2025年3月1日。私は人工股関節手術を受けました。なにかと理由をつけて先延ばしにしてきましたが、脚の痛みは強まる一方。気づけば脚をかばってペンギンのような歩き方しかできないありさまです。もうやるしかない。覚悟を決めました。
手術それ自体が怖かったんじゃありません。私が怖れていたのは「チン管問題」です。率直にいうと、私にはおしっこが出るオチンチンの穴がふたつあるんです。ふつうの人の穴はひとつです。丁寧に説明させてください。
手術のだいぶ前、「空気階段の踊り場」のアフタートークで「チン管」の話題になりました。
「チンチンに管いれるって、どっちの穴にいれるんだよ」
私が言うと、
「え、どっちってお前、なに言ってんの?」
ブース内の相方・水川とぜんぜん話がかみ合わない。
「いやいやいや、見た目は穴がひとつだけど、先を開いてちゃんと見るとふたつになってるでしょ。鍵穴みたいに!」
「いや、なってねえよ」
そこで発覚しました。私はチン穴がふたつある人間だったのです。「重複尿道」といって、たま~にそういう人がいるんだそうです。ここで私に疑問が生まれました。
「チン穴がふたつある人って、チン管を2本入れんの?」
ふつうは1本入れる管を2本も入れたら、チンチンが容量オーバーになっちゃうんじゃない? 管をガッと無理矢理2つの穴に入れたら、ブルラァァァっとチンチンの中の肉を削られちゃうんじゃない? そんなことを考えはじめたら、もう怖すぎて。
手術が問題なくできるかどうか検査したときに泌尿器科の先生にきいてみました。
「私、オチンチンの穴がふたつあるんですけど」
「見せてもらっていいですか?」
私はズボンをおろして、先生にチンチンを見せました。先生はしげしげと眺めて一言ポツリ。
「ああ、ひょうたんみたいな感じか」
「え、ひょうたんってことは、下の穴がちょっと大きいってことですか?」
「そうですね。ひょうたん型です」
ひょうたん型。その場で命名されました。
チン管は下の大きいほうの穴に入れたら大丈夫とのことでした。
でもチン管を抜くときを考えたらまだ怖い。もっと情報を入手したい。吉本興業は芸人が多いですから、チン管経験者の先輩がいるはず。スポーツをしていた人はケガが多いから、チン管を入れてる確率も高いはず。スポーツ経験者の先輩にきいてまわったら、やっぱりいました。ジャルジャルの福徳さんがチン管を入れてたんです。ラグビーでケガをしたときに。
「どんな感じですか?」
おそるおそるきいてみました。
「想像以上に入ってんで」
たんたんと答える福徳さんは続けます。
「いち、にの、さん、で、ガッて抜く感じを想像してるやろ? でも、そんなんちゃうから。いち、にの、さーーーん、や」
福徳さんは手ぶりを交えて臨場感たっぷりに教えてくださいました。管が抜ける感覚がとてつもなく長いんだそうです。ドルルルルって。どういうこと?
とにかく明るい安村さんも入れてました。さすが元・甲子園球児。安村さんいわく「痛すぎて地獄」。チン管が入っている状態が我慢できなくて、ナースコールを押して夜中に抜いてもらったそうです。だめだ。怖くなってきた。
ジャングルポケットの太田さんも入れてました。柔道のケガで。
「この世のものと思えない痛み。地獄だよ」
太田さんはめちゃくちゃビビらせてきます。やめてくださいよ。
3人へのヒアリングにより、チン管を抜くときはどうやら、痛くて、長い、ということがわかりました。結局、恐怖はぬぐえないまま手術当日を迎えました。
手術にかかった時間は6時間。でも体感はあっという間。電車の中で寝てしまって気づいたら降りる駅だった、みたいな感覚です。知らないうちにオムツを履かされていて、すでにチン管が入っています。ベッドで寝てたら、なんかムズムズするなと思うくらいで、入ってるかどうかはあんまりわからない。尿意がぜんぜんないけど、ちょっとだけおしっこを吸われてる感覚があるっていうか。
次の朝、「抜きます」といきなり看護師さんに言われました。
「え! 抜くんですか?」
「はい抜きますけど」
聞いてたのと違う。こんなにはやく抜くんですか。心の準備が追いつかない。
「ちょっとすみません。知り合いに聞いたんですけど、この管ってめちゃくちゃ長いんですよね」
「まあそうかもしれないですね」
「いち、にの、さん! じゃなくて、いち、にの、さーーーん! で抜くって聞いたんですけど」
「あ、そうですね。いち、にの、さーーーん、ですね」
「じゃそれでお願いします」
「私は、いち、にの、さーーーん、の、どこで抜いたらいいんですか?」
「じゃあ、いち、にの、『さ』と同時に抜きはじめてください。それで抜き終わるまで、さーーーんって伸ばしてもらっていいですか?」
こんなやりとりがあって、「いち、にの、さーーーん」で抜いてもらったんです。そしたら。
え……! え、どじょう?
チンチンの中からどじょうが泳いで出てったみたいな感触でした。想像してたのとまったく違う。驚きました。怖いとか、痛いとか、そういうことじゃない。いつのまにか私の体の中に入ってたなっがいどじょうが、チンチンから泳いで出ていったんですから。
その日、雪が降ってました。私は驚きすぎて、不意に俳句が浮かんだんです。
寒空に どじょう飛び出す チンコかな
一句、詠んじゃいました。偉人が俳句を詠んでたのって、こういうなんとも言えない、日常から一歩はみ出た体験をしたときだったのでしょうか。
チン管の話のせいで、飯の話が書けませんでした。飯の話は来月のお楽しみ、ということでよろしくお願い申し上げます。

写真:辻敦(ポプラ社)
鈴木もぐら(すずき・もぐら):1987年5月13日生まれ。千葉県出身。NSC東京校17期で、同期の水川かたまりと2012年にコンビ「空気階段」結成。2019年に『キングオブコント』ではじめて決勝に進出し、2021年に優勝。2017年から放送中のラジオ『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)では、それぞれの結婚や離婚などをリアルタイムで伝え、反響を呼んでいる。特技は将棋(アマチュア二段)、麻雀(アマチュア四段)、卓球(中学時代千葉県ベスト16)。