第三話 僕はいい子
1
窓の向こうに並ぶ白樺の緑が濃い。
その濃い緑のはるか先に、積乱雲が天を衝かんとしている。
八月だ。それももう半ばを過ぎた。暑い。地球の異変を感じる。昨日は最高気温三十三度、今日は三十五度の予想が出ている。三十五度! ここ札幌なんですけど?
昨今の酷暑で、市内の小中学校の夏休み期間も数日延びた。
夏休み、いいなあ。花火、スイカ、冷やし中華。夏っぽいこと、まだ全然してない。パッチーニの完熟トマトの冷製パスタも、食べに行けてない。あれ気になりすぎるよ……。
地下鉄駅近くのカジュアルイタリアン『パッチーニ』の夏限定メニューは、例年外れのない美味しさだと評判で、パスタ好きならチェック必須なのだ。
「はい、おっしゃることは理解しています。申し訳ありません」
夏と冷製パスタに思いを馳せて現実逃避を図っていた私を、四方田さんの謝罪が引き戻す。受話器を片手に、四方田さんはさっきから一方的に怒られている。相手は警察庁の特異犯罪捜査局だ。
ただ、四方田さんの隣席の八反さんは飄々としたもので、「先だっての案件、鑑別不能で報告書出したからね。いつもは百瀬室長が対応してくれてるけど、まあしゃーない。ここは主任が人身御供となって」
などと冷たい。
ちょうど今、百瀬室長は五日間の夏季休暇中である。
HBD調査鑑別室の私たちは、その人の死の引き金となった絶望を探るのが職務だが、死んでしまった人は、自分の気持ちを語ることができない。実際のところ答え合わせ不可能だ。ケースによっては『鑑別不能』という結論にだって至る。だが、法改正に向けて実績を積み上げたいお偉方は、そうもいかないらしい。だから、こうしてお𠮟りの電話をかけてくるのだった。
「はい、承知しております。今後とも一同努力していく所存です。申し訳ありません」
四方田さんはまだ詫びている。あの四方田さんが。私はなんだか胸が痛くなってきた。鑑定結果を捏造したわけでもないのに、どうして謝らなければならないのか。
六月にビアガーデンに誘ったものの、四方田さんがとにかく多忙で、いまだそれは果たされてはいない。しかし四方田さん側も多少は私に歩み寄る気持ちを持ってくれたのか、何度か昼休みは共にしている。休憩中でも四方田さんの態度は基本クールなのだが、まれにこちらの頰が思わず緩むような返しをしてくれるし、私から出すオタ話題、演劇話も大抵通じるのが意外で楽しい。
四方田さんという高難度キャラを攻略するのに、私のアドリブ力が試されている的な、ある種のチャレンジ欲を搔き立てられているのも事実だ。この人から一瞬でも柔らかな表情を引き出せればポイント加算、みたいな。
実は今日も一緒にパッチーニに行く予定だったのだ。もちろん私から誘い、四方田さんも断らず、今まさに一緒に休憩に入ります、というところに警察庁からの電話。まったくもう。
そんなこんなで、私が四方田さんに抱く印象は、初対面当初よりは軟化している一方、仕事モードの彼女は相対的にいっそう毅然と、プライドが高そうに映るようになった。
もう一度「大変申し訳ありません」と言いながら、四方田さんがちらりとこちらを見た。私は困った。お上にへつらい謝っている屈辱的な姿なんて、誰にも見られたくないんじゃないか、なんてことを思ったからだ。
四方田さんは手元のタブレットを引き寄せ、何やらメモを打ち込んでから私に突き出した。
『十分以内に終わらせて向かうから、パッチーニの限定パスタ頼んでおいて』
強い。
ふいに電話が鳴り、私はどきりとした。一番の新人で役立たずゆえに、電話応対くらいは積極的にやるべきか、なんて殊勝な気持ちがあるからだが、大抵の場合は三上さんが受ける。今回もそうだった。
「一ノ瀬さんはまだ休暇申請していないよね?」話しかけてきたのは、隣の二木さんだ。「休みがほしい日付があったら、遠慮しないで三上に言うんだよ」
センターの福利厚生はしっかりしており、私にも夏季休暇を取得する権利がある。とはいえ、遠慮気味になってしまうのは、百瀬室長以外はまだ誰も休んでいないからだ。みんな里帰りとかレジャーとかいいのか?
「二木さんはいつお休みするんですか?」
「俺はどうしようかなあ、すごく休みたいわけでもないんだ」
決して仕事人間には見えない二木さんだが、実は『趣味は仕事』の人なのか。
「帰省とかはしなくていいんですか?」
すると二木さんは、想定外の単語を耳にした顔になった。「帰省? ああ、なんかあるね、そういうの」
なんかあるね、って。
「一ノ瀬さんはお墓参りとか好き系?」八反さんが話題に乱入してくる。「俺は実家の方には行かないなあ。翠さんの実家のお墓は、毎年お参りするけどね。長沼町にあるんだ」
八反さんの妻の名前は翠さんというのか。
と、二木さんが三上さんを気にした。
「三上の電話、あれは案件じゃないかな」
その声が届いたのだろう、三上さんが通話しながら頷いた。
「やっぱり」
2
CASE200
氏名: 井内颯風
性別:男性
年齢:十四
住所:I市**町一五
職業:中学生(中学三年生)
「調査依頼は颯風さんのお母さま、伊織さんからでした。総務省のHBD相談窓口ダイヤルと道警特異犯罪対策課にも電話をしたそうですが、とにかく即時調査を開始してほしいという強い思いがおありで、直接ここに」
休憩明けに即ミーティングとなった。私と四方田さんが完熟トマトの冷製パスタを平らげている間に──四方田さんは時々スマホで小樽観光のサイトを眺めていた──三上さんは警察、医療関係、行政関係のあらゆる部署にコンタクトを取り、ミーティング用の資料を完成させていた。
「家族構成は颯風さんご本人と伊織さんのお二人。颯風さんに持病はありません」
デスクの島のそばに立った三上さんが、聞き取った内容を説明しながらミーティングを主導する。珍しいことだが、依頼者の訴えを直接聞いたという責任がそうさせているのだろう。
死亡日時は先々週、八月二日の午後六時前後。どんな日だったかと卓上カレンダーをチラ見し、とても蒸し暑い日だったことを思い出す。道内全域で今年最高気温を更新し、札幌は三十六度に届いた。海に接したI市も、札幌ほどではないにせよ、きっと暑かったはずだ。I市は札幌市の隣だ。
八反さんが言う。「特異犯罪対策課は動いてなかったんだな。もしかしてご遺族からの訴え自体、寝耳に水だったのかもな」
法改正に向けて、国はHBDの調査件数を増やしたい思惑がある。よって、死因がHBDと判明したケースは、漏れなく即座に鑑別依頼が来てもいいようなものだが、実際はそうとも限らなかった。遺族の拒絶や、医療機関や所管警察の周知不足などが理由だが、この場合はおそらく後者か。
三上さんも「現場と特異犯罪対策課の連携がうまくいっていなかったようです。伊織さんが動かなければそのままだった可能性はありますね」とコメントした。
死亡場所は自宅。一階トイレの中だった。電話中だった伊織さんは、すぐには異変に気づかず、個室内で倒れている颯風くんを発見したのは午後七時前である。
そして、死因がHBDだと判明した。
「先日、商業施設内で亡くなられた堀田さんと同じく、颯風さんも一人でしたが、スマートフォンは携帯しており、通信は可能でした。伊織さんは颯風さんを死に追いやった『犯人』を処罰したいと、強く望まれています。彼ら容疑者の氏名も話されました」
参考人として資料に記された氏名は三つ。
加藤理久斗 十五歳
辻蒼空 十四歳
皆川大雅 十五歳
「颯風さんはいじめに遭っていたそうです」
胸の中がひゅっとすくんだ。
3
「彼らを罰してほしい」
颯風くんの母、井内伊織さんは言い切った。
「颯風を死なせておいて、自分たちは人生を謳歌しようだなんて、許さない」
翌日、私たちは井内母子の自宅にお邪魔した。伊織さんはI市内の大手食品加工会社で事務の仕事をしているが、颯風くんの死後は休みをとっているという。
「忌引き休暇は明けましたが、有給を使っているんです。とても働く気になれなくて」
黒い綿のワンピースに身を包んだ伊織さんは、悔しそうに唇を嚙んだ。一人息子を突然失った悲しみよりも、苦しめた相手への憎しみが勝っているようだった。私はそれがおかしいとは思わなかった。憎しみにすがらなければ、きっと正気ではいられないのだ。
四方田さんの視線がリビングの片隅に動く。視線の先には、お骨箱や遺影などが置かれた祭壇があった。私たちがあげさせてもらった線香が、まだ香炉から煙を立ち上らせている。
瞬きよりもわずかに長く目を閉じてから、四方田さんは切り出した。
「颯風くんのいじめについて、詳しく教えていただけますか。いつごろから……」
「知らなかったんです」
遮るように伊織さんは答えた。彼女は心を落ち着けるように間を置き、「ごめんなさい」と一言詫びてから、さらに続けた。
「私も颯風が死んだ日に、いじめられていたと知ったんです。あんな……あんなひどいことを強要されてたなんて、颯風は何も言わなかった。あの子はいい子だったから」
いじめがいつ始まったかは分からない。小学校、中学校でも、いじめ問題そのものが顕在化したことはなかった。今どき珍しい、程度のいい学校だと思っていた。本人も口をつぐんでいた。学校も塾も休まず、夏季休暇の間は講習にも通い、日々の態度も変わらず、心配させるようなそぶりは一度たりとも見せなかった──伊織さんは訴えながらリアルに痛みを感じているようだった。己の吐く言葉がカミソリであるかのように。
「見てください、颯風はこんなことをさせられていたんです、あの鬼畜どもに」
伊織さんがスマホの画面を私たちに見せた。
動画だった。音声もある。下卑た笑い声。明度の低い画面の中で皮膚の色が浮かぶ。上半身を裸に剝かれた少年が、別の少年に髪の毛を摑まれ口を開けさせられる。そこにもう一人の誰かが小さな黄緑色のものを突っ込む。誰かの指に摘ままれた黄緑は、もがくようにうごめいている。いっそうの笑い声。私は咄嗟に目を背けた。あれは虫だ。何かの幼虫だ。画面が揺れていて、よく見えなかったけど。見たくもないけれど。
