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第13回

〈愛と美のムーサ〉の秘密

13 〈愛と美のムーサ〉の秘密

〈愛と美のムーサ〉のことをはっきりさせないと、計画は進まない。
 そしてそれは、セイさんだけが知っていることなんだ、ってことかな?
「その前にさ、俺と北斗と桔平さんがどうしてセイさんが〈怪盗セイント〉だって知っていたかってまだ話してないんじゃない?」
 克己さんが言うと、桔平さんは、あぁ、って笑った。
「ゴメンね。すっかり忘れてた。でももう言わなくてもわかるわよね? 要するにボクたちは〈怪盗セイント〉がこの日本で活動するときの仲間なんだってこと」
 こくん、って千弥智依さんが、そして私も頷いた。
 すばるちゃんはわかっているんだものね。
「克己と北斗は〈怪盗セイント〉が活動する際の現場の実行部隊って感じね。そしてボクは海外で美術品ハンター、様々な美術品や価値ある骨董品なんかを探し出したりする人のことね。それをやっているんだよ。セイさんの仲間としてね」
 美術品ハンター。
 あれだね、植物を収集するプラントハンターって人がいるけれども、それと同じような人ってことだ。
「いろんな美術品を探し出して、そしてこっそりと回収したりするのを、桔平さんもするんですか?」
「いやいや、さすがにこっそり回収はムリだね。ボクは〈怪盗セイント〉のような凄い技術はまったくないから、できることはするって感じでメインは調査。とにかく調べることが基本」
「それは、セイさん、〈怪盗セイント〉の指示ってことなのかなー?」
 智依さんに、桔平さんは首を軽く横に振った。
「もうセイさんは〈怪盗セイント〉としての活動は、ほぼしていないんだよ。克己と北斗だってもう何年もお手伝いはしていない。〈花咲小路商店街〉にあの石像たちや絵画たちが突然出現したときに手伝ったのが、実質的な最後の仕事だったかもね」
 そうだな、って克己さんも北斗さんも頷いた。
「まぁ、そういう美術品絡みじゃなくても、セイさんが〈怪盗〉としての技術や知識を駆使して、人助けやいろんなトラブルを未然に防ごうってときには、俺と北斗がいろいろと手伝ったりしているけどな」
 そうなんだ。
 克己さんと北斗さんはいつも忙しく、自分の店以外でも走り回ってるって思ったことあるけれど、そういうときはセイさんのお手伝いをしていたのかな。
「そういう意味じゃ、僕と樹里さんが過去の四丁目で一緒に行動したのが、最近の〈怪盗セイント〉の技術を駆使した人助けだったかもしれないね」
 重さんが言って、桔平さんも頷いた。
「ボクは海外にいるときには常に調べているね。それはセイさんの指示とかじゃなくて、まぁ朱雀家の血のせいもあるかもしれないし、そういうことが大好きだからね。世の中には失われた美術品というのは山ほどある。埋もれた芸術品もね」
「朱雀家の血って?」
「あ、ゴメンね。うちの先祖は、平安時代に宮廷の絵画やデザインを担当するところに勤めていた画家だったんだ。そのせいもあるのか、先祖代々美術や芸術に関係する家系らしくてね。美術品鑑定士の父さんもそうだけど、伯父さんなんかは国立美術芸術館機構ってところの執行役員なんかやってるよ」
 なんだかすごそうなところです。そんな家系の朱雀家のおじさんが髪結いの亭主やってるっておもしろい。
 千弥智依さんが何かに気づいたらしくて、二人で同じ表情をしながらすごく考えている。
「つまり、桔平くん。〈愛と美のムーサ〉に戻るけれど」
 二人で同時に桔平さんに向かって言った。
「うん」
「あのスケッチは十五世紀に聖母教会からの依頼で造ったと文書に残されている石像、〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉を描いたもの。でも、その石像が実際にどこかに飾られたという記録は何もない、のよね?」
「そう」
「でもー、桔平くんが持っていたその石像のスケッチはある。幻となっていた〈愛と美のムーサ〉を見つけ出してスケッチした人物が、若き日のセイさん、〈怪盗セイント〉ってことなんだね? そしてあのスケッチはセイさんから譲り受けたものではなく、桔平くんが探し出したものってことかな?」
「その通り」
