11 大変な秘密が話し合われて
木箱に入った重い荷物が〈おもちゃのチヤチエチャ〉に届いた!
「わー、なんだかあれですね。禁酒法時代のお酒が入っているみたいですね」
大好きな映画の《アンタッチャブル》でしか観たことないんだけど、そんな感じ。
「やっと来たわねー」
千弥さんがドライバーとバールを持ってきて、なんだか慣れたふうに木箱の蓋を開けて。緩衝材に包まれて入っていたのは、〈たいやき波平〉さんの一丁焼きのたいやき器。合計で十本。
どうして十本かというと、いっぺんに焼けるのは〈波平〉さんの場合は四本なので、その倍の数。そして予備として二本。合計で十本。
智依さんがその一本を取り出して、光にかざしたり自分で開け閉めしたり、じっくりとなめ回すように見て。
「うん、良い出来。立派。完璧」
〈たいやき波平〉さんオリジナルのたいやき器。
「大丈夫だと思うけどー、一応全部見てくれる? 何か変だなーって思うところがあったら言って」
「はーい」
千弥さんも私もひとつずつ取って見ていく。
智依さんがCGで作ったデザインを、禄朗さんがしっかりチェックしていろいろやってみて考えたたいやき器。
どこが今までのものと違うかって言うと、比べなきゃわからないけれど、少しお腹の膨らみが深いんだって。つまりその分あんこがちょっとだけ多めに入る。本当にちょっとなんだけど、それがたぶん大きな満足感に繋がるだろうって。
そして尻尾がそれまでよりも尖り気味になっていて、なおかつ模様にもなっている筋が多い。これはカリッとした食感が良い尻尾になるだろうって。うろこになっているところもシンプルな模様に直して、ムラになりやすかったヒレのところも形を直した。
何よりも鯛の顔がカワイイんだ。そして全体にイラストっぽさを強調した。だから、そのままイラストにしたら本当にカワイクて、新しく作ったお店の暖簾にもこのたいやきのイラストが入っている。
「オッケーだね。どこにもおかしなところはないねー」
「よし、じゃあ袋に入れちゃいましょう。〈波平〉さんに納品しよう」
千弥さんが麻袋を使って作ったオリジナルの〈たいやき器袋〉。千弥さん、普段は物作りをしたりしないけれど、実は裁縫はめっちゃ得意なんだって。この麻袋はサービスで、実際にお店ですぐに使うものなんだからこんなオシャレな袋はいらないんだけど、予備として置いておく保存袋にもなるし、その他靴とか細いものを入れるにはいい袋。
千弥さん、そういうところが大事なんだって言ってた。
製品はもちろん最高のものを作ればそれでいいんだけれど、その製品を彩るものがしっかりしていれば、魅力が二倍にも三倍にもなるって。だから、本来ならただの箱でいい製品のパッケージもきちんと専門家がデザインしてカッコよくするんだって。
「これ、うちの利益はどれぐらいなんですか?」
千弥さん、うーん、ってちょっと唸った。
「利益という面では多くはないかな。これは鋳物屋さんの製品でうちはデザインと販売代行をしただけだから」
智依さんも頷いた。
「もしもねー、これをどこかのお店で販売するなら、一本の販売価格はおおよそ七万ぐらいかなー。十本で七十万円」
「結構しますね?」
「鋳物の少数生産だからね。それぐらいの金額になっちゃうんだよー。まぁ仕入れ値になるともう少し下がるけれどね。だから〈波平〉さんにしても思い切った設備投資なんだよ。一本のたいやき器の設備投資回収しようと思ったら、たいやきを二百個も三百個も売らなきゃならない」
「大変ですね」
「なんでもどこでもそうだけど、商売は大変。そしてこれに関してのうちの取り分はデザイン料別でその五パーセントぐらいかな」
仮に七十万円として、三万五千円にプラスしてデザイン料と木型代とかで、なんだかんだで十万円ぐらいか。
すばるちゃんの駐車場だって、一台一時間につき何百円っていう値段なんだからそれこそたいやきと同じぐらいの値段設定だ。
「本当に、商売って大変ですよね」
「だから楽しいんだよ」
千弥さんが微笑んだ。
「自分たちの好きなものを好きなように売って稼ぐ。その稼いだお金で毎日を楽しく仕事しながら生きる」
「それはさー、瑠夏ちゃん。別に商売に限らないんだよー。会社で事務員をやっていたって、それは自分の能力を会社に売って給料を貰っている。つまり自分で稼いでいるのと同じことだよねー」
