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みつばの泉ちゃん
一九九五年 明石弓乃 二十二歳 わたしの名字が明あか石しだからアカシヤだ。 スーパーではなく、コンビニ。出入口上部の店舗看板には、アルファベットでConvenience、そのあとにカタカナでアカシヤと書かれている。 …
一九九五年 明石弓乃 二十二歳 わたしの名字が明あか石しだからアカシヤだ。 スーパーではなく、コンビニ。出入口上部の店舗看板には、アルファベットでConvenience、そのあとにカタカナでアカシヤと書かれている。 …
どうしてこんなことになってしまったんだろう。 ようやく見つけたタクシーに乗り込み、コートの前をかき合わせながら西にし智子ともこは運転手へ行き先を告げた。 終電の時刻はとうに過ぎ、駅からも離れたこんな人気ひとけのない住宅…
休日になり、隼(はや)人(と)はようやく、陽(はる)花(か)と電話で話すことができた。 「それで、結局、べつのイラストレーターさんに頼んで、なんとかなったんだけど、ほんと、信じられないよな。仕事を頼んだのに、それを…
懐かしい匂いがした。 汗のしみついた防具の匂いだ。頭は手拭いで絞めつけられ、顔は面に覆われ、全身にずっしりと重さを感じる。 ここは道場で、対戦相手が見える。 腰につけた藍染めの垂たれには「瀬口」の文字。その横に小…
みつば郵便局の配達員・平本秋宏と町の人々の交流を描いた「みつばの郵便屋さん」シリーズがこの12月、ついに完結となります。多くの方にご愛読いただいた人気作全8巻の完成を祝い、著者の小野寺史宜さんにお話をうかがいました。 …
部屋に入ると、流果(るか)はあきれた口調で言った。 「うわっ、また、めっちゃ、散らかってるやん!」 先週末に片づけをしたはずなのに、隼人(はやと)の部屋はまた服が脱ぎ散らかされ、本や書類があちこちに広がり、シンク…
プロローグ 一九八〇年 八月七日 立秋 泣いていたらいつも抱き上げられ、背中を撫なでてもらえた。 とてもあたたかい、大きな手だ。手を広げてその人の首に抱きつくといい匂においがした。 あれはおとうさんかな、と思うけ…
* 再び屋敷に入る。 スリッパに履き替え、名和警部の案内で木の廊下を奥へと進んだ。 書斎の隣の応接室の前を通過し、その奥がリビングルームである。さらにダイニングルーム、厨房へと続いてい…
みなさん、はじめまして。 私は春はる野の暁あかつきといいます。 どうぞよろしくお願いします。 昨夜練習した挨拶を口の中で唱えながら、暁は見知らぬ中学校の廊下を歩いていた。中学二年の五月という中途端な時期にまさか転校する…
二(にの)宮(みや)公(きみ)子(こ)の事件のあと、夜の図書館は長いお休みに入った。 篠(ささ)井(い)の提案を元に何度か館員たちで話し合い、まず、最初の三週間を使って蔵書整理とチェックを行い、あとの一週間を図書館員…