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Ⅱ 木瓜
赤、ピンク、白、紫、オレンジ、黄色、青。 さまざまな色が並び、目にも鮮やかだった。これならば鯨沼くじらぬま駅からでてきたひと達の目を引くだろう。 いずれもスイートピーだ。花の中でもとりわけカラーバリエーションが豊富…
赤、ピンク、白、紫、オレンジ、黄色、青。 さまざまな色が並び、目にも鮮やかだった。これならば鯨沼くじらぬま駅からでてきたひと達の目を引くだろう。 いずれもスイートピーだ。花の中でもとりわけカラーバリエーションが豊富…
序章 あちらの屋台からは、串打ちの肉を焼く煙。 こちらの蒸せい籠ろからは、ふかした饅まん頭じゅうの匂い。 威勢のいい呼びこみの声と、雑踏を包む喧けん噪そう。 大通りでも靴を踏まれず歩けないほど、幻げん国こくの市し井せ…
十 義弟の禄朗くんが二十年前に殴った男が 晴れた日には、必ず散歩する。ウォーキング。時間はその日によって違うけど、今日はこれからだ。 原稿は、さっき入稿したっていうメールが来た。これで唯一続いているシリーズ『異邦のゲー…
八 大賀のミッションとは ハトと、調律師を用意した。 「まぁ、実際にその二つを用意したのは、大賀くんに頼まれた私なのだが」 セイさんが。 「調律師の〈瀬戸丸郁哉〉という名前はアナグラムで、〈矢車聖人〉になると気づきま…
四 義弟の禄朗くんはアンパイア 雨の日以外は散歩、ウォーキングを欠かさない。 一日一時間程度の散歩ぐらいはしないと、本当に身体からだがなまって死んでしまうかもしれない。まぁ運動しないからいきなり死ぬってことはないだろ…
第一章 龍と獅子の攻防 ※※※ 大広間は真っ白に染まっていた。いたるところに白布が飾りつけられているのだ。黄金の龍が巻きついた円柱も、極彩色ごくさいしきの龍が描かれた壁も、玉座 ぎょくざの下にもうけられた祭壇さいだん…
まただ。 自室の扉を施錠し、一歩踏み出したところで野々森ののもり一はじめは足を止めた。 アパートの廊下には朝の光が満ち、安物のスーツを着た肩を肌寒さで竦めながら、野々森は隣室のドアノブにぶら下がったそれをじっと見つめた…
「おじさんは本当に律儀な方ですよ。死んでからも義理を尽くすなん…………すみません」「もう一回」「おじさんは本当に律儀な方ですよ。死んでからも義理を尽くすなんてまあ」 演出のカイトの言葉に従って、勝まさるは頷き、演技を続け…
一話 水晶「清川きよかわの尚成たかなり。おまえは、此度こたび衛門府えもんふの大尉たいじょうから右近衛うこんえの少将しょうしょうとなるぞ」 尚成に昇進の話が舞い込んだのは、花の蕾かたい早春のことであった。 雪の混じった、…
第一話 甜花、新しい夫人にお仕えするの巻 序 「……君をお嫁にもらってあげる。そしたらいつも一緒にいられるよ」 白く小さな花が房になって下がっている。その花陰で少年はわたしに囁いた。「いいよ、おにいちゃんが──にな…