食えよと凄む声。よく嚙んで食べろよ。タンパク質だぞ。おまえの脳みそ栄養足りねえんだよ。笑い。嗤い。吐く音。汚ねえ、やべえ。吐いたから罰な。ここでオナニーしろよ。早くしろ。ソラ、ちゃんと撮れよ。永久保存版だからな。後で俺らのグループに送れよ。
「大丈夫?」
二木さんに囁かれ、私は口を押さえながら頷いた。吐き気はそうでもない。ショックなだけだ。伊織さんが「お手洗いは出て左、玄関の隣です」と、手で指し示した。ここで嘔吐されても掃除が大変と思ったのかもしれない。私は言葉に甘えることにした。トイレの中で落ち着こう。
リビングと廊下を隔てるドアは、最初から開け放たれていた。伊織さんが声をかけてきた。
「開けたままにしておいてください。エアコンが茶の間にしかありませんので」
流す音が聞こえてしまうかもと思ったけれど、家主の言葉に従う。一台のエアコンで可能な限り冷房するのが井内家のやり方なのだろう。
トイレ内は少し暑かったが、タンクありの洋式便座にリフォームされており、清潔だった。タンク側には元素周期表が、ドア側には日本地図が貼られてあり、伊織さんの教育熱心さが窺えた。私は便座に腰掛け、ため息をついた。
見たくなかった、あんなの。颯風くんだって嫌だったろう。なんてひどいことを。あれに比べたら、私が昔感じた辛さなんてまだ可愛いものだ。比べることじゃないけれど。
リビングの会話が遠くに聞こえる。
「アイヌ語で風のことをレラというんですよね。颯風くんの名前はそこからですか?」
四方田さんの声はいつもより少し優しい。
「ええ……ええ、そのとおりです。あの子があんなことに……ZPウイルスさえ感染しなければ。あの子が六歳の時に一家で罹ってしまったんです、別れた夫が家に持ち込んだせいです」
「颯風くんの端末をお借りして、解析に回してもよろしいでしょうか」
「もちろんです。でも、颯風は勝手にパスワードを設定していて、私には解除ができませんでした。四桁だから誕生日や電話番号、車のナンバーを入れてみたんですが」
「入力してみてダメだったパスワードを、覚えている限り教えてください」
沈黙。メモなどに書いているのか。
「ありがとうございます。颯風くんはどんな少年でしたか?」
「──本当にいい子でした」伊織さんは涙声だ。「もちろん、完璧にいい子だったわけじゃない。あの子は多少変わったところがありました。空気を読むのが苦手で、集団では浮いていたかもしれない。手を焼いたことだってある。でも、悪いことは悪いと、そんなことしたらママは悲しいと言って聞かせたら、ちゃんと理解する子でした。ひとり親と後ろ指さされたくなくて、渋る颯風を塾にも入れたし、厳しくいい子にしつけたつもりですが、あの子もあの子なりに私の苦労を分かっていたんです。成績だって上向いていました」
「失礼ですが、颯風くんのお父さまは今もご健在ですか?」
質問者が二木さんに代わったみたいだ。
「再婚して名古屋にいます。私たちは颯風が小学校三年生の年に、離婚しました。理由は彼の不貞です」
「ご苦労もあったでしょう」
「住んでいたこの古い家を慰謝料代わりに、養育費は月に七万円受け取っています。私も働いていますから、もらわなくたって颯風を育て上げる自信はありました。でも、余裕があれば颯風のためにもなりますから……」
伊織さんの言葉を聞きながら、私は目を閉じた。
颯風くんはここで亡くなったんだな。スマホを持っていたとのことだけど、ここでいじめっ子と通信したのかも。せっかくの夏休みなのに、颯風くんにとっては人生最後の夏休みになってしまった。
スマホを解析したら、他にもあの手の動画が出てくるだろうか? 自分がいじめられている動画なんて持っていたくないだろうけど。でも、待って。そもそもどうして伊織さんは、現段階であの動画を所持できているの? パスワードは突破できなかったと言っていたけれど……。
思考を巡らせているうちに、先のショックが落ち着いてきたので、私は手を洗ってトイレを出た。会釈をして元の場所に戻る。伊織さんも四方田さんらも、特に変わりはない……。
いや。その印象を私は撤回する。なんかちょっと変だ。主に八反さんが。いつもは軽めの陽キャのはずなのに、なんだか。
なんというか、『けっ』って感じ。
気のせい?
四方田さんがタブレットに表示させた資料の一部分を拡大し、伊織さんに示してみせる。
「参考人としてこちら三名の少年の名前が上がっています。伊織さんからの情報ですよね。この動画に映っている少年たちが彼らということでしょうか?」
「ええ。暗い画面ですが声も入っていますし、間違いありません。髪を摑んでいるのが皆川大雅くんで、加藤理久斗くんが……口に突っ込んだ方」
「辻蒼空くんという名前もありますが」
「動画を撮っている子です」
「なるほど。撮影者はソラと呼ばれていますから、この場に辻蒼空くんがいたのは間違いなさそうですね。伊織さんはどういった経緯でこの動画を手に入れたのですか?」
「偶然というか、彼らの失態です。あの日、あいつらは颯風の動画を仲間内でシェアしようとして、別のグループに投稿してしまったようなんです」
誤爆というやつか。
「間違えた先のグループに、木戸さんの娘さんがいたんです。颯風とは違うクラスなんですが同じ学年で、木戸さんはママ友って言うんですか、保護者の中では一番親しくしています。娘さんが木戸さんに相談して、それで私に知らせてくれました」
「颯風くんが亡くなった日、ですね?」
「はい。仕事を終えて、ちょうど家に着いたころ、これ、もしかして颯風くんじゃない? って動画が届いたんです。私、びっくりして、折り返し電話をしました」
「颯風くんの死亡時刻、伊織さんは電話中でしたね? もしかしてその通話ですか?」
「そうです。颯風がいじめを受けていたなんて初耳で、あの時の私は取り乱していました。通話相手の木戸さんが冷静に私の話を聞いてくれたので、それについてはありがたく思っていますが、結果的に颯風の異変に気づくのが遅れたと思うと……颯風がいつトイレに入ったかも分かっていなかったので」
伊織さんはそこで言葉を切った。四方田さんらは急かすことなく、黙って待った。
「……中学校には動画を見せて、いじめの実態を早急に調べろと言いました。でも親身になってくれない。先日三人を呼んで聞き取りをしたそうなんですが、一時的なからかいがあったとしても、いじめとは断定できないの一点張りで、学校は加害者側の味方なんです」震えながら伊織さんは訴える。「許せなくて、三日前に辻くんの家に乗り込んだんです。でも、逆にこっちが非難された。元々颯風にも非行があったとか、ひとり親だから私の躾が悪かったんだとか、昔のことまで持ち出されて、こっちが責められたんです。信じられますか?」
「加藤さんと皆川さんのお宅には行かれましたか?」
「ひどく責められたのがショックで、あとの二軒には行っていません」
「辻さんの家に最初に行ったのは、なぜでしょう?」
「なぜって」伊織さんにとっては意外な質問だったようだ。「三人の首謀者が辻くんだと思ったんです。中学生なのに金遣いが荒いとか、ススキノで見たとか、いい噂を聞かないので。万引きの補導歴もあるらしいと、木戸さんが言っていたこともあります。お祖父さんが市議会議員だから、揉み消されるんです」
「昔のこととは?」
「お恥ずかしいですが、うちの子も去年の秋に万引きをしたことがあるんです。でも私がお店に飛んでいって謝り、解決していますし、以降は一度もありません。辻くんだって万引き歴があるのに、どうしてこっちばかりが言われるのか」
「ちなみにその時に颯風くんが盗った品物は何だったんですか?」
「ゲームソフトでした。颯風自身、欲しくてやったんじゃないんです、ハードを買い与えていないんですから。進路や成績のことで厳しく言って、塾に入れてほどなくのタイミングだったので、寂しくて、私の愛情を確かめようとしたのかもしれない。離婚直後も、不安定になった時期がありました」伊織さんは俯いた。「でも、信じてもらえないかもしれませんが、万引きはいいきっかけだったと思っているんです。万引きの後、私はきちんと向き合って、本気で颯風を𠮟りました。これは悪いことだよ、ママを困らせないで、心配かけないでって。颯風は分かってくれました。あの子は人の心が分かる子なんです。私の愛情も分かっていたはず。だから非行なんかじゃない。あの子はむしろ、あれからいい子になっていました。その颯風がなぜあんな目に」
私はリビングの片隅の遺影に目をやった。いつごろ撮影したのだろう。遺影の颯風くんは制服姿で、はにかむように微笑んでいる。
「私は出るところに出る覚悟があります。あの子たち、みんな十四歳以上です。刑事責任は認められますよね?」
二木さんが頷く。「現行法ではそうです」
「中学校側は、未成年だからとか彼らにも未来があるとか、あげくの果てには、死因がHBDなら因果関係は分からないなんてことも言いました。いじめの最中にHBDが起こったのではなく、トイレで死んでるからです。でも死因がHBDの時点で、いじめに絶望したからに決まってます。その時ちょうど着信があったのかもという可能性すら考えようとしない」
だから調査鑑別室に直接コンタクトを取ったのだ。HBD発症の引き金となった悲しみは、いじめのせいだとはっきりさせるために。
四方田さんが静かに言う。
「処罰を規定する新法はまだ施行されていません。仮に、三人の少年が故意にHBDを引き起こすべく颯風くんをいじめていたとして、それで裁かれるとしても、現在の法律に則る形です」
「それは納得ずくです。因果関係を証明できたら、民事でも大きな武器になります」伊織さんの真っ赤な目には決意がみなぎっていた。復讐者の目だ。「息子は間違いなく絶望で死んだんですよね? 人が悲しみで死ぬって、あり得るんですよね?」
四方田さんは首肯した。「あり得ます。人は、悲しみで死にます」
その時。
