
今回は羽田からロンドンへの直行便。
前回も触れたが、2023年にお友達のゆうぴーこと優河さんとニュージーランドに行った際、行きも帰りもトランジットのオーストラリアにキャリーバッグが置き去りにされるハプニングが発生した為、今回は直行便一択と心に誓っていた。
羽田13:00発、ロンドンには同日20:00着、計14時間の空の旅だ。
飛行機に乗り込み、ひとまず小説を2冊読了。
余韻に浸りながらふと隣のおじさんを見ると、フライトマップを見ながら小さなノートに大量の数字を書き、それを線で消し続けていた。
怖い。なに?
その後もおじさんが眠って機内食を食べ損ねたりしているのを横目に、全く眠くないわたしは「インサイドヘッド」や、エマ・ストーン主演の「哀れなるものたち」を鑑賞。
「哀れなるものたち」は前情報無しで選んだのだが、想像の5000倍エッチなシーンが多く右後ろに座る若者に気を使い何度か消したり早送りしながらようやく見終えた。過激なインプットに疲れ果てぼーっとしていると、隣のおじさんとふと目が合う。
「フライトめっちゃ長いよね〜」
「あ、ですね。背中痛いです」
彼はロンドン出身、仕事でアジアにはよく行くとのこと。
スコットランドは最高だよとか、ここがポールの「Mull Of Kintyre」の島だよとか、ロンドン着いたらエリザベスラインって線が最近できたから乗ると良いよとか色んなことを教えてくれて、ただのめちゃくちゃいい人だった。
雑談して場が温まって来たところで「そういえばずっと書いていたあの数字は何だったのか?」と本質に迫ると、笑って濁された。本当に気になるから教えて欲しい。
ただ最後には「いい旅をね⭐」とウインクしてくれて、なんだか幸先のいいスタートだ。
結局ヒースロー空港に到着したのは21:30。夏のヨーロッパはとにかく日が長い。外はまだ明るかった。
ロンドンでは心優しいモネちん(上白石萌音ちゃん)のホテルに泊めてもらえることになっていたが、彼女はフランスで仕事のため不在。好きに使っていいからねと言ってもらっていたので、ありがたくシャワーを浴びて、疲れ果てて一瞬で寝た。
イギリスと日本の時差はサマータイムで前後するが7〜8時間。
私は機内でほぼ寝ていなかったため、体感では日本で朝まで起きていたようなイメージだ。
24時に寝て、翌朝8時前にはパチリと目が覚めた。なんなら日本にいた時がずっと時差ボケしているような生活だったので、時差ボケが1日で消えて感動する。
イギリス、ここがわたしのアナザースカイ。
そしてイギリスと言えば、曇天で雨の多いイメージだったのだが夏のロンドンは一味違った。とにかくカラッとしていて超気持ちいいのだ。
住んでいる人たちも晴れているのが相当嬉しいらしく、思い思いに外で読書したり、上裸で日光浴したり、そこら辺の公園で夜遅くまでピクニックしていた。
とはいえ季節は6月。夜はしっかり冷えるのだが、めちゃくちゃ薄着のギャルとめちゃくちゃ防寒しているおじさんが全く同じ空間に存在していて季節感がバグる。
ギャルの皮膚がどうなっているのか解明したい。
さて。ここから数日間はロンドンを離れ一人旅が始まる。
まず向かうのは大好きなビートルズの生まれ育ったリヴァプール、聖地巡礼の旅だ。
キャリーバックはロンドンのホテルに置き去りにさせてもらったので、身軽な装備で移動できる。
リヴァプール行きの電車は定刻に出発した。
電車がみるみるスピードを上げ、街を離れていく中「おっと、忘れてはいけない」と、気持ちをより高めるためにイヤフォンを取り出しビートルズの曲を流す。
曲を聴きながら車窓を眺めていると、そこには茶色い屋根の可愛い街や、青々とした草原にたくさんの羊たちの姿。
わたしは、気づいたら号泣していた。
あぁ。休んでよかった…。休んでなかったらここに居ないんだ。
興奮によって、なんかちょっと寿命とかが延びそうなホルモンが自分から分泌するのを感じる。
わたし、今からビートルズの聖地に行ってきます!!!!!!!!
一度電車を乗り換え、リヴァプールには3時間ほどで到着した。
こちらの電車のシステムは面白く、融通の効かない電車のチケットはめちゃくちゃ安い。
なのでもし遅延などして、乗り継ぎに失敗したらチケットがゴミになるようなのだが、運よくわたしは3000円でリヴァプールに行くことができた。
リヴァプールはロンドンよりも北に位置するので少し肌寒いが、こちらも大快晴で気持ちが良い。
そしてかわいい女の子たちが、歩きながら道ばたでスッパスパにベイプみたいなタバコを吸っていて、うぉーなんかイギリスっぽいな〜と感動する。
ビートルズ聖地巡礼旅、まず初めに向かったのはストロベリーフィールズ。
ジョンの曲、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の聖地だ。元々は孤児院で70年代に取り壊されてしまったが、新館が建てられるにあたってジョン・レノンが多額の寄付をし、「レノンコート」とも呼ばれているらしい。
わたしが訪れた際は、バスでビートルズの聖地を回るマジカルミステリーツアーの一行もいた。
徒歩移動で巡礼していたわたしは、「これ乗ればよかったよな……」と爪を噛みながらバスの連中を見送る。まぁ、でも一人だからひとつひとつゆっくり噛み締めることができたのも事実だ。
その後、徒歩で向かったのはセント・ピーターズ教会。ポールの曲「エリナ・リグビー」の墓がある。父に自慢するべく「今ビートルズの聖地巡礼をしてるよ」と連絡すると、「エリナ・リグビーの墓の近くに、歌にも出てくるマッケンジー親父の墓があるらしいから、そこは必ず押さえておくように」とかピンポイントアドバイスを入れて来てうるさいが、父にもこの知らん人の墓を見せてあげたかったなぁと思った。(教会のすぐ近くにあるセント・ピーターズチャーチホールは、1957年7月6日、ジョンとポールが初めて出会った場所)
そしてそのまま、「ペニー・レイン」へ。
ストロベリー・フィールズ・フォーエバーの両A面シングルだ。
曲の元になったのは意外となんの変哲もない通りなのだけれど、この景色からこの曲を生み出したポールって、やっぱり超最高だよなぁ〜と思いながら中央の交差点に辿り着くと、ジョンの銅像がドーンと立っており、「え、ポールは?」と動揺。リヴァプール、至るところにジョンがピンで立ちがちである。