「そして〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉は、現代に生きるセイさんがスケッチできたのにもかかわらず、本当に幻の存在になってしまった。その理由も、たぶんセイさんが知っているはず。そして、若き日のセイさんは〈愛と美のムーサ〉を、自分の手で石像を彫って甦らせた。それが〈怪盗セイント〉が自分だけの手で造り上げた唯一の芸術品である、そう呼んでいいのなら〈セイントの愛と美のムーサ〉」
「そう呼びたいね」
「でも、その〈セイントの愛と美のムーサ〉も、確かに造ったはずなのに、理由はわからないけれども今は存在しない。結局残っているのはそのスケッチだけ」
「うん」
「桔平くんは、それをもう一度甦らせたいと思った。セイさんのために。文字通り〈Last Gentleman Thief “SAINT”〉の最初で最後の芸術作品を〈花咲小路商店街〉の四丁目に。でも、それにはもちろんセイさんの許可、じゃないか、セイさんが喜んで頷いてくれないと、できるはずもない、ってことなんだねー?」
 千弥智依さんが順番に言ったんだけど、どうして打ち合わせもなしにそんなふうに同じ考えを別々に言えるんだろう。テレパシー? って思ってしまう。双子って本当に不思議なんだけど。
 桔平さんが、顔を綻ばせて大きく頷いた。
「千弥智依の言った通りよ。凄いわね」
 そう言って皆の顔を見回して、大きく息を吐いた。
「ボクがあのスケッチを手に入れたのは、二年前のイタリアでのことだったわ。もちろん、それ以前に〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉の話はセイさんから聞いていたの。今も見つかっていない〈幻の芸術作品〉の中のひとつとしてね」
「セイさんが、今私と智依が言った内容と同じようなことを、自分で桔平くんに教えてくれたのね?」
「大体は同じね。でも、正確を期すために、そのときにセイさんが話してくれた言葉をほぼ一言一句違わずに皆に教えるわ」
 桔平さんが、ちょっと居住まいを正した。
 咳払いをして、真面目な表情を作った。

『長年、幻と言われ続けてきた〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉は確かに実在していたのだよ。若き日の私はそれを発見したのだ。確かに私自身が一人で見つけて、これはスケッチするしかその姿を残す手段がなかったのだが、苦労してスケッチもした。
 しかし、たぶん、いや間違いなく私のせいでその石像は永遠に失われてしまった。 
 ひょっとしたら百年二百年後にはまた発見されるかもしれないが、私が生きているうちには無理だろうと判断した。
 ならば、その姿を永遠に留めるために自分で造ろうとした。無論、私にはその技術があると自負していた。が、それも失われてしまったのだよ。私には思いも寄らぬまさしく神の御手のようなもので。
 恐らくは、私のその行為が、芸術の女神であるムーサの怒りに触れたのだろう。それで、私は私が見つけたその全てを葬り去ったのだよ』

 びっくりした。桔平さんはモノマネも上手だ。声はもちろん違うけれど、まるでセイさんがそこにいて喋っているみたいだった。
「こう言ったのよ、セイさんは。だから、ボクは〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉についてはもう調べたり探したりしなくていいんだって。そう言ったのよね。あ、この話を聞いたのはもう十年近く前ね」
 そんなに前だったんだ。千弥さんが、少し首を傾げた。
「でも、今のセイさんの話には、いろいろ疑問点が出てくるわよね?」
「あるよね」
 北斗さん。
「まず、スケッチするしかその姿を残す手段がなかった、というのは何だろう? 一体石像はどこにあったんだ? っていう疑問」
「写真も撮れなかったってことだろうから、余程特殊な場所にあったということなんだろうね」
 重さん。
「まだあるな。セイさんのせいで永遠に失われたけれど、百年二百年後にはまた発見されるかもしれないって、なんだ?」
 克己さん。皆、今の話は初めて聞いたんだね。
「セイさんがせっかく造った〈セイントの愛と美のムーサ〉が、まさしく神の御手のようなもので失われたっていうのも、わかんないよね」
 すばるちゃんも言う。