「お母さんに心配をかけなかったから、だからいい子なんすか?」
八反さんだった。
「黙れ」
伊織さんが何かを言う前に、四方田さんが素早く八反さんを封じた。八反さんは黙った。
井内宅は、昭和三十年代ごろに多く建売された、コンクリートブロック造の三角屋根の家だ。降った雪を屋根に積もらせず、家の両脇にそのまま落とす大きな三角屋根設計は、上部に行けば行くほど横幅が削られるため、必然二階は狭くなる。
二階の六畳と四畳半の二つの部屋のうち、南向きの六畳が颯風くんの自室で、四畳半は納戸として使われていた。伊織さんは一階の和室で寝起きしているそうだ。
「見苦しいところは多少片付けましたが、持ち物は全部残しています。日記は見つかりませんでした」
「写真を撮ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
伊織さんは急な階段を下りていった。
作業用の白い手袋をつけながら、室内を眺める。四段のチェストには子供が喜びそうなゲームキャラクターのシールが貼られている。昔から使っているのだろう。カラーボックスを二つ積んで作った本棚には、動物図鑑や歴史シリーズ本といった学童用の書籍が並ぶ。少年漫画も数冊あったが、多くはなかった。ベッドの枕元に太陽系の学習ポスターと、トイレのものと同じ元素周期表が画鋲で留められていた。伊織さんの言葉どおりゲームの類はない。
「八反にこれを預ける」
四方田さんは八反さんに颯風くんのスマホを渡した。
「はあ? 解析に出すんでしょ。何で俺が。下手にトライしたらデータ消えますよ。この機種だと、チャレンジはあと三回です」
伊織さんが入力を試みたパスワードは、メモに六つ書かれていた。つまり六回ミスしている。颯風くんの機種には、パスワードを十回間違えるとスマホ内のデータを消去する機能があった。それが設定されていたとしても、専門部署に回せば復元は可能だろうが、時間はかかる。
「とりあえず私たちは室内をあたるから、八反は頭冷やしてなさい」
四方田さんにそう言われた八反さんは『けっ』の顔で「トイレに行く」と言い残し、階下に下りてしまった。
「しょうがないやつ。一ノ瀬、具合はどう? 大丈夫?」
四方田さんは私へのさん付けを省くようになっていた。不思議と嫌な感じはしない。
「はい、すみませんでした。ちょっとショックだっただけです、私もいじめられていた時期があったので」
「そうだったの」
「あそこまでじゃなかったですけれども、学校でいじめられてる劇団員は珍しくなかったんです。親友の茉莉絵もだし、半数以上はいじめられていたんじゃないかな。芸能人気取り、みたいに受け取る子もいるので。あ、四方田さんも知ってましたっけ? 私、子供のころ劇団にいたんです」
「初雪の使いを演ったという話は聞いている。いじめは辛かったね」
「あの、四方田さん」迷ったが、尋ねた。「八反さん、なんか冷たくないですか? 伊織さんに対して。私が席を外している時に何かあったんですか?」
「何もない。彼が勝手に拗ねてるだけ」
四方田さんは学習机の方へ行ってしまい、私は一人で首を傾げた。拗ねる? なぜ?
「真面目そうな字だね」学習机の上に積まれたノートをめくり、四方田さんは評した。「でも、この日の授業では少し乱れてる」
四方田さんはノートを遡ることで、たびたびの字の乱れが、中学二年の秋から起こっていると看破した。
「進学塾で使っているノートは、もっと顕著に乱れてますね。颯風くん、中二の夏季特別講習から通ってるみたいだけど」二木さんは塾のノートをめくっていた。「こっちは字の乱れだけじゃなくて、なんかもっと情緒的な不安定さを感じる。これとか」
開かれたページには、ギザキザの線が刻みつけられていた。あたかも行き場のない不安や恐怖や激情が、どうしようもなく吐き出されたかのようだ。
次のページにもギザギザはあった。それは濃く、強く、一部ノートは破れ、シャープペンシルの炭素が次ページに及んでいた。
「ノートをとっている最中に、発作的にやったって感じかな。字の乱れどころじゃないから、いじめの主戦場は学校ではなく、塾の近辺だったのかも」
二木さんが見解を示せば、四方田さんも「颯風くんは今年も夏季講習に通っていた。名前が上がった三人は、塾でも一緒だったのかもしれない」と受ける。
二人の読みを確認すべく、私は階下へ駆け降りた。伊織さんの肯定を得て、すぐに戻る。颯風くんと三人は塾仲間だった。
教科書やノートもそうだが、制服、通学リュック、体操着といった持ち物に汚れや破損はなかった。
「買い替えが必要な物品を攻撃すると、保護者にバレやすくなる。現に伊織さんは颯風くんが亡くなるまで知らなかった」
「颯風くんは伊織さんに相談しなかったんですね」
「性的な行為も強要されていたようだし、保護者に打ち明けづらいのは理解できる」
四方田さんと二木さんが確認しあっているところに、四方田さんの携帯が着信を告げた。
「三上からだ」
四方田さんはすぐに出て、二言三言話してすぐに切った。
「参考人聞き取りの日程と場所が決まった。明日十時から、場所は緑野中学で、加藤くん、皆川くん、辻くんの順番。保護者と教員同席」
I市立緑野中学校は、颯風くんらが通学していた中学校だ。
「早いなあ」二木さんは少し驚いた様子だ。「加害者側が非協力的な印象だから、聞き取りはごねて拒否るんじゃないかとばかり」
「どう交渉したのか知らんけど、三上ならできるでしょ」トイレから戻ってきた八反さんだった。
「学生時代、テレアポバイトで無双してたらしいじゃないですか。ところで四方田さん、これ一回トライしてみていいですか」
「一回ならね」
その一度で、八反さんはスマホのロックを解除してしまった。
4
翌日。
I市立緑野中学校へ向かうミニバン内で、私は考え事をしていた。颯風くんのパスワードのことだ。
八反さんが入れたナンバーは『7588』だった。
それが颯風くんとどう結びつくのか、私はまったくピンと来なかったのだが、四方田さんと二木さんはたちまち「あー、なるほど」と揃って納得顔になったのである。それがめちゃくちゃ仲間はずれ感満載だったので、私は当ててやると密かにムキになっている。でも全然分からない。なごやはち? 離婚したお父さんは名古屋にいるそうだが、さすがにこじつけか。颯風くんの誕生日の十月三十日には、掠りもしない。
結局閃かないまま目的地に到着し、駐車場に降り立つと、途端に溶けて崩れそうになった。日光とアスファルトの照り返しで、私がステーキならいい塩梅のミディアムレアだ。
四方田さん、二木さん、八反さん、そして私。いつものように聞き取りの主導は四方田さんが担う。
颯風くんのスマホは解析のため昨日のうちに別部局へ回ったが、パスワードを突破できていたので、それなりの情報は手に入っていた。推測どおり、死亡時刻直前に参考人の一人である辻蒼空くんとメッセージをやり取りしており、その十分後には通話履歴も残っていた。
『明日講習の前に若草公園に来いって。それと、動画やっぱ今日までに撮って送れって』
最後のメッセージで新たに要求されている動画は、性的な内容のそれだろうと、調査鑑別室は推測した。欲求を満たすためではなく、颯風くんを辱めるために強要している。
スマホ内には、いじめの証拠になるような動画や文章は残っていなかった。メッセージアプリでは、加藤理久斗くんと皆川大雅くんとは繫がってすらいなかった。
だが、蒼空くんとはトークルームがあった。そしてそのログは、非常に興味深いものだったのだ。
「蒼空くんがキーになる。彼から包み隠さず話を聞けたら、大きく進展する」
歩きながら四方田さんが言った。ひっくり返せば、蒼空くんが私たちに心を開かなければ、真相は遠のくということにもなる。
「一ノ瀬。途中で私たちは、意見を対立させることがあるかもしれない。でも心配しないで。あなたは今日、いっさい喋らないで、ただ、蒼空くんを見て、彼の言葉に頷いていてほしい」
四方田さんには何か意図があるようだ。
「分かりました」
「八反も。昨日伊織さん相手にしたみたいに、突っかからないで」
「はいはい。分かってますって。俺も一ノ瀬さんと一緒に大人しくしてるから」
玄関脇の受付事務に来訪を告げると、程なく職員室から五十歳前後の男性教諭が姿を見せた。
「三年生の学年主任、岩瀬です。私ともう一人、教頭も同席します」
聞き取りを行う三年一組の教室へと先導する岩瀬教諭の足取りは遅く、全身で「迷惑なことになった」と訴えていた。
三年一組の教室で待機していた教頭は、もっとストレートだった。
「HBDに関しましては、学習指導要領のとおり授業をしていますから、当然私どもも理解はありますんで、できるかぎりの協力はします、が」逆説のニュアンスを漂わせつつ一息置き、教頭はこう続けた。「いじめが原因と決まったわけではないんです。くれぐれも生徒たちへの配慮を忘れないでください。犯人扱いして尋問まがいの質問をしたら、すぐさま止めさせていただきます」
グループ面接会場よろしくセッティングされた机の一つに座り、四方田さんは素直に「結構です。そうしてください」と答えた。エアコンはない。窓は開け放たれていたが、戸は閉じられ、空気が通らずムッとする。
岩瀬教諭がA4の用紙を配った。参考人三名の簡単な情報が書かれてある。
「警察から協力要請を受けているので、仕方なくですよ。個人情報が絡みますから、ここでの話はあくまでこの場だけということでお願いします」
道警への根回しも、三上さんは抜かりなくしてくれていたようだ。
加藤 家族構成 両親
皆川 家族構成 両親・兄(私立札幌S高校二年生)
辻 家族構成 両親・祖父(市議会議員)
「加藤くんの家庭はごく一般的で、本人の成績も中間です。皆川くんのご両親は再婚で、父親と血縁関係はありませんが、家族仲は良好で、本人の成績も優秀です。辻くんの家は道内外に営業所を持つ物流会社を経営していて、お祖父さんは市議会議員も務めています。先日、私どもで行った調査では、例の動画は辻くんの発案だそうで、辻くん本人もそれは認めていますが……」
