2022.09.30 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 一 昨晩、小学校からの同級生の桶屋おけや太市たいちに「お前の母親、クソじゃね?」と言われた僕は、その意見に全面的に同意した。 母親は、昨日の自分の発言を少しは後悔しているらしい。お弁当のおかずを豚の生姜焼きにし...
2022.10.15 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 三 翌日、僕と未夢は放課後に学校近くのコンビニで待ち合わせて、そこから歩いて十分くらいの距離にある太市の家に向かった。太市が住んでいるのは、バス通りを右に折れて坂を上った先にある市営住宅の四階だった。 去年の改修...
2022.11.01 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 * かつて火竜の住処となっていた広い洞窟には、橙色に輝くマグマが、あたかも地底湖のように満ちていた。洞窟の岩肌の上方にぽっかりと空いた横穴から、黒いローブをまとった隠者が顔を覗かせる。隠者は誰かを待っているように、その...
2022.11.15 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 三 「そんなこと、気にしなくて良かったのに。オープンキャンパスって基本、誰でも来て大丈夫だから。受験生の妹さんや弟さんとか、家族も一緒に来てたりするし、うちの大学なんかは普段から、色んな人が出入りしてるからね」 中学生...
2022.11.30 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 一 太市のアカウントが消えていることに気づいた未夢は、最初は何かデータ上のトラブルが起きたのだと思ったそうだ。それですぐに太市に「WoNのアカウント消えちゃってるよ」とLINEでメッセージを送った。しばらくして太市から...
2022.12.31 自然 幸せの国殺人事件 * 「こないだの奴ら、もうハピネスランド作んの諦めたのかな。ここ来る途中に覗いてきたけど、あれから全然進んでねえし」 盗賊はそうぼやくと、洞窟の天井から垂れ下がる鍾乳石に鞭を打ちつけた。鍾乳石を鞭で壊すことはできないし...
2022.12.15 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 三 少し前に、未夢が探していたインディーゲーム『幸せの国殺人事件』が、フリマアプリに出品されていた。だけどパッケージの画像が粗く、偽物を出品して代金を騙し取る詐欺だろうとその時は考えていた。 ゲームの製作者は、関東の...
2023.01.31 エンタメ 幸せの国殺人事件 一 幻のインディーゲーム『幸せの国殺人事件』を作った関東在住の大学生《AA》は、安堂篤子ではなく國友咲良だった――。 その太市の主張は、すぐには受け入れられるものではなかった。 「確かに《SAKURA》の六つのアルフ...
2023.01.15 エンタメミステリー 幸せの国殺人事件 三 社員旅行で出かけた沖縄で、溺れた海水浴客を助けようとしたらしい――と太市は続けた。僕は無意識に息を止めていた。苦しくなって、そのことに気づく。心臓が激しく脈を打ち始めた。 水難事故で亡くなる人は、年間七百人から八...