「あ、なるほど」
そうか。そういうことか。
「生きていくことは、仕事をして稼ぐこと。仕事は自分の能力を使ってやること、ですね」
「そういうこと。まったく楽しくないけどそれしかできないからやってる、なんていう人だってさ。そのまったく楽しくないって思っている仕事で稼いでいるっていうことは、その人にその能力が備わっている、ってことなのよね。私で話をするとお掃除がまるでダメな人。だからそういう仕事はできない」
「え、そうなんですか?」
千弥さん。何でも完璧にできる才女に思えるのに。
「本当ダメだよねー。双子なのに」
「料理もダメ。智依は掃除も料理も得意なのにね。だから、家事なんかをきちんとこなせる人を尊敬しちゃう。そういう能力が備わってるってことなんだから。私にはそれがないんだ」
家事の中心である掃除や料理、それも仕事か。
うん、そういうことか。
「すばるちゃん、実は料理が得意なんですよね。料理だけじゃなくてそれこそ家事は何でもこなせる人」
「あ、すばるくんそんな感じなんだ。じゃあ料理とかを仕事にしてもいいんじゃないの? それこそ接客は瑠夏ちゃんが完璧にできるんだから、二人でカフェとかやっても素敵じゃない? 〈花咲長屋〉で」
カフェか。それは商店街にすっごく欲しいお店。自分が行きたいからだったけど、自分でそれをやる、か。
「あ!」
千弥さんが、パン! って手を叩いた。
「キッチンカーってどう?!」
「キッチンカー?」
「すばるちゃんのあの車! シトロエンのバンでタイプHY! あれこそそもそもが商用車で、今のキッチンカーの元祖みたいな車なのよ」
「あ、そう言ってましたね」
荷物を運ぶため後ろがすっかり開いているし、後ろのドアとかも開けやすく出し入れしやすいんだって。
「あのタイプのキッチンカー見たことあるでしょ? すばるちゃんのあの真っ赤なシトロエンが四丁目の真ん中に停まっていて、何か食べ物を売ってるのって、すっごく似合う!」
うん、って智依さんも大きく頷いて。
「いいんじゃないー! 考えてみたら? 商店街の道路ってきっとキッチンカー置いてもいいんだよね? この間、私道なんだって言っていたから」
「そうよね。セイさんのところの土地なんだから、セイさんがオッケーを出せば全然構わないはず」
「七夕祭りのときには露店も出てるから、いいはずですよ!」
たぶん、全然オッケーなはず。
「キッチンカー、か。通りの真ん中に。うん」
智依さんがそう言って、何かを思いついたように笑みを見せて考えている。
「いいね。それ」
思いついた、ってパソコンに向かった。
「よし、じゃあ〈波平〉さんに納品に行こう」
智依さんが何かをやり始めたのでそのままお留守番で、千弥さんと私でたいやき器を台車に載せて運んできた。まとまると結構重いから、手で持ってくのはちょっとキツイので。
午後四時。〈たいやき波平〉さんもおやつの時間を過ぎて忙しくはなかったみたいで、店内にも外にも人はいなかった。
「〈おもちゃのチヤチエチャ〉です」
「お待たせしました。たいやき器の納品です」
待ってました、って感じで禄朗さんもユイさんもすっごく喜んでくれた。手に取って、禄朗さんがうんうん、って大きく頷いて。
「重さもいい。取り回しもいい。最高だな」
「良かったです」
「お客さんもいないし、さっそく焼きを入れるよ」
この袋もいいね! って全部を袋から出して。
「焼きっていうのは、油を引いて焼くことですね?」
「そう。まずは洗って乾かす。そして油を引いて焼いて冷ます。それを何度か繰り返すと油膜ができあがって、焦げ付かないくっつかない良い状態のものができあがるんだ」
言いながら禄朗さんがもう一本ずつ洗って、ユイさんがそれを丁寧に濯いできちんと拭いて。二人の間に阿吽の呼吸があって、いいなーって。
「そういえば、千弥さん」
ユイさん。
「商店街の看板娘と名物男のフィギュアや、商店街全体のジオラマはどんどん進めているんですよね?」
「はい、進めてますよ」
「セイさんのフィギュアもシークレットで出すって話してましたけど、セイさんイギリスに帰るかもしれないって聞きました?」
え?