相手の祖父は市議会議員なんだから忖度しろ、というニュアンスだ。思わず心の中で舌を出したところに、ノックがあった。
入ってきた加藤理久斗くんは、体の大きな少年だった。両親も一緒だ。四十前後の両親はこの状況に納得してなさそうな顔だ。
「うちの理久斗が友達を傷つけたのなら謝罪しますが、問題になった動画のほかは何もないんですよね? 先週の調査で十分だと思いますけどね。おい、理久斗、ちゃんとしろ」
市役所職員だという父親は、ふてくされたように脚を投げ出して座る息子に一言注意を挟み、続けた。
「自分も行政に携わる一員ですから、知識はあります。HBDっていうのは、強い悲しみや絶望がきっかけで起こるんでしょ? その場にいなかった理久斗に関係ありますか?」
「死亡直前、例の動画の関係者一人が、新たな動画を要求しているんです。そのことは理久斗さんは……」
「知らねーよ」
四方田さんの言葉を遮るように、理久斗くんは吐き捨てた。両親が同時に「理久斗!」と𠮟責するも悪びれず、四方田さんを睨む。
「知らねーもんは知らねー。そんなん蒼空が勝手に要求したんだよ。蒼空一人の責任なんじゃね」
「蒼空が勝手に、ね。誰が要求したのか名前を出していないのに、分かるんだね」加藤一家が気色ばむ気配がしたが、四方田さんに気にするそぶりはない。「颯風さんをいじめていたのは、主に塾の時間にその周辺でですか? 同じ進学塾に通っていますよね?」
理久斗くんはふてくされた目つきはそのままに、視線を横に逸らした。
「この段階で勝手にいじめだと決めつけないでください」
教頭が注意する。四方田さんは質問を変えた。
「颯風さんのことをどう思っていました?」
視線が戻ってくる。理久斗くんはまた四方田さんを見た。「うぜえやつ。変わってた」
「どんなふうに?」
「例えば、教室にゴミ落ちててみんな見て見ぬ振りしてんのに、あいつはわざとらしく拾って、落としたやつのところに持っていく。音楽の時、あいつだけリコーダークソ下手で音外す。吹かなくていいって言ってんのにそれでも吹く。体育のバスケやバレーで足引っ張る」
「なるほど。颯風さんが亡くなった日の夕方、彼に連絡しましたか?」
「してねえ。したのは蒼空だろ。俺らに指示出してたのはあいつ。悪いのは蒼空だ」
「例の動画。無理やり虫を食べさせたり、自慰行為を強要したりしていましたが、あれはいつ、どういう流れであんなことになったんですか?」
「いつって、よく覚えてねーけど蒼空が誤爆したんだからその前の日とかじゃねーの」理久斗くんは鼻を鳴らした。「どういう流れってか、あいつとにかくうぜえんだよ。鼻につく。颯風、マジで空気読めねえからイライラする。だから一発思い知らせてやったの。あんなんじゃ高校行ったって周りムカつかせるだけじゃん。あいつのために教育してやろうって、蒼空が言ったんだ。俺らは蒼空の言うとおりにしただけ」
教室内のムッとする空気を蹴散らすように、理久斗くんと両親は出て行った。
次は皆川大雅くんだった。付き添いは母親だ。
成績優秀と教員陣も太鼓判を押す大雅くんは、実際賢そうな顔をしていた。自信たっぷりにこちらを見返す彼はまるで、これからバカな大人たちを一発論破してやりましょう、と腕まくりでもしているようだった。
「HBDの調査鑑別ってことは、俺らが颯風をわざと絶望させて発作を引き起こさせたと思っているんですよね? でもそれは当たりませんよ。俺は颯風がZPウイルスキャリアだとは知りませんでしたからね。いつ感染したのかも全然」
四方田さんは目を見開いた。「あなた鋭いね。わざと絶望させてとか、ZPウイルスキャリアとかすらすら出てくるなんて驚いた。HBDに詳しいの?」
ええ? この子を認めるようなこと、言ってほしくないのに。でも見れば二木さんと八反さんも、君やるね、みたいな顔だ。
「授業の中でやりましたから。まあ俺はその前から知識として知っていましたけど」
大雅くんは鼻で笑った。やっぱこいつらバカじゃん、という声が聞こえるようだ。
「この騒動で呼び出されるの二度目なんですよね。これ以上何を訊きたいんですか? 首謀者は蒼空ですよ」
「今回はご遺族の依頼により、トリガーとなった絶望がなんなのかを調査しているんです。まず確認させてください。当日颯風さんにコンタクトを取りましたか?」
「取ってない。疑うなら俺のスマホ履歴でもなんでも調べてもらって構いませんよ」
「いえ、スマホ履歴は颯風さんの端末で分かると思うから」
大雅くんは一瞬顔をしかめた。「蒼空は結構コンタクトしてると思うけど」
「どうしてそう思うの?」
「蒼空が一番いじめてたからです。理久斗も言ってませんでしたか? 蒼空が指示出してたって」
「私も息子からそう聞きました。辻さんの息子さんって、昔は万引きとかもしていたみたいですし……ねえ、先生?」
母親が同席している岩瀬教諭と教頭に目をやった。二人は渋面になりつつ頷く。
大雅くんはさらに言った。
「蒼空はああ見えて狡猾だから、俺らの言うことを噓だと言うかも。でも、自分がいじめを指示してたなんて自分で言うわけないですから、騙されないでくださいね。蒼空が首謀者だと証言してるのは俺と理久斗の二人。蒼空一人の主張とどちらが信用できるかは、分かりますよね?」
「蒼空さんのことを話す流れだから、このまま訊きます。大雅さんから見て蒼空さんってどんな人ですか? 腕っぷしが強い? 頭がキレる? 万引き歴とか、素行に関してはこちらも多少聞いていますが」
「蒼空は……」数秒言葉を探し、大雅はこう継いだ。「つまんない奴。大して頭も良くないし、腕っぷしなんて全然カス。でも家が裕福でお祖父さんが要職だから、チヤホヤする大人がいるんです。中学の先生も塾の先生もそんなところあります。だから割とあいつも、鼻持ちならないところがある。颯風が空気読めないとしたら、蒼空は親の権力を笠に着るカスですね」
優等生の発言内容が意図しなかったものなのか、岩瀬教諭と教頭が揃って表情を固まらせた。
「じゃあ変だな」四方田さんが首を捻ってみせた。「今までの受け答えからも、あなたはとっても賢い感じがする。到底人から指示を受ける側には思えない。あなたがその気になれば、いじめの指示なんていくらでもかわせたんじゃない? でも従っていた。どうして? もしかして何らかの見返りをもらっていた?」
大雅くんが初めてイラついた顔になった。「別にそんな変ですか」
「実は蒼空さんはあなたより頭がいいんじゃない?」
「はあ? あいつはバカだよ」
大雅くんの口調が荒くなった。隣で母親がおろおろする。彼は口調を元に戻して言った。
「かわそうと思えばかわせますけど、そうしなかっただけです」
「なぜそうしなかったんでしょう?」
「それは……」
そこで大雅くんの視線の先が四方田さんから離れた。二木さんや私、そこらの空間、教諭らをうろつき、もう一度空間に舞う埃を見つめてから、四方田さんに舞い戻った。挑戦的な目だ。
「それは、いじめが自然の摂理だからです」
大雅くんはニヤリとした。入室時に感じた「一発論破かまします」の雰囲気が、彼の内面からほとばしる。
「知っていますか? いじめって人間だけの行動じゃない。野生動物にもあるんですよ。知能が高いことで有名なイルカも、群れの中の自分より弱い個体を攻撃したりするんです。もちろんイルカに限ったことじゃない。チンパンジー、カラス、ニワトリ、集団で生活する多くの動物が、仲間をターゲットにしていじめをすると言われている。でもね、これは生存本能なんです。食事、性欲、安全確保といった生命維持や種の保存に関わる行動に、脳から快楽物質が出るように、動物はターゲットにした仲間を攻撃しても、快感を感じる物質が分泌されるんです。そしてこれ、人間も同じなんです。つまりいじめは本能的な行動で、自然の摂理なんですよ。大人は頭ごなしに、いじめはダメだとか間違ってるって言いますけど、自然界全体を俯瞰して見れば、むしろ正しいことなんです」
高校の時、授業の一環で自然番組を視聴したことを私は思い出した。それに仲間を攻撃するイルカの集団が出てきた。
認めるのはものすごく抵抗があるけれど、大雅くんの言うことも一理あるんじゃないか。そう思ってしまう説得力がある。大雅くんは続ける。
「共通の攻撃対象があれば、その集団は団結するというメリットもあります。世界各国、政治的にやっていることですよね」
大雅くんの母親は困惑しているようだが、息子に注ぐ目には肯定の色があった。勝利を確信したのか、大雅くんは顎を上げた。
「簡単なことなのに。いじめはダメという固定観念から解放されるには、知性が必要なのかな? 皆さんにはそれがないようですね」
「自然界で同様の現象があれば、人間がそれをしても当然許される、という固定観念?」
しかし四方田さんは動じなかった。
「ハヌマンラングールやライオンの子殺しって有名だよね。群れのオスが交代した際、前のオスの子供を新しいオスが殺してしまうっていう。子供を育てている間はメスが発情しないから、子供を殺して交尾して、自分の遺伝子を残す戦略的行動という説が一般的だけど。大雅くんも知っている?」
大雅くんは頰をひきつらせて笑った。「知らないとでも思います?」
「でも、人間社会でそれをしたら許される? 少なくとも日本の現代社会で許されると思う? 再婚相手がその連れ子を殺しても、自然の摂理で通るかな? 例えばもし、あなたが親御さんと血が繫がっていなかったとしたら、あなたもその殺される立場なわけだけど、自然の摂理だなって受け入れて大人しく殺されるの?」
「何が言いたいんですか?」
「動物の行動は多種多様。その中で、自分にとって都合のいい現象だけ抜き出して、万物普遍の摂理みたいに言うなってこと」
座があっけに取られる中、八反さんだけがなぜか静かに笑って呟いた。
「懐かしいねえ」
懐かしい?