「何よりも、見つけた全てを葬り去ったって言いながら、ボクはいちばん重要とも言えるスケッチを見つけたのよ」
「そうですよね! 葬り去ってないですよね」
 いちばんにそれを思っちゃった。
「どこで見つけたのー?」
「具体的な名前は言えないけれど、イタリアのとある美術に関する施設ね。そこの倉庫みたいなところに、収蔵品としては記録されずに密かに置かれていたんだ。だから、盗んだとはならない。誰かがこっそりと勝手に置いたのを、ボクがまたこっそり持ち出した、っていうだけ、かな」
 こっそりと。
「じゃあ、ひょっとしたらセイさんが葬り去るのは惜しくて自分で」
「そうかもしれないし、セイさんが誰かに託してそうなったかもしれない。そして皆が疑問に思ったところを、ボクもそれらのことを訊こうとしたけど、もうセイさんは何も教えてくれなかったのよ。終わったことだからって」
「スケッチを見つけたこともまだ内緒にしているのね?」
 千弥さんに、桔平さんは頷いた。
「内緒。〈ムーサ〉の計画がきっちり形作られたところで、セイさんに言うつもりだったの。もちろん、地主に許可を求めるという意味でもね。〈万屋洋装店〉を借りることや〈花咲長屋〉を造る件は別に〈矢車家〉の許可は必要ないけれども」
「〈愛と美のムーサ〉を置くのは四丁目の道路。そこはセイさんの、〈矢車家〉の私道だからですね?」
「その通り」
「あ、じゃあいろんな疑問点を確かめるのにはセイさんにここに来てもらって、改めてお義父さんに見てもらったら」
『いや』
 ラジオが光った。
『セイさんが言わなかったことを、私が何も言わずにこっそりと確かめるような真似はできないよ。そういうことは、今の話を聞く限りはやってはいけないことだ』
「そうよね。ボクもそんなことしようとは思ってなかった」
『ただ、推察というか、私が見たセイさんのいろんな記憶から想像することは、できると思う』
「父さんが?」
 チカチカッて忙しくラジオが光った。
『話したように、セイさんがここに来たときに私はセイさんのいろんな記憶を既に見てしまっている。それでセイさんが〈怪盗セイント〉であることを知った。そのときに見た記憶の中にはいろんなものがあった。憶えようとしたわけではないが、深く印象に残ってしまった記憶もあるんだ。桔平くんがスケッチを発見したのは、イタリアだったんだね?』
「そうです」
 また光る。
『それなら、まさしくミケランジェロに縁が深い場所だよね。そこに〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉はあったんだろうと思うよ。どのような経緯でそうなったのかはまったくわからないけれども、石像は海中、それも浸食されて深く切り立った崖のようなところに引っ掛かるようにしてあったんだ。海食崖というものだろうね』
「海中! 海食崖か」
 重さんだ。
「そうか、それで写真は撮れなかった。五十年ぐらい前でも水中カメラはあったはずだけれど、条件によってはまったく写らないことも多い。ましてや海食崖のようなところの、海中の撮影なんて波も荒いだろうし危険過ぎる」
「それは、麦屋先生が見たセイさんの記憶ですか?」
 ラジオがチカチカ光る。
『そのときには何なのかはまったくわからなかったけれどね。海中の、切り立った崖のようなところに引っ掛かるようにして埋もれた石像を見ているよ。智依さん、そのスケッチを見せてくれるかい?』
「あ、はい」
 智依さんがiPadに入れてあった画像を出して、それをルームミラーに向けた。
『間違いないと思う。セイさんが自分のせいで失われたというのなら、その引っ掛かっていた石像を引き上げようとしたか何かして』
「失敗して沈んでいったんだ! 深い海底に!」
 克己さん。
「いや、セイさんがそんな失敗をするとは思えないから、きっと状態を確かめようとして触ったり引っ張ったりしたときに崩れ落ちたんじゃないかな!」
 北斗さんに、桔平さんも頷いた。
「それなら話はわかる。スケッチするしかなかったってことは、きっと船で近くに行って潜ったってことね、先生」
『そうだろう。何度も潜り見てそして浮上しては船上でスケッチをした。最終的に引き上げられるかどうか確かめようとしたときに、石像は沈んでいったということなのだろうね』
 なんかその場面が見てきたように浮かんできた。