イギリスに?
「セイさんが? イギリスに?」
千弥さんが私を見たので、首を横に振って。
「聞いてないです。え、誰が言っていたんですか?」
「うちの父なんですけど」
ゴンドさん。
「亜弥さんがそんなような支度をしているんじゃないかって。何か聞いてるかって私に訊いてきたんですけど、何も知らなくて」
「え、でもセイさんは日本に帰化してるから、イギリスに帰るって言っても」
娘の亜弥さんは克己さんと結婚して白銀家のお嫁さんだし、お孫さんも生まれているし。そもそも自宅は〈マンション矢車〉なんだし。
「俺も何も訊いていないんだけど」
禄朗さんが洗う手を止めた。
「よくわからないけれど、最近セイさんを見ていないだろう?」
うん、でもそれは。
「暑いから散歩は止めなさいって亜弥さんに言われてるから」
早朝とかにひょっとしたら歩いているんじゃないかってこの間話していたけれど。
「それが、実はどこか悪いんじゃないかって。何かの病気とかで身体がさ。縁起でもない話だけど、生まれ故郷でそのときを待つんじゃないかとか。まぁこれはうちの姉たちが言ってたことだからまるで確証はないんだけどね」
身体が。
確かにセイさんはもう八十歳ぐらいになるはずだから、どこか身体の具合が悪いと言われたらそうか、って思っちゃうけど。
「でも亜弥さんもお孫さんもいるのに。皆でイギリスに行けるわけじゃないですよね。一人で行くなんてのも」
全然考えられないし。
「そうなると、名物男のシークレットとしてセイさんを作っても、何かこう、どうなんだろうって昨日もユイと話していたんだ」
確かに。
でも、セイさんがいなくなっちゃうなんて。
店に戻ってきて智依さんに言うと、もちろん智依さんも何も知らなかった。セイさんのフィギュアはもうCGではできあがっていて、後は何個作るかとかどこに発注するかとか、細かいところを決めるだけになっていたんだけど。
「この間は全然元気だったわよねセイさん」
元気でした。〈マンション矢車〉に住んでいる篠原郁子さんの件のとき。
「でも、そういえばあれから私はセイさんを見ていないかもしれません」
「私もそうかも」
「うん」
三人で頷いてしまった。夏の暑さがヤバくて散歩を止められているから見ていないんだって思っていたけれども。
「直接訊いてみますか?」
言ったら、千弥智依さんが顔を顰めて。
「どうなんだろう。お身体元気ですか? イギリスに戻るって本当ですか? って? 何だかとても失礼なことを訊くような気がするし」
そうかも。
「でも、フィギュアを作ることは許可を貰っているんだから、このまま進めても」
そう言って、あぁダメだ、って途中で気がついた。
「本当に、もしも、そんなこと口にしたくもないけど、セイさんがお亡くなりになってしまったとしたら、そのフィギュアを出すっていうのは」
千弥智依さんがまた同時に眉間に皺を寄せて、小さく頷いた。
「まるで、遺影を作ったみたいなことになってしまうわよね。もちろんご本人から許可を取っているんだから作ること自体は何の問題もないんだけれども」
「娘さんの亜弥さんは、瑠夏ちゃんはよく知ってるんだよね?」
「もちろんです」
自宅でもあった〈マンション矢車〉の一階で英数塾をやっていた亜弥さん。私は通ってはいなかったけれど。
「商店街の子供たちがたくさん通っていたし、なんたってセイさんの娘さんだから」
私より年下の子供たちは、亜弥ちゃん先生って慕っている人が多いと思う。
「亜弥さんに訊いてみるー? 権藤さんも亜弥さんの様子から知ったみたいだしー」
「いや」
千弥さん。
「亜弥さんは、商店会会長の克己くんの奥さんでしょ? そして桔平くんは今回の〈ムーサ〉を克己くんたちと進めている。うちのこのフィギュアやジオラマ化の計画はもう桔平くんたちの〈ムーサ〉と同時に進めているんだから、ここは桔平くんに確かめてみようよ。桔平くんだってセイさんと親しいんだし」
