書店員さんからの大反響で、発売前重版。「王様のブランチ」などでも取り上げられ、話題を呼んでいる乾ルカさんの小説『神の代役 HBD調査鑑別室』は、あるウィルスの抗体を持つ者が、絶望を感じることが原因で死に至る「HBD(Heart-Breaking Death)」現象が存在する日本を舞台に、国の委託でHBDと疑われる事件を追う調査鑑別室のメンバーを描く連作短編集です。
「悲しみで人が死ぬ」という斬新な世界観は、どのように生まれてきたのか。創作の背景やキャラクターづくりについて、乾さんに3回にわけてお話を伺いました。

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第2回 まず彼女たちを好きになりたかった

イラスト:大宮いお
――事件を追う調査鑑別室のメンバーそれぞれが、とても魅力的です。乾さんの作品の中でも、特にキャラクターがくっきり立っているように感じました。
乾 私自身もすごく好きなので、そういっていただけて嬉しいです。一冊書くにあたって、まず彼女たちを好きになりたくて。調査の過程で悩んでほしかったし、傷ついてほしかったし、時には私自身の思いやいろんな人の思いも代弁してほしかった。だから、それぞれに何らかの魅力を持たせたいと思いました。
――みんな苗字に数字が入っていますよね。恥ずかしながらずいぶん後になってそれに気づき、おお! と(笑)。数字を用いたのは意図的ですか?
乾 チームのメンバーを区別するためでもあるんですけれど、それ以上に、私自身が持っている数字のイメージが反映されています。たとえば私、4という数字が好きなんです。死と結び付けられることが多いけれど、幸せの「し」ともいえる。その表裏一体なイメージを託したのが、調査鑑別室主任の四方田です。

――四方田は、仕事ができて信念のあるかっこいい女性ですよね。主人公の一ノ瀬については、どのように考えていらっしゃいましたか。
乾 もしかしたら一番考えていないかもしれません(笑)。主人公だからなんですよね。この子はもう、「任せたよ」という感じでした。読者と同じ視点で、何も知らないところから、さまざまな経験をしていってほしかったんです。彼女には劇団の子役として活躍した過去がありますが、ごく一般的な感覚を持っていてほしかったし、挫折や痛みを知っていて欲しかった。実は、一ノ瀬というキャラクターは、ずいぶん後になってから輪郭がはっきりしたんです。
――そうでしたね。入稿直前のある変更で、彼女に対する印象が大きく変わった気がします。ああ、あなたはこういう人だよね、とくっきり立ち上がり、感動しました。
乾 平凡で未熟なんだけれど、一生懸命仕事に向き合う素直さや真摯さがある。そんな人の周りに、仕事ができる人や優しい人を配置していくのが楽しかったですね。

――ほかの人物についてはいかがですか。美声の持ち主でとっても面倒見のよい二木。第五話「雪の果て」では、彼の過去にまつわる事件が描かれます。
乾 優しい人にいてほしい、という気持ちから生まれてきた人物です。彼の過去に登場する友人の名前が林なので、木が二つで二木、という遊びも入れました。

――陽キャでコミュニケーション能力の高い八反。
乾 シリアスな展開が多いので、緩衝材となるようなおちゃらけた人もいてほしくて。ちょっと変わった苗字を登場させたかったのと、八方美人のイメージを重ねました。

――百瀬室長の秘書を務める三上。さまざまなアルバイト歴があり、いろいろな伝説を残しているのが面白かったです。
乾 仕事のエキスパートといったイメージです。彼は奇数にしたかったんです。

――最後に百瀬室長。包容力と理解力にあふれた彼がいなければ、きっとこの面々はまとめられないですよね。しかも室長自ら率先して重い荷物を運んでいたりする奥ゆかしさ(笑)。
乾 室長なので、一番大きな数字を。私も彼が特にお気に入りなんです。ほかの人物にはモデルはいないのですが、百瀬だけは『アンナチュラル』で所長を務められた松重豊さんのイメージで書いていました。もちろん、松重さんのほうがずっと素敵でいらっしゃるんですけど(笑)。

――劇団時代から親友・茉莉絵や、一ノ瀬の実家でのシーンも好きです。緊張感のある事件が続くなかで、ほっとできるエピソードになっていますよね。
乾 茉莉絵、いい子ですよね。彼女が出てくる場面は、書いていて楽しかったです。
一ノ瀬は過去に大きな傷を抱えているので、周囲には恵まれていてほしかったんです。何があっても味方でいてくれる。無条件で受け入れてくれる。そんな家族や親友がいるからこそ、一ノ瀬は今ここに立っていられるんだと思います。
――キャラクターについてお話を伺っていると、乾さんご自身が本当に皆に思い入れがあるのが伝わってきます。
乾 そうですね。この作品が終わったあとも、彼らには私の中で生きていてほしいという思いがあります。単なる事件のための登場人物ではなくて、どこかで今も生きているような存在として感じていたいんです。
第3回の公開日は、10月28日(水)です。
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■ 著者プロフィール
乾ルカ(いぬい・るか)

1970年北海道生まれ。2006年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。10年『あの日にかえりたい』で第143回直木賞候補、『メグル』で第13回大藪春彦賞候補に。著書に、ドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』のほか、『君の波が聞こえる』『向かい風で飛べ!』『森に願いを』『わたしの忘れ物』『コイコワレ』『明日の僕に風が吹く』『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』『花ざかりを待たず』『葬式同窓会』『灯』『バベルの教室』『愛する男』など多数。
■ 書籍紹介

『神の代役 HBD調査鑑別室』乾ルカ
強い悲しみが命を奪う世界。死因という名の絶望を探り、人の尊厳を守るために働くチームを描く唯一無二のヒューマンミステリー!