「百年二百年後なんて言ったということは、その崖のところはかなり深いんだろうな」
「そもそも石像そのものが崩れていったかもしれないわねー。何百年も海に浸かっていたんなら、石の種類によってはボロボロになっていくかもしれないから」
 そうだと思う。
「じゃあ麦屋先生、新たに造った〈愛と美のムーサ〉の記憶は? あるんですか」
『崖の上で石像を彫っている場面があった』
「崖の上で?」
『崖の上の平らになっているところだね。想像するに〈ミケランジェロの愛と美のムーサ〉が沈んでいるところの崖だったんじゃないかな。ひょっとしたらその崖の上にはかつて教会があったとか、そういうミケランジェロに絡む場所だったんじゃないのかな。そこで作業している場面を見ているよ。彫っているのはまさしく石像だったね。全体像じゃなくまだほんの初めの部分だろうけど、石の大きさや女性の顔らしきものが見えたから、間違いなくそうだろうね。〈怪盗セイント〉が造った石像は〈愛と美のムーサ〉しかないんだったよね? 桔平くん』
「その通りです。それしかないです」
「じゃあ、その崖の上で制作して出来上がったはずなのに」
「まさか、また崖の下に落ちていったとか?」
 皆が顔を見合わせた。ラジオがチカチカッと光った。
『その辺の記憶は、何も憶えていないね。わからないが、五十年ほど前のセイさんが二十代後半の話ならば、確かイタリアで大きな地震があったんじゃないのかな? すばる、検索してみては?』
 すばるちゃんが自分のiPadで検索した。もちろん、ここWi-Fi使えます。
「えーと、五十年前ってことは一九七十年代だよね。あ、一九七九年にイタリアで大きな地震があった。イタリア北部だね。大きな地震でたくさんの死傷者が出ているけれど」
『それかもしれない。その崖かどうかはわからないけれども、崩れ落ちた石のようなものを見ている記憶が残っているよ』
「〈セイントの愛と美のムーサ〉は地震で崩れてしまったんだ。あるいはそれこそ崖が崩れてまた海中に沈んでいったとか」
「神の御手、か。地震なら確かにそういう表現にもなってしまうか」
 皆で顔を顰めたり悲しそうな顔をしたり。本当にそういうふうになってしまったんなら、セイさんが全てを諦めたのもわかるような気がするけれど。
「麦屋先生が見たセイさんの記憶が、全てを物語ってくれた気がするわね。きっとそういうことだったんだわ。でもね」
 桔平さんに、克己さんが頷いた。
「スケッチが残されていた。それは間違いなくセイさんが残したんだよ。そうでなきゃ残るはずがない」
「そう思う。だから、きっとセイさんは自分の創り上げた〈愛と美のムーサ〉に未練、いやそんな言葉は陳腐よね。またいつかきっとその姿を見たかったはずなの。自分の造ったものじゃなくてもね。そうじゃなきゃスケッチを残しておくはずがないと思うんだ」
 桔平さんは、セイさんのその気持ちをきっと感じたんだ。〈愛と美のムーサ〉の話を聞いたときに、ありありと感じ取ったんだ。
「俺もそう思うな。桔平さんが四丁目に他の丁目と同じように、石像を置きたいって思ったのもよくわかるし。そしてそれはセイさんのためのものにしたいっていうのも」
 皆が、うん、って大きく頷いた。
〈花咲小路商店街〉の一丁目には、イプソズの息子アリトゥズのエンガシアが造ったとされる〈苦悩する戦士〉通称〈ピュドナの剣闘士〉。
 二丁目には、ジャン・グージョンの〈グージョンの五つの翼〉。
 そして三丁目には、マルイーズ・ブルメルが造ったとされる〈海の将軍〉。
 新たに桔平さんたちが造る四丁目のど真ん中に、〈セイントの愛と美のムーサ〉があったのなら、それはとっても素晴らしいと思う。また〈花咲小路商店街〉にやってくる買い物客が増えるんじゃないかな。
「いつか日本に、〈花咲小路商店街〉に腰を据えるときには、自分たちの手で四丁目をなんとかしたいって思っていた。セイさんから〈愛と美のムーサ〉の話を聞いたときには、絶対にまたセイさんにそれを見せてあげたいって思った」
 桔平さんが、力強く言う。
「宝くじに当たったときにこれで形作れるって思ったんだ。新しい〈花咲小路商店街四丁目〉を。そして、千弥智依が商店街に戻ってきてくれたって聞いたときに〈愛と美のムーサ〉が造れるんじゃないかって思った。これで、イケるかもって」
 千弥智依さんがちょっと嬉しそうに微笑んだ。
