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『英国幻視の少年たち6 フェアリー・ライド』発売記念SS
数分産まれるのが早ければ、人生は逆転していたのだ。 ジャック・タガートは、その可能性についてよく考えた。英国特別幻想取締報告局の中にいて、そのことに思いを馳せずにいるのは不可能だった。この国では、ある条件下で産まれた者…
数分産まれるのが早ければ、人生は逆転していたのだ。 ジャック・タガートは、その可能性についてよく考えた。英国特別幻想取締報告局の中にいて、そのことに思いを馳せずにいるのは不可能だった。この国では、ある条件下で産まれた者…
「皆川に頼まねぇ?」 コロッケパンを食いながら、近藤が言った。「なんで皆川?」俺は小声で訊き返す。近藤は肩をすくめた。「器用じゃん。このあいだシングルに褒められてたし」「でも……、なんか変わってる…
イギリスには、「ファンタズニック」という言葉がある。 幻想的生命体に遭遇した人々が陥るパニック状態のこと。 妖精や精霊、ゴーストなんかがごく普通に存在するこの国では、ファンタズニックもまた頻繁に起こる――。 そんなわ…
一般書営業部の宇田川です。 一般書(児童書以外すべての本)営業部の皆様の業務を、円滑に進められるようにサポートのお仕事をさせていただいています。 普段からこの連載を楽しみにしており、事あるごとに担当森さんへ「いやーほんと…
第1話 至福のクリームパン 1 おれの命運はクリームパンによって尽きた。 丸焦げのトーストみたいにお先真っ暗で、がぶりとやったらこぼれそうなくらい詰まったツナマヨみたいにぎゅうぎゅうの八方塞がり。とどめにクリーム…
プロローグ 桔平が帰って来ていた〈バーバーひしおか〉で 今日は第三月曜日。〈バーバーひしおか〉は定休日の朝。起きて一階に下りていくと、台所のテーブルに桔平きっぺいさんの笑顔が。「おはようせいらちゃん」「お帰りなさい…
あらまぁ、あらまぁ、あの遊馬あすまが! まるで甥っ子にでも抱くような感慨で、胸がいっぱいになってしまった。なんたって、遊馬を初めて見た(読んだ)のは、『雨にもまけず粗茶一服』(2004年)。その後、『風にもまけず粗茶一…
プロローグ 唐突だが石いし狩かり七なな穂ほは床下が嫌いだ。 まず暗い。そして狭い。何かこもっていて変な臭いがする。うっかりすると、築八十年以上の家を支える柱や束に頭をぶつけそうになるので、土が剝むき出しの地面を這はう…
序章 中なか泉いずみ琥こ珀はくは十六歳の誕生日に、父から衝撃の事実を知らされた。「君は、猫又の生まれ変わりなんだ」 養父である劉りゅう生せいと血縁関係はない。両親は子に恵まれず、十六年前に子宝祈願の寺を訪ねた。偶然…
月曜日 萩原紗英 朝は白い。いつもそうだ。空だけでなく、目にうつるすべてのものが淡い。すれ違う人の顔も、遠くに見える建物も、すべての輪郭がぼやける。でもそれは、ただ目が完全に覚めきっていないせいかもしれない。電車の吊…