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午前三時のサイキック 秋津編2
2 感謝された。オーナーからだ。 やはり面倒な客から逃げ出したというのが真実だったようで、夕方ごろに店へ帰ってきた彼女から「深川カヌレ」と小箱に書かれた洋菓子を渡された。門前仲町まで行っていたらしい。「急に怒り出す…
2 感謝された。オーナーからだ。 やはり面倒な客から逃げ出したというのが真実だったようで、夕方ごろに店へ帰ってきた彼女から「深川カヌレ」と小箱に書かれた洋菓子を渡された。門前仲町まで行っていたらしい。「急に怒り出す…
1 緑色の化け物が笑っている。 私はそいつに振り回され、子供の頃に海水浴場で大きな波に巻かれた時のように天地がわからなくなり、渦の中で回っている。 化け物の笑い声が遠のき、水中特有のくぐもった聴こえ方でさまざまな音…
5 「どうしてですか?」 狭い個室に、悲痛な声が染み渡った。シンガー志望という本人の申告に相違ない、相変わらず、よく通る声だった。「先生の言う通り、もう少し大阪で頑張ろうと思って、心斎橋っていう駅にあるボイストレーニ…
4 「先生、先生」 ヒールの音を鳴らして秋あき津つが後をついてくる。朝のS駅地下街は通勤の人々で混雑していた。途中で「あっ」という声と共にパンプスが脱げる音が聞こえて、秋津の靴のかかとが溝か何かに嵌まったのを察したが…
3 「ねえ、あんたすごいね」 思い出すのはいつだって、パーテーションの上から顔を突き出してそう話しかけてきた時の彼女の顔だ。 狭い個人ブースの中でタロットカードを片付けながら、確か、こちらは彼女を睨んだと記憶している…
2 十二畳のリビングには、坂ばん東どうの呼吸音だけが響いていた。 南向きの窓からは朝の光が柔らかく差し込み、キッチンカウンターの上に置かれたアジアンタムの細かな葉がきらきらと輝いている。 脇腹にダンベルを引きつける…
1 「なぜですか?」 愕然とした声が狭い個室に響いた。シンガー志望という本人の自己申告に相違ない、よく通る声だった。 その女性はオフショルダーの服から出た肩をいからせて膝に両手を置き、テーブルの上に並べられた七枚のカ…