『後は、セイさんの気持ちだけ、というわけだね?』
 そうなんです、って桔平さんがお義父さんに答えた。
「さっきも言ったけれど、〈万屋洋装店〉と〈花咲長屋〉に関してはもう問題なく進められるんですよ。きっとセイさんも喜んでくれると思うんです。でも、〈愛と美のムーサ〉に関しては」
『果たして喜んでくれるかどうか、そもそも見つけ出してスケッチを残したのはセイさんだから、正式な許可というか、気持ちのところでしっかりと納得してもらわないと、造れないし、道路に置くこともできないから』
「そのためにどうしたらいいかってところを、ずっと考えていたんだね桔平くんは」
 千弥さん。
「そういうことなのよ。でも、悩んでいた何故〈愛と美のムーサ〉が再び幻になってしまったのかは、今日でおそらくってところはわかったから」
「それもまぁ、改めてセイさんに訊かなきゃならないだろうけれど、訊くためには〈ムーサ〉計画をしっかりと立ち上げて、それこそ図面とかを千弥智依ちゃんにしっかり作ってもらってプレゼンするところまでやって、訊かなきゃ筋が通らない、だね?」
 克己さんに、桔平さんも頷いた。
「難しいところだね。石像を置かなくたって四丁目を新しくすることはできるんだろうけれど、それじゃあそれこそ仏作って魂入れず、になっちゃうんだろうな」
 重さん。
「僕は、その頃の四丁目を見てきたからね。余計にそう思うかもしれない。それはつまり、セイさんもそう思うかもしれないってことだね」
 皆が、うん、って大きく頷いた。
「魂かー」
 智依さん。
「まさしく、セイさんは〈花咲小路商店街〉の名物男ってだけじゃなくて、魂ってことになるのかもしれないねー」
「あ、そういうことかもな」
 もちろん、商店街自体はセイさんがここに住み始める前からあったんだけれども。今の〈花咲小路商店街〉をいろんなものを積み重ねて作り上げたのは、セイさんあってのこと。
「そういうことですよね?」
 言ったら、皆がまた頷いてくれた。
「あのね」
 すばるちゃんが、軽く右手を上げた。
「公園、だよね」
「公園?」
 何を言うんだ? って皆が首を捻った。
「公園っていうのは、ちょっとWikiを開くよ。えーと〈公園とは、公衆が憩いまたは遊びを楽しむために公開された場所もしくは区域。従って公共性が高い団体・組織によって供され運営されることが多い。対象となる場所は目的に適したように整備される〉。それが、公園」
 全員が、うん、って頷いた。改めて聞くと、その通りって思う。
「四丁目の〈万屋洋装店〉と〈花咲長屋〉は商店街の一員として商売をする〈商店〉になるけれども、石像を置く歩道は違うよね。セイさんの〈矢車家〉の私道になっていて、そこの厚意で自由に使わせてもらっているんだ。そうだよね」
「その通りね」
「だからさ、新しくする〈四丁目〉のそこは公園とさせてくださいってセイさんにお願いしたらいいんじゃないかな? 名前は、さすがにセイントの名前を出すのはマズイから、〈矢車記念公園〉として、そこに石像とかベンチとか置かせてください、って〈四丁目〉を新たに仕切ることになる朱雀桔平、並びに商店会会長白銀克己から頼んで、計画をプレゼンするのって、どうかな?」
 パン! って大きな音がして皆がびっくりして。
 智依さんが、手を打ったんだ!
「それ!」
 手を大きく振って、すばるちゃんを指差した。
「すばるちゃん、スゴイ! 公園よ! 公園ならいいんだ!」
 智依さんの眼がキラキラしてる。満面の笑みを浮かべている。
「桔平くん、できたよ!」
「え」
 桔平さんは眼を白黒させて。
「できたって、何が?」
「プランが! プレゼンするプラン! どうやって〈セイントの愛と美のムーサ〉を現代に甦らせるか! できた!」
 皆がきょろきょろして、え、智依さんどうしたんだろう何を言ってるんだろうって。
「それは、公園ってことで?」
「そう!」
 智依さんが腕まくりした。
「任せて! うちは〈おもちゃのチヤチエチャ〉。おもちゃ屋さん! ねぇ瑠夏ちゃん、公園で子供たちは何をする?」
 何って。
「えーと、遊ぶ?」
 そう! って智依さんが人差し指を立てた。
「遊ぶんだよ! 遊ぶんなら、おもちゃ屋さんに任せなさい!」

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