ポールの育った7番目の家は、アルバム「Chaos and Creation In the Backyard」のジャケにもなっている。
ただ本当に普通の住宅街なので、ポールの家の隣の人が普通に洗車しており、アジアの娘が一人でずっと家の前に立ち尽くしてたら怖いだろうなと思い曲を聴きつつ写真を撮ってすぐに退散した。
藤本国彦さん著の『ビートルズはここで生まれた』(CCCメディアハウス)があれば、みんなもビートルズ聖地マスターになれるのでとってもおすすめだ。
(他の聖地も色々回ったのだがキリがないので割愛)
そして終着地点のキャバーンクラブに向かう前に、ビートルズのメンバーが通っていたというパブ「The Grapes Pub」へと向かった。
ビールを頼むと年齢確認されたのでパスポートを差し出すと、従業員のお姉ちゃんが「ワーォ、まじ?」と言ってくる。アハと笑いながら一人で馬鹿でかビールを昼間っから煽っていると、「一人なの??」とじいちゃんに声をかけられた。
「ビートルズが好きだから今日色々回ってたんだよ」
「それだったら、そこの席はジョンが座ってた席なんだよ!ここに写真あるでしょ!」と次々店内を紹介してくれる。こういうじいちゃんは世界共通で存在するらしい。ありがたじいちゃんである。
そしてこっちではカラオケというと、個室では無く“パブでみんなの前で歌うもの“らしく、「今から歌うから見ててね!」と促され、少し遠くからおじいちゃんが歌うのを眺める。
でもわたしは最悪なので、おじいちゃんのターンが長すぎて歌ってる途中で、ちょっともういいかなと思いキャバーンクラブへと向かった。
キャバーンクラブというと、ビートルズファンの超有名聖地である。彼らが若い頃何度もライブをしていたという憧れの場所には、たくさんの写真や楽器が飾ってあり、本当にここでやってたんだ…!!!!と、私の興奮はマックス値に達した。
ステージでは男性が次々とビートルズの曲を歌っており、みんなで大合唱になる。
「ビートルズから色々歌ったけど、次はエルトンジョンの曲をやるよ〜好きな人〜」と彼がみんなに聞いて、全員がフゥ〜と手を挙げると一番最前にいたおじさんが「GET OUT HERE!!!!」って言ってたのがツボだった。
ええやん、エルトンジョンも。
そしてさっきのパブで会ったおじいちゃんもキャバーンクラブにやってきて、何故か私にステッカーをくれた。わたしは途中であなたの歌を聴くのをやめたのにありがとう。

イギリス滞在中に一番感じたことは、思った以上にイギリス人が外交的だということだ。(お酒が入ると特に)
パブというのはそこら辺にいる人と自然に話す場らしく、一人旅でも寂しい思いをすることがなくありがたかった。
その後もエールを飲みながらライブを見ていると隣でものすごい大声で歌っている男性が「ごめんねーー!!おれ一緒に歌っちゃうんだよねー!!!うるさいよねーー!!!」と話しかけてきた。
とても気さくな人で、自分も歌を歌うんだよとか色々教えてくれたが、もう本当にとんでもない訛りで、ちょっと込み入った話になってくると彼が何を言ってるのか全くわからない。(私の英語力の問題もある)
「ポールの親戚なんだってタトゥーショップの人に嘘ついたら、その人もポールの親戚で焦った」という嘘か本当かよくわからない話をされ、「インスタかfacebookやってないの?この後飲もうよ!」と言われた後、「ちょっとトイレに行ってくるね」と言ってわたしはそのままホテルに帰宅した。さようなら。
そして別の町で出会った人にその話をしたら「僕らもリヴァプールの人の言ってることは理解できないから大丈夫だよ」と言っていた。
リヴァプール、時々何言ってるのか分からないが、全員優しく温かく本当にとっても大好きになった。
ここでビートルズが育ったのか。良い町だ。
そして、まだ飛行機の中と初日のことしか書いてないがこの調子で大丈夫だろうか?不安である。
P.S.
わたしはポール・マッカートニーがこの世で一番好きなアーティストなのだがなんと私がリヴァプールに訪れたのは、奇しくもポールの誕生日だった。
ポールが招待してくれたとしか思えない。そうだよね?ポール。ありがとう。
(イラスト/藤原さくら)

藤原さくら(ふじわら さくら):1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。interfmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。