
どこかちがうところへ行きたいという気持ちのつよい引きこもり体質である。そうなると、部屋をちがうふうにするしかない。
小さなわたしは親に黙って、家具の配置をせっせと変えた。
ベッドを真ん中に置いてみたり、勉強机を窓辺に置いてみたり、本棚を壁から離して、そのうしろにひとひとり隠れられるるほどの、ちいさな隙間をつくったりしたりした。
隙間が好きだった。狭い空間は、心が落ちついた。あたらしくできた、ちいさな隙間に、体育座りしては、ひとりほくそ笑んだ。一戸建てのなかで、はじめて、ほんとうに「ひとり」になれた気がした。
かなり気に入って、夜はそこに枕を置いて眠った。いつもとちがう場所に枕を置いただけなのに、見える天井の景色がすっかり変わっていた。知らない部屋みたいだった。
朝になって、学校へ行き、友達と遊んで、帰ってきたら、部屋はもとのかたちに戻っていた。昨日までの、ふつうの配置。
なるほど。小さなわたしは思ったよりも、落ちついていた。変な配置だと思われたんだな。つまりは、不合格だ、と。
せっかく模様替えしたのに! すごく気に入っていたのに! と、ばたばた騒ぐほどのことではないと思った。この家は、親のものであって、いくらわたしの部屋であっても、わたしにほんとうの決定権はないのだと、わかっていたからである。
夕はんですよ、と下に呼ばれる。
好物の唐揚げを食べながら、
「あんたはほんとに狭いところが好きだねえ、ネズミドシだからだね」
とお母さんにはずかしめられる。
苦虫をかみつぶすように、揚げたてのおいしい唐揚げをよく噛んで味わう。
小原晩(おばらばん)
作家。1996年、東京生まれ。2022年にエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版する。2024年11月に実業之日本社より増補版を刊行。他の著書に『これが生活なのかしらん』(大和書房)がある。