顔を赤くした大雅くんが何か言い返す前に、四方田さんが畳み掛けた。
「私たちは、未必の故意を重要視します。あなたは颯風さんがウイルスキャリアだとは知らなかったそうだけど、絶対にキャリアじゃないと信じ込むに足る客観的証拠はある? キャリアじゃないと信じ込むことと、キャリアかどうかは知らないということは、全然違うの。何より、HBD自体は頭にあった。詳しいんだ、って言った時、得意げだったものね。絶望したら死ぬ、そういう現象があると知りつつ、誰かを絶望させる行為をあなたの意思で行ったのなら、私たちは未必の故意を認定する。その上で訊きます。蒼空さんがいじめの指示を出していたというのは、天地神明に誓って本当のこと?」
舌を抜かれたように大雅くんは黙った。四方田さんは追い打ちをかけなかった。母子は退室した。教諭陣はいつしか口を出さなくなっていた。口を出しても無駄だと諦めたのかもしれない。
大雅くん母子と入れ替わりに、辻蒼空くん母子が入室してきた。
長めの前髪を垂らし、俯き加減の蒼空くんは、こちらに目を合わせようとしなかった。体格は悪くはない。むしろ背丈は平均以上ありそうだった。右手をズボンのポケットに軽く入れ、蒼空くんは室内の暑さにうんざり、というような表情を浮かべた。
素行が悪いという噂と、ポケットに手を入れたまま入室してくる態度は矛盾していないように見える。
だが私には、蒼空くんの視線が動きすぎるのが気になった。相手の様子は窺う。でも顔は見ない。辺りに気を配りすぎて、まるで草食動物だ。サバンナのインパラ。
既視感を覚えた。
私は十歳の時、定期公演で魔法使い見習いのアンという役を演った。準主役のアンは魔法学校に来る前、人間の学校でいじめられっ子だった。演出の先生に、サバンナのインパラをイメージしてと言われた。あなたは弱いの。肉食動物の怖さを嫌というほど知っている。昔の学校でいじめられていたから、魔法学校でも周りの子を警戒している。目つき、表情、姿勢、歩き方。もっと周りを気にしなさい。
蒼空くんから感じられるのは、狩る側ではなく、狩られる側の自覚を持った生物特有の気配だ。
と、蒼空くんの母親が教室の戸のレールにつまずき、歩調が乱れた。
蒼空くんの手がサッとポケットから出て、母親を支えるような挙動になった。
母親はすぐに体勢を元に戻し、何事もなかったかのようだ。蒼空くんもまた手をポケットに突っ込んだ。
母子が着席する。蒼空くんは自分の膝の間の床ばかり見ている。
颯風くんのスマホに残されていた蒼空くんとのやり取りを読んで、分かったことがあった。
蒼空くんは確かに颯風くんを呼び出したり、人格を蹂躙する動画を要求してはいた。だがその指示は、すべて伝言だった。
──明日講習の前に若草公園に来いって。それと、動画やっぱ今日までに撮って送れって。
蒼空くんの意思ではないのだ。おそらく理久斗くんと大雅くんは、いじめの証拠を残したくなかった。だから直接何かを要求する行為を、蒼空くんにやらせた。
蒼空くんもまた、従う側ではないのか。
その印象は、実際の彼を見て強くなった。
何より、やり取りを遡っていけば、颯風くんに対して謝りもしていたのである。
──ごめんな、颯風。
そこが興味深い点であり、私たちは蒼空くんがキーになると踏んだのだ。
だが、彼が私たちに心を開いてくれなければ、肝心の証言は得られないだろう。理久斗くんや大雅くんに逆らわず、動画の撮影までもしていた蒼空くんである。逆らわなかった、あるいは逆らえなかった理由があるはずで、そこを解消しない限り、詳しい話は聞けない。
四方田さんは切り出した。
「颯風さんが亡くなった日に、メッセージを送っていますね?」
「スマホのそういうの、もう全部分かってるの?」
「詳しくは解析中だけど、部分的に分かってることもあるんです」
蒼空くんは俯いたまま、長いため息を吐いた。「送った。若草公園に来い、それから動画を撮って送れって」
「通話履歴もありました。その通話内容を教えてください」
うなだれて、蒼空くんはかぶりを振る。
「法改正は再来年です。蒼空さんが何を言っていたとしても、今の法律では、あなたは罪には問われない。本当のことを知りたいだけなんです。協力していただけませんか」
再びかぶりが振られた。言いたくないのか、忘れたのか。忘れたわけはないと思うが……。
「では、質問を変えます。今までああいう動画は何本くらい撮りましたか?」
「覚えてない」
「撮影して理久斗さんと大雅さんに送るのはあなたの担当だった。違いますか?」
「……」
「別のグループに間違えて動画を送りましたね。あれはわざと?」
「まさか。暑くて頭が回らなくて、うっかりしただけ」
「誤送信にはすぐに気づいた?」
「いや。何分か後に、グループの女子に『これ何』って訊かれて、それで気づいた。慌てて、動画は見ずに削除してくれって頼んだ」
「息子にも非があるのかもしれません」母親が割って入った。「でも息子は家では優しい子です。優しすぎて、夫や義父から厳しく言われるほどなんです」
「数日前、颯風さんのお母さまが訪ねてきたと思います。お話しされたのはお母さまですか?」
「義父です。義父は立場のある人で、古い考えの持ち主だから、失礼なことも言ったかもしれません」
「蒼空さんへの質問に戻ります。他にはどういういじめをしましたか?」
教頭と岩瀬教諭はもう「いじめとは断定できない」とは言わなくなっていた。暑くて疲れたみたいに、教室の隅でしかめっ面でいる。
「颯風さんに万引きを命じたことは?」
蒼空くんの顔色が変わった。
「そういえば、蒼空さんも万引きで捕まったことがあるそうですね」
「それはこの件に関係ありますか?」またも母親だった。「あれは一年以上前の、それこそ颯風くんの万引きよりも前の話です。こっちのことを持ち出す前に、颯風くんの万引きを問題にしてほしい」
「いじめの一環で万引きをやらされた可能性があると、我々は考えています。万引きはちょうど去年の秋。颯風さんのいじめも同じころ始まったと推測しています。それに、颯風さんが狙ったのは、自分では楽しめないゲームだったそうです」
「でも四方田さん、ちょっといいですか」二木さんだった。「いじめの一環で万引きを強要されていたとして、万引きした品物はどうするつもりだったんでしょう?」
「蒼空さんらに上納するなり、換金するなりではないの?」
「いじめ側にそのようなメリットがあるのなら、なぜ颯風くんの万引きは一度だけだったんでしょうか? 継続的にやらされてもいい気がしませんか」
四方田さんと二木さんが対立ムードを醸し出す。四方田さんが予告していたアレだ。
「万引きはやはり、颯風くんのお母さまがおっしゃっていた動機なのでは? 親子関係の寂しさから、気を引くためにわざと心配をかける行動です」
言説の撤回を促す二木さんを、四方田さんは受け入れなかった。「たまたま捕まらなかっただけかもしれない。捕まらなければ、顕在化もしない」
「かもしれないだけでは、お母さまの見解も否定できないでしょう」
「失礼ですけど、私も隠れてやっていたと思いますよ。命じられてとかではなく、手癖の一種ですよ。そういう子はいるものです。それに、あのお母さん、とてもヒステリックな人だった。我が家に乗り込んできた時も、蒼空に殺されたと決めつけて。あれなら躾だってろくに……」
蒼空くんの母親が、横から颯風くん母子をこき下ろしたその時、
「やってないよ」
蒼空くんが否定した。
「あれから颯風は万引きしてない。お母さんも、そこのオバサンも、悪く言うのはやめてくれ。あと親の気を引きたくて万引きしたとかいうのも全然違う」
四方田さんがそこのオバサン呼ばわりされたことに、私は勝手にショックを受けた。と同時に、中学生の目線なら、私だってオバサンだとも気づいてしまう。ワードはたちまち跳弾となり、私もちょっとダメージを食らった。
当の四方田さんは顔色ひとつ変えなかった。二木さんが質問役に回った。
