
昔の高円寺は、飲み始めたら帰れませんでした。
高円寺で暮らしはじめた22歳。仕事なんて週に1回ライブがあるかないか。ネタ合わせもなかったんで高円寺でずっとぶらぶらしてました。
たまに競馬で勝って手元に金があったときは当然飲みに行きます。そんなときの黄金ルートがありました。鉄板の四文屋→和田屋→音飯→弥生というルートです。
いまはもうないんですけど当時はガード下に「鉄板の四文屋」っていう店がありました。ほぼ全品200円。食べ物も飲み物も。ハイサワーとかレモンサワーみたいな割りものなら、ナカ200円、ソト200円。瓶ビールだけ400円でしたかね。
昼3時に店に行って、まずホルモンと焼酎の梅シロップ割りを頼みます。この梅シロップ割りは他の四文屋でも300円とか350円とかで飲めるんですが、鉄板の四文屋は200円で飲めました。小さいコップに焼酎を表面張力ぎりぎりめいっぱい入れて、そこに梅シロップをたらしてくれます。当然コップからあふれちゃうんですが、そのあふれた分はコップの下に敷いている小皿がうけとめてくれます。ほぼ焼酎のストレートですね。それを毎回飲んでました。
本当に金がないときは、200円で焼酎のナカだけ頼みます。それを水道水で水割りにしてくれってお願いすると、コップにパンパンの水割りを出してくれました。鉄板の四文屋はやさしいですね。その水割りと、焼酎の梅シロップ割りを駆使しながら、ホルモンをちびちび食っていくんですね。本当にガチのせんべろでした。
シメがまたうまいんです。煮込みライス400円。四文屋の煮込みってふつうは白みそなんですけど、鉄板の四文屋だけ赤みそなんですよ。その赤みその煮込みライスがめちゃくちゃうまい。
どんぶりに入った米のうえに煮込みがぶっかけてあって、紅ショウガとネギがばらばらってのってる。煮詰めて煮詰めて、甘みもうまみもある。濃厚。ホルモン版ビーフシチューというか。いま思い出しただけでつばがでてきます。食いてえな。
ホルモン頼んで、煮込み頼んで、ライス頼んで、みたいな注文の仕方をしちゃう人もいるんですけど、その注文の仕方はすごくもったいない。ほぼ全品200円といった通り、ホルモン200円、煮込み200円、ライス200円で合わせて600円です。ホルモン200円、煮込みライス400円でも600円。一見同じ600円なんですが、ぜんぜんちがう。煮込みライス400円でたのんだほうが、煮込みの量もライスの量も多いんです。量がぜんぜんちがうんです。だから煮込みライスで頼んだほうがお得なんです。どっちも食うなら絶対に煮込みライスで頼んだほうがいい。
煮込みライスでいったんシメたら、この連載でも紹介した高円寺居酒屋の不動の4番バッター「和田屋」へ。そのあとは「音飯」に移動します。音飯はいま高円寺で人気の「まら」っていうお店の前身です。いまでこそまらはデートにも使えるおしゃれなお店ですが、音飯のときは本当にどうしようもない人しかいないみたいな店でした。そこで朝4時まで飲みます。
そのあと待ってるのがガード下にあった「弥生」。おばあちゃんがやってるちっちゃい店なんですけど、残念ながらいまはもうありません。弥生は朝5時から昼の11時までの営業です。そこの定食が最高で。1000円なんですけど、酒が1杯ついてくる。グリーンカレーとかガパオとかタイ系の飯もありつつ、とんかつ定食、焼肉定食、から揚げ定食みたいな定番もある。とにかく腹いっぱい食えました。弥生はシメの総大将でした。弥生のちっちゃいテレビで定食を食べながらNHKの朝ドラを観るあの感じ、よかったですねえ。
昼の11時までだらだらしていると、そのころには昼から飲める店が開いてくるんですよ。弥生があることによって、高円寺居酒屋の24時間ループが完成してました。酒の輪廻から抜け出せないんです。だから家に帰れないんですよ。帰るタイミングがない。
そこで私は決まりをつくりました。「しょんべんを外したら帰る」って決まりです。
私は泥酔する前に眠くなって寝ちゃうんで、本当に記憶なくなるまで飲むことはないんですけど、ひとりで飲んでると介抱してくれる人もいないから万が一べろべろになっちゃったらお店に迷惑がかかってしまいます。だから「あ、いましょんべん外れたな」と思ったら、会計して帰ることにしてました。やっぱり人の道を外れる前に、まずしょんべんが外れるんで。しょんべんが外れてるのに酒飲みまくってると、人の道を外れちゃうんです。

写真:辻敦(ポプラ社)
鈴木もぐら(すずき・もぐら):1987年5月13日生まれ。千葉県出身。NSC東京校17期で、同期の水川かたまりと2012年にコンビ「空気階段」結成。2019年に『キングオブコント』ではじめて決勝に進出し、2021年に優勝。2017年から放送中のラジオ『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)では、それぞれの結婚や離婚などをリアルタイムで伝え、反響を呼んでいる。特技は将棋(アマチュア二段)、麻雀(アマチュア四段)、卓球(中学時代千葉県ベスト16)。

