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なんどでも生まれる
1 きょうはあかるい。 草のにおいがする。草のにおいがするつるつるの地面を、ゆっくりあるく。 風がふくとしろいものがひろがって、地面にあおむらさきいろの影がおちて、そのたびにこちらはこわい。影がゆれるとなんだかこわ…
1 きょうはあかるい。 草のにおいがする。草のにおいがするつるつるの地面を、ゆっくりあるく。 風がふくとしろいものがひろがって、地面にあおむらさきいろの影がおちて、そのたびにこちらはこわい。影がゆれるとなんだかこわ…
語り手はチャボである。そう、鳥のチャボだ。彩瀬まるの新作『なんどでも生まれる』は桜さくらと名付けられた雌のチャボの視点を通して、商店街の人々や動物の営みをゆったりと描く愛おしい作品だ。 金網に囲まれた小屋の中で、大き…
寓話作家としての彩瀬まるの、面目躍如と言える一作。待望の新作長編『なんどでも生まれる』は、そんなふうに表現することができるだろう。寓話的想像力は、そのまま書くとシリアスすぎる現実にファンタジー的要素を取り入れることで、…
十九 嘘から出た真実 うちを傘下に。「それは、完全に買収という形ですか」 訊いたら、いやいや、って荒垣さん、秀一さんが笑みを見せながら右手を軽く横に振った。「そんな強引なことは考えていません。もちろん、これから話し合い…
店の外に出るなり、ふうと大きく息を吐き出し、ペットボトルのお茶をのどに流しこむ。「暑いぜ」 首元に滲む汗をタオルで拭うその顔つきは、まさしく営業マンのそれ。 アポなし飛びこみ書店営業を終えた緊張から解き放たれ、ホッとし…
野球のユニフォームを身に着けた女の子達が十数人群がり、だれもがみな、満面の笑みで喜びあっている。いい写真だとミドリは思う。だが喜びを分かち合うことはできなかった。 三月下旬の一週間、埼玉にある球場で高校女子硬式野球の…
夕闇通り商店街にたたずむ、レトロな喫茶店「純喫茶またたび」。お代は、そのメニューに対する「思い出」を店主に話すこと――。 大好評の「夕闇通り商店街」シリーズ最新刊の刊行を記念して、サイン本があたるフォロー&リポストキャン…
派遣切りに遭い、求職中の主人公・石狩七穂が、ひょんなことから猫つきの古民家で、親戚のわけありイケメン・結羽木隆司のお食事&見守り当番を務めることになる「石狩七穂のつくりおき」(ポプラ文庫ピュアフル)は、おいしい料理満載…
プロローグ 唐突だが石いし狩かり七なな穂ほは床下が嫌いだ。 まず暗い。そして狭い。何かこもっていて変な臭いがする。うっかりすると、築八十年以上の家を支える柱や束に頭をぶつけそうになるので、土が剝むき出しの地面を這はう…
プロローグ 僕が死んだあと、何事もなかったように世界が続いていくのが嫌だ。 追いかけている漫画も、来年公開予定の楽しみにしていたアニメ映画も、僕だけが見られないなんて損した気分になる。だからといってこの苦しみを抱えた…
雨に濡れた木々の匂いと、白檀の香りに包まれたその店には『古どうぐや ゆらら』の看板が掛かっていた。 ぼうっと灯る行灯やランプに照らされ、古今東西あらゆる日用品が並べられている。看板の通り全てが古道具──長年大切に使われ…
1 カーテンを開けると、空は明るく晴れ渡っていた。オレは思わず「よっしゃ」と呟く。 今日は六月十三日。そろそろ梅雨入りという時期だから天気を心配していたのだが、これなら楽しく外出できるだろう。「おーい、エチカ…
開園前の遊園地が、こんなにキラキラして見えるなんて初めて知った。 まだ客のいないそこは、想像していたよりずっと広大に感じる。朝日を浴びたアトラクションが、むずむずと喜びをこらえながら始まりの時を待っているみたい…
なつかしいわねぇ、遊園地なんて何年ぶりかしら。 私たちみたいな70半ばの老夫婦がふたりで来たって浮いちゃうかしらと思ったけど、どうやらそんなこともないみたいで安心したわ。 私たちの目の前を、5歳ぐらいの男の子がぱたぱたと…
「見た?」 前を向いたまま訊ねた私の隣で、葵はこっくりとうなずいた。 「……見た!」 すっきりと晴れた日曜日、友達の葵(あおい)に誘われてやってきた遊園地。 私たちは優雅に回っているメリーゴーランドの柵の前で列に並…
引退試合が終わった。 私は同じバスケ部の仲間4人でぐるぐるめに来ていた。 「山中青田遊園地」っていうのが正式名称だけど、なぜなのか、そっちよりも「ぐるぐるめ」の名前のほうがみんなに知られてそう呼ばれている。 …
まったく、ばかみたいに晴れていやがる。 こんな天気のいい日曜日に、なんでオレはひとりで遊園地なんか来なくちゃいけないんだ。 あたりを見渡せば、何やら初々しい若いカップル、仲の良さそうな友達連れ、寄り添い合って…
2021年本屋大賞2位となった、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』の文庫が、3月2日に発売されます。 初回配本限定で、著者の青山さんのメッセージが印刷された特別カード(名刺サイズ)が封入されます! 絵柄は上記の3種…
ドーン、ドーン、ドーンと、3回、太鼓を叩く音がした。 ヒーローショーを見たいというのは、息子の大(だい)吾(ご)のリクエストだった。 家族4人でイベントステージに来てみたのだが、客席はまばらであまり人がいない。 派手なシ…
氷で手を冷やしてから肉を殴る男は初めてだった。 手が傷むからと、肉叩きを使うよう云ったんだけれど〈だいっじょぶ!〉とまるで気にする様子がない。本人はこうすると肉に手の温度が伝わらず〈良いパティ〉が準備できると信じている…
序 其れは、図られし縁 大陸に、最大の面積を占める大国、陵りょう。 この地ではかつて、無数の悪鬼が跋扈ばっこし、人々は悉ことごとく疫病や災いに苦しめられていた。草木は生えず、水は涸れ果て、空にはいつも暗雲が垂れ込め…
「ザディコ。箱船へようこそ」「わたしはオオバカナコ。はこぶね?」「それについてはボンベロから聴くと良い」 男が手を離し、パピとダフに近寄るとマルキリが手を出してきた。「アンセム」「え? あなたマルキリでしょ」「偽名に決ま…
青山美智子 サロンエプロン
朱野帰子 痛い人生設計を作る、ルノアールで
山内マリコ 12歳の君へ
伊吹有喜 もう一度行きたい場所
大島真寿美 本の森には……
綾崎隼 冷たい恋と雪の密室 / 瀧羽麻子 我らが音楽に祝福あれ/阿津川辰海 失恋名探偵