あ、それがいいかもしれない。
「それに」
千弥さんが、ちょっと顔を顰めた。
「ひょっとしたら、桔平くんが私たちにまだ内緒にしていること、企画の全容を話せないってことに関係しているのかもしれない。そんな気がしてきた」
桔平さんにLINEすると少し間が空いてから、今日のうちの閉店後、晩ご飯も終わらせてから話したいって返事が来た。
今日の晩ご飯は〈バークレー〉から出前を取ってカレーライスと、タマゴサラダはすばるちゃんのお手製。
「どこで?」
「〈おもちゃのチヤチエチャ〉で。お風呂とかもあるし十時になったからすばるちゃんも来る?」
「僕も?」
「だって、〈ムーサ〉には参加してみたいでしょ。それにキッチンカーってすごく良いなって思ったでしょ」
千弥智依さんが言ったこの車をキッチンカーにするって話をさっきしたら、すばるちゃんも実は考えたことがあるって。この車がキッチンカーの元祖みたいなものだっていうのは知っていたんだって。
『そうだね』
ラジオが光ってお義父さんの声。
『この車を〈キッチンカー〉にして、ここでそのまま営業するかって話は大分前にもしていたろう。それを四丁目でできるというのなら、ずっといい。セイさんのことも気になる。むしろ行ってきてほしいな』
「うん、十時か」
〈カーポート・ウィート〉の営業時間は午後十時まで。今は午後八時。
「このまま混まなかったら、行ってみようかな」
「だよね」
「行けなくても、後でちゃんと教えてね。特にセイさんのことは」
どうせ私はこの後一度家に戻ってお風呂に入ったりして、〈おもちゃのチヤチエチャ〉に行く前にはここを通るんだから。
*
〈カーポート・ウィート〉はお客さんが全員十時前には出ていったので、すばるちゃんと一緒に〈おもちゃのチヤチエチャ〉へ。
閉店後には前面の窓の大きなブラインドを閉めるから、電気が点いていても中の様子は通りからは見えない。きっと品出しとか在庫整理とかしてるんだろうな、って通りがかった人は思うだろうな。実際そういう日もあるし。
「こんばんはー」
中に入ったら、もう桔平さんが来ていた。それに克己さんと北斗さんも。商店会の会長さんと事務局長さんの二人がお揃い。
それに、ちょっと驚いたんだけど〈久坂寫眞館〉の重さんも来ていた。
「すばるちゃん、久しぶりだな」
「うん、こんばんは」
すばるちゃん、カメラも好きだから重さんとはよく話したりしているんだよね。中古の一眼レフカメラでいいのを探してもらって買ったこともある。
そういえば重さんは、あまり目立った仕事をしたことがないから忘れられがちなんだけれど、商店会の副会長さんだった。もう一人の副会長さんは、〈花の店 にらやま〉の花乃子さん。
重さんが来ているんだったら、花乃子さんが来ていないのはどうしてなんだろうって思っちゃったけれど。
千弥智依さんが、コーヒーを淹れて奥から持ってきていた。
「長い話になるんだ。なので、皆椅子に座って、コーヒーでも飲みながら聞いてほしい」
桔平さんが、すごく真面目な顔をしている。そんなに深刻な話になるんだろうか。椅子は、作業室にあったものとかも持ってきてあって、人数分あった。
私とすばるちゃんは並んで座って。カウンターのところには千弥智依さん。その周りを囲むようにして、桔平さん、克己さん、北斗さん。そして私たちの隣に重さん。
「重さんとも、こういう話をするのは初めてだよね」
桔平さんが言うと、重さんも微笑んで頷いた。
「そうだな。ひとつしか違わないのに、以前は桔平くんとはあまり接点がなかったからな」
あ、そうか。重さんは桔平さんのひとつ上なんだ。
「重さんは大学で北海道行っちゃったし、桔平さんは高校から外国だったもんね」
