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第5回

【さくらのひとやすみ #5】スイスとデジタル

今回はスイスについて書いていこうと思う。

 

スイスといったら、大自然、アルプス山脈、チーズにパン。そしてハイジ。

思いっきりその雄大な自然について筆を取りたいのだが、まずはiPadのメモのデータがぶっ飛んだショックについて書いてもいいだろうか。

わたしは旅の道中、毎晩のようにiPadのメモに日記をしたためており、忘れっぽい私であってもメモさえあれば、すぐに当時の気持ちになってエッセイを書く事ができるだろうと考えていた。

 

しかし。

 

詳しくは割愛するが、iCloudのバックアップが取れておらずメモは消え去った。
一瞬の出来事だった。

スイスやハイジの話をする上で、iCloudの話なんてしたくない。デジタルな話をしたくない。

ハイジはiCloudなんて知らないのだから。

…………

気を取り直そう。(かわいそう)

 

今回のスイスの旅に一緒に行った仲間は、草野華余子さんことカヨちゃん。

カヨちゃんはわたしが10代の頃からのマブで、いつも近隣に住み、わたしの歴史全てがリアルタイムで共有されている女である。

 

ある日、「ヨーロッパに行こうと思ってる」とカヨちゃん家でダラダラしながら話すと

「スイスなら行きたいな」「……え、まじで行こうかな」

と食いついてくれて、気付いたらわたしよりも先にスイス行きのチケットを入手していた。

カヨちゃんは日本から。
私はロンドンから飛行機に乗り、チューリッヒの空港で合流する予定だ。

ロンドンからチューリッヒまでは、なんと飛行機で2時間ほど。

あっという間に到着してしまったのでカヨちゃんより先に着いちゃったかな〜と、余裕の面構えで飛行機の小窓に目をやると外は大豪雨だった。

「到着はしているが飛行機と空港をつなぐことができない…」みたいなことをアナウンスが言っている。

あらら…大変そうだな…。

 

元々今回のスイス旅行では、スイスの南部ツェルマットにも行きたいなと考えていたのだが、6月の大洪水で鉄道が運休しており断念していた。スイス今年は雨多めなのかしら…とぼんやり考える。

最初の方こそ本を読んだりして時間を潰していたのだが、そこから何十分経っても全く動きがない。

次第に乗客たちの苛立つ空気が機内に立ち込め始める。

そして追い打ちをかけるように最悪だったのが、到着後に機内モードを解除すると、ネット回線(eSIM)が繋がらなくなったのだ。

イギリスでは繋がってたよね!?どうした!?

カヨちゃんに遅れている旨を連絡できず、ここでもデジタルに翻弄される私。

 

eSIMには今回初挑戦だった。持ち歩き用のWi-Fiも必要ないし、現地でsimカードを買う必要もないので国境を越え続ける今回の旅の最適解だったはずだ。

ただいかんせん説明書をスクショしていなかったので緊急時の勝手が全くわからない。

ネット回線とWi-Fiに依存しすぎた私の落ち度である。
(その後チャットサービスで聞いたら、わたしが謎のボタンを押してしまっていた。)

 

暇すぎて隣に座っていたイギリス人の女の子に話しかけてみる。

「Hi,ねぇ、さっき聞き取れなかったんだけどこれって着いてるよね?降りれないの?」

「うん。雷が原因らしいよ。てか降りれるよね?どう考えても着いてるのに意味不明。早く降りたいんだけど!its weird !!!!!!!!!!」

めちゃくちゃブチギレてる…。

結局その後1時間以上飛行機に閉じ込められ、降りた後に急いで空港のWi-Fiを繋ぎカヨちゃんに連絡。

なんとか合流を果たした時、彼女はカフェの店員と言語の壁を超えて交流していた。

遠い異国の地で、関西の力強い魂を感じて頼もしい。

 

