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第6回

【さくらのひとやすみ #6】大自然スイス

スイスに行きたいと思ったきっかけは数あれど、一つはやはりインスタグラムだろうか。

 

当時のパーソナルの先生が「スイスは最高すぎて毎年行ってる」と私に伝えてきたあたりから、インスタでスイス絶景アカウントが異様にヒットするようになった。

iPhoneが人の話を聞いていると巷で噂になった頃だ。

今でも友達とその話になると「聞くな」とスマホに伝えるようにしているが、時に良い働きもしてくれる。

 

とはいえ、インスタリールの海外探訪動画がやたらと美しすぎるのも確か。

私も最初は「これは流石にAIでしょうよ」と信じられずにいたのだが、どうか安心してほしい。

スイスは本当に存在しました…。

 

夏のスイスは緑が青々としていて生命力に満ち溢れている。

列車からの景色は完全に「世界の車窓からのやつ」だった。

確かにこれは番組にして人に共有したくなる。

やさしい気持ちで始まった番組だということが今わかる。ありがとう。

 

ということで、移動中は専ら窓に張り付いて、絶え間なく移り変わる絶景を眺めていたのだが、ある時、どこからかカランカランと馴染みのない音が聞こえてきた。

「なんだなんだ」と音のなる方へ目を向けると、そこには牧草を食べる牛たちの姿。

牛の首についたカウベルが互いに共鳴しあって、風鈴のような音を鳴らしていたのだ。

 

なんという美しい音の調べ…そしてなんて幸せな環境で生きる牛!!!

 

牛の発するマイナスイオンにクラクラしながら、もちろん終始動画を回していたのだが、外の景色に目も暮れず本を読むクールな現地人を見て

「こ、これに慣れてるのかっけ〜〜〜…」

と羨望の眼差しを向けてしまった。

富士山のそばに住んでいる人に「今日の富士山めっちゃ綺麗ですね!!!」と話しかけた時、「あ、そうなんだ、毎日あるから見てないな」みたいなニュアンスだったことを思い出す。

かっけ〜〜〜〜…

さて。

初日訪れたチューリッヒと、首都のベルンはスイスの中でもかなり都会だったが、ここからは大自然を謳歌する旅へと舵を切ることになる。

私たちはベルンから電車を2度乗り継ぎ、ロープウェイに乗り、その後もう一度電車に乗ったところにある「ミューレン」という村に3日間ホテルを取っていた。

 

小さなこの村の人口はわずか417人。

排気ガスを排出する乗り物の乗り入れが禁止されているのもあり、とにかく静かで、足のつま先まで息を吸いこみたくなる空気の美しい村だ。

 

もちろん近くに自販機やコンビニなんて存在しないので、フロントで「どこで水買えますか?」と聞くと、「蛇口ひねったら美味しい水飲めるよ」と言われた。

確かに私たちは日本でアルプスの水を買って飲んでいる。

 

崖の上の村ということで、とにかく辺鄙だが眺望は最高。

ホテルのベランダからは、アイガー、メンヒ、ユングフラウの三山やアルプスの山々が一望でき、毎朝屋外で朝ごはんを食べていると、気持ちが良すぎて意識が飛びそうになる。

ミューレン…ハイリーレコメンド村です。

ちなみにスイスやドイツに行って面白かったことは、日本のように駅構内に改札やタッチ端末などが無いことだ。

なので多分、余裕で無賃乗車が可能である。

 

私たちはスイストラベルパスというスイス全土で使える交通パスを購入していた。

こちらのパスがあれば一部例外はあれど、いちいち切符を買う手間も省けるし美術館に無料で入れたり、湖船にも乗れるという優れもの。(高いけど)

ただ結局最後まで私たちのトラベルパスを確認されることはなかった。

ゆるくて最高だが、なんとなく確認してほしいと願ってしまうのは日本人の性だろうか。

 

あとは、移動するごとに喋る言語が少しずつ変わっていくのも興味深い。

スイスはたくさんの国に囲まれている地理上、公用語がドイツ語(6割)フランス語(2割)イタリア語(1割)ロマンシュ語(1%)という割合なのだとか。

日本にも方言はあれど、使う言語も違うのに一つの国として成り立つのが大陸らしいなぁと思う。

 

そして次の日

「スイスに来たならば山にも登らねば」という話になり訪れることにしたのがミューレンからも見える山、ユングフラウ。

 

ここにはヨーロッパで最も高い位置に駅が存在している。

展望台まで登るとその標高は3571メートル。

道中の景色も、これぞスイスという感じで一生美しいのだが、一緒に行ったお友達のカヨちゃんは高所恐怖症なので、時折スゥッと目を閉じて現実を拒絶していた。

よくよく考えるとこんな高いところに鉄道を走らせようとするなんて正気の沙汰じゃない。

  

駅には「トップオブヨーロッパ」という複合施設が直結しておりユングフラウ鉄道開通に至る歴史なども展示されていたのだが、そこには工事で犠牲になった工夫たちの名前や当時の働く男達の写真が飾られていた。

見ればみるほどこの絶景を私たちに与えてくれたマッチョ達に思いを馳せてしまう。感謝です…。

展望台から外に出ると、辺りは一面雪景色。

あいにくの曇り空だったがそれでも絶景だった。

私の母が28歳(当時の私と同い年)の時にユングフラウに登った経験があるということで、母と同じポーズをして山頂で写真を撮ったりしてみる。

ただ夏だとは思えないほどの極寒。

舐めた格好で訪れたため、少し外に出ただけで凍えてしまい「何か温かいものを買おう…」と売店に向かうと辛ラーメンが2000円で売られていた。

何事???

異常な値段だが、今食べたいのは確かに辛ラーメンだった。商売上手だ。

  

しょうがないので「辛ラーメンください」とレジで伝えると「まじ?このラーメンめっちゃ高いよ」と店員さえも言ってくる始末。

「このレシートあったら割引できるんだけど、持ってないの???」とか言ってくれたが、そんなものは持ってない。

2000円は、わたしが高校時代にびっくりドンキーでバイトしていた時の時給の約3倍だ。

3時間働いた気持ちになって食べたら、より五臓六腑に染みわたった。

 

と、まぁこのようにスイスの物価は常軌を逸している。

普通にホテルで売られているカップヌードルも1300円するし、リンツのチョコはスイス発祥なのに日本の方が安かった。

ちなみに、ユングフラウとグリンデルワルトを繋ぐゴンドラ「アイガーエクスプレス」は、わずか15分乗るだけで往復214スイスフラン。

日本円で37746円だ。

考え始めると本当に何も買えなくなるので、わたしは途中から1スイスフラン=1円と認識して生活するようにしていた。

  

ただスイスの景色はプライスレスなので、行った瞬間に元が取れるということだけは伝えておきたい。

治安もいい。牛もかわいい。

何も怖がることはない。お金は稼げばいい。

  

スイスの雄大な自然の中で大きく息を吸ったり吐いたりすると急に「お手上げです。あんたが大将。」という気持ちになれる。

私たちは自然のしもべなのだ。

本当の意味で自然の中に体を委ねることができたら、今まで居た場所とは全く違う世界に行ける瞬間があることを知った。

心が廃れてどうにもならないという人は、ぜひスイスへ行ってみてほしい。

  

p.s
下山後グリンデルワルトで飲んだビールも最高だったし、「ラウターブルンネン」の滝も圧巻だった。

愛の不時着の舞台「インターラーケン」で乗った湖船もおすすめ。

次は南の方にも行きたいな〜〜

(イラスト/藤原さくら)


藤原さくら(ふじわら さくら):1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。interfmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。

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