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今夜も、眠れない 第二話
六十代半ば、女性、身長は百五十五センチくらい、体重は平均よりやや重いだろう。腰痛があり、右膝をずっと痛めている。 条件に合わせ、枕とマットレスを用意する。「どうぞ、こちらに仰向けで寝てみてください」 あいているベッドに…
六十代半ば、女性、身長は百五十五センチくらい、体重は平均よりやや重いだろう。腰痛があり、右膝をずっと痛めている。 条件に合わせ、枕とマットレスを用意する。「どうぞ、こちらに仰向けで寝てみてください」 あいているベッドに…
第1章 私の恋は、いま走り始めた。 暇を持て余していた指先が、画面上に躍った見出しの文字に導かれ、滑る。 目を皿のようにして、ミュートのまま映像を再生する。 そのニュースは、つい先日起きた非日常的な出来事の記憶を呼び…
十九 嘘から出た真実 うちを傘下に。「それは、完全に買収という形ですか」 訊いたら、いやいや、って荒垣さん、秀一さんが笑みを見せながら右手を軽く横に振った。「そんな強引なことは考えていません。もちろん、これから話し合い…
十六 見守ることはできるのか 誰にも気づかれないように見守る。 自分で言っておいて、すぐにそんなことはできないんじゃないだろうかって考えてしまいました。 禄朗さんも、お父さんも、うーん、と考え込んでしまいます。「無理、…
十五 アンパイアを殴った理由は こんな偶然が起こるなんて。 野々宮真紀さんと優紀くんが一緒に暮らし始めた、真紀さんにとっては義理の祖父に当たる人が、禄朗さんが殴ってしまったアンパイアだったなんて。 荒垣球審その人だった…
赤、ピンク、白、紫、オレンジ、黄色、青。 さまざまな色が並び、目にも鮮やかだった。これならば鯨沼くじらぬま駅からでてきたひと達の目を引くだろう。 いずれもスイートピーだ。花の中でもとりわけカラーバリエーションが豊富…
十三 人に歴史ありというけれど 私のコーチをしてくれていた仁太さんは〈花咲小路商店街〉の名物男でした。 世界を放浪した後に商店街に帰ってきて、おじいさんがやっていた〈喫茶ナイト〉を受け継いで商売をやってきて。 商店街で…
空から白い雪が、音もなく舞い落ちている。 今年も冬がこの街に訪れた。 心に積もる悲しみは、この雪のように溶けることはない。 もう何年も、冬に閉じこめられているようだ。 暗闇の中でじっと身を潜めて生きてきた。 なにも見な…
1 緑色の化け物が笑っている。 私はそいつに振り回され、子供の頃に海水浴場で大きな波に巻かれた時のように天地がわからなくなり、渦の中で回っている。 化け物の笑い声が遠のき、水中特有のくぐもった聴こえ方でさまざまな音…
十一 ユイちゃんと真紀さんと私 「そう、うちの旦那さんは、ゲームセンターの社長ではあるけれども、ラノベ作家でもあるの」 その区切りというか、仕事をしている中で社長業と作家業の切り分けをどういうふうにしているのかな、と思う…