そしていよいよスイス観光初日。

私たちが最初に訪れた街はスイスの首都「ベルン」。

正直あまりチェックしていなかったので通過点くらいにしか思っていなかったのだが、控えめに言って最高の街だった。

街並み全体が世界遺産に登録されている旧市街の美しさも去ることながら、洋服に雑貨、どこの店に入っても信じられないほど可愛いのだ。

正直言って値段は全く可愛くないが、洗練されたアクセサリーやカバンたちに私たちはメロメロ。

スイスって、自然とチーズと銀行とハイジの国なんじゃなかったの…?聞いてない…。

 

より身軽に爆買いすべく私たちはスーツケースやリュックをベルン駅構内のロッカーに預けることにした。

ロッカーはタッチパネル式で、出てくるレシートにQRコードが印字してある。

私はポッケに入ってる紙やガムのゴミを無意識下で極限まで折りたたみ続けたり、グルングルンに丸めたり、普通に無くしたりするので、一定期間所持しなければいけない紙のことが苦手である。

何はともあれ身軽になった私たちは爆買いを続けた。

美術館へ行ったり増水してちょっとヤバい水流の川沿いを歩いたりするのも楽しい。

一息つこうと真昼間からワインを嗜んでいると、「自分で働いたお金でスイスに来て、なんだか自分たちが誇らしいね。」という話になる。

 

カヨちゃんと初めて出会ったのは私がまだ10代の頃、都内のとあるライブイベントだった。

わたしの当時のtwitterのアイコンがピカチュウの絵だったことで「ポケモン好きなんですか」という話になり仲良くなったのだが、もしアイコンがピカチュウじゃなかったらと考えると時折ゾッとする。ピカチュウありがとう。

また働いてオババになってもこうやって旅行しようね。なんてしみじみと話す私たち。

 

アルコールのせいもあってフワフワ〜〜〜〜っとしながら「じゃー荷物を出そうか」とロッカーへ向かうと

「やられた!!!!!!」

と後方からカヨちゃんの叫び声が聞こえた。歌手なので声がよく通る。

そう、なんとカヨちゃんのリュック(全荷物)がロッカーから消えていたのだった……。

 

わたし達のフワフワしていた脳みそは一気に冷静になり「警察に行こう」とすぐさま駅の中にあった交番へ。

「友達のカバンが盗まれました!」
「あらら」

どこのロッカー?とか親切に色々聞いてくれるが、その日泊まるホテルが辺鄙な場所なのもあり次の電車に乗れなかったらその日中に宿に着けない可能性があって焦る二人。

洋服が可愛すぎて電車を本当にギリギリの便にしてしまっていたことが悔やまれる。

 

「わたしの電話番号これなんですけどもし見つかったら、ここに連絡してもらうことはできますか?」

どうにか対処すべくポリスとやり取りを進める中、カヨちゃんはしきりに「oh my god」と隣で呟いていた。

それはそうである。これこそが本当のOMGだ。

 

そして、最後にもう一回見てくる……と絶望の表情でロッカーを探しにいったカヨちゃんが「あった!!!!!!!!」と、リュックと共に戻ってきた。

違うロッカーを開けてみたら入っていたらしい。一気に地獄から天国へ。

き、肝が冷える〜〜……。

ということで一件落着。

 

ここでもロッカーというデジタルに翻弄させられたが、エラーなのか、確認ミスなのかは結局分からずじまいだ。

まぁ無事にリュックは発見されたし、一度”全て失ってしまったかもしれない”を経験した人間は、“何も当たり前なことなどない“と、全ての持ち物に感謝を捧げるようになるのだなと、一連の騒動で痛感した。

そしてデジタルの話ばかりで、まだスイスらしい自然の話を全くできていない回になった。

スイスってホントすごいんだから……。

次の回は、すっごい自然の回になる予定です。

続く。

 

ps 意外と覚えてる

(イラスト/藤原さくら)


藤原さくら(ふじわら さくら):1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。interfmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。

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