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【第3回】『神の代役 HBD調査鑑別室』乾ルカさんロングインタビュー

書店員さんからの大反響で、発売前重版。「王様のブランチ」などでも取り上げられ、話題を呼んでいる乾ルカさんの小説『神の代役 HBD調査鑑別室』は、あるウィルスの抗体を持つ者が、絶望を感じることが原因で死に至る「HBD(Heart-Breaking Death)」現象が存在する日本を舞台に、国の委託でHBDと疑われる事件を追う調査鑑別室のメンバーを描く連作短編集です。
「悲しみで人が死ぬ」という斬新な世界観は、どのように生まれてきたのか。創作の背景やキャラクターづくりについて、乾さんに3回にわけてお話を伺いました。

 
  *

第3回 人間を描くことそのものがミステリーになる

イラスト:大宮いお

――本書で描かれる5つの事件は、いずれも先が読めない展開で引き込まれます。本書のレビューをご執筆くださった瀧井朝世さんが≪どの短編も真相には意外性があり、そして切ない。≫と記してくださっているのですが、まさにおっしゃる通りだと感じました。

乾 最初のプロットは、もっと一直線だったんですよ。「こういう事件がありました。その死因はこれです」という形に近かった。
 でも、それだと人間の心にならないんですよね。誰かの心って、そんなに簡単にわかるものじゃない。何か悲しいことが起きたときに、「これが原因ですね」とすぐ断定できるわけではないじゃないですか。だから、いろんな可能性を考える必要がある。Aかもしれない。いや違う。Bかもしれない。それも違う。そうやって試行錯誤をしながら少しずつその人の心に近づいていく。それが結果的に、ストーリーが二転三転していくことにもつながったんだと思います。

――たしかに調査の流れであると同時に、人の心をわかろうとしていく流れでもありますね。

乾 そうなんです。むしろ心を理解しようとした結果、ストーリーが二転三転していったという感覚でした。

――各話の調査対象者一人ひとりについても、いろいろ考えられたのですか。

乾 死をもたらした絶望に至るまでの、その人の人生の歩みについては考えましたね。何を悲しいと感じるかは、その人固有のもの――どういう環境で生まれて、どんなふうに暮らしていて、どんなものが好きで、といったバックボーンが関わってくると思うので。第一話の甘野あまのは、若くしてステージⅣのがん患者だったことが早々に判明しますが、病気になって彼女はどう感じていたんだろう、死を意識したときに何をして、何をしないと思うんだろう。そんなことも考えました。

――自分も加害者になってしまう可能性もあるんじゃないかと思えるようなエピソードもありました。

乾 自分の主観を通して「私が平気なんだから、これを言ったりやったりしても平気でしょ?」と思うのは危険だと思うんです。いっぽうで、よかれと思ったことが相手を傷つけてしまうこともありますよね。だからこそ「こんなことで?」と読み手が感じるような事件があってもいいのではと思いました。
 とはいえ誰かを傷つけるのを恐れて何も言わない、やらないとシャットアウトするのも違う。だからせめて、人の悲しみがどこにあるかは人それぞれで、自分の物差しで否定してはいけない、と意識し続けることが大切なんじゃないか。そんな気持ちや自戒を「それはあなたの価値観でしょ」という四方田よもだの台詞に託しました。

――ミステリーとしてもとても面白かったです。第三話「僕はいい子」のスマホの暗証番号の謎など、小さな仕掛けも効果的でした。

乾 ありがとうございます。あれは調査鑑別室のメンバーは切れ者なんだ、ということを自然に伝えたくて。一ノ瀬だけが気づかなくて、周りは即座に理解する。そこも含めてキャラクター造詣の一部になればと思いました。

――なるほど! たしかにみんなの有能さが感じられるエピソードでした。

乾 昔、あるミステリー版元の編集の方に「どんな小説もミステリーなんだ」と言われたことがあるんです。最初は意味がわからなかったんですが、今は本当にその通りだと思います。物語って、知らないものを少しずつ知っていく過程じゃないですか。人間を描くこと自体が、ある意味ではミステリーなんですよね。

――本当に多くの方が「続きを読みたい」とおっしゃっています。

乾 本当にうれしかったですね。私自身も驚きました。

――実は私、大きな裏設定を伺っているのですが、本書の中にそれを予期させる一文が絶妙に紛れ込んでいるんですよね。ものすごい伏線になってますよね!

乾 今読むとノイズに見えるかもしれないんですけど(笑)。でも将来的に生きてくるものとして入れています。

――編集者としても一読者としても、彼女たちのこの先の物語が読めたら、こんなに嬉しいことはありません。本日はありがとうございました。

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■ 著者プロフィール
乾ルカ(いぬい・るか)

1970年北海道生まれ。2006年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。10年『あの日にかえりたい』で第143回直木賞候補、『メグル』で第13回大藪春彦賞候補に。著書に、ドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』のほか、『君の波が聞こえる』『向かい風で飛べ!』『森に願いを』『わたしの忘れ物』『コイコワレ』『明日の僕に風が吹く』『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』『花ざかりを待たず』『葬式同窓会』『灯』『バベルの教室』『愛する男』など多数。


■ 書籍紹介

『神の代役 HBD調査鑑別室』乾ルカ
強い悲しみが命を奪う世界。死因という名の絶望を探り、人の尊厳を守るために働くチームを描く唯一無二のヒューマンミステリー!

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