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【前編】『ピエタ』刊行15周年記念対談 大島真寿美×有働由美子 大切なのは自分の感覚を信じること

2011年の刊行以来、多くの読者に愛され続けてきた大島真寿美さんの『ピエタ』。
かねてより親交のあるフリーアナウンサーでジャーナリストの有働由美子さんをお迎えし、作品の魅力や創作の背景について語り合っていただきました。
女性が自分らしく歩み続けるために大切にしてきたことや、人生の後半戦との向き合い方、そして変化の大きい時代を生きる若い世代へのメッセージまで、たっぷりとお届けいたします。

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●白いものがふわふわ動いていた

有働 そもそも、ヴィヴァルディを書こうと思ったのはなぜですか。
大島 昔から彼の曲を聴くと、カーテンなのかスカートなのか、とにかく白いものがふわふわ動くイメージが浮かぶんですよ。特に作中に登場する『調和の幻想レストロアルモニコ』を聴くと、必ずそのひらひらが見える。他のクラシックを聴いてもそういうことはないんだけど、ヴィヴァルディだけは何かが書けそうな気配があって。
有働 へえ! クラシックに詳しくない人にもわかるようにいうと、ヴィヴァルディの魅力ってどんなところですか。
大島 すごく乱暴にいえば、当時のヒットメーカーだったんじゃないかな。ヴェネツィアの慈善院は自分たちの演奏会に来てもらって寄付を募ることで経営が成り立っていたんです。だから多くの人の心を惹きつけなきゃならない。人気商売だったんですよね。だから三百年経った今でも、ぐっとくる人にはぐっとくる音楽なんだと思います。
有働 難解で高尚なだけじゃ駄目だったんですね。今でいうJ-POPのトップアーティストのような?
大島 そうそう、専門家の方には怒られそうだけど(笑)。
有働 そのひらひらしたイメージを追っていったら、ピエタ慈善院に行きついたんですね。
大島 CDのライナーノーツで、ヴィヴァルディがピエタで女性たちに音楽を教えていたというエピソードを見つけて「ああ、これだったんだな」と結びついた。『調和の幻想レストロアルモニコ』はピエタの娘たちのために作られた曲なんです。だからヴィヴァルディが込めた彼女たちへの想いが音楽のなかに残っていて、それを私が手紙のように受け取ったんじゃないかな、ということを『ピエタ』を書いてから思うようになりました。
 

 
●物語の下僕のような気持ちで一行一行紡ぐ

――有働さんは改めて『ピエタ』を読まれていかがでしたか?
有働 四十すぎに初めて読んだときは、主人公のエミーリアに近い気持ちだったんです。でも今回は最初からクラウディアの目線だったので、全く違う印象を受けました。
大島 へええ。
有働 年を重ねると、同じものを読んでも引っかかるところが変わってくるんですね。今思えば四十代ってイケイケだったから(笑)、なんでも自分がやりたいと思っていた。でも五十をすぎると体が枯れてきて、できることも限られてくるから、意識して譲ろうとしなくても、自然と若い人を応援したくなるんですよ。昔はクラウディアを「志のある立派な人」だと思っていたんですけど、さまざまな経験をして年を重ねたからこそ、ああいう言動になっていったんだろうなと腑ふに落ちるし、とても共感できました。
大島 それはわかる。無理してそうなるんじゃないんだよね。
有働 作品が十五年間生き続けてくれたおかげで、そういう自分の変化にも気づけた。読み継がれる強い物語って、読み返すたびに新鮮な気づきをくれるんだなと感じました。

――大島さんはこの十五年を振り返っていかがですか?
大島 本当に幸せな作品ですよね。刊行時にはたくさんの書店員さんたちが応援してくれて本屋大賞で三位をいただいて、ラジオドラマになって。それから十年以上経って小泉今日子さんが舞台やオーディブルにしてくださったり、ヴァイオリニストの杉田せつ子さんが音楽と朗読の公演を続けてくださったり。たくさんの方が恐ろしいほどの情熱を注いで、いろんな形で作品を届けてくださったおかげで、ずっと新しい読者との出会いがある。今となっては、自分が書いた気がしないんだけど(笑)。
有働 今書いてと言われても書けないですか。
大島 書けないですね。 私、自分が書いているというより、読んでいる感覚に近いんですよ。自分がこの先が知りたいから書く。一行書かないと次の一行がわからない。だからもう、物語様の下僕のような気持ちで進んでいくんです。たまに間違った一行を書いてしまうと、ぴたっと筆が止まっちゃう。そのたびに間違ったと思うところまでしゅるしゅるっと戻って、また一行ずつ。だから時間はかかります。
有働 織物みたいなことですね。ひと目間違えると違う柄になってしまう。
大島 そうそう。たまに書いている途中に必要な資料が偶然届くといったことが起こると、こっちで間違いない、という道標になりますね。
有働 それが本当に不思議ですよね。読んでいる側からは完璧に計算されているように見えるので。
大島 それが全然。ヴィヴァルディの話を書こうと思ったのに、ヴィヴァルディは一行目で亡くなっちゃうし、ヴェロニカが探している楽譜の行方ゆくえなんて見当もつかなくて「もし最後まで見つからなかったらごめんね」と編集者に言ってましたから(笑)。もちろん楽しくもありますよ。自分が思いもしなかった一行がふっと現れるから。へぇ~! って自分で声に出して驚くこともあるくらい。
有働 確かにそれは楽しいかも。

