2024.04.05 その他 読者の皆様へ いつも連載小説『隣室はいつも空き部屋』を読んでくださり、ありがとうございます。 このたび、連載第12回をもちまして、本作品の連載を終了させていただくことにしました。 物語の途中での公開終了で、楽しみにしてくださっていた方...
2024.03.01 エンタメ 午前三時のサイキック 秋津編2 2 感謝された。オーナーからだ。 やはり面倒な客から逃げ出したというのが真実だったようで、夕方ごろに店へ帰ってきた彼女から「深川カヌレ」と小箱に書かれた洋菓子を渡された。門前仲町まで行っていたらしい。「急に怒り出す...
2024.02.02 エンタメ 午前三時のサイキック 秋津編1 1 緑色の化け物が笑っている。 私はそいつに振り回され、子供の頃に海水浴場で大きな波に巻かれた時のように天地がわからなくなり、渦の中で回っている。 化け物の笑い声が遠のき、水中特有のくぐもった聴こえ方でさまざまな音...
2024.01.05 エンタメ 午前三時のサイキック 5 5 「どうしてですか?」 狭い個室に、悲痛な声が染み渡った。シンガー志望という本人の申告に相違ない、相変わらず、よく通る声だった。「先生の言う通り、もう少し大阪で頑張ろうと思って、心斎橋っていう駅にあるボイストレーニ...
2023.12.01 エンタメ 午前三時のサイキック 4 4 「先生、先生」 ヒールの音を鳴らして秋あき津つが後をついてくる。朝のS駅地下街は通勤の人々で混雑していた。途中で「あっ」という声と共にパンプスが脱げる音が聞こえて、秋津の靴のかかとが溝か何かに嵌まったのを察したが...
2023.11.03 エンタメ 午前三時のサイキック 3 3 「ねえ、あんたすごいね」 思い出すのはいつだって、パーテーションの上から顔を突き出してそう話しかけてきた時の彼女の顔だ。 狭い個人ブースの中でタロットカードを片付けながら、確か、こちらは彼女を睨んだと記憶している...
2023.10.06 エンタメ 午前三時のサイキック 2 2 十二畳のリビングには、坂ばん東どうの呼吸音だけが響いていた。 南向きの窓からは朝の光が柔らかく差し込み、キッチンカウンターの上に置かれたアジアンタムの細かな葉がきらきらと輝いている。 脇腹にダンベルを引きつける...
2023.09.01 エンタメ 午前三時のサイキック 1 1 「なぜですか?」 愕然とした声が狭い個室に響いた。シンガー志望という本人の自己申告に相違ない、よく通る声だった。 その女性はオフショルダーの服から出た肩をいからせて膝に両手を置き、テーブルの上に並べられた七枚のカ...
2023.08.04 エンタメ 場違いな客 後編 上体を反らされる感覚がした。 両腕を後ろから引っ張られ、胸が開く。直後に篤あつしはヒュゴッと息を吸い込み、目を見開いた。飛びたくても飛びたてない夢を見ていた気がしたが、咳き込むと口から唾液が散り、目の前にはフローリング...
2023.07.07 エンタメ 場違いな客 前編 天井のシーリングファンが空気をかき混ぜている。 それにより春先にもかかわらず店内は斑(むら)なく高温多湿に保たれていた。「レプタイルズ・メサ」の中はいつも生き物の匂いと音に満ちている。ここの空調が常に熱帯じみた温度と湿...
2023.06.02 エンタメ スタンドプレイ 後編 北口改札を出ると、女性はまっすぐ智とも子この家とは正反対の方面に向かった。 周りには終電を降りた北口利用者がちらほらおり、智子は彼らに交じって彼女のあとをついていった。 しばらく高架沿いの明るい居酒屋通りを歩いた。 ほ...
2023.05.05 エンタメ スタンドプレイ 前編 どうしてこんなことになってしまったんだろう。 ようやく見つけたタクシーに乗り込み、コートの前をかき合わせながら西にし智子ともこは運転手へ行き先を告げた。 終電の時刻はとうに過ぎ、駅からも離れたこんな人気ひとけのない住宅...
2023.04.07 エンタメ ルームナンバー203 まただ。 自室の扉を施錠し、一歩踏み出したところで野々森ののもり一はじめは足を止めた。 アパートの廊下には朝の光が満ち、安物のスーツを着た肩を肌寒さで竦めながら、野々森は隣室のドアノブにぶら下がったそれをじっと見つめた...