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【特別公開】教授のパン屋さん2 第1話
第1話 小麦と発酵バターのクロワッサン 1 パンが焼ける匂いは、どうしてあんなに幸せな気持ちになるんだろう。 オーブンの熱気にとけて甘い香りがほんわりと漂う。焦げ目がつきはじめた生地から香ばしい匂いがして、じゅわ…
第1話 小麦と発酵バターのクロワッサン 1 パンが焼ける匂いは、どうしてあんなに幸せな気持ちになるんだろう。 オーブンの熱気にとけて甘い香りがほんわりと漂う。焦げ目がつきはじめた生地から香ばしい匂いがして、じゅわ…
<出国して宇宙を見る> 4月10日(木)、18時。 羽田空港で無事に三枝さんと合流し、ポケットWi-Fiのレンタルと換金を完了。現地ではほとんどクレジットカード決済なので現金は少しで良いとのこと。1万円ほどユーロに替えま…
私は名字が6回変わっています。 最初の名字は「白鳥」。7歳で両親が離婚して母の姓の「鈴木」に。母が再婚してふたりめの父親の姓の「宇井」に。また離婚してふたたび「鈴木」に。私が結婚して婿入りしたので妻の姓に。そして20…
プロローグ 軽く、ひそやかな音が聞こえてきた。 その響きの心地良さに、トラックで仮眠をとっていた青年は目が覚めた。 歌うような女の声がした。「襟足は大事。ここが決まると男っぷりがあがるからね」「へえ、そんなもんかね」…
もしも願いがひとつだけ叶うなら、ママはなにをお願いする? 娘がまだ幼かった頃に、初佳もとかはそう問われたことがある。ちょうど、保育園から帰るところだった。前後に子ども用の座席を設置した自転車にまたがり、保育園を出るなり…
縦横四列に組まれた、十六のテーブル。 席に着いた者たちは静かにそのときを待っている。 腕組みをして俯うつむく青年、頰ほお杖づえをついて周囲を眺める少年。 微笑を浮かべる女、大あくびをする男。 手元の駒を整える少女、整え…
ビストロの朝食 〜おいしいパンとよい酒があれば〜 まだ暗い部屋に、トイピアノの音が響きわたった。 どこか気の抜けるようなその音は、有ゆう悟ごが設定した、仕事用電話の着信音だ。 手探りで電話を探すが、手の届く範囲にはな…
私は、歩き方が変らしい。私単体でもそうかもしれないし、特に人と歩いたりするとよく言われる。「ちょっと!私の右側か左側かどっちにいるか決めて。落ち着かないから」「今、かかと踏んだでしょ。距離感ちゃんとしてね」「大人なんだか…
我が家の見慣れた光景といえば、祖父が居間で送り状を書く姿だ。毎年田舎からりんごや食用菊、ふきのとうなんかが送られてくると、祖母はそのお返しに、横浜のお菓子や、都会のちょっとした珍しいもの(最近は私の書いた本も含まれてい…
プロローグ 桔平が帰って来ていた〈バーバーひしおか〉で 今日は第三月曜日。〈バーバーひしおか〉は定休日の朝。起きて一階に下りていくと、台所のテーブルに桔平きっぺいさんの笑顔が。「おはようせいらちゃん」「お帰りなさい…