「捕まってしまった去年の秋の万引きは、君たちが命じたもの? あれからしてないと言い切れるのは、以降は命令してないから?」
蒼空くんはしばらく黙った末に「颯風はやらされた」とだけ答えた。
「君が命令したのかな?」
無言。
「理久斗くんと大雅くんは、君が命令役だったと言っていたけれど、合ってる?」
無言。
「さっきと同じ質問になるけど、颯風くんが亡くなる直前の通話内容を教えてほしいんだ。何を話したのかな?」
無言。
「ここでは言いたくないことかい?」
蒼空くんは俯きながらも無言を貫く。だが、その目が素早く横に動いたようだ。
母親を見たのだ。
「もういいじゃないですか。これ以上話すことなんて、この子にはないです」母親がたまりかねたように喚いた。「この子にも非があったのは認めます。親として責任を持って教育します。でも、非はこちら側だけでしょうか。私の子供のころだって、みんなの輪を乱したり、だらしなかったり、無責任だったり、どこかはみ出した子がいじめられていた。颯風くんは浮いた子だったっていうじゃないですか。そうでしょう、先生?」
いきなり話を振られた岩瀬教諭は、額にテカる汗をハンカチで押さえた。「まあ、確かに颯風くんは、ええ、まあ」
「ほら、先生だって認めてる。いきなりうちに怒鳴り込みにくるほど攻撃的なお母さんに育てられたんですから、納得ですよ。普通にクラスのみんなと仲良くできる子はいじめられません。いじめられるとしたら、される側にも問題や責任があったはずです」
「いいえ、ないです」
四方田さんはきっぱりと言い返した。母親は眉を上げた。「はあ?」
「確かに個々の性格や行動、コミュニケーションの困難さなど、いじめられる側になんらかの『特徴』を見つける場合はあります。でもそれがいじめを正当化する理由にはならない。いじめは他者を傷つけ、精神的、身体的に苦しめる意図的な行動です。颯風さんに虫を食べさせ自慰を強要した行動は、蒼空さんたちの意思によるもの。なので、その行動の責任はすべて、蒼空さんたちにあります。いじめられる側も悪いというのは、いじめる側の詭弁にすぎない」
母親の唇がわなないた。しかし、その唇から言葉は出なかった。暑い空気がいっそう座にのしかかってきた。外気に焼けた風が木綿のカーテンを揺らし、私のこめかみから汗が伝い落ちた。
蒼空くんがやっと顔を上げたタイミングで、八反さんが四方田さんの後を継いだ。
「そう、悪くないんだよね」
たった一言だった。この八反さんの一言は、誰かを責めるでもなく、誰かの間違いを諭すでもなかった。何なら誰に言うでもなかった。だが妙に場にハマった。
「悪くない……」
蒼空くんは呟いた。聞き取り調査は終わった。
*
聞き取り調査を終えた帰途の車中は、静かで重かった──ということはなかった。四方田さんは毎度のように一昔前の洋楽を流し、ミニバンを軽快に走らせた。
「今週いっぱい連絡を待ちましょう」四方田さんは言った。「連絡先は渡してある。今週待ってもノーリアクションなら、こちらから行く」
蒼空くんの聞き取りが終わり、母子が退室しようとした時、四方田さんは立ち上がって深く頭を下げた。
──蒼空さん、お母さま、調査上必要だからこその質問でしたが、お気を悪くされた言葉がありましたら、申し訳ありませんでした。
そして、今日の協力の礼を述べ、自分たちの一連の調査に気づいた点があればなんでも連絡をしてくれと、名刺を渡した。
蒼空くんにもだ。
四方田さん、二木さん、八反さん。私を除く三人がしっかり手渡したのだった。
颯風くんの最期を知るには、その直前に通話した蒼空くんの証言がどうしてもほしい。彼の発言がトリガーという可能性もあるのだ。
今日の聞き取り内容をタブレットにまとめながら、二木さんが「誰に連絡来ますかね」と言った。
聞き取り中、あえて四方田さんと二木さんが対立して見せた意図もここにあった。四方田さんばかりがメインを張ると、彼女がもしも好かれなかった場合、蒼空くんは連絡をくれない。四方田さんに反論する二木さんもいること、そのどちらにも与しない八反さんまでも見せて、四方田さん以外の選択肢もあると暗に示したのだ。
助手席の八反さんは「やっぱ四方田さんじゃね」と軽く流した。後部座席からサイドミラーに映った八反さんを見ると、一仕事終えたみたいな表情で目を閉じようとしている。
「懐かしいってなんだったんですか?」
その八反さんに、私はつい話しかけてしまった。部局に戻るまでうたた寝したそうなのに。
「え、何?」
「大雅くんとの時、懐かしいねえって呟きが聞こえたので。動物の子殺しがどうとかいう話の中で」
「ああ、あれ」
八反さんは笑い出した。なぜか四方田さんも苦笑している。
「八反、覚えていたんだね」
「そりゃ覚えてますよ。めっちゃ共感性羞恥感じたわ」
「あのころって、大学生だったっけ?」
「十九歳っすね。いやー俺も若かったわ」
昔話に花を咲かせるという彼らの雰囲気に、私はシンプルに戸惑った。二人の会話を素直に受け取ると、八反さんが大学生の時にすでに面識があったみたいだ。
二木さんが首を傾げている私に気づいた。「そうか、一ノ瀬さんは知らないんだ」
「はい、知らないです」何を知らないのかも知らない。「お知り合いだったんですか?」
「四方田さんと八反さんは昔MMOのギルドメンバーだったんだよ」
「そ。ワールドランキングで常にトップ50キープしてたよ。俺は召喚士、四方田さんは斧騎士。四方田さんが異常に強いから、運営チェック入ったことあったくらい」
ゲーム仲間だったのか。八反さんはそれっぽいけど、四方田さん、ゲームもするんだ。
「ああいうの、メンバー同士のチャット機能があるでしょ。それで、俺と四方田さんも会話することがあったんだ。結構打ち解けてたよ、俺の方はね。お互い札幌在住だってことは分かってたしね。俺の方は大学名や学部名も教えてたよ。ただ、てっきり男性だと思ってたな。猛々しい斧騎士だしさ」
「じゃあ、懐かしかったことって、チャットの中で発生した出来事なんですか?」
「そう。あれは確か、追放されたギルドメンバーへの苦言がきっかけでさ。話題が一般的ないじめとかそういう方面にまで広がったんだ。で、俺はさっきの大雅くんみたいなことを発言した──全然悪気とかなくてさ。逆にこんなこと言える自分、頭良いとか思ってた。動画サイトで得た知識ひけらかしてさ。うわっ、恥ずかしー。若気の至りが過ぎる」
八反さんが両手で顔を覆った。
「私の反論も、実は話題を変えただけなのかもしれないけれどね」四方田さんは冷静にコメントをつけた。「ただ、いじめが自然界から見ても政治的社会的に見ても、正しい行動で必要だという論調が、個人的に受け入れ難いのは事実。これは私の成育環境の影響もあるんだろうけれど」
「成育環境?」
「ちょっと母親が変わった人でね」
「そうですか」
親が学校関係者だったとか? いや、それを変わっているとは言わないか。
四方田さんはそれ以上は特に何も語らず、代わりに八反さんが、
「で、けちょんけちょんに論破された俺は、就活時にここを第一志望にしたわけ。この斧騎士様と一緒に仕事したら楽しそうだなって思ってさ。めちゃくちゃ粘ってHBD関係の仕事をしているって聞き出したんだ。札幌でHBD関係って言ったら、まずここだよね。一応道警も受けたけど」
と、バックミラー越しにウィンクした。
「もしかして二木さんもギルドメンバーだったりします?」
さすがにそんなわけないよな、と思いつつも隣の二木さんを見上げる。
「俺は違うよ。ギルドって何それ的なレベルだよ」
「そうでしたか」
この話、どこに行き着くんだろう?
私はどう話を繫ぐか頭を捻った。私も自分の志望理由を話せばいいのか? 医療研究者を事務の立場から支えたいと思っていたら、なぜか調査鑑別室に配属されました、という話は、四方田さんたちはきっと知らない。
でも、そんな自分語りをみんなは聞きたいだろうか?