すばるちゃん。すばるちゃんは約十歳以上も皆とは違うけれど、そういうのはよく知ってる。きっとお義父さんからいろいろ聞いているんだろうけど。
「そうなんだよね。俺らも重さんとはそんなに話したことなかったし」
「こっち帰ってきてからだからね」
克己さんと北斗さん。桔平さんが、うん、って頷いて。
「今回の〈ムーサ〉についてのことを全部、何もかも知っているのはボクだけなんだ。もちろん、克己も北斗もほとんど知ってはいるけれど、細かいところはまだ話していないこともある。そして〈ムーサ〉の計画に欠かせない千弥智依にも話せていないことが多かったので、今夜はそれを全部話そうと思うんだ」
桔平さんが皆を見て、そして重さんに眼を留めた。
「〈久坂寫眞館〉は〈ムーサ〉に関しては、昔の〈花咲小路商店街〉の写真を提供してもらっているから充分関係しているんだけど、それ以上に、重さんは今回の計画には欠かせないピースなんだ。どういうことかも、これから話すから」
桔平さんがコーヒーを一口飲んだ。
「あ、桔平くん喫煙者だったでしょ? 灰皿持ってくる?」
「いや、いいよ。話の間ぐらい我慢できるよ」
喫煙者だったんだ。それは知らなかったかも。
「あのね、今日これから話すことは、他の誰にも内緒にしてほしい。絶対に。守ってね? 守れるよね?」
千弥智依さんと私に向かって言ったので、頷いた。
「大丈夫です。ゼッタイに守れます」
質屋の大前提でもあるから。お客様の秘密はゼッタイに守る。
「ひとつ話すね。これは千弥智依と瑠夏ちゃん、すばるちゃんに。この間〈Last Gentleman Thief “SAINT”〉怪盗セイントが実在していて、商店街の石像は全部本物でセイントが置いたものだって話はしたけれど、その正体は、セイさん。矢車聖人。英名はドネィタス・ウィリアム・スティヴンソンなんだ」
千弥智依さんと一緒に眼を丸くしちゃった。
セイさんが、〈怪盗セイント〉?
「それは、ジョークとかじゃないのね?」
「もちろん。本当のことよ。そしてボクも克己も北斗もそれを知っていたし、重さんも別の方向からそれを知っていたの」
克己さんも北斗さんも。重さんの別の方向からっていうのは何だろう。
「あたりまえの話かもしれないけれど、娘の亜弥さんも知っているのよね?」
千弥さん。桔平さんが頷いた。
「もちろん。実の娘だからね。すばるちゃん、驚いていないわね?」
え?
すばるちゃんを見たら、ちょっと首を傾げた。
「うん、知ってた」
「え!?」
知ってたって。これはすばるちゃん以外の全員が驚いてる。
「セイさんが〈怪盗セイント〉だってことを?」
「そう。わかっていた」
「どうして? 何で知っていたの?」
すばるちゃんが、ちょっと困ったような顔をした。
「理由は、どうしようかな」
皆を見回して、すばるちゃん。
「皆は、あ、千弥さん智依さんと瑠夏は今知ったんだろうけど、他の皆はその秘密をずっと守ってきたんだよね。まぁ僕もそうなんだけど。だから、信用して、僕の秘密も話してもいいと思うんだけど」
私を見た。
「瑠夏は、わかるよね。どうして僕がそんなスゴイ秘密を知っていたかって」
「私が? いや、全然何も聞いてないし」
あ。
わかった。
「お義父さん?!」
すばるちゃんの。
麦屋司さん。
すばるちゃんが頷いた。
「ここにいる皆、すばるちゃんのあの車に、赤いシトロエンに乗ったことありますか?!」
皆がきょとんとして、そしてそれぞれに頷いた。
「あるよ」
「あるな」
「あるよね」
「乗ってるよ?」
桔平さんも、克己さんも北斗さんも重さんも頷いた。それでだ。お義父さんは〈魂の手〉を伸ばしてしまったんだ。
「セイさんも乗ったことあるから」
それで、お義父さんはセイさんのことを知ってしまったんだ。それを、すばるちゃんにも話していたんだ。

