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【変な奴やめたい。12】幻のトカゲ
私の家は急な坂の途中にあって、そこからさらに50メートルほど坂を登ったところには広い空き地があった。手前に小柄な桑の木が生えていて、ほかに目につくものはなにもない。草と石ころばかりの空き地だ。 小学校がおわると、私は…
私の家は急な坂の途中にあって、そこからさらに50メートルほど坂を登ったところには広い空き地があった。手前に小柄な桑の木が生えていて、ほかに目につくものはなにもない。草と石ころばかりの空き地だ。 小学校がおわると、私は…
「明日はまつりに行こう」と、土曜の夜に父が言った。 なんだか、へんな気がした。 父はひとの多いところをとことんきらう人で、小原家はこれまで、ひとの集まる場所へは、ほとんど出かけたことがないのである。それが、まつりに行く…
最近は執筆の仕事の延長で、ラジオやテレビなんかに出る機会が増えた。それに従って、自分とは全く関係ないと思っていた、いわゆる“芸能人”と呼ばれる人たちに会うことも多い。 大好きな芸人さんや、誰もが知っている芸人さん、そ…
開園前の遊園地が、こんなにキラキラして見えるなんて初めて知った。 まだ客のいないそこは、想像していたよりずっと広大に感じる。朝日を浴びたアトラクションが、むずむずと喜びをこらえながら始まりの時を待っているみたい…
ある日、YouTubeで大好きなカズレーザーの動画を見ていると、カズが「ホットドックは両端を交互にかじって食べる」「アルフォートの船が描いてある面は見ないで食べる」というような話をしていた。 他人には理解できないしう…
朝、散歩をする。起きてすぐ、スマホをひらかず、何かを考える間もなく家を出る。よく眠れた日は目も頭の中も雪がふったみたいにまっしろだから、その白さでSNSとかを見ると、なんだか1日中、画面にうつしだされた映像や言葉がうっす…
2025年、戦後80年の節目に、ポプラ社は一冊の本をコミカライズします。『いしぶみ 広島二中一年生全滅の記録』(広島テレビ放送 編/ポプラポケット文庫)です。 原爆投下の日、爆心地から約500mの場所にいた広島二中一年生…
「コンビニ行くけどなんかいる?」と父が言った。 父は病気がちになってから、働かずに家にいることが増えたのだ。あまり遊びにもいかず、放課後や夏休みはずっと家にいる中学生だったわたしは、父と過ごすことが多かった。 そうは…
春は明け方にやってくる。 まさに「春はあけぼの」、今年も三月下旬にその第一声が響いた。 声のあるじはウグイス。 空はようよう白み始めるも、それでもまだほんのり夜の気配が残っている、そんな時間に「ほー、ほけ、ほけッ」と来…
八並青やなみあおには行きつけの店がない。 カフェの店主と顔なじみになって「いつもの」を注文したことも、バーで隣の客と意気投合したこともない。そもそもアルコールにもカフェインにも耐性がない。美容院は世間話が苦手で転々とし…