その時、ふと帰省について興味なげだったシーンが唐突に頭に浮かんだ。
──帰省? ああ、なんかあるね、そういうの。
「全然話違うんですけど、二木さんって、ご実家遠いんですか? 道外とか?」
「俺は旭川にいたんだ」
約百三十キロの距離は、北海道育ちの私の感覚的には、ギリギリ遠くはない部類だ。
「旭川ラーメン美味しいんですよね。あと冬が結構寒い……」
言ってから私は、二木さんの足の指が若干欠落していることを思い出した。
「そうだね、すごく寒い」
二木さんのその一言は、ひどく余韻を持って響いた。運転席の四方田さんと八反さんは何も言わない。車内の温度も下がった気がして、私は居た堪れなくなった。
調査鑑別室に戻ると、三上さんが私たちを待っていた。
「お疲れさまでした。先ほど、辻蒼空さんからお電話がありました」
もうあったのか。
「こちらから折り返すと伝えています」
四方田さんが短く問う。「誰あて?」
「八反さんです」
5
翌日午後、私は八反さんが運転する車に同乗していた。いつもは四方田さんの運転で静かで滑らかな挙動のミニバンが、猛牛のように暴れまくる。
「ごめんね。俺、ペーパーなんだ」
「そうなんですか。意外です」
「卒検五回落ちてさ。大丈夫? 酔ってない? ヤバくなったら言って。停めるから」
幸い、私は乗り物には弱くない。弱かったら危ないところだ。
蒼空くんは家族や仲間に内密で話をしたいとのことだった。デリケートな問題だ、彼の希望は叶えられなければならない。一方、彼が重要なキーパーソンである以上、八反さんとの関係性に万が一のことがあれば、重要な情報が得られなくなる。同席者を一人だけ許してほしいと頼み、蒼空くんは受け入れてくれた。
私が同席者になったのは、四方田さんでも二木さんでもないからだ。四方田さん、二木さん、八反さんの三択で八反さんが選ばれた以上、残る二人の同席は無理だ。加えて、蒼空くんと年齢が一番近いという理由もあった。大人に対する警戒心があるとしても、私相手なら多少和らぐかもと期待されたのだ。蒼空くんとの聞き取り時、私は発言せずにただ彼の言葉に頷いていた。
四方田さんらは最初から、私を次の聞き取りに使う予定でそう命じたのだ。これを意気に感じなきゃどうかしてる。
今日、私は四方田さんから一つの質問を託されている。一番大事な質問だ。
緊張していろんなところから汗が出る。
加えて私には、別の緊張の種があった。
颯風くんの家で話を聞いた時の、八反さんの態度。伊織さんに対して『けっ』と冷めた態度をちらつかせたのはなぜなのか。私はずっとそのことが気になっていたのだ。正直、息子を亡くした相手にどうかと思う。もっと伊織さんを気遣うべきだと。
あれはどうしてなんだろう?
八反さんは慣れない運転に必死で、とても話しかけられない。
途中で一度、どこかの畑に突っ込みそうになったものの、車はなんとかI市に入った。蒼空くん指定の待ち合わせ場所に行き着く。駐車場が空いていたのはラッキーだった。
蒼空くんが指定したのは、腰を落ち着けて話せるカフェ等ではなく、埠頭にほど近い公園だった。中学生の行動範囲からは離れた場所だ。
相変わらず日差しには熱がある。けれど、海を渡ってくる潮風は心地好く、その熱を払っていく。
ベンチでも四阿でもなく、海を望む柵に手をかけて、蒼空くんは水平線を眺めていた。近づく私たちの気配に気づき、振り返る。
八反さんはどういう接し方をするのか。『けっ』のこともある。蒼空くん本人が八反さんを選んだというのに、私の胸に不安の影がよぎった。
「やあ、待った?」
友人にかけるような気さくな一言に、蒼空くんの表情が一段階柔らかくなった。「いいえ」
そのまま八反さんは蒼空くんの隣に立ち、紺碧の海を眺めた。先を急がず「あの向こうはロシアかあ」と目を細める。
潮の匂いに鼻が慣れたころ、蒼空くんは大きく息を吸ってから吐ききり、
「八反さんに、ありがとうございますって、言いたかったんです」
そんな言葉を皮切りに話し始めた。
「え、俺に? なんで?」
「悪くないって言ってくれたから。あれでなんかすごく楽になった。あの……」蒼空くんは鞭を入れるように自分の太腿を叩いた。「元々は俺だったんです。理久斗と大雅にいじめられてたのは。前に捕まった万引きも、あいつらにやれって脅されてやらされたんだ」
八反さんは「そうなんだ」と受け、驚きは見せなかった。
「あいつらはずるいから、学校では手出ししない。手を出すのは塾の時なんです。いじめに薄々気づいてた人もいると思うけど、見て見ぬ振りで、誰も助けてくれなかった。でも、颯風は違った」
去年の秋、塾に通うようになった颯風くんは、蒼空くんへのいじめに気づいた。塾の近くにある若草公園のトイレで、蒼空くんが便器を舐めさせられようとしていたところに顔を出し、そんなことはやめろと言い放ったのだという。
「勝てもしないくせに、颯風は空気読めないから、しゃしゃって来たんだ。空気読んで、俺のことなんてほっとけば良かったのにさ」
「君を庇ったせいで、ターゲットが変わったのか」
蒼空くんは頷いた。「ひどいことはだいたいあいつに行った。俺ができたのは、万引きのかわりにお金を出すことだけ。あいつらの目的は換金だったから、俺がお金を出せば万引きは許してもらえた」
「颯風くんのスマホで、君とのやり取りを読んだよ。動画を撮って送れとか、どこそこに来いとか、君が指示を送っていたね」
「理久斗と大雅は、最悪いじめがバレた時は、全部俺に押しつけるつもりだった。だから颯風に何かを要求する時は、俺がそれを伝えていたし、動画もいったん俺を経由した」
思ったとおり蒼空くんはインパラだった。いじめる側ではなくいじめられる側だったのだ。
「誰かに相談しようとは思わなかった?」
「思ったけど、できなかった」
「むしろひどくなるかもと恐れた?」
「そうじゃないけど」
「塾をやめる選択をしなかった理由を教えてくれるかな」
「俺、自分から塾に入ったから、いきなりやめたいとか言い出したら、絶対親にバレる」蒼空くんはTシャツの裾で顎の汗を拭った。「颯風にはやめたらって勧めたこともある。でもあいつも言えないって」
「蒼空くんはいじめられていることを、親に知られたくなかったのかな?」
蒼空くんは首を縦に振った。「お母さんだけじゃなく、うちの家族はみんなあんな感じなんだ。いじめられる方も悪いっていう。だから絶対知られたくなかった」
「そうか。話してくれてありがとうな。君の気持ちも俺なりにだけど分かるよ。プライドだってあるし、何よりお母さんに心配かけたくないよな。知られたら絶対心配するって思ったんじゃないの? 蒼空くん、お母さんのこと大事にしてるだろ」
「なんで分かるの、そんなこと」
「教室に入ってきた時、つまずいたお母さんをとっさに支えてただろ」
「そんなの、当たり前じゃん」
「当たり前じゃないね。だって俺はそんなことしない。俺、自分の母親嫌いだもん」
「なんで嫌いなの?」
「あっちが俺のことを好きじゃないからさ」
肝が冷えた。八反さんの言葉は急ハンドルだった。このハンドルワークが上手くいかなかったら、私がなんとかしなくてはいけない。ここには八反さんの他は、私しかいない──。
しかし八反さんはあくまで自然体だった。
「俺ん家は母子家庭でさ。でもそれは関係ない。ひとり親って今時そんなに珍しくもないだろ。虐待されてたわけでもないし。でもさー。ある時分かっちゃったんだよね。あ、この人俺のことより自分なんだなって。俺なんて本心はどうでもいいんだって。だから俺も嫌いなわけ。おあいこだろ」
「具体的にどんなことで分かったの?」
「訊かなきゃ分からないってことは、君はやっぱり愛されてるんだなあ」
そう言ったあとで八反さんは、「やべ、ドラマや映画でしか聞かないセリフ言っちゃった」と髪を搔きむしった。蒼空くんが少し笑った。八反さんも笑った。
「だから俺は蒼空くんと違って、親に心配かけたくない、なんて絶対に考えないよ。俺のことなんてどうでもいいやつに気遣いするなんてバカだろ。でも君はちゃんとお母さんを大事にしてる」
蒼空くんが八反さんを見つめる。その八反さんの顔には汗ひとつない。
「そんなに大事にしてるなら、きっと君にとってはいいお母さんなんだ。だったら助けを求めたって大丈夫さ。信じてあげなよ」
また蒼空くんの顔つきから頑なさがこぼれて消える。八反さんが私に視線をよこした。出番だと。
私はたった一つ与えられたセリフを言った。
「颯風くんが亡くなる直前、あなたは彼に電話をかけたよね。どうして電話をかけたのか、何を話したのか、教えてもらえないかな?」
蒼空くんは頷き、語り出した──。
*
帰りは私が運転した。八反さんの運転よりは百倍マシだからだ。天気は急に下り坂になり、厚い雲が湧いてきた。雨の気配がする。
部局に帰り着くのを待たず、八反さんは車中から四方田さんに電話をかけ、無事証言を取り終えたことを報告していた。
「はい、はい。ほぼほぼ四方田さんの予想どおりでした。一ノ瀬さんの問いかけ、完璧だったし。え? だから大丈夫ですよ。無駄な心配しましたね。オカンですか、あなた」
通話を切り、八反さんは「はー」と嘆息する。
「四方田さんって、たまにおせっかいなんだよね。いまだに俺のこと、学生扱いする」
私はハンドルを握る手に力を込めた。
「伊織さんと対面した日、八反さん、『けっ』って感じでしたよね」
「何? 『けっ』って?」
「四方田さんに、黙れって言われてましたよね。正直私、気になってたんです。伊織さんに冷たい感じで……たった一人のお子さんを亡くしたお母さんで気の毒なのに、どうしてですか?」
「ああ、確かに。思い出した」
助手席の八反さんは少しシートを倒した。ミリ単位のリクライニング。
「知らず知らず自分の母親のこと思い出してたからかな」
「あの、蒼空くんも訊いていましたが……」
自分が大事にされていないと、なぜ分かったんですか?