 
●女性たちは、ずっと連帯してきた

――大島さんの作品は、女性同士の関係性が魅力だといわれることが多いですよね。『ピエタ』もシスターフッドを描いた作品として愛されている印象があります。
大島 よくそう言ってもらえるけど、私自身は女性の友情を書こうと思ったことはないんです。ただ、表に現れていないだけで、女性同士の連帯は昔からあったよね。
有働 時代が追いついてきたんですよね。
大島 少女漫画の黎明期れいめいきを描いた『うまれたての星』を書いた時、当時の女性編集者に取材したんです。男尊女卑の時代、女性は漫画家の担当をさせてもらえないのが普通で、でも、「私は、ずっと女の子の味方をしようと思ってた」って、今や九十歳を超える彼女が、そうおっしゃったんです。ひそやかにひそやかに、女たちは連帯していた。いがみ合ったり、競い合ったりする文脈で語られがちですけど、見えないところ、見えにくいところで女たちはずっと連帯してきたんじゃないか。それがようやく表に出てきて、シスターフッドという言葉で理解されはじめたんじゃないでしょうか。
有働 真寿美さんの本に出てくる女性たちって、みんな甘くないんですよね。男性や世間が求める「女性はこうあるべき」という像への媚こびがない。
 女性同士の関係を書いた作品って、実は女性が一番厳しい読者だと思うんです。「いやいや、こんなことないでしょ」と思ったら冷めてしまう。
 でも、真寿美さんの書く人たちはみんな正直なんですよ。『ピエタ』に出てくる人たちも、みんな嫌な部分や弱い部分がある。理想化されていないから、四十代で読んだときも「わかるわかる」と思ったし、今読んでもやはりそう感じる。「女性の連帯」や「シスターフッド」という言葉だけでは収まりきらない、人と人との関係が描かれているから、いくつになっても安心して読めるし、作品への信頼感が強くあります。

この記事は【前編】です。【後編】は11月2日公開です。

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■ クレジット
聞き手・構成 編集部
撮影 土居麻紀子
ヘアメイク(有働さん) 戸澤りか(ヌーデ)
スタイリスト(有働さん) 長田久美
衣装協力 Haut tricot(問い合わせ:086-206-5440)
     Perlagione(ラ パール ドリエント)(問い合わせ:078-291-5088)

■ プロフィール
大島真寿美(おおしま・ますみ)
1962年愛知県生まれ。1992年「春の手品師」で第74回文學界新人賞を受賞。同年『宙の家』で単行本デビュー。2012年、『ピエタ』で第9回本屋大賞第3位に。19年、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で第161回直木賞を受賞。著書に、ドラマ化された『虹色天気雨』『ビターシュガー』、映画化された『チョコリエッタ』のほか、『香港の甘い豆腐』『やがて目覚めない朝が来る』『三人姉妹』『戦友の恋』『ゼラニウムの庭』『三月』『あなたの本当の人生は』『結 妹背山婦女庭訓 波模様』『モモコとうさぎ』『うまれたての星』など多数。『婦人公論』にて、小説「あなたの隣で」を連載中。

有働由美子(うどう・ゆみこ)
1969年鹿児島県生まれ。兵庫県、大阪府で育つ。91年NHKに入局。『NHKニュースおはよう日本』『サンデースポーツ』『NHKニュース10』『あさイチ』などの番組を担当し、ニューヨーク特派員や紅白歌合戦の総合司会を務める。2018年退局し、フリーに。『news zero』のメインキャスターなどを経て、現在は『有働Times』『有働由美子の健康案内人!』『うどうのらじお』など多方面で活躍。東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター客員研究員、日本車椅子ラグビー連盟理事などを務める。著書に『ウドウロク』『コドモの大學3 せんきょに行こう!~えらぶ たのしさ えらべる しあわせ~』『女将 有働由美子のおつまみレシピ帖』などがある。大島さんの小説『たとえば、葡萄』文庫版にて巻末解説を執筆。

■ 書籍紹介

『ピエタ』大島真寿美
18世紀ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で、〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。そんなある日、教え子たちのもとに恩師の訃報が届く。
裏方としてピエタを支えるエミーリア。天才ヴァイオリニストのアンナ・マリーア。裕福な貴族の娘・ヴェロニカ。そして、かつてヴィヴァルディと深い関わりがあった高級娼婦コルティジャーナ・クラウディア――。
ヴィヴァルディの残した一枚の楽譜の謎を巡り、女性たちの人生が交錯する傑作長編。

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