映像制作会社を経て、放送作家・ライターとして活動。2017年、第2回角川文庫キャラクター小説大賞・優秀賞を受賞した『窓がない部屋のミス・マーシュ 占いユニットで謎解きを』でデビュー。著書に、第2回双葉文庫ルーキー大賞を受賞した『だから僕は君をさらう』のほか、「ビストロ三軒亭」「神楽坂つきみ茶屋」「グルメ警部の美食捜査」の各シリーズ、『出張シェフはお見通し 九条都子の謎解きレシピ』『魔城の林檎』『憧れの貴婦人レシピ』など多数。

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