うっかり尋ねかけた言葉を飲み込む。興味本位で訊いていいことじゃない。心の中の秘密の引き出しに鍵をかけてしまい込んでいるかもしれないものを、気になるので一瞬見せてもらっていいですか? なんて、境界線を越えている。
「すみません、なんでもありません」
「あれでしょ? 蒼空くんの質問と同じことだよね?」しかし八反さんはお見通しだった。「あの時の俺、思わせぶりだったもんなー。運転のお礼に話そうか。聞きたい?」
「いえ、そんなすごく聞きたいわけじゃ……」
「五歳の時なんだ」
八反さんは頭の後ろで両手を組み合わせた。
「この人、俺のことなんてどうでもいいんだなって最初に感じたのは、五歳の時だった。当時はまだ家に父親がいてさ、俺にも母親に甘える気持ちがあったんだ。いつも塩対応な母親から構われたい、構ってほしい的なね。ある日俺は父親に怒られて、雨が降っている中、裸足でアパートを出た。人生初家出。俺はさ、母親が心配してくれたらいいと思ったんだ。俺を好きなら心配するはずだって。こういうのは子供の本能なのかな。それで母親も、その時俺を捜してくれたんだ」
車が進むごとに、あたりは暗くなっていく。「捜してくれて、どうしたんですか?」
「俺を見つけて母親はこう言った。『心配させないで』……嬉しかったよ。母親はやっぱ俺を好きなんだって思った。でもあの人はこう続けたんだ、『あなたに何かあったら、ママがパパに怒られるじゃない!』。その一発で子供心に分かっちゃったわけ。結局、この人が言う心配させないでってのは、自己都合なんだって。自分にとって不都合だから、周りにダメな母親と思われたくないから、単純に心配するってストレスだから、心配させるなとか、いい子にしてという言葉で、子供をコントロールしようとする……。結局俺の母親は、俺が大学に入って家を出るまで、一事が万事そんな調子だった。伊織さんの話を聞いて、俺の母親を重ねてたんだ」
日没までまだ時間はあるのに、行き交う車両はヘッドライトをつけ始めた。私もつける。運転が私で良かった。ペーパーの八反さんなら、きっとワイパーが動く。
「伊織さんにとっちゃ、いい迷惑だったね。反省してるよ。そりゃ四方田さんも黙れって言うわ。てかさ、一ノ瀬さんすごいな。運転しながら会話できるんだな」
6
私たちは、蒼空くんの証言と解析が完了したスマートフォン等の情報をもとに、再度伊織さんへインタビューし、騒音計を使って井内宅の検証を行った。伊織さんと通話していた木戸さんからも証言を得た。木戸さんはこう証言した。
「あの時、取り乱した伊織さんは、ひどく泣いていました」と。
八月下旬、報告書が完成した。
私たちは関係各所に、それを提出した。
そして、伊織さんに対しても結果説明の席が設けられた。
*
あの日、私が問うた質問に蒼空くんはこう答えたのだった。
──俺が颯風に電話をかけたのは、謝るためです。動画の送信先を間違えてしまったから。颯風は誰にも見られたくないだろうから、申し訳なく思って、電話をかけて謝りました。
あいつらの要求をメッセージで送ったすぐ後だったんで、かけづらかったけれど、直接謝らなきゃいけないと思って、かけました。
颯風はすごくショックを受けて、グループの人らに削除してもらうように頼めと、俺に言いました。それはもうしてあると答えると、少し安心したみたいでした。お母さんに知られなければそれでいいと、颯風は言いました。
お母さんだけには知られたくない。心配をかけたくない。自分はお母さんと二人暮らしで、お母さんは自分を育てるために苦労をしているから、心配をかけちゃいけないんだと言っていました。自分がいじめられるより、自分がいじめられていることを知って、お母さんが悲しむ方が嫌だと言っていました。
それから、トイレに行きたいと言ったので、最後にもう一度謝って電話を切りました。
話していたのは、五分もなかったと思います。
井内宅のトイレに入った時、私はリビングの会話を聞き取れていた。エアコンを稼働させている時、あの家は空調のためにドアを開け放している。
颯風くんにも聞こえたはずだ、帰宅した伊織さんが電話で話しているのを。そして知っただろう。伊織さんが件の動画を見たことを。
報告書はこう結ばれた。
『以上から、HBDを引き起こしたトリガーは、自身へのいじめを知ったことにより、母親である井内伊織を悲しませた、心配をさせたという自覚による悲痛であると推測する』
自分のいじめにショックを受けて取り乱す伊織さんの泣き声を、颯風くんは聞いたのだ。
*
伊織さんへの調査鑑別結果報告は、私立北海道新墾医科大学内の一室を借りて行われた。
伊織さんははじめ、私たちが自宅を訪れてそれをすると思い込んでいたようだ。
医大内という場が選ばれたのは、HBDを引き起こしたとしても、即時救命できるようにだった。調査鑑別内容は、伊織さんに大きな悲しみと絶望を与える可能性がある。調査鑑別室はあらかじめ伊織さんにその可能性がある旨を伝え、聞くか聞かないかの意思を確認した。伊織さんはそれでも知ることを望んだ。
大きなショックを受けた様子ではあったが、結果的に伊織さんはHBDを発症しなかった。念のためにそのまま医大病院に入院し、経過観察となった。カウンセリングの場はもちろんのこと、グリーフケアのプログラムも提供された。
入院中は三度血液検査が行われた。三度ともトリガーで生成されるストレス物質CKMJが血中に存在しないことが確認され、退院となった。報告から三日目のことだった。
──これを言ったりやったりしたら悲しむだろうと予想できても、HBDを引き起こすほどの感じ方をさせられるかまでは未知数だ。
配属初日に二木さんがそう言っていたことを、私は思い出した。
入院中、伊織さんはほとんど何も言葉を発しなかったという。
*
今日はいくらか暑さが和らいでいる。
伊織さん退院の報を聞いたあと、四方田さんと八反さんはいきなり夏季休暇を申請した。八反さんはさっそく今日から休みだ。四方田さんは八反さんが戻るタイミングで休みに入るが、今日の午後も半休を取って早退してしまった。
「今回の案件は、みんなにとっても思うところがあったのかもしれません」
百瀬室長──彼はお盆が終わって帰ってきていた──は、どこか寂しげに微笑んだ。
「四方田主任は小樽まで足を延ばして絵を見に行くようですよ。今日までの企画展があるとかです」
二木さんは道警特異犯罪対策課に行っている。何やら近々全国的な研修があるらしく、その打ち合わせだった。
だから今、部局には私と百瀬室長、三上さんしかいない。三人しかいない部局は、なんだかレンコンみたいにスカスカしている。
早くみんなが揃うといいな。
なんて思っている自分にびっくりする。
「それはそうと、一ノ瀬くんは夏休みを取らないのですか?」
「あ、取ります。ありがとうございます」
百瀬室長から渡された休暇申請書を書いていて、思い出した。
「そういえば、7588ってなんだったんだろう?」
「何か言いましたか?」
「颯風くんのスマホのパスワードが、7588だったんです。どうしてなのかなって。考えても分からなくて」
「へえ。三上くん、どうだい?」
百瀬室長に無茶振りされても、三上さんは慌てなかった。彼は自分のタブレットを操りながら
私のデスクにやってきて、画面を見せてくれた。
三上さんのタブレットに表示されていたのは、元素周期表だった。
「颯風さんの自室と井内宅のトイレに貼ってあったと聞いています」
三上さんの指が画面の二点をさす。
ReとRa。元素番号75と88のレニウムとラジウムを。
「八反さんは、トイレから帰ってきてパスワードを入れたんですよね?」
確かに。
その時、電話が鳴った。突然だった。タブレットを示していた三上さんは、反応が少し遅れた。私が受話器をとった。
「はい。HBD調査鑑別室です」
やっと先んじたと、得意になって三上さんを見上げる私の耳に、女性の声が飛び込んできた。
「なんでですか?」
聞き覚えのある声だった。
「なんで私は死なないんですか? 私もウイルスキャリアなのに」
伊織さんの声だ。
「人は悲しみで死ぬんじゃないんですか?」
冷え切った絶望の叫びだ。
「私のせいで颯風が死んで、こんなに辛いのに、こんなに悲しいのに、もう勤めも辞めて、ずっと死ぬのを待ってるのに、なんで私は生きてるの? どうして?」
伊織さんの絶望が響き渡る。
「どうしてよ、教えて!」
*
■ 著者プロフィール
乾ルカ(いぬい・るか)
1970年北海道生まれ。2006年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。10年『あの日にかえりたい』で第143回直木賞候補、『メグル』で第13回大藪春彦賞候補に。著書に、ドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』のほか、『君の波が聞こえる』『向かい風で飛べ!』『森に願いを』『わたしの忘れ物』『コイコワレ』『明日の僕に風が吹く』『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』『花ざかりを待たず』『葬式同窓会